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【展示レポート】『相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史』 若冲、雪舟らを輩出した名刹と芸術家たちとの物語をたどる

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重要文化財 伊藤若冲筆《鹿苑寺大書院障壁画 二之間 松鶴図》と同《四之間 双鶏図》江戸時代 宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵

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京都御所の北に位置する相国寺(しょうこくじ)は、金閣寺と銀閣寺の通称で名高い鹿苑寺と慈照寺を擁する臨済宗相国寺派の大本山。その相国寺の寺宝と相国寺派の塔頭からの寄託作品を合わせて保存・展観するために設立された承天閣美術館の開館40周年記念展が、上野の東京藝術大学大学美術館で開催されている。近年の研究成果を踏まえ、国宝と重要文化財40件以上を含む約170件を、前期・後期に分けて紹介する特別展だ。

相国寺が室町幕府の三代将軍・足利義満の発願により創建されたのは、14世紀末のこと。展覧会は、その創建から640年あまりの歴史を年代順にたどる構成をとる。相国寺を中心として、その時代時代にどのような文化があったのか、また相国寺に関わる芸術家たちがどのような名品を生み出してきたのか、その歴史とともに名品にまつわる物語に焦点があてられているのが同展の特徴だ。

展示風景より 右:夢窓疎石賛《夢窓疎石像》南北朝時代 14世紀 相国寺蔵(前期展示)

冒頭を飾るのは、創建に関わる人々の肖像画。他界後に相国寺の開山として勧請(かんじょう)された夢窓派の祖・夢窓疎石(むそう そせき)、その高弟で実質的な開山であった2世住持・春屋妙葩(しゅんおく みょうは)、精神的な支えとして禅の修行に励んでいたという発願者の将軍・義満などの肖像とともに、墨蹟やゆかりの品が並ぶ。

足利義政遺愛品 中国・明時代 15世紀 慈照院蔵
重要文化財 陸信忠筆《十六羅漢図》中国・南宋時代 13世紀 相国寺蔵(前後期で8幅ずつ展示替)

南宋時代の羅漢図の傑作《十六羅漢図》をはじめとし、第1章に並ぶ絵画からは、相国寺が中国の禅宗文化と深いつながりをもっていたことが見えてくる。興味深いのは、こうした中国絵画が、のちに相国寺と関わった日本美術を代表する画家たちに大きな影響を与えたことだ。例えば文正筆の《鳴鶴図》は、狩野探幽(たんゆう)や伊藤若冲(じゃくちゅう)も手本にしたという。

重要文化財 文正筆《鳴鶴図》中国・元-明時代 14-15世紀 相国寺蔵(前期展示)

15世紀は、水墨画が盛んになった時代。相国寺の画僧・如拙(じょせつ)と周文(しゅうぶん)は室町幕府の御用絵師を務め、また室町水墨画の巨匠・雪舟(せっしゅう)も中国に渡る以前にこの相国寺で修行の日々を過ごしたとされる。この時代はまた、水墨画に漢詩を書する「詩画軸」が流行したが、これも相国寺ゆかりの夢想派の僧侶たちが主導したもの。そこには「相国寺文化圏」と名づけられる美の営みがあったという。第2章では、若き雪舟が目にしていた相国寺文化圏とはどのようなものだったのかという問いかけのもと、多様な表現を見せる水墨画と明の時代の精緻な中国絵画が並ぶ。

伝 周文筆《十牛図巻》室町時代 15世紀 相国寺蔵
展示風景より 右:重要文化財 林良筆《鳳凰石竹図》中国・明時代 16世紀 相国寺蔵(前期展示) 明の宮廷画家の代表作で、雪舟や若冲に影響を与えている。

応仁の乱に始まる戦国時代に荒廃した相国寺の復興後の興隆を見せるのが、第3章だ。相国寺92世住持・西笑承兌(せいしょう じょうたい)が秀吉や家康といった天下人の外交面のブレーンを務め、鹿苑寺(金閣寺)の住持・鳳林承章(ほうりん じょうしょう)は、文芸復興に尽力した後水尾天皇との関係を深めていく。後水尾天皇から寄進されたと考えられる《観音猿猴図》は、狩野派の中心画家・探幽と弟2人による合作。探幽が先の文正筆の《鳴鶴図》を模写した作品などもあり、江戸時代の相国寺と狩野派が深い関わりをもっていたことがうかがえる。

狩野探幽、狩野尚信、狩野安信筆《観音猿猴図》 江戸時代 正保2年(1645) 相国寺蔵(前期展示)

