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ぴあ 総合TOP > 第2回:俳優・山崎静代×演出家・桑原裕子インタビュー 舞台でしか味わえない『ザ・ヒューマンズ─人間たち』の魅力

トニー賞受賞の傑作戯曲、日本初演! ある家族の一夜の会話劇
舞台『ザ・ヒューマンズ─人間たち』特集

シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.2

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第2回:俳優・山崎静代×演出家・桑原裕子インタビュー
舞台でしか味わえない『ザ・ヒューマンズ─人間たち』の魅力

左から)山崎静代、桑原裕子

老朽化したアパートで感謝祭の食卓を囲むのは、それぞれに不安や痛みを抱える家族――。演出を担う桑原裕子が「読めば読むほど、改めて面白い戯曲だなと感じる」という本作。劇作家のスティーヴン・キャラム自身がメガホンをとった映画版の評価も高いが、桑原と長女エイミー役を演じる「しずちゃん」こと、山崎静代の対談では、舞台でこそ味わえる本作の魅力、役柄へのアプローチなど、さまざまな話題が飛び出した。

人知れず涙を流すところまでつまびらかにする

── お稽古では多くの時間を割いて俳優さんたちとディスカッションを重ねてこられたそうですね。どのようなことを論じられてきたのでしょうか。

桑原 昨日も、しずちゃんが演じるエイミーについて話をしていたんです。エイミーは9・11の米国同時多発テロの時、崩壊した世界貿易センタービルにいたのですが、脱出し、生き伸びることができた。それを彼女はいま、どう解釈しているんだろう、“いま”の彼女は、あの時生き残って良かったと言えるのか──と。当初は表層的にしか理解できていませんでしたが、実は、彼女はすごく複雑な心境でいるんです。

山崎 せっかくもらった命なのだから大事に生きよう、明るく楽しく生きようと前向きに、困難に立ち向かっているのだと思っていたのですが、エイミーは実はそういうわけでもない。こんなに辛いことがあったのに、まだこんなに来る?というくらい不幸なことがいっぱい起きている。もう次はないやろと思っても更なる不幸が起きるというのは、実際にあること。でも、人生って意外とそうなんかなと。そういうところにこそ、リアルな人間らしさが出てくるのかな、と思うようになりました。

── 山崎さん、演出家としての桑原さんの印象を教えてください。

山崎 まず、すごく頭がいい方でいらっしゃる。

桑原 嘘でしょ(笑)?

山崎 この役の感情について説明してくださる時、わからない言葉がすごく多くて(笑)、次から次へといろんな表現が出てくる。それが最初の印象です。これまでどういうふうに生きてきはったのかなと思います。めっちゃ勉強されて、本をたくさん読んではるのかなとか。プレイヤーとしても本当に素晴らしく、やれることが広すぎます。

桑原 汗かいてきた(笑)。

── 舞台では地階と上階とで登場人物たちが同時に動き、会話をします。戯曲はかなり複雑に書かれていたのではないでしょうか。

桑原 とても緻密で、ト書きもすごく細かく書いてあります。その動きを読み解けば読み解くほど気づく整合性があったりして、「あ、だからいま、この登場人物はトイレに行ったんだ」とわかってくる。だから、それを無視して私たちのやりたいようにやりましょうというわけにはいきません。

── 作者はなぜ、上下ふたつのフロアを使ってこの物語を書いたと思われますか。

桑原 家族と暮らしていると、ひとりの時間がどうしても欲しくなるもの。ひとりになって心を落ち着かせる時間、あるいは人知れず涙を流すところまでつまびらかにしようという意図で書かれていると思います。私は観客のときも演出をやるときも、端っこに立っている人がちょっと気を抜いている顔をするとすごく気になってめちゃくちゃ見ちゃったりしますが(笑)、逆に、どんなに台詞のない人も輝く瞬間があり、それを見つけることも演劇の楽しみ。公演では、いつも以上に誰かを追いかけて共感するポイントが見つかるかもしれません。

「リアルタイム体験ショー」として楽しんで

── エイミーという人物について、山崎さんはいま、どのように捉えていらっしゃいますか。

山崎 家族それぞれとの関係性をしっかりと作らないと、と思って取り組んでいます。最初に役柄を考える基準として、自分の家族を思い浮かべますが、自分の感覚でものを考えたらあかんねやな、と思います。エイミーと私とでは違うのに、すぐ自分の考えで捉えようとしてしまう。実際、私はエイミーほどのことを経験していません。彼女は本当はすごく辛いのに、「神様の意地悪!」とは考えず、達観して事実だけを受け止めることができている。私やったらそうはできないし、とことん落ちるだけになるかなと思うんです。

桑原 私は出会う前から、しずちゃんってすごく優しい人だろうなって勝手に思っていました。優しいというキャラクターを押し付けているみたいになっちゃうから、そうは思わないでほしいのだけど──。

