TM NETWORK、40周年ツアーファイナル『YONMARU+01』でさらなる革新へ【オフィシャルレポート】
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『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』4月9日(水) 神奈川・横浜アリーナ (Photo:Makiko Takada)
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すべて見るテクノロジーを駆使した映像演出によって3人だけで骨太なサウンドを演奏
音楽シーンに革命的進化を生み出した3人組ユニットTM NETWORK(宇都宮隆、小室哲哉、木根尚登)が、2024年4月21日にデビュー40周年を迎えた。アニバーサリー・イヤーを締めくくる、40周年ツアーファイナル『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』千秋楽公演を、2025年4月9日に超満員の横浜アリーナにて開催した。
TM NETWORKは、2022年7月29日にスタートした“FANKS intelligence Days”を皮切りに、内容の異なる6本のツアーを計47公演、シアトリカルにエンタテイメント性溢れるコンサートを繰り広げてきた。
TM NETWORKのコンサートは音楽の魅力はもちろん、照明の凄さ、音響の素晴らしさ、演出や映像の驚きなど、アイディアに富んだ先鋭的な総合芸術として評価されている。2024年末、大晦日に行われた“intelligence Days FANKS inside”が、40周年シリーズの総集編的内容であったことから、“YONMARU +01”は延長線上のベストライブかと思いきや、セットリストの被りを最小限に内容を一新。巨大なLEDスクリーンをバックに、テクノロジーを駆使した映像演出によって3人だけでエレクトロからプログレッシブ・ロックまでを行き交い骨太なサウンドを演奏するという、まったく新しいTM NETWORKを生成したのである。
TM NETWORKの継続を感じられる宣誓ともいえる最新曲
オープニングは“intelligence Days FANKS inside”公演のラストシーンだった、生命の源である“海の彼方”のシーンからはじまり、無機質な特務機関のアジトへと移り変わり、メンバーが順番にエレベーターで下降してきた。SFめいた展開に、胸が高まる瞬間だ。
たどり着いた先は、赤い空の都市を背景としたステージだったのだ。
BPM125を刻むビートはそのままに、1曲目は誰も聴いたことがなかった最新曲「We Can't Stop That Way」からサプライズ・スタート。歌詞においてキーフレーズのように聴こえた“Majestic”=雄大かつ前向きな歌詞によって言葉が彩られ、41周年目もTM NETWORKプロジェクトの継続を感じられる宣誓ともいえるナンバーが鳴り響いた。

続いて、木根によるスパニッシュなギターがエモーショナルなイントロダクションから、1984年にリリースしたメジャーデビュー曲「金曜日のライオン」がスタート。続いて、グラスの氷が溶けるかのような音が鳴り響きレア曲「永遠のパスポート」へ。小室と木根による共作であり、デモ音源の歌詞はSFをテーマとしていた逸話を持つナンバーだ。続いて、聴き覚えのない新たなイントロから「Castle In The Clouds」へ。歌詞における〈真夜中 世界中を雨が濡らしたみたいに / 無数の声と涙が胸に染み込んだ〉のフレーズが、不安定な今の時代にやさしく寄り添ってくれる。煌めくサウンドによって多幸感が広がっていくのだ。
爆破され煙を上げ、炎に包まれていくステージ
突如、LEDスクリーンの夜景の都市が、爆音サウンドとともに赤い光によって破壊され崩れ落ちていく。戦争なのか震災なのか? この地に、いったい何が起きたのか? しかしながら、令和を生きる僕らには既視感のある風景であることが胸が痛い。
衝撃的かつ、無力さを感じた絶望的なワンシーンだったのだ……。
破壊され黒煙を上げ、炎に包まれていくステージ。しかも、ステージ上にはリアルの火が面々と燃えわたる。突如、空間には過去のツアーにも登場してきた謎の立方体の物質が浮遊し、まるで指令のような通信音を発した。LEDスクリーンには荒廃した瓦礫の街を“鳥瞰=Bird's View”する様が浮かぶ。
ふと、耳覚えのあるフレーズがまるでモールス信号のようにリフレインしてきた。
