THE BACK HORN、人間の影と光を無限に描き、どん底から這い上がる力へと昇華するニュー・アルバム『親愛なるあなたへ』を携えてワンマンツアー開催中
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山田将司(THE BACK HORN)
取材・文:エイミー野中
“KYO-MEI”という言葉を掲げ、人の心の深淵まで届く楽曲を送り続けているTHE BACK HORN。2023年の結成25周年アニバーサリーイヤーを経て、2024年には“光と影”をコンセプトに掲げた配信シングルを初の連続リリース。2025年はオリジナルアルバムとして2年9カ月振りとなる14thアルバム『親愛なるあなたへ』が完成。THE BACK HORNのロックの王道は保ちつつ、サウンド面ではヒップホップやソウルミュージック的な要素も感じられる幅広いアプローチに挑戦した意欲作となっている。その制作過程や新機軸となる新曲たちが生まれてきた背景について山田将司(vo)にインタビュー。自身のボーカリストとしての思いと共に、このバンドの基本姿勢と変化を恐れない今の心境について真摯に語ってくれた。
昔の裸の表現とはまた違う意味で
今はもっと裸になれてる感じがある
――ニュー・アルバム『親愛なるあなたへ』はタイトルからすごく目に止まります。
ここまでまっすぐなタイトルはなかったですね。2023年の3月23日に25周年の締めくくりのライブをパシフィコ横浜国立大ホールでやったんですけど。そのライブのアンコールで初披露する新曲として書き下ろしたのが1曲目の「親愛なるあなたへ」なんです。その時ライブで初めて聴いてもらう曲だから、言葉の選び方とか、曲調とか、ちゃんとお客さんに届けることを意識して、お客さんと向き合ったあのライブの瞬間をイメージしながら曲を作ったので。
――聴き手に向けられたやさしさも感じられる表題ですよね。
聴いてくれる人がいることを前提に曲をちゃんと作ってるので。この「親愛なるあなたへ」はライブをイメージして書いた曲ではありますけど、制作においても、“親愛なるあなたへ”っていう気持ちは常に持ち続けてるので。バンドの正直な気持ちだし、この言葉はTHE BACK HORNの姿勢としてぴったりだなっていうところで今回のアルバムタイトルになりましたね。
――1stアルバムの頃のTHE BACK HORNなら、おそらくつけないであろうタイトルなのでは?
絶対ないですね(笑)。たぶん、20代の俺たちなら“恥ずかしい”って、絶対つけてはいなかったと思います。もっとかっこいい、ガチガチ武装した言葉たちを自分たちで生み出してたと思うんですけど。20代からここまでずっとやってきて、徐々にいろんなことを信じれるようになった……、お客さんに信じれるようにさせてもらったったというか。それこそ、闇の中でもがいてたような表現をずっとし続けてきてたけど、そこに共感してくれる人たちがいて。“寄り添ってくれてるような気がして、ちょっと元気になりました”とか、“一緒に痛みを味わってくれてる感じがする”とか言ってくれてるファンがいて。そこで俺たちも、自分たちを肯定してもらえた感じがするというか。“ありがとう”っていう言葉をもらうと、自分らを肯定できるようになったんですよね。で、肯定できるようになってからもっと前向きというか、光とか希望とかをちゃんと描くことから目を背けないで、最終的には力が湧くような曲を、俺たちはみんなを引っ張っていけるような曲を作りたいっていうことを言い出したのが、たぶん15年前とかかなぁ……。その頃から曲調もちょっと上向きになってきたというか。視点が上向きになってきた感じとか、前を向いている感じになってきた感じはあるんですけどね。
――THE BACK HORNというバンドは現実をちゃんと見ているというか、現実と戦ってきているバンドという印象です。
見てますね……。クソ真面目なとこはちょっとあるかもしれないですね。
――そこを信じてますよね、THE BACK HORNのファンは。
うん。それが恥ずかしいとかを超えて、やっぱ美しいって思っちゃうっていうか。だからこそ、 年を重ねてくると、恥ずかしいがどんどんなくなってくる感じというか……、昔の裸の表現とはまた違う意味で、今はもっと裸になれてる感じがあるっていうか。
今の20代にどう接していいかわからないアラフォーの闇を描いた
『ジャンクワーカー』(M-2)