山崎 はい。

桑原 しずちゃんは皆に対して、受け止めたり引き受けたりということを静かにやっているイメージでしたが、エイミーもそういうところがあるなと思ったんです。彼女は弁護士で、バリバリのキャリア系の女性。しずちゃんはどちらかというともぞもぞと喋るタイプかもしれませんが(笑)、「私、頑張っていますよ」と気張って見せないところが、しずちゃんの演じるエイミーの素敵なところではないでしょうか。

山崎 どう足掻いても私は口が立たないし(笑)、やっぱりバリバリには見えないと思いますが、桑原さんがおっしゃったような良さが出せたら、と思います。

桑原 映画版のエイミーは、有名なコメディエンヌのエイミー・シューマーが演じています。彼女はしずちゃんと逆で、スタンダップ・コメディで自分の主張を面白おかしくバンバン喋るタイプ。なのに『ザ・ヒューマンズ』では控えめでおとなしくて、弱りきっているお姉ちゃんを演じているんです。タイプは違うけど、ふたりとも両極端のところから集まってきてエイミーを演じる。普段の自分とはかけ離れていても、その人の内側の良さが演技に反映されるのではないかと思います。

── 舞台だからこそ味わえる本作の魅力は、どんなところにあるとお考えですか。

桑原 映画は作者のキャラムさんご自身が監督をされているので、彼が見せたい部分、フォーカスを当てたい部分がしっかりと表現されています。舞台ではいろんなところで同時多発的にいろんなことが起こるのを、お客さまがリアルタイムで観て、空気の変化を一緒に体験していくことになるでしょう。さっきまで楽しかったのにちょっと雲行きが怪しくなってきたり、一瞬にして笑えるようなことが起きたり。それがカットなしに進んでいく。やっぱり演劇は“体験”。自分の感情を写す鏡のように作品を観る面白さがあります。今回はとくに、「リアルタイム体験ショー」(笑)として楽しんでいただけるかなと思っています。

山崎 舞台全体で行われているお芝居を、それぞれにいろんな見方で観ることができる。本当に家族を覗き見しているような感覚になるのが、面白いところやなって思います。

── 映画では、老朽化したアパートの暗くてちょっと恐ろしげな雰囲気が独特でした。

桑原 そこで妙な音がするとか、人の顔のようなシミがあるとかいうのは、蓋を開けてみれば、上の階の人の足音だったり、壁に塗料が染み出していたりと何でもないこと。それが怖いと感じるのは、そう感じる人の心理を描いているということですよね。それは、舞台の中でも再現したいと思っています。照明とか音響とか、そういう効果も含めて、不安が増長されていく状況が絵として見えるようにしていきたいですね。

道の先に何かまた別の光が見えるかも

── 今回は新国立劇場が展開する、社会での最小単位である、家族が織り成す様々な風景から、今日の社会の姿を照らし出し、未来を見つめるシリーズ「光景―ここから先へと―」の1作品として上演されますが、この作品は単純に家族の物語と括れない部分が強いように感じます。

桑原 タイトルの『ザ・ヒューマンズ』とはどういうことか、ですよね。それはファミリーともピープルとも違って、「人間」「霊長類ヒト科」という、少し客観的な言い方。家族の物語だけど、むしろ「人」についての話で、人間とはどういう生態なのか、つまり、どういう時に不安を抱くか、どんな夢を見るのか──。一緒にいても、愛し合っていたとしても、本当のところは絶対に分かり合えない、それぞれの存在の生態を見るようなところがあります。なぜ、いまこの作品を上演するのかということも、すごく考えます。身につまされることの多い話ですが、皆、失敗することに怯えているように思います。いまの世の中には「ワンミスでアウト」という空気がありますね。Z世代の人の中には、デートで映画を観に行く時、雰囲気が悪くなって失敗したくないから、まずその映画がハッピーエンドかどうか知りたいと言う人が結構いるんだそうです。失敗に対する強い恐怖がある。それは失敗した人たちを許さない社会が悪いけれど、この物語の中の人たちは全員、人間として誠実に生きてきた人たちのはずなのに、何でその人たちがこんなに失敗を恐れなければいけないのか、私もあなたも、皆恐れているんだなと。一方で、こんなに怖がるのはある意味滑稽だなとか、別に失敗したってそれでも生きていかなきゃいけないんだよなとか、道の先に何かまた別の光が見えるかもなとか──同じように苦しんでいる人たちを見て、ある意味、楽になってほしいという気持ちもあります。

山崎 そういうことなんやって、いま、思いました。失敗が続けばどんどん落ちていってしまうものだけれど──ちょっと能登のことを思い出しました。あんな地震があって、その後また豪雨被害があって「なぜここばっかり!?」って思いましたが、やっぱり、生きていかなきゃいけない。あの、実は去年、山ちゃん(相方の山里亮太)と一緒に能登に行ったんです。漫才をしに。その時初めて現地の状況を見て、まだ全然復興していない中で漫才を見に集まってくれた人たちが、すごく、元気なんです。もちろん、心の底から元気というわけではなくて、起こった出来事を、何とか肯定できるような考えにして生きている。皆さんに、逆に元気をいただきました。そのエネルギー、辛いものを抱えながら生きる姿は、この作品の登場人物たちと重なる部分があるのかなと感じます。