2014年にリリースした、アルバム『QUIT30』収録のリード曲「Alive」だ。まるで現在の社会情勢を予言していたかのように〈絶えない 対立の種 / 亀裂広がる この世界〉、〈守りたいものがあるから 恐れる気持ちが争いを呼ぶ〉という歌詞が重く響く。
再び、人知の及ばない力なのであろう立方体の物質が宙で高速回転。木根がピアノで、アルバム『QUIT30』収録のプログレッシブ・ロック「Birth(QUIT30)」を奏でていく。LEDスクリーンには歌詞が映し出されるのだが〈人が人を管理できない〉、〈SNSの未来に / 大事な言葉は1つ俯瞰〉など、ドキッとする言葉が歌われていく。人類に力を与えてくれる、未来を見透かしていたかのようなナンバーだ。
TM NETWORKは、ドラムもベースもいない3人組ユニット
LEDスクリーンに、小室からのメッセージが手紙のように浮かび上がった。
“QUIT30。10年以上前に発表した作品です。アジアの片隅にひっそりと潜伏していた僕たちは、なぜかとても世界の環境の変化を危惧していました。今回演奏するに至った経緯としては、ごく自然に時代がよび起こしてくれたからとしか思えません。2025年の春に皆さんの目で耳で、ぜひ、この3人の不思議な作品を味わってください”
こうして、ステージ上には3人だけながらも、背景は、宇宙空間を舞台にバリアが張りめぐされた地球を俯瞰しながらプログレッシブ・ロック組曲「The Beginning Of The End」、「The Beginning Of The End II&III」が展開されていく。小室による独自の言語化された歌詞を、宇都宮が見事なボーカリゼーションによって俯瞰の視点で体現していく。木根による、デヴィッド・ギルモアを彷彿とさせるギターも熱い。

TM NETWORKは、ドラムもベースもいない3人組ユニットなのだが、シンセサイザーが分厚いサウンドをコントロールすることで、クラシカルな音世界をテクノロジーによってアップグレードしている。LEDスクリーンには、地球の周りをサイコフレーム、いやゼクノヴァがメビウスの輪のように包み込んでいた。
ここで、地球を宇宙から俯瞰するシーンから一変。グーグルアースのズーム機能のように一気に舞台は地球上のとあるヒューマンの日常へ。コロナ禍でライブができなかったバンドの心境を「Show My Music Beat」によって表現していく。メンバーのルーツである、三多摩地区の写真が郷愁を誘う。マクロとミクロの視点。この振れ幅の大きさこそ、TM NETWORKらしさなのだと思う。
4月9日に配信スタートした最新作『Carry on the Memories』
そもそもTM NETWORKのライブには、MCとアンコールが存在しない。
その分、伝えたかった出来事や、オーディエンスやスタッフへの感謝などは、2025年4月9日に配信スタートしたTM NETWORK最新作『Carry on the Memories』に収録された3曲の歌詞やメロディーによって想いが込められていく。
なかでも、「Good Morning Mr.Roadie」ではスタッフへの労いを歌唱し、LEDスクリーンには過去40年間の歴代スタッフの名前がムーブしていく。歌詞で〈そしていつかツアーは終わる / 集合写真ぐらいPostしないと〉とあったように楽曲の最後には、本日のリハ後、メンバーとスタッフ一同で撮影した集合写真が大画面に映し出されていた。
続いてLEDスクリーンいっぱいに、オーケストラによる楽団のシルエットがまるで夢の世界のように映し出された。壮大にクラシカルなイントロダクションから歌われたのは、2014年リリースの「LOUD」。もともと、原曲のイントロにはクラシック曲のフレーズを使いたかったという逸話を持ち、本バージョンはある種のリベンジであり、多幸感に包まれたTMらしいポップセンスを持つビートチューンが繰り広げられていく。注目は〈僕らはもっともっとエモーショナルでいいのさ〉というパンチラインが解き放つファンファーレのような高揚感だ。会場に集まった紳士淑女、少年少女の心のわだかまりを解放するシンガロングが楽しい曲なのである。

楽曲セレクトの選定基準を、歌詞の言葉という要素を重要視
聴き慣れないビートに重ねられるハウシーなTKピアノ・サウンド。新たにリアレンジされた「DIVE INTO YOUR BODY」はFANKS(※TMファンの意)驚きのリプロダクション・チューンとなった。元曲の特徴であったユーロビート調でないことから、受け取る印象が一気に変化。導入はTMらしくマイナー調だが、後半に向けてより感情をアップリフトするポップネスが増幅していく。楽曲が持っていた機能性の拡張が、ライブアレンジによって顕在化するのだ。