――『修羅場』(M-3)や『ジャンクワーカー』(M-2)は人間のリアルな醜い面も露呈しているように感じました。山田さんが作詞作曲をされている『ジャンクワーカー』はどのようなきっかけでできた曲ですか。
『ジャンクワーカー』は影をテーマにした曲の2曲目なんですけど、影の1曲目に(菅波)栄純が『修羅場』っていう曲を先に持ってきたので、『修羅場』とのバランスで、『ジャンクワーカー』はこういう風にしようっていうのは自分の頭の中にあって。ちょっとお経っぽいメロディーの曲って、元々バックホーンの持ち味としてあった表現なので。それを武器にして、自分らが昔聴いてたオルタナのギターロックリフみたいなものを絡めて、ちょっとトラップの打ち込みとかも入れて、現代版にアップデートした形が作れたらいいなと思って作ってみましたね。
――念仏を唱えるように歌ってるところもあって。
うん、ちょっと般若心経に聞こえるような感じに歌い回しとかを細かくしてみたり、言葉の選び方もこだわってみましたね。
――この歌詞の主人公はどういう設定ですか。
俺ら世代のアラフォーで、20数年サラリーマンやってる同世代くらいのスタッフだったり友達だったりの社会の闇というか、そこを描きつつ……、それでも逆ギレして生きていく力に変えていく感じというか。それをこのサウンドと歌の熱量で感じてもらえたらなっていうのはありましたね。40代って上の世代から教えられたことが下の世代にぜんぜん通用しないと思うんですよね。この15年、20年くらいで世の中がどんどん変わってきたじゃないですか。今の20代にどう接していいかわからないアラフォーの人たちの悩みって、けっこう闇だなと思うんですよね。そこを描きたかったのはありますね。最終的にちょっと励ましたいっていう気持ちもあって。サビの力強い言葉が出てきた感じはあります。
――こういう歌詞はすぐに書けましたか。
いや、難しかったですね。けっこうストレートな言葉をのせてるんで、それこそ韻の踏み方とか、<パワハラセクハラモラハラアルハラマタハラハラハラあらら>とか、遊びもちょっと入れたりとかしたくて(笑)。この『ジャンクワーカー』を出した後に、“サラリーマンやったことないはずなのに、なんで俺たちの気持ちがわかるんだ?”みたいなことを言ってくれてる人はいましたね。
――ちゃんと聴き手に届いてるんですね。
そうですね。いろんな苦しみを抱えながら生きてる人は絶対いるし。同じこの時代に生きている人間として、少しでも元気出してほしいし、一緒に頑張ってこうよっていう気持ちはあるので。ちょっとでも励ませたらなっていう感じはありましたね。
――『修羅場』はラップとも異なる独創的な歌い方で。
このAメロとかの感じだったら、ラップとかのスタイルでもできるんですけど、もっと無骨な方が逆に怖いなっていう(笑)。
――確かに! 歌詞の中にもエグい世界が展開されていて。
(歌詞の登場人物は)どんな人間なのかっていうと、そもそも頭おかしいんですよね。だから多分、ああいう歌い方に自然になっちゃってるっていうか、この『修羅場』っていう曲の世界観を声で表現するには合ってるなと思って。自分がそういう声でこの曲を聞きたいっていう感じで歌ってました。レコーディングの時って、正直どんな表現でもありなわけじゃないですか。正解がないし、この歌詞をどんなふうに解釈するかも、けっこう俺の自由だし、どんなふうにもなるっていう、その感じはどの曲に対してもありますね。引っかかりを残すために、わざと癖がある歌い方にしてやってみたりとか。そういう意識も、27年ぐらいやって自然に身についたなんだなっていうのは、今喋ってて、普通に思いましたけどね(笑)。
聴いてくれる人がいることを意識した上で
俺たち4人が親指立てられるような曲を作っていく
――音楽性の振り幅という点では、「光とシナジー」(M-7)は今までにないタイプの曲ですね。
今までなかったですね、完全に。この曲を栄純が持ってきた時に、この心地いい風はTHE BACK HORNなかったよなっていう感じはありましたね。だいぶ振り切った曲ですけど、THE BACK HORNの振れ幅は昔から結構いろいろあったんで。着手したことがないジャンルの歌の符割りだったり、メロディや歌詞も今まではなかったタイプの曲ですけど。この曲も自分たちのものにしていきたいっていう気持ちで挑んだ曲ではありましたね。このクラップが入る感じとか、シャッフルしてる感じでちょっとハネてる感じが、意外にデリケートじゃないですか。これがしっかりはねすぎちゃうと、またメロディーのさりげなさが伝わりにくいというか、温度感がちょっと高くなっちゃう感じがするんで。そのへんのさじ加減がすごい難しかった曲ではありますね。
