映画監督・加藤シゲアキが作り上げた『SUNA』の世界「ちょっとふざけたマインドで当たり前を疑って考えた」
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インタビュー

加藤シゲアキ (撮影:梁瀬玉実)
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すべて見る2020年より始動した山田孝之らがプロデュースする、メジャーとインディーズを超えた多彩なクリエイターによる短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』。
全国の地域と連携して映画製作を通じた地域創生や人材育成に取り組んできた本プロジェクトに、今回、NEWSのメンバーとして活躍しながら、作家としても数々の話題作を輩出している加藤シゲアキが監督を務め、正門良規(Aぇ!group)とW主演を果たした『SUNA』が公開される。
本作で監督、そして主演を務めた加藤にインタビュー。本プロジェクトのおもしろさや『SUNA』について聞くとともに、作品作りの根幹を探った。
監督オファーに「やるべきかどうか迷った」
――監督オファーが来たときのお気持ちを教えてください。
驚きました。ただ、実を言うと1度「少し考えさせてほしい」と言ったんですよ。というのも、過去にもショートフィルムを撮ったことがあるのですが、その時に楽しさはありつつ、監督という立場がいかに簡単じゃないかということを実感していたので、本当にやるべきかどうか迷ったんです。
――『MIRRORLIAR FILMS』というプロジェクトはご存じでしたか?
友人が携わっていることもあり、よく知っていて“おもしろい試みだな”と他人事のように思っていました。なので、まさか自分にお声がけいただけるのところに来るとは思っておらずでしたね。
――どういったところにおもしろさを感じていたのでしょう?
官民一体で、地域と協力して物を作るっていう試み自体がすごいなと思っていました。映画って、ロケ地の選定が難しかったりするので、最初から協力していただけると言うのはすごいなと。それから、普段は別ジャンルで活躍されている方が映画の制作をすると言うのもおもしろいなと。僕自身、小説を書き始めたときに文芸界の方々が僕に対して偏見を持たずに歓迎してくれたのがすごくありがたかったので、別ジェンルから新しい風を求めている姿勢はっていうのは素晴らしいなと思いました。
――なるほど。
ただ、素晴らしいなと思うのと同時に、自分がやる以上は、それなりの結果を残さなきゃいけない、生半可なものは作れないと思いました。なので、自分がやることで期待に応えられるかどうかっていうのは、自分自身に対して厳しい視点で向き合わなきゃいけないなとも思って。お引き受けするか迷ったんです。
『SUNA』の世界観の元となった当たり前を疑う心

――『SUNA』の世界観はどのように浮かんだのでしょうか?
そもそも『SUNA』は空き時間になんとなくプロットを作って「小説ではできないからこそ、誰か映画にしてくれないかな」と思っていた作品でした。そこから、今回ロケを行わせていただいた東海市にシナハンに行った時点で何となく第1候補として砂のホラーという方向性は決まったんです。ただ、イメージはありつつもビーチも砂浜もない街なので、できるかどうか悩ましくもありましたね。
――そうなんですね。
東海市って鉄の町なんですよ。だから、思い切って鉄をテーマに地元を生かすアプローチを考えようかとも思ったんですけど、そうするとプロモーションビデオのようになってしまうというか、それも何か違うなと思いました。そしたら、生コンクリート工場の方がすごく協力的だったので、もしかしたら砂でもいけるかもとなって、ロケ地を見たことによってシナリオが広がっていきましたね。シナハンの時点で、半分ロケハンも終わったと言うか、ロケ地にあて書きみたいなことができて、勝算賞賛が見えました。
――そもそも砂のホラーという構想が生まれたのはなぜだったのでしょう?
ふとした時に“あるべき場所じゃないところにある”のって気味が悪いなと思ったんです。砂って、どこにでもあるはずなのに、家の中にあったらすごく嫌だなって。そこから“砂かけばばぁが本当にいたら嫌だな”、そもそも“砂かけばばぁってなんで砂をかけるんだろう”って、どんどん考えていきました。僕、小説を書く時もそうなんですよ。ちょっとふざけたマインドで、当たり前を疑っていって、真面目に考えていくんです。
正門良規の魅力は「力強くもあり、柔らかさもあるところ」

――本作では、監督を務めるとともに主演も務められた加藤さん。監督と出演をかねることの難しさはどこにありましたか?
俳優とコミュニケーションを取る時間が、やはりそんなにないんですよね。3日間という期間で、僕のわがままでいろんなロケ地で撮影を行ったこともあって。短編映画って、どうしてもワンシチュエーションになりがちなんですけど、僕はそういう当たり前の形にはしたくなかったんですよ。そうなると、役者と1から関係性を構築する時間はないから、僕を信用してくれてる人じゃないとちょっと難しいなと思って、今回は僕が以前書いた戯曲に出演してくれた正門にオファーしました。1度、僕の文体を体に入れたことがある人なら、少しはスムーズにできるんじゃないかと。
――正門さんの俳優としての魅力を教えてください。
力強くもあり、柔らかさもあるところかなと思います。彼を役者にする場合、少し文系っぽい人も、体育会系っぽいキャラクターでも、どっちもいけるなと。それがある種、弱めになっちゃうケースもあると思うんですけど、彼の場合は本当に独特なバランスで、今それが成熟してきてるなって印象を受けます。
――バディ役として共演してみて気づいた新たな魅力はありますか?
正直彼がどんなふうに演じるか、映像作品のイメージはあんまりなかったのですが、僕との相性も良かったんじゃないかなって思いました。短い中で変化を表現していかなきゃいけない役でしたけど、最初から彼は役をつかんでいて、自分が表現するべきアプローチを明確に見てくれていたので、めちゃくちゃ助かりましたね。
多面的に活躍しているからこそ、バランスが取れている

――撮影は順調に進んだのでしょうか?
そうですね。シナハンにも、ロケハンにも行ったということがあって、撮影はかなりスムーズに進みました。ロケハンの時にはもうカット割りを撮り始めてましたから。ただ、それでも撮影をしながら、思いついちゃうことってあって。それに関してはスタッフの方々にには結構迷惑をかけてしまって申し訳ないとかけちゃってたなと思っています。でも明確に下準備してたから、ちょっと足したり、ちょっと修正したりいっていうのは、柔軟に対応いただけたのかなできたんだなと思います。
――普段からアイドル、小説家、今回のように映画監督と多彩な面をお持ちの加藤さん。様々なお仕事を同時並行する中で、思い通りにいかなくて落ち込んでしまったりとか、辛くなってしまったりっていう瞬間はありますか?
うまくいかないとか“あーあすればよかったな”とかはあります。落ち込んだときに解決できるものだったら解決するんですけど、終わったこととか、できなかったことに関しては、もう忘れるしかないかなと思っています。そういうときに、いろんな仕事をさせてもらってると、それでもやることがめっちゃあるという状況が逆にありがたいなと。
――なるほど。多面的に活躍しているからこそ、バランスが取れているのですね。
例えばライブでうまくいかなかったとして、その日はすごい悔しいけど“いやでも帰って原稿書くか!”みたいに、次にやることがたくさんあるのは、1つ1つに引っ張られすぎず、上手くやっていける理由かなと思っています。
取材・文:於ありさ 撮影:梁瀬玉実
スタイリスト:吉田幸弘
ヘアメイク:KEIKO(Sublimation)
衣装協力:
シャツ¥6,600/キャスパー ジョン(シアン PR03-6662-5525)その他スタイリスト私物
<作品情報>
『MIRRORLIAR FILMS Season7』
5月9日(金) よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映

配給:アップリンク
(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
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