音楽に終わりや完成、正解がないことを、TM NETWORKは教えてくれる。
続く、2004年にリリースした「SCREEN OF LIFE」も衝撃だった。冒頭のバックトラックが無音というアレンジメントだったからだ。ステージ上の3人に天井からスポットライトが照射され、まさかの、サビフレーズ〈We are always shooting〉のアカペラによるコーラスからスタート。これは、鳥肌もののカッコよさだ。またしてもリアレンジすることで、楽曲が持つ新たな魅力を浮き彫りにしていく。
そもそも本作の歌詞は強烈だった。歌い出しから〈あなたはこの国の戦士(soldier) / どれだけ戦いを強いられて / そして生きがいを見つけて糧として / 愛すべき人をやっと思い出し / 手遅れな人は山積みにスクラップのように / この国の土地のために埋め立ての材料に / されていく様を見ていますよね?〉という本質を突いた力強さ。LEDスクリーンには、平和な日常を失った人々が大切にしていた写真が天へ向かって昇華されていく。
しかしながら、本作のメッセージは年々重みが増しており、2025年の今、自分ごとのように聴けるようになったリスナーは多いのではないだろうか。TM NETWORKを代表する隠れた名曲であるのだが、中期作品であり、なかなかライブで披露される機会は多くはなかった。だがしかし、小室はライブにおける楽曲セレクトの選定基準を、歌詞の言葉という要素を重要視している。40周年ツアーファイナルとなった『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』のセットリストには、音楽的な記憶と記録のみならず、言葉を大切にした曲同士のメッセージ性の連なりにも着目すべきだ。
粒子となった小室の姿がLEDスクリーンで演奏姿とリアルタイムにシンクロ
小室哲哉のソロタイム「EVOLUTION」では、清らかなるハレルヤから、OVA『吸血鬼ハンター“D”オリジナル・アニメーション・サウンド・トラック』に収録された「魔物たちの夜」のフレーズを交え、TM NETWORKデビュー40周年記念映像作品となった映画『TM NETWORK Carry on the Memories -3つの個性と一つの想い-』のエンディング曲「EVOLUTION」をダンサブルかつエモーショナルに披露。AIでモデリング生成された、粒子となった小室の姿がLEDスクリーンで演奏姿とリアルタイムにシンクロする様が熱狂を煽っていく。
“王冠にTマーク”をきっかけに集結というミッションが発動
オーラスへの導入は1988年にリリースした「Resistance」だった。本曲の映像は、独自の研究の成果であるAI生成を軸に生み出された。オープニングでは、1988年に生み出された代表作『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』の主人公、CAROLを彷彿とさせる女性の足元が映し出されたことで妄想が加速していく。
中世ヨーロッパをイメージする、街中や教会、お城のシーン。ところどころの壁面に記された手書きによる“王冠にTマーク”という秘密の暗号。人々は、徐々に広場へと集結していく。ジャンヌダルクの如く、フラッグを手にした女性があらわれるのだが、画面は一変して街が破壊され、家は崩れ、窓ガラスが割れるシーンへ。荒廃した都市に集まる潜伏者=Resistanceたち。そう、“王冠にTマーク”をきっかけに集結というミッションが発動されていたのだ。崩れた家の隙間に咲く、一輪の花は希望の象徴である。なお、1992年にリリースしたバーチャルをコンセプトとしたライブ盤『TMN COLOSSEUM』ジャケットアートワークに存在したのが、“王冠にTマーク”だったことも記しておこう。

勢いそのままに、TM NETWORKによる代表曲「Get Wild Continual」へ。イントロでは小室の合図からこの日最大の爆発音が鳴り響く。今や、日本発→世界へ誇るJ-POPを代表するナンバーだ。LEDスクリーンには、カラフルな部屋をライティングに見立てサウンドとシンクロしていく高揚感。途中、小室によるキーボード・プレイと木根によるアコースティック・ギターによるカッティングの掛け合いが、耳に嬉しい。しかしながら、透明感いっぱいに伸びやかに歌唱する宇都宮による時代を超えていくボーカリゼーションには感服する。三者三様、快楽ポイントを刺激しまくる最強の「Get Wild Continual」だったのだ。