――この曲は菅波さんが作詞作曲されてますけれども。この歌に出てくる人間関係ってどのようにとらえていますか。こんな信頼関係があればいいなって思います。
いいですよね。それこそ自分の周りにいる年の差を超えたふたりの関係性というか、なんかいけるんじゃない? 俺たちなら大丈夫なんじゃない?っていうふたりの関係性の希望を歌った曲ですね。仕事のパートナーだったりとか、関係性を作るのが難しいけど、お互いに向き合いながら、年齢差とか性別の違いとかを超えた関係をふたりで作っていくみたいな。いろんな身近な人に当てはめて、聴いて感情移入してくれたらいいなと思いますね。この間、「親愛なるあなたへ」のMV撮影をしていて、おばあさん役の方が、“『光とシナジー』が大好きです。私もバンドやってるんです”って言ってくれたんですよ。それですげえ嬉しくなっちゃって。まさかその言葉を聞くとは思わなかったんで(笑)。今度ぜひライブにいらしてくださいって言いましたね。
――素敵なエピソードですね。ちなみに、こういう曲はライブではどのへんで歌われますか。
今までのバックホーンの曲たちの中に入れにくい曲ではあるんですけど、10曲のライブだとしたら、6曲目とか、7曲目とか、後半に行く前の最後くらいの感じでやってますね。それこそ『ジャンクワーカー』を1曲目にやったりとかもしてますけど。中盤に『修羅場』みたいなちょっとカオスな曲を昔のカオスの曲たちと一緒にやって、その後に1回MC挟んでちょっと雰囲気変えてから『光とシナジー』とかやってますね。ライブの中の一個のバリエーションとしてはだいぶ強い明るい色が出せるので。ギラギラしすぎてもいないし、ビカっと眩しすぎるわけでもないので。この間、大阪城の野音でやった時とかも、40代ぐらいのお客さんがいて、手を叩いて乗ってる感じの温度感とか、ちょっと酔っ払いながらみんなが見てる感じとか、なんかいいなと思いますね。
――『光とシナジー』を聴いて、これが今のバックホーンなのかと新鮮に感じるものがありそうですね。
うん。変わっていくことを別に俺たちはずっと恐れてなかったんで。お客さんの中には、(バックホーンに)求めてるのはそこじゃねえんだよみたいに言う人はいるかもしれないですけど。勝手ながらバックホーンはこの4人が信じたものをずっとやり続けていくだけなので。でも、聴いてくれてるお客さんへの目線はずっと変わってないので、そこに聴いてくれる人がいることを意識した上で、俺たち4人が親指立てられるような曲をやっぱずっと作っていきたいなとは思ってます。
――山田さんが作曲の「月夜のブルース」(M-9)も新鮮な感触のピアノバラードで、すごく良いですね。
ありがとうございます。僕的にもかなり新しい試みではあって。どういうアルバムにするかっていう話をみんなでしてる時に、ちょっとアップテンポ、暗め、ライブで盛り上がりそうな曲、これぞバックホーンっていう王道な曲とか、ちょっと変な癖のある暗い曲とか、どんな曲が入るかを仮の叩き台を作って、作詞作曲者を決めるんですけど。栄純に、“将司、ちょっとバラードを書いてくれ”って言われたので、バラードを書こうみたいな雰囲気になって。でも泣きメロじゃない温度感のバラードにしてみようと。前にけっこう泣きみたいな感じのコード進行とメロディーとかは書いたことがあるんですけど、これだけ淡々としたバラードは作ったことなかったんで。ギターとピアノのコードに対してのテンションの感じがちょっとオシャレでアーバンな感じというか、そこはなんか良い表現ができたなって感じはあります。
――山田さんは数年前にのどの手術をされたそうで大変な時期もあったと思いますが、歌い方はなにか変わりましたか。
術後すぐにちゃんと(ボイストレーニングの)レッスンに行き始めて。2年ほど前からお世話になってるボイストレーニングの先生が自分の中ですごくいい感じにフィットしてますね。今までこういう声が出てたのは、こういう体の使い方してたからなんだっていうのが、この半年から1年くらいでやっとわかるようになってきたんです。10年ぐらい前に(歌うときに)体の使い方がよくわかんなくなっちゃった時期があったんですけど、それでやらなくなってた曲とかも最近またできるようになってきたりとかして。まだまだ伸びしろはあるなって感じはしてますね。
――「月夜のブルース」は絶叫するような激しいタイプのボーカルとは異なります。
