松本穂香、”やわらかな”先輩たちに囲まれる喜び『昭和から騒ぎ』
ステージ
インタビュー

松本穂香 (撮影:杉映貴子)
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すべて見るシェイクスピアによる喜劇『から騒ぎ』。シチリア島で繰り広げられるこのドタバタ劇に三谷幸喜が挑む『昭和から騒ぎ』が5月25日(日)から6月16日(月)まで世田谷パブリックシアターで上演される。三谷にとって初めてのシェイクスピア翻案。舞台を日本の鎌倉に移し、三谷らしさがふんだんに練り込まれている。今回三谷作品初参加となる松本穂香に、稽古場の様子や自身の役柄について語ってもらった。
突拍子もない演出も「とにかくやってみる(笑)。すごく楽しいです」

──松本さんは今回三谷作品に初めて参加されますが、これまで三谷作品に対してどんな印象を持っていましたか?
たくさん笑って観終えた後、一人ひとりのキャラクターが思い浮かぶようなお芝居だなと思っていました。魅力的な人が集っているというか……。その感覚は、今作に参加してみてより強く感じます。
──では、『昭和から騒ぎ』の脚本を読んだ感想は?
私は大阪出身で吉本新喜劇を観て育ったので、新喜劇に通ずるものを感じました。何かのためにみんなで協力して芝居を打って、誰かを騙す。騙すといっても、いい方向に持っていくための行動なんです。そこには、普遍的な温かさがあるんですよね。駐在さんがいるところも新喜劇に似ているなと思います(笑)。

──松本さんは映像でも舞台でもさまざまな作品に出演されていますが、今回のような喜劇というジャンルは得意ですか?
好きですが、難しいです。ちょっとした言い方や間で全部が変わってくる。かといって、狙いすぎてもダメ。前回出演した舞台では、松尾スズキさんから『こういうときはこう返したら笑いが起きるというのがあるんだよ』と教えていただいたのですが、そこにたどり着くまでは果てしなく遠い気がして。
──今回、三谷さんから何かアドバイスはありましたか?
三谷さんからは、毎日稽古が始まる前に「今日はあのシーンでこうしてみてください」と、新しい演出が伝えられるんです。ときには突拍子もない行動が加わることもある。でもとにかくやってみる(笑)。すごく楽しいです。
──稽古が始まってしばらく経つそうですが、稽古場はどんな雰囲気ですか?
三谷さんをはじめ、キャストのみなさんがやわらかな雰囲気で、とても温かいです。中でも高橋克実さんが私のツボで。克実さんは私のお父さん役なのですが、娘の名前をよく間違えるんです。ドイツ文学の教授という設定なので、三谷さんの演出で急にドイツ語を話したりすることもある。そんな克実さんを観ていると、役として笑ってはいけないところでも笑ってしまうので、それが今の課題です(笑)。
──いい空気で稽古が進んでいるんですね。
はい。あと、三谷さんと大泉さんの攻防もすごいんですよ。大泉さんが「何でここでこんなこと言うんですかねえ」と言うと、三谷さんが「シェイクスピアなんで」と返したりして。そのやりとりがもうすごく面白いんです。また、竜星涼さんが「じたばたしてください」という三谷さんの演出に全力で応えているのを見ると、とてもオープンな方なんだなと感じます。そういうところは私もぜひ見習いたいなと思います。

姉役の宮沢りえと、姉妹の絆を大事に伝えたい
──そんな中で、ご自身が演じる役柄(高橋克実演じるドイツ文学研究者・鳴門先生の次女・ひろこ)についてはどう捉えていますか?
厄介ごとがあるとすぐ逃げちゃうお父さんがいて、なんでもひねくれた言い方をしちゃう姉がいる。そんなふたりと暮らす妹は素直でしっかりしている感じがセリフからも窺えます。でもただそれだけではなく、三谷さんからの突然の演出によってちょっと風変わりな要素も加わってくるので、あまり自分の中で固めすぎず「いろんな面があるよね」と受け入れながら演じられたらと思っています。登場人物はそれぞれキャラが濃くて、そこに面白さがあるのですが、そんな中でも姉妹の絆は笑いで流れてしまわないように、大事に伝えたいです。
──お姉さん役の宮沢りえさんとは、稽古を重ねて姉妹の絆が生まれそうですか?
稽古場で隣の席なのですが、「昔自分も言ってもらって身になったことだから」と細やかなアドバイスをくださるんですよ。たとえば、本番ではすべりどめのついた靴下を履いてお芝居をするので、「稽古ではこれを履いたらいいよ」と同じようにすべりどめがついた靴下をくださって。本当に優しくいろんなことを教えてくださるので、すごく助けられています。稽古を通じて繋がりは濃くなっていると思うので、本番で姉妹らしく映るといいなと思います。


──松本さんはこれまで、さまざまな演出家の演劇に出演されていますが、演劇の面白さはどんなところにあると感じていますか?
全部違うのが、すごく面白いなと思います。劇団た組の『ぽに』(作・演出:加藤拓也、2021年)に出たときは、「ああ」とか「うんうん」とかの言い回しが全部セリフとして書かれていたことに感銘を受けましたし、『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録』(作・演出:松尾スズキ、2024年)にはジャンル分けできない魅力がありました。そして今回はシェイクスピア……。舞台ってこんなにも幅広いんだ、自由なんだということに感動します。
──最後に、今作の魅力を教えてください。
キャストのみなさんが、とても自由なんですよ。ここにいる方々全員が、やわらかさの塊(笑)。同じセリフでも毎回少しずつ違う。そうやって柔軟に、楽しんでお芝居をされている姿を見ると、この場に自分も参加できていることがとても幸せに感じます。もちろん脚本も、三谷さんがつけてくださる演出も魅力的で、キャラクター全員がかわいらしいので、自分もそこに埋もれないように楽しくお芝居できたら本望です。

取材・文:釣木文恵 撮影:杉映貴子
ヘアメイク:尾曲いずみ スタイリスト:道端亜未
<公演情報>
『昭和から騒ぎ』
原作:ウィリアム・シェイクスピア(河合祥一郎訳『新訳 から騒ぎ』角川文庫より)
翻案・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋、宮沢りえ、竜星涼、松本穂香、松島庄汰、峯村リエ、高橋克実、山崎一
【東京公演】
2025年5月25日(日) ~6月16日(月)
会場:世田谷パブリックシアター
【大阪公演】
2025年6月20日(金) ~23日(月)
会場:SkyシアターMBS
【福岡公演】
2025年6月27日(金) ~29日(日)
会場:キャナルシティ劇場
【札幌(北海道)公演】
2025年7月4日(金) ~6日(日)
会場:カナモトホール(札幌市民ホール)
【函館(北海道)公演】
2025年7月9日(水)・10日(木)
会場:函館市民会館
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