“自分の幸せは自分で決めるパイ”の味を堪能して 高畑充希主演ミュージカル『ウェイトレス』再演が幕開け
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ミュージカル『ウェイトレス』より (写真提供:東宝演劇部)
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すべて見るミュージカル『ウェイトレス』が上演中だ。
本作は、アメリカ映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』をベースに制作されたブロードウェイミュージカルで、日本では2021年初演。ヒロイン・ジェナ役を高畑充希が務め、好評を博した。待望の再演となる今回も、ジェナ役は高畑が続投。さらに、ジェナと道ならぬ恋におちる産婦人科医・ポマター医師を、新たに森崎ウィンが演じる。
なぜ『ウェイトレス』に人は勇気づけられるのか。今この時代に愛される理由をレポートする。
令和に輝くインモラルだけど自分に正直なヒロイン

ジェナは、田舎町のダイナーで働くウェイトレス。ろくに仕事も続かないダメ夫・アール(水田航生)と別れたいと思いながら、経済的な理由で離婚ができない。そんな中、アールの子を妊娠していることが発覚。想定外の、望まぬ妊娠。困惑するジェナだが、葛藤の末、母となることを決意する。
ただし、アールとこれ以上結婚生活を続けることはできない。自立には、お金が必要。そこで、ジェナは得意のパイづくりを活かし、「全国パイづくりコンテスト」に出場し、その優勝賞金で未来を切り開こうとする。

これが、『ウェイトレス』の大まかなストーリーだ。「女性の抑圧からの解放」は今日的なテーマだが、決して目新しくはない。イプセンの『人形の家』があるように、100年以上も前から、不遇や理不尽と戦う女性の姿を演劇は描き続けてきた。その歴史も踏まえた上で、『ウェイトレス』は今の時代らしい女性の物語だと思う。理由は3つある。

1つ目は、ジェナが決して従順なヒロインではないこと。産婦人科を訪れたジェナは、担当医のポマター医師と恋におちる。ポマターも既婚者。昨今のワードでいうW不倫。しかも、強引に流されたわけじゃない。キスをするのは、いつも彼女から。ずっと抑圧されてきたジェナは、自分のほしいものを自分で手に入れようとする。
男性によって偶像化された模範的なヒロインではない。インモラルなところも抱えた人間臭さがたまらなく魅力的だ。
一方、道ならぬ恋とはいえ、あまりシリアスになりすぎないところは、さすがブロードウェイミュージカル。テンポのいい楽曲によって、抑えきれない恋心と格闘するジェナとポマター医師がポップに描かれていく。

中でも1幕のラストを飾る『Bad Idea』はセクシーなのにコミカルという絶妙なバランス。アンサンブルの刻むクラップは、まるで燃え上がるふたりの恋の鼓動のよう。ポマター医師を演じる森崎の検診台へのジャンピングライドは思わずニヤリとする面白さなので、どうかお見逃しなく。
2つ目は、ジェナが何も失わないこと。同じ不倫でも、男性の懲罰は軽くて、女性だけ職を失うというのは、現実でもよくある話。道を踏み外したヒロインは、すべてを捨てて裸一貫やり直すのが、ある種の定石だった。それはそれで清々しいけど、もっとタフなヒロインがいたっていいはず。ジェナは、その期待に応えてくれる。「まあまあの幸せ」で自分を納得させようとしていたジェナが、「最高の幸せ」を手に入れるたくましい姿に、思わず喝采をあげたくなる。

そして3つ目が、女性たちによる連帯だ。ジェナの同僚であるドーン(ソニン)とベッキー(LiLiCo)もそれぞれ人生の岐路に立たされている。ドーンは、ネットで知り合ったオギー(Wキャスト:おばたのお兄さん/西村ヒロチョ)との恋。ベッキーは、病気の夫の介護。女性の人生は、いつだって難題が山積みだ。
だけど、3人は時に愚痴を言い合い、時に励まし合いながら、ハードモードの人生をサバイブする。そんな3人の友情を音楽がカラフルに彩っていく。妊娠検査薬の判定を待つ『The Negative』の楽しさも印象的だが、とりわけ心を打つのは、3人のハーモニーが美しい『A Soft Place to Land』。どんな困難があっても、支えてくれる友達がいれば乗り越えられる。恋のときめきや血のつながりより、もっと強靭で、もっと永続的な3人の関係が、生き方に迷う女性たちの希望となるのだ。
観客を虜にする、高畑充希の柔らかく力強い歌声
主人公・ジェナは、まさに高畑充希が演じるから輝くヒロイン。小柄で小動物的な愛らしさを持つ高畑だが、そんな可憐さと同時に、彼女には何にも屈することなく自分を貫く強さがある。だからこそ、自らの力で殻を破るジェナがぴたりとハマる。よく通る柔らかな歌声は、聴く者の耳に優しく染み込むこぬか雨のよう。それでいて、終盤に披露する『She Used To Be Mine』は圧巻の力強さだ。
ポマター医師を演じる森崎は、神経質という役どころだが、それ以上にちょっと優柔不断で軽率なところもあるキャラクターを憎めない塩梅で成立させているところがうまい。『You Matter to Me』では囁くような歌声が悩ましげに響き、清潔感のある色気で観客を魅了する。

ドーン役のソニンとベッキー役のLiLiCoもそれぞれ魅力的。ソニンはオタク女子ならではの慌てふためく感じを初々しく演じ、LiLiCoは姉御肌なキャラクターが貫禄たっぷり。2幕冒頭で披露するソロ曲『I Didn't Plan It』では、野性味すら感じるエネルギッシュな歌声で作品にアクセルをかけた。


ミュージカル『ウェイトレス』は、4月30日(水) まで東京・日生劇場にて上演。その後、愛知・大阪・福岡と全国を巡演する。ジェナたちのつくる、“自分の幸せは自分で決めるパイ”の味をとくと堪能してほしい。

取材・文:横川良明
<公演情報>
ミュージカル『ウェイトレス』
脚本:ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞:サラ・バレリス
原作映画製作:エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
出演:
高畑充希 森崎ウィン ソニン LiLiCo
水田航生 おばたのお兄さん/西村ヒロチョ(Wキャスト) 田中要次 山西惇 他
【東京公演】
日程:2025年4月9日(水)~4月30日(水)
会場:日生劇場
【愛知公演】
日程:2025年5月5日(月・祝)~5月8日(木)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
【大阪公演】
日程:2025年5月15日(木)~5月18日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
日程:2025年5月22日(木)~5月29日(木)
会場:博多座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/waitress/
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