そうですね。引き算の考え方みたいなものは昔は全然できなかったので、やってはいたけど……。今は昔とはまた違うこの引き算の仕方で。やっぱり俺もいろいろ感じながら生きているので、自分で言うのもなんだけど、昔より説得力みたいなものとか、深みみたいなものが出せるようになってきたのかなっていう感じもちょっとあります。それこそ昔みたいな声も出したい気持ちは十分ありますし、なんなら最近のライブでも出してましたし。叫べなくなっちゃった時期はありましたけど、年取ってきたから丸くなるっていうか、もう叫ばなくなっちゃったんだって言われるのが……、自分もがっかりするし、やっぱ聴いてる人もがっかりすると思うんで。そこはもう、割り切るんじゃなくて、間の良いところをずっと探り続けていて。叫ぶか叫ばないかじゃなくて、どっちも正直やりたいし、叫び方も多分、体の使い方を覚えれば枯れにくい叫び方はできるので。
必ず、どん底から這い上がっていく力みたいなものを
一緒に共有できたらなと思います
――「タイムラプス」(M-10)は重厚で疾走感があるストレートなロックチューンで、亡き友に捧げるような歌詞ですね。これはどのように歌いましたか。
どういう歌詞なのかによるというか、昔だったら「タイムラプス」とかもっとギャーっていうシャウトに近かったと思うんですけど、この曲には怒りの部分はないから、怒りの部分がないのに、身を削った叫び声を出したいとは別に思わないっていうか。曲調や歌詞にあった声色っていうのは、やっぱ自分の中では結構いろいろ引き出しとして持ってはいるとは思ってるので、いろんなアプローチはしていますね。
――本当にまだまだ聴きどころが豊富なアルバムだと思います。
それこそ、着実にアップデートできてるバックホーンの表現だと思うので、全曲そこを聴いてほしい。このアルバムは「親愛なるあなたへ」から始まって、「ジャンクワーカー」とか、影の部分をふんだんに出し尽くした「修羅場」があって、「透明人間」(M-4)があって、その暗いどん底のところから「Mayday」(M-5)で徐々に浮上してきて、「最後に残るもの」があって、「光とシナジー」があって、「タイムラプス」があって、「明日世界が終わるとしても」(M-11)まで影から光にグラデーションが感じられるようになっています。後味としては本当に明日も頑張って生きていこうかなとか、そういう気持ちに俺らもなりたいし、聴いてくれる人にもそう思ってもらえるアルバムができたような気がします。
――このニュー・アルバムの曲がライブでどのように演奏され、表現されるのか楽しみです。
かなりキャラの濃い曲たちが揃ったアルバムになってるので、それこそ昔の曲たちとこのアルバムの曲たちが前後で並んだ時に、聞こえ方がまたどんどん変わってくんだろうなっていう感じもあって。必ず、どん底から這い上がっていく力みたいなものを一緒に共有できたらなって思ってます。
――人生、どん底のときもあるけど、そこで発見するものや出会うものもあって。
そうなんですよね。考え方次第みたいなことはね、ありますけど、傷として残る場合もあったりしますからね。そういう人たちが音楽を聞いて、ライブとかで少しでも救われる瞬間がちょっとあったらいいなっていう気持ちもあります。
――最後に、ツアーに向けての意気込みを聞かせてください。
『親愛なるあなたへ』はバックホーンの14枚目のアルバムで、結成26年のバックホーンが持ちうる幅において最大限濃い表現ができたと思います。影も隅まで描きましたけど、光もちゃんと無限に描いたつもりなので。この時代に、光も影もどっちもあって当たり前じゃないかっていうバックホーンの許容でもあるし、覚悟でもあるし、それがバックホーンの良さだと思ってます。そんなライブの空気を、ライブの熱を共有して、また明日も頑張ろうっていう気持ちにみんなと一緒になりたいなと思ってるので、ぜひライブに遊びに来てほしいなと思います。
<公演情報>
THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~Dear Moment~
大阪公演:5月17日(土) BIGCAT
宮城公演:5月24日(土) 仙台Rensa
東京公演:6月8日(日) Zepp Shinjuku(TOKYO)
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11014124&afid=P66
公式サイト:
https://www.thebackhorn.com/