── 俳優として、翻訳劇ならではの難しさを感じることはありますか。

山崎 笑いの感覚が違うというところが、一番引っかかります。今回も家族内で笑いが起こる場面がありますが、本当に自分がその面白さをわかっていないと、「なんで笑ってんだ!?」となってしまいますから。別に外国人になりきる必要はないけれど、面白がるところは変えていかないといけません。

桑原 誰かがつまらないことを言って、つまらなさすぎて皆が笑ってしまって、さらに「何でいま笑えているの?」ともう一個引いたところで笑えてくる。そういう笑いですね。そう! この作品は不気味で暗いばっかりではないですよ、とお伝えしたいです(笑)。

山崎 実は、ワイワイしている時間のほうが多いんです。

桑原 映画ももちろん素晴らしい作品でしたが、舞台も圧倒的に面白いと私は思います。リアルタイムで食事会の時間を体感してこそ積み上がってくるストレス、爆発する瞬間、恐怖に変わる瞬間、愛が感じられる瞬間がある。そこで自分を、自分たちの家族を見つけたり、不安の中から立ち直る人たち、立ち直れないままの人を見たりする。それが、ご覧になった方の支えになったら、と思います。

山崎 さらさらと流れていかないように、伝えたいです。今回の公演は、東京、そして愛知公演の後、私の地元、大阪の茨木で大千穐楽を迎えます。もう遠くに出かけるのはしんどいと言っている父も来てくれるかもしれない。いいものを見せられたら、という思いがあります。最近は耳も悪くて、出演したテレビを見ても「最近、何言ってるかわからん」とか言われているので、台詞をちゃんと聞き取れるかどうかちょっと心配ですけど(笑)。

取材・文:加藤智子 撮影:石阪大輔

プロフィール

山崎静代(やまさき・しずよ)

1979年、大阪府生まれ。2003年、「山ちゃん」こと山里亮太とお笑いコンビ「南海キャンディーズ」を結成。M-1グランプリ2004で準優勝を果たし注目を集める。06年、映画『フラガール』に出演し第30回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。20年から日本ボクシング連盟女子強化委員を務めるなど、活躍は多岐にわたる。俳優としておもな出演作に映画『幽霊はわがままな夢を見る』『親のお金は誰のもの 法定相続人』『エリカ38』『ヒーローマニア 生活』、ドラマ『リラの花咲くけものみち』、舞台『山笑う』『徒然アルツハイマー』『BIRTHDAY』『おかしな二人』など。

プロフィール

桑原裕子(くわばら・ゆうこ)

東京都出身。劇作家・演出家・俳優。劇団KAKUTA主宰。穂の国とよはし芸術劇場PLAT芸術監督。2009年KAKUTA『甘い丘』で第64回文化庁芸術祭・芸術祭新人賞(脚本・演出)受賞。16年KAKUTA『痕跡』第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。18年穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース『荒れ野』で第5回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞および読売文学賞戯曲シナリオ部門受賞。19年に劇団作品『ひとよ』が白石和彌監督で映画化。その他近年の主な舞台に『月曜日の教師たち(脚本・演出・出演)』 『応天の門(脚本)』『ナビレラ〜それでも蝶は舞う(演出)』『少女都市からの呼び声(出演)』など。新国立劇場では『ロビー・ヒーロー』を演出。

〈公演情報〉
シリーズ「光景─ここから先へと─」Vol.2

『ザ・ヒューマンズ─人間たち』

舞台『ザ・ヒューマンズ』キャスト:上段左から)山崎静代、青山美郷、細川 岳 下段左から)稲川実代子、増子倭文江、平田 満

(あらすじ)
感謝祭の日、エリック(平田 満)は妻ディアドラ(増子倭文江)、認知症の母モモ(稲川実代子)と共に、次女ブリジット(青山美郷)とそのボーイフレンド・リチャード(細川 岳)が住むマンハッタンのアパートに向かう。長女エイミー(山崎静代)も合流し、夕食を共にするが、アパートの奇妙な音や不安定な雰囲気が食事会を不安なものに変えていく。やがて、各自が抱える悩みを打ち明け始め、さらに部屋の照明が消え、不気味な出来事が次々と起こり……。

2025年6月12(木)~6月29日(日) 
会場:東京・新国立劇場 小劇場

作:スティーヴン・キャラム
翻訳:広田敦郎
演出:桑原裕子

出演:山崎静代 青山美郷 細川 岳 稲川実代子 増子倭文江 平田 満

チケット好評発売中!

公式サイト

https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-humans/

「ザ・ヒューマンズ」(c)2021 THE HUMANS RIGHTS LLC. All Rights Reserved. U-NEXTにて独占配信中