服部百音が自ら企画する「Storia Ⅳ」で広上淳一とタッグ――ヴァイオリン協奏曲だけを堪能する一夜「こんなプログラムは他にはない!」
クラシック
インタビュー


左から服部百音、広上淳一
トップレベルの実力を誇る若手ヴァイオリニストの服部百音が企画するコンサート・シリーズ「Storia(ストーリア)」。4回目となる本公演では指揮者の広上淳一をゲストに迎え、NHK交響楽団とヴァイオリン協奏曲3曲を披露する。演奏家として15年目の節目を迎える服部が「Storia」に込める思いを聞いた。
迎合しない“本気の演奏会”
服部百音が広上淳一と初めて共演したのは11歳。NHK交響楽団との初共演は16歳のときで、そのときも指揮者は広上だった。
服部は当時を振り返って、「初共演の時はガチガチに緊張していました。広上先生から『自由に表現していい。ぶつかってきて』とおっしゃっていただいて、私は馬鹿正直に、本当に自由に演奏したんです。そしたら先生が大笑いして『それでいい、もっとやれ』とおっしゃってくださって、すごく安心したことを覚えています。先生が指揮していると、ステージ上での安堵感が大きい。父のような存在ですね」と話す。
服部が自ら企画する演奏会「Storia」は4回目を迎え、本公演ではプロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ブラームスの3曲のヴァイオリン協奏曲を披露する。
「こういうプログラムをやりたいと言うと、だいたいお叱りを受けるんですけどね(笑)器が大きいマエストロだからこそ、こんな無謀な曲目にも『いいよ』と言ってくださったのだと思います」(服部)
無謀な曲目?
「Storia」は2021年にスタートした。きっかけは15歳で留学先の海外から日本に戻ってきたとき、集客しやすい有名曲ばかり選ぶ風潮にカルチャーショックを受けたことだった。
「純粋にクラシック音楽の魅力を伝えることが自分のやるべきことだと信じて生きてきたからショックでした。日本では、わかりやすいものは良いけど、難しいものはダメというカテゴライズをしていることに違和感がありました」(服部)
葛藤を抱えながらもステージに立ち続けた。そんな時、コロナの感染拡大が起きた。
「日本で私にできることは何か考えた時に、このまま受け身でいてはいけないと思い立ちました。そこでStoriaの企画が誕生しました」(服部)
迎えるゲストはジャンルも世代も国も問わない。自分が本当に魅力的だと思う音楽だけを集めた「本気の演奏会」だと言う。
「ある意味ひねくれているんですけど(笑)、今までのゲストの方も、広上先生も面白いと言ってStoriaの主旨に賛同してくださいました。ゲストの人柄が見えるようなトークも入れながら、お客様と一体感を持てる舞台をつくっています」(服部)
封印したヴァイオリン協奏曲
前半はプロコフィエフとストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲が2曲続く。
「プロコフィエフはおとぎ話のように詩的な曲です。一方、ストラヴィンスキーの曲は尖っていて幾何学的なイメージがあります。相反するコンチェルトですが、ストラヴィンスキーのメロディの中にも愛らしさがちょこっと顔を出すところがあって、そのロマンチスト感がプロコフィエフと重なると思います。私がリスナーだったら、これは行きたい!と思う構成です」(服部)
後半のブラームスのヴァイオリン協奏曲には可愛いエピソードがある。小学生の頃、サンタさん宛てのハガキに「大好きなブラームスのドッペルコンチェルトとヴァイオリン協奏曲の譜面が欲しい」と書いたら、朝起きるとクリスマス用の靴下に譜面がパンパンに入っていたという。
「どうしても弾けるようになりたかったのですが、まだ小さすぎたし技術も足らなくて、頭の数小節でギブアップしました。悔しくて大泣きして、それ以降は弾けるようになるまで封印していた曲です。今は弾けるようになりましたが、子どもの頃の記憶を思い出す特別な曲です」(服部)
飾らない自分を探す旅
服部は自身について「私は0か100かの極端な性格。自分の中に小動物と恐竜が共存している」と自己分析する。
ここ数年間は、ひたすら公演予定を詰め込んで演奏を続けていた。しかし、オーバーワークで身体を壊し、ヴァイオリンを弾かない生活を強いられたときに、「人として生きる」という根本的なところを見直す機会が訪れたという。
「今まで自分はヴァイオリニストなんだという鎧をまとって奮い立たせるスタイルでした。でも、これからは自分を飾らず、自然体でいることを大切にしていきたい」(服部)
服部は、新しい感情や経験を全身で吸収したい、エネルギーを全部使い切りたいと意気込む。
「その先に行きつくところはどこなのか、私自身も分かりません。そこからまた何かを感じて出発する、あてもない旅を続けるイメージです。これからは白と黒だけじゃない、その間のニュアンスカラーの部分を楽しみながら歩んでいきたいと思っています」(服部)
「彼女はピュアな人」
インタビュー中、服部の言葉に深く頷いていた広上淳一は、彼女の葛藤と成長を見守ってきたひとりだ。
マエストロの目から見て、この公演はどのような意味を持つのか――。そう聞くと、広上は服部に温かい眼差しを向けた。
「彼女はものすごくピュアな人です。この公演には、いまの彼女のすべてをぶつけて、表現したい曲たちが集まっている。日本を代表する若いヴァイオリニストの“ピュアな精神の結晶”がこのプログラムに表れていると思います。僕はひとりの音楽家として、その挑戦を応援したいという気持ちです」(広上)
進化を続ける服部百音は、今この時しか聞けない音を奏でている。
取材・文=北島あや
<公演情報>
『Storia IV supported by SGC』
2025年9月2日(火) サントリーホール 大ホール
本公演は、文化庁による子供文化芸術活動支援事業対象公演となり、「平成19年(2007年)4月2日以降に生まれた」ご来場時18歳以下の中学・高校生のお子様を対象に無料でご招待いたします。
詳細については、サンライズプロモーション東京ホームページでご確認ください。
https://sunrisetokyo.com/detail/28854/
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/storia/