『Perfume 10th Tour ZOZ5“ネビュラロマンス” Episode 1』4月20日千葉・La La arenaTOKYO-BAY Photo:上山陽介
大阪万博NTTパビリオンのメインコンテンツ「IOWN x Perfume」で、未来のライブ体験を提供し、話題となっているPerfume。今年はメジャー・デビュー20周年、グループ結成25周年が重なるということで、昨年末より11カ所23公演の全国ツアー『Perfume 10th Tour ZOZ5 "ネビュラロマンス" Episode 1』を敢行。そのファイナルが、4月20日千葉・La La arenaTOKYO-BAYで行われた。
アーティストの周年ツアーと言えば、代表作、人気曲でメニュー構成するのが常だが、今回のPerfumeはまるで違った。まずツアーに先立ち、昨秋、SF超大作を思わせるコンセプト・アルバム『ネビュラロマンス -前篇-』をリリース。今ツアーはその新作を携えてのものだ。すでにアルバムの『後篇』が下半期に出ることも発表されている。つまり、20年来の運命共同体であるプロデューサー・中田ヤスタカも、ライブの振付・演出を担うMIKIKOも、もちろんPerfumeの3人も、周年の祝祭感に甘んじるつもりなどさらさらない。その飽くなきフロンティア・スピリットが、観客のワクワクをより一層増幅させていた。
待ちきれない手拍子が最高潮に達する頃、ディープブルーに包まれた会場は、一気に近未来世界へ。正面のLEDには、物語の鍵を握る宇宙の危機的状況が映し出された。緊迫感はどんどん増し、突然隕石が落ちてきたような衝撃音。次の瞬間、ステージ中央には生身の3人が降り立っていた。カーキに近い制服風のコスチュームと白いショートブーツ。響いたのは眩い光に満ちた「The Light」。観客を熱狂の渦に巻き込んで、謎多きSF巨編が幕を開けた。
楽曲を縫い、ナレーションで物語の背景が明らかに。20年戦争で月が「ロボットアーミー」に占拠され、奇跡的に脱出した少女3人が、地球でコールドスリープから目覚めたのだという。語り部は、彼女たちを見守り、育てている「キキモ」。記憶もなく地球で人生を歩むことになったヒロインたちは、なぜかダンスに夢中になり、今や「Mr.MIC SHOW」の看板アーティスト「Perfume」として誰からも愛される存在になっている。そう、ライブは劇中劇のカタチで進行していった。
クールな幾何学模様の映像を背に「ラヴ・クラウド」、「Mr.MIC SHOW」のビビッドなセットに彩られた「Cosmic Treat」、降り注ぐ星雲の中で踊る「Starlight Dreams」‥‥‥。ふと気づく。これはあの『ネビュラロマンス-前篇-』の曲順通りにではないかと。つまり、あのアルバムは、現実のPerfumeが今ここで楽曲とパフォーマンスで紡いでいる物語の、完全なサントラだったのだ。
台詞はないが映画のようであり、回転舞台を用いたシアトリカルな場面転換をとれば、ミュージカルのようでもある。華やかなショーの裏側からそれぞれのバスルームが現れた「Morning Cruising」からの流れは、特に印象的だった。バスローブを羽織った3人の表情には、言い知れない不安や孤独の影が見てとれる。少女の頃失っていた記憶が、彼女たちの中で密かに蘇っているのではないかと思わせる「タイムカプセル」。Perfume25年を辿る映像も重なり、SFストーリーと現実がリンクし始めた。
そこでブラックアウト。雨音と共に天からキラキラと無数の星を散らして降りてきたのは、ほのかな桜色の巨大な花だった。歪んだ時空を漂うようなデチューンされた鐘の音。たゆたふ大河のようなライトカーテン。讃美歌のような「時空花」を歌いながら、花と同色の羽衣をまとった3人が暗闇からゆっくり現れる。なんて静謐で美しい光景だろう。究極的に音数の少ないスロー・ソングなのに、なぜか一瞬の刹那の輝きが目に浮かぶ。嵐の前の静けさに心が波立つ。ラストの「強く 強く 咲いて」は、3人が自分に言い聞かせる言葉にも、こちらに叫びかける言葉にも思えて、胸がキューッとなった。
エンディング・テーマ風に「メビウス」が鳴り始めると、深い没入感からふっと現実に戻った観客から手拍子が起こった。「キキモ」のナレーションでは、3人が戦士としての宿命を果たすべく立ち上がったことがわかる。帰還しない3人を心配して「キキモ」が口にした「嫌な予感」とは‥‥‥どうやら一番の敵であるらしい「カキモト」の正体とは‥‥‥。謎が謎を呼ぶ中、マシンガンを手にした3人の後ろ姿で「TO BE CONTINUED...」。ファイナルのこの日は、『後篇』が9月22(月)・23日(火・祝)に東京ドームで行われることが告知され、会場は地響きのような歓声に包まれた。
