伊藤万理華の伸びやかな歌とダンスが宇宙で輝く『リプリー、あいにくの宇宙ね』
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前列左から井之脇海、伊藤万理華、シシド・カフカ、後列左から上田誠、槙尾ユウスケ、岩崎う大、浦井のりひろ、平井まさあき
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すべて見る本多劇場にて5月25日(日) まで上演中の『リプリー、あいにくの宇宙ね』が開幕。初日5月4日の本番前に、ゲネプロと会見が行われた。
ニッポン放送とヨーロッパ企画の上田誠がタッグを組むシリーズの第5作目にして、初の完全オリジナル脚本となる今作。民間企業が宇宙船100機を宇宙に放ち、資源探査を行うプロジェクトのうちの1機、ブリコロモ号の船内で巻き起こるさまざまなトラブルに、7人の乗組員と2体の作業用ロイドが立ち向かう。キャストは伊藤万理華、井之脇海、シシド・カフカ、石田剛太、中川晴樹、金丸慎太郎、野口かおる、男性ブランコ(平井まさあき、浦井のりひろ)、かもめんたる(岩崎う大、槙尾ユウスケ)の11人。
舞台は、白とグレーで構成された宇宙船ブリコロモ号の内部。しつらえられた大きなモニターには、宇宙船内外の情報やAI「マザー」からのメッセージが映し出される。ややクラシカルな雰囲気のブルーグレー×オレンジの宇宙服は、一人ひとり少しずつデザインや着こなしが異なるのが面白い。


タイトルの「リプリー」といえば、映画『エイリアン』でシガニー・ウィーバーが演じた役名。そのタイトルにふさわしく、物語は宇宙船にエイリアンが侵入したという騒動で幕を開ける。ニッポン放送×上田誠作品に3作連続で出演しているだけあって、う大が演じる投げやりな船長はかなりのハマり役。平井演じる科学主任も、生き物に強い興味を持つ彼自身と役柄とが重なり、いい味を出している。パニックでいきなり乱暴な手段に出る野口かおる、暴徒化する石田剛太の二人が初っ端から物語の温度をぐっと上げる。その中にあって、一見冷静に見えて実は誰よりも宇宙のトラブルを楽しんでいる様子の航海士・キリトを井之脇海が好演。何かとトラブルに見舞われる機関士(中川)といい、途中から登場しながらもすぐに馴染む金丸の役柄といい、それぞれのキャラクターが立っていて、見ているうちにメンバーそれぞれに愛着が湧いてくる。

2体の作業用ロイドはおだてられて能力を発揮したり、薄情な人間たちを非難したりと、人間味あふれる存在。「ずっと前からロボットを演じてみたいと思っていた」という浦井は、念願の役を存分に楽しんでいる様子。上田によれば「僕だけでなく、う大さんからの演出もこっそり受けている」という槇尾は、愛すべきロボットを演じきってみせた。シシドは初舞台とは思えない堂々とした演技と歌声で「漂流吟遊詩人」という架空の存在に見事に説得力をもたせる。作品全編を通じて歌とともに披露される伊藤万理華のダンスは、ここだけが無重力のように感じられる伸びやかさ。時折彼女の歌が挟み込まれることで、作品がよりポップに、華やかに彩られていった。宇宙飛行士と、恋に悩む等身大の女性という二つの顔が自然に共存するユーリという役は伊藤だからこそ成り立ったのだろうと思える。


トラブルが次々に起きる宇宙船内。しかし彼らは時に心を乱し、時に「コズミック・ジョーク」を交わし合い、時に祈り、人間らしさを発揮しながらなんとか乗り越えていく。公演を見終えたあとには、彼らの魅力が、その輝きがキラキラと星のようにいつまでも胸に残った。


ゲネプロ前に行われた会見には、脚本・演出の上田誠と伊藤、井之脇、シシド、男性ブランコ、かもめんたるが登壇。上田が今作について「せっかくなら古今東西の宇宙SFの要素を全部載せようとした結果、積載量多めの宇宙船になりました」と紹介。「11人のキャストとスタッフが全体重をかけないと爆発してしまうようなチャレンジングな脚本になりましたが、稽古初日からみんなが全のっかりしてくれて、かなり遠くまで行けた」「エンターテインメントに大気圏があるとすれば、それを突破できた作品」と宇宙船にたとえて、稽古でかなりの手応えを得た様子を語った。
伊藤は「上田さんによるエンタメ宇宙論が全て詰まった作品」、井之脇は「ファニーな台本とインタレスティングなメンバーが合わさって“面白い”が爆発している」と作品に太鼓判。また、シシドは以前から上田作品のファンだったと語り、「上田さんの千本ノックと面白の波に飲まれながら稽古をしていた。観客の皆さんをこの波に巻き込みたい」と意気込んだ。伊藤が「宇宙というと壮大なイメージがあるけれど、地球でも宇宙でも人間はちっぽけで滑稽。そのおかしみが繰り広げられた作品なので、ぜひそこに勇気をもらってほしい」と締めくくった今作。観客は2時間の宇宙の旅を楽しんでほしい。
『リプリー、あいにくの宇宙ね』は5月25日(日) まで本多劇場で上演されたのち、6月3日(火) には高知・高知県立県民文化ホール オレンジホール、6月6日(金) 〜8日(日) に大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。
取材・文/釣木文恵
<公演情報>
『リプリー、あいにくの宇宙ね』
【東京公演】
本多劇場
2025年5月4日(日・祝)〜25日(日)
【高知公演】
高知県立県民文化ホール オレンジホール
2025年6月3日(火)
【大阪公演】
森ノ宮ピロティホール
2025年6月6日(金)〜8日(日)
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/ripley/
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