同展の大きな見どころとなるのが、第4章の江戸時代の絵画群だ。相国寺と言えば、奇想の画家として大人気の若冲を思い浮かべる人も多いだろう。今回は出品されないが、現在は皇居三の丸尚蔵館が所蔵する若冲の代表作《動植綵絵(どうしょくさいえ)》も、若冲自身が相国寺に寄進したものだ。良き理解者であり、支援者でもあった113世・梅荘顕常(ばいそう けんじょう)と、若冲に学んで画僧となった115世・維明周奎(いめい しゅうけい)の存在は、若冲の活躍に大きな影響を及ぼしたという。今回も、梅荘の賛と対になった虎図や、ともに出かけた乗合舟の旅を記録した拓版画など多彩な作品が並ぶとともに、若冲が金閣寺の大書院のために制作した50面の障壁画のうち、一部の再現展示も楽しめる。

伊藤若冲筆 梅荘顕常賛《竹虎図》江戸時代 18世紀 鹿苑寺蔵
伊藤若冲筆《乗興舟》江戸時代 明和4年(1767)和泉市久保惣記念美術館蔵(前後期で画面替)
重要文化財 伊藤若冲筆《鹿苑寺大書院障壁画 一之間 葡萄小禽図》江戸時代 宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵
重要文化財 伊藤若冲筆《鹿苑寺大書院障壁画 二之間 松鶴図》と同《四之間 双鶏図》江戸時代 宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵

若冲は「私の絵が理解されるまでに千年を待つ」と言っていたそうだが、その独創的な表現の背景には、古画の学習があったことも第4章が教えてくれる。17世紀後半、銀閣寺で行われた古書画展観会の目録が新たに確認されたことから、今回の展覧会では、若冲ら当時の画家たちが目にし、学んだであろう展観会出品作が紹介されている。目録に基づいた再現展示は、最新の研究成果の発表でもある。

伝 牧谿・伝 可翁筆 伝 一山一寧賛《水月観音・寒山拾得図》南北朝時代 14世紀 相国寺蔵

第5章は、明治維新後に相国寺に加わった名品群を展観するもの。明治の廃仏毀釈によって困難な時期を迎えた相国寺だが、126世・荻野独園(おぎの どくおん)が若冲の《動植綵絵》30幅を宮内省に献上する決断をしたことで、寺の保存がはかられた。その後、連綿と受け継がれてきた貴重な美術品や、近代になって寄進や寄贈を受けた作品群を守り伝えるため、承天閣美術館が開館。国宝の天目茶碗や中国禅林の墨蹟、長谷川等伯や円山応挙ら近世絵画のコレクションなど、必ずしも相国寺にゆかりのある作品とは限らないこの章の展示品は、その伝来や旧蔵者、寄贈時の思いなど、様々な物語を秘めている。そうした名品がなぜ、ここで今、目にできるのか、解説を頼りに思いをはせるひとときを楽しみたい。

長谷川等伯筆《萩芒図屏風》桃山時代 16-17世紀 相国寺蔵(前期展示)
重要文化財 円山応挙筆《七難七福図巻》(部分) 江戸時代 明和5年(1768) 相国寺蔵(前後期で場面替)
伝 辺文進筆《百鳥図》中国・明時代 15世紀 鹿苑寺蔵(前期展示)

同展の最後を飾る作品「令和の詩画軸」は、承天閣美術館の創立に尽力した現相国寺派管長・有馬賴底師が揮毫した漢詩の賛に、東京藝術大学学長・日比野克彦が画を描いて完成させた2幅。室町時代の相国寺文化圏で制作された「詩画軸」を現代に蘇らせるこのプロジェクトは、東京藝術大学の企画による。歴史ある文雅の芸術形態を継承するとともに、今回の展覧会の歴史的意義を後世に伝え残す意図も込められている。

日比野克彦筆 有馬賴底賛《令和の詩画軸》2025年


取材・文・撮影:中山ゆかり


■『相国寺承天閣美術館開館40周年記念 相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史』(東京藝術大学大学美術館)展示風景の動画はコチラ


<開催概要>
『相国寺承天閣美術館開館 40 周年記念 相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史』

2025年3月29日(土)~5月25日(日)、東京藝術大学大学美術館にて開催
※会期中展示替えあり
前期:3月29日(土)~4月27日(日) 後期:4月29日(火)~5月25日(日)

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557837

公式サイト:
https://shokokuji.exhn.jp/

フォトギャラリー(17件)

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