MCなしの緊張感あふれる演目であった「Side A」に対し、「ARE YOU READY?」で始まった「Side B」では、3人も観客も堰を切ったようにハジける。レーザーが四方八方から出まくるド派手なライティングの「Cling Cling」では、「ジャンプジャンプ」と叫ぶ3人の声につられ会場が揺れまくった。この「Side B」では、新旧とり混ぜて「Perfumeの煩悩の数だけ」毎回その日限りのセットリストで臨んでいたという。それも「楽しいことが大好き」なPerfumeらしい挑戦だ。
MCではおしゃべり好きも爆発。あ〜ちゃんは「Side A」の内容について、「実写化として観ていただきました。みんなの想像と交わっていたでしょうか?」と問いかけ、「今日を後悔しないように魂一緒に燃やしてくれますか?」と最大級のボルテージで観客を煽る。のっちは「ストーリーを体感するライブ」を心を込めて懇々と解説。「壮大すぎて解説が長い」と自分ツッコミする姿にクスッ。生まれ月の違う3人がこのツアー中は同い年だったとのことで、かしゆかは「同い年の瞬間を楽しんでます」とすごくうれしそうだ。おなじみの「P.T.A.」のコーナーでは、他アーティストの楽曲に勝手にダンスを提案して盛り上がるというテーマで、この日サカナクションの「新宝島」をセレクト。3人に合わせて見様見真似で踊り切る観客も見事。あ〜ちゃんがJ-POP好きのPerfumeを代表して、「サカナクション、ありがとう!」と叫んだのも清々しかった。
さまざまな楽曲を彩り豊かに届ける中、「ナチュラルに恋して」では、3人のプロフェッショナルさにあらためて脱帽。高速で動く回転舞台の上で踊り、椅子を使ってフォーメーションを変えたり、止まってステップを上がったりと、危険をはらんだことを易々と、美しくやってのけている。だから、見逃してしまいそうになるが、これは体に染み込んだ勘、緻密な歩数計算、3人の阿吽の呼吸、さらに、心を合わせるスタッフがいなければ成り立たないワザだ。今回は特に、3人の動きだけで見せる、が、基本のステージングだったので、観客を飽きさせないという意味でもここは重要なポイントだった。
最後のMCであ〜ちゃんは、その回転舞台についても触れ、「あれ、人の手で回してくれてます。すごくない?」と、裏方さんたちの仕事ぶりを讃えた。「わーっ、名残惜しい!」とめずらしく叫ぶかしゆか。「みんなの気合いに満たされました」とのっち。そして、25年を振り返ってあ〜ちゃんは、「まさかの未来を歩いています。3人が3人のファンでい続けています。これからも変わらないで変わっていきます」と宣言。
ラストはまさにその心境を歌った「Flow」。続いたのは、前述のNTTパビリオンでも話題の新曲「ネビュラロマンス」だった。中音域で展開するメロディがせつなくて、ジワリと多幸感に包まれるキラー・チューンだ。この曲が収録されるアルバム『後篇』にも自然と期待が膨らむ。その日まで、「前篇」で解き明かされなかった謎を元に、聴き手一人ひとりがそれぞれの想像力で、何万通りもの物語を紡いでいくことだろう。全貌が明かされる東京ドームはきっと、のっちの言葉を借りて言うなら、「完璧に満たされる」答え合わせの場となるにちがいない。
Text:藤井美保 Photo:上山陽介、木村泰之、石井亜希
<公演情報>
Perfume『10th Tour ZOZ5“ネビュラロマンス” Episode 1』
4月20日 千葉・LaLa arena TOKYO-BAY
【Set list】
M01. The Light
M02. ラヴ・クラウド
M03. Cosmic Treat
M04. Starlight Dreams
M05. IMA IMA IMA
M06. すみっコディスコ
M07. Morning Cruising
M08. タイムカプセル
M09. 時空花
M10. メビウス
M11. Cling Cling
M12. NIGHT FLIGHT
M13. コンピューターシティ
「P.T.A.」のコーナー
M14. FAKE IT
M15. ワンルーム・ディスコ
M16. ナチュラルに恋して
M17. Miracle Worker
M18. Flow
M19. ネビュラロマンス
<ライブ情報>
Perfume ZO/Z5 Anniversary "ネビュラロマンス"
Episode TOKYO DOME
9月22日(月) 東京ドーム
開場 16:30/開演 18:30
9月23日(火・祝) 東京ドーム
開場 15:00/開演 17:00
<リリース情報>
コンセプト・アルバム
『ネビュラロマンス 後篇』
2025年初秋 リリース
Perfume オフィシャルサイト
https://www.perfume-web.jp