上白石萌歌の壁との向き合い方「そんなに軽々と乗り越えようとしなくていい」
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上白石萌歌 (撮影:堺優史)
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すべて見る夢への道は、辛く険しい。一筋の光も見えない暗がりを、ただがむしゃらに走り続ける。そんな模索のときを経て、初めて夢の扉に手が届く。俳優・上白石萌歌にもまた「自分自身に対して一番絶望していた時期」があったという。
高くそびえたつ壁をどうやって乗り越えて、彼女は今、光射すステージに立っているのか。その道のりをほんの少し振り返ってもらった。
緊張する私に、向井さんが軍師のように寄り添ってくれた

発行部数250万超の人気コミック『パリピ孔明』が連ドラとして放送されたのは、2023年秋のこと。現代の渋谷に転生した天才軍師・諸葛孔明を演じたのは、向井理。向井のスマートなイメージと孔明のユニークなキャラクターが強力な化学反応を起こし、困難とされていた実写化を成功へと導いた。
そんな孔明がプロデュースすることとなるアマチュアシンガー・月見英子を演じたのが、上白石萌歌だ。背中を預け合ってきたバディを、上白石は最大級の賛辞でたたえる。
「向井さんは一言で言うと“完璧”。難しい台詞ばかりなのにずっと明瞭で、現場で噛む姿を一度も見たことがないんです。孔明としての佇まいも本当に美しくて。頭の回転も速いですし、もともとバーテンダーをやられていたこともあって、お酒の種類に詳しくて、社交的なところもあるという実はパリピな一面も(笑)。欠点なんてないんじゃないかなというくらい、完璧な人です」
その信頼関係は、さながら孔明と英子。揺るぎない絆で結ばれた最強タッグが、ついにスクリーンへと参戦する。それが、4月25日(金) 公開の『パリピ孔明 THE MOVIE』だ。今回の現場でも孔明のようなサポートを向井から感じた瞬間があった。
「映画の見どころとなるのが、終盤のライブシーン。有明ガーデンシアターを貸し切り、6000人のお客さんを入れての撮影でした。リハと本番の2日間に分かれて撮影を行ったのですが、リハの日は向井さんは出番がなくて。なのに会場に来て、私の歌っているところを客席からスマホで撮ってくださっていたんですね。それで、リハが終わった後に、『この歌詞のこの表情がカメラに抜かれていたよ』とか『音の感じはこうだったよ』と細かく教えてくださり、本当に軍師だと思いました」


adieu名義でアーティスト活動も行う上白石。満員の聴衆の前でのパフォーマンスは慣れたものと思いきや、心持ちはまったく別物だった。
「やっぱりお芝居をしながらの歌唱は全然違いますね。特にあのシーンは孔明に対する特別な気持ちもあって、いつものように明るく朗らかには歌えないし、胸がはち切れそうでした。アカペラから始まるのもハードルが高いですし、歌いながら涙を流すのも難しくて、本番直前はものすごくナーバスになっていました。けれど、そんな私に向井さんが孔明のように軍師として寄り添ってくださって。それがすごくうれしかったです」
見守ってくれる人がいる。その支えを全身で感じながら、上白石は有明ガーデンシアターのステージに立った。
「カメラの数は13台。しかも、全編通して同録(歌唱部分を別に録音するのではなく、ライブ音源をそのまま使用すること)。映画の撮影であることを忘れるくらい、本物のライブさながらの撮影でした。私もステージに上がったら撮影であることは忘れて、とにかくお客さんにいかに歌を届けるかだけにフォーカスしました。このライブ撮影の日が今回の映画のすべてだと思って、ずっと前からカレンダーにぐるぐる丸をつけて、この日に死んでもいいくらいの気持ちで努力をして臨んだので、無事に終えられたときは達成感でいっぱいでした」
カップのアイスを半分残せる人は、大人だと思う(笑)

歌手の夢を目指す英子と、英子の才能に惚れ込み、英子の夢を叶えるために計略を尽くす孔明。その師弟のような関係に、多くのファンがエールを寄せた。
「物語を描くにあたって、メインとなる男女は最終的に恋愛に転じることが多い中、孔明と英子はそういう要素がまったくない。そこが二人の関係性の特別さだと思っていて。連ドラのときから、向井さんとは『恋愛っぽい香りは一切放たないようにしよう』ということは決めていました」
二人の空気感を決定づけたのが、連ドラの第1話。歌手の夢をあきらめかけた英子に、孔明が「私が、あなたの軍師になります」と宣言するシーンだ。
「あのシーンは4分くらいの長回しで、心の距離が近づく分、ちょっと間違えたら恋愛っぽい香りが出てしまう。だからこそ、男と女というより、人として凛と立って、二人の間に生まれた感情が絆として映るといいよねということを、向井さんと話し合いました。完成した映像を観て、それができたかなと手応えを持てましたし、今回の映画でもそこは体現できたんじゃないかと思います。英子は孔明のことを人として信頼していて、孔明も英子のことを信頼している。そんな二人の絆が映画ではどうなるのか注目していただけたらと思います」
どんなときも冷静沈着。その卓越した頭脳と発想力で、英子に必勝の兵法を授ける孔明。もしも孔明みたいな心強い味方がいたら、上白石萌歌はどうなるだろうか。
「私はすごく心配性で、悩みが絶えないタイプ。孔明みたいな人が見守ってくれたらなと思う瞬間はたくさんあります。だから、孔明に甘えたくなる英子の気持ちもよくわかるんです」