教科書は何も教えてはくれない / 明日のことなど誰もわからない
ここで、松明灯る暗闇の中、「Prologue」では小室が魔法めいたキーボード・プレイを厳かに展開。LEDスクリーンには宇宙船のようなネオン・ライティングが浮かび上がり、心が踊るリフレインとともに宇都宮が天空から降臨した。
宇都宮が右手を高らかに掲げて「Self Control」がスタート。〈教科書は何も教えてはくれない / 明日のことなど誰もわからない / おもいきり泣いておもいきり笑って / 君をとりもどせ夢をとりもどせ〉という、がんじがらめのティーンの葛藤を解放する、カタルシスあるポップロックの登場だ。実は、もっともTM NETWORKらしい楽曲なのではと確信している。

ここで、LEDスクリーンには大きな赤いオペラカーテンがあらわれ、TM NETWORK最新作『Carry on the Memories』よりタイトルチューン「Carry on the Memories」がテクノ&フォーク・ポップな新アレンジで奏でられた。
〈いつの間にか夢がカタチになっていたと気がつかなかった / 古い友と酒を交わした / そうか僕らは音に囲まれて / ギターをかき鳴らしピアノを奏でて / リズムに歌をのせてまだ楽しんでいる〉という、TM NETWORKの現在地点を確認できるピュアな心情を垣間見れるナンバーだ。今もなお、好きな音楽を生業としていることへの感謝を歌にした、人間らしい作品である。フォーキーなのにエレクトロという、TM NETWORKの3人によるトライアングルでしか生み出せないオリジナリティーに胸が高鳴る。
〈学生の時代から音でみんなを楽しませることで / ずっと生きていけるなんて / 一人二人楽器を置いていった / 社会という風に飲み込まれていった / 残った僕らはどうしてきたのだろう / どんな光と闇に導かれたのだろう〉という、このワンシーンにグッときたリスナーも多かったのではないだろうか。
TM NETWORKの象徴でもあるバトンがぼくらの元に還ってきた
ラストは「LAST ENCOUNT」へ。宇宙空間の向こう側から、TM NETWORKの象徴であるバトンがぼくらの元に還ってきたのである。そして、現実とファンタジーが交差するかのようにLEDスクリーンに映し出されていた都会のビル群がTM NETWORKのロゴへと可変することで大団円を迎えた横浜アリーナでの千秋楽公演。メンバー3人はステージ中央に集まりオーディエンスへ向けて手を振り、AIによるリアルタイム生成によって粒子化して去っていく。
そして、再び物語は“海の彼方”へと舞い戻る……。
鳥瞰した海のシーンに、ラストメッセージとして“陽が昇り、また陽が没ちる。この風景が明日もあるように、、、またあなたと出会えることを願います。”と、文字が浮かび上がった。
2時間弱、まるで一本の大作SF映画を観たかのような感動だった。
本公演であらめて確信したことは、“十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない”というSF作家の巨匠、アーサー・C・クラークの言葉だ。
テクノロジーの進化とともに革新してきたTM NETWORK。演奏はもちろん、サウンドも映像も照明も演出も、常にアップグレードすることを手段に仲間たちとともに創り上げてきたコンサート。まさに“金色の夢”を見せてくれる極上のエンタテインメントであり、ロックショーなのである。
40周年イヤーを締めくくるツアーファイナル『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』は、これにて終演。プロジェクトTM NETWORKは1984年→2025年という41周年目を迎えても、まだまだ続いていきそうだ。そんな“金色の夢”をライブを持って宣誓した、攻めの姿勢で挑まれたポップネスと実験性を両立した圧巻のコンサートだった。
Let’s see the GOLDEN DREAM once again with TM NETWORK!!!

Text:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
<公演情報>
『TM NETWORK 2025 YONMARU+01』
4月9日(水) 神奈川・横浜アリーナ
<リリース情報>
『Carry on the Memories』
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