『パリピ孔明』は、英子の成長物語でもある。最初はなんでも孔明任せだった英子が、少しずつ自分の頭で考えて、自分の手で道を切り開いてく。一人の大人として自立するとはどういうことか。英子の姿に学ぶものは多い。
「私自身、連ドラを撮っていたのが大学を卒業したばかりの頃。そこからのこの数年間は、いろいろと経験をする中で、大人とは何かと考えることが多かった気がします。自分の足で立つのって難しいな、というのが今の正直な気持ち。ですが、私も少しずついろんなことができはじめていると思うので、英子のようにいつか自分もちゃんと自立できたらいいなと思います」
ちなみに、大人への道を歩む上白石萌歌が今思う「大人」像とは?
「カップのアイスを半分残して戻せる人(笑)。そのときの自分に甘えすぎず、あとのこともちゃんと考えられる人は大人ですよね」
一番の壁は、『義母と娘のブルース』のみゆきちゃんでした

上白石萌歌が芸能界に飛び込んだのは、2011年。第7回「東宝シンデレラ」オーディションで44,120人の中からグランプリに選ばれ、女優の扉を開いた。
「気がつけば10数年経っていたなという感じではありますね。むしろお仕事をはじめたての頃のほうが堂々としてたんじゃないかなっていうぐらい毎日が試練の連続です」
劇場版で初めて披露する英子の新曲『Count on me』には「暗い辛い道」というフレーズが登場する。夢への道はいいことばかりではない。どこにもつながっていないような暗闇の中で自分を信じられなくなることもある。上白石にも、そんな時期があった。
「私にとっての一番の壁は、18歳の夏。『義母と娘のブルース』というドラマでみゆきちゃんを演じていたときでした。あんな大役を任せてもらえること自体、当時はまだそんなになくて。何回やってもオッケーが出なくて、毎日怒られっぱなしで泣いてばかり。目を腫らしながら這うように現場に行ってました(笑)。私にとって今まで味わったことのない挫折。思ったよりもずっと自分の力が通用しないことを突きつけられた作品でした」
上白石が演じたみゆきは、綾瀬はるか演じる主人公・宮本亜希子の義理の娘。横溝菜帆の演じた少女時代からバトンを受け、中盤より登場。父親譲りののんびりキャラで、明るいホームドラマにほっこりした空気をもたらした。

「緊張やプレッシャーに押し潰されて、ご飯が食べられなくなったり眠れなくなったこともありました。自分自身に対して一番絶望していた時期ですね」
そんな本人の苦しみをまるで感じさせないほど、画面の中のみゆきはのびのびとしていた。上白石はどうやって壁を乗り越えたのだろうか。
「正直、渦中にいるときはどうしようもなくて。毎日毎日、自分にできることを探すので精一杯。たぶん目の前に壁があるときって、自分では乗り越えられたかどうかわからないと思うんですよ。私があの頃よりも成長できたかもと気づけたのは、それから1年後くらい。すごく大変だったけど、あの壁を与えてもらって良かったと思えるようになって初めて自分が前よりも少し強くなれた気がしました」
壁にぶつかったときは苦しみをとくと味わう

だからこそ今壁にぶち当たっている人に向けて、上白石萌歌は言う、「そんなに軽々と乗り越えようとしなくていい」と。
「思い悩んだり、自分は全然ダメだなって思うときほど、私は今成長しているさなかにいるんだと考えるようにしています。特にこの仕事はそうなんですけど、楽しいなっていう感情って意外と危険なんですよ。楽しさに覆い隠されて、いろんなものが見えなくなる。むしろ壁があるときにしか見えない景色があると思っていて。だから、壁があるって幸せなことなんです」
そう言えるのは、上白石自身が「暗い辛い道」の先にある光を見つけたからだ。
「『義母と娘のブルース』は、今でも良かったよと言ってもらえることがあるくらい、たくさんの人に愛してもらえた作品になりました。あの作品があるから、今の私がある。あのとき、苦しい思いをして良かったって今は心から思います」

壁を乗り越えた者の特権が、一つある。一度乗り越えた人間は、次にどんな壁が待っていても、きっといつか乗り越えられると信じられることだ。
「たぶんこれからも壁はいっぱいあって。その先にある光を見つけられるのなんて、その10年後かもしれないし、もしかしたら20年後なのかもしれない。でも無駄な経験はないと思うので、壁にぶつかったときほど苦しみをとくと味わうように心がけています」
見る人の心を照らしてくれるような明るい笑顔。そんなふうに彼女が笑えるのは、真っ暗な険路の厳しさを知っているからだ。苦しさを知る人ほど、強くなれる。悩んだ分だけ、上白石萌歌はきっともっと輝いていく。


取材・文:横川良明 撮影:堺優史
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<作品情報>
『パリピ孔明 THE MOVIE』
4月25日(金) より全国公開

配給:松竹
公式サイト:
https://movies.shochiku.co.jp/paripikoumei-movie/
(C)四葉夕ト・小川亮/講談社 (C)2025 「パリピ孔明 THE MOVIE」製作委員会
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