Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 第1回:舞台版と映画版を観て初めて完成する!? 映画ライターが読み解く『ザ・ヒューマンズ』

トニー賞受賞の傑作戯曲、日本初演! ある家族の一夜の会話劇
舞台『ザ・ヒューマンズ─人間たち』特集

シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.2

PR

6月に新国立劇場にて日本初演される劇作家・脚本家スティーヴン・キャラムによるヒット作『ザ・ヒューマンズ─人間たち』。トニー賞も受賞した本作は、ニューヨーク、マンハッタンの老朽化したアパートを舞台に、感謝祭を祝うために集まったある家族の一夜の物語。家族の会話からは、貧困、老い、病気、愛の喪失への不安、宗教をめぐる対立など現代社会に蔓延する問題が浮かびあがり、その会話は夜更けとともに不穏さを増していき……。日本版舞台の上演を前に、映画ライター・よしひろまさみちさんが、キャラム自身が監督を務めた映画版から、その魅力を紐解きます。

どこをとっても新しい、これまでにない密室心理劇

コロナ禍の2021年、トロント国際映画祭で初披露された後、欧米で公開された『ザ・ヒューマンズ』。当時は劇場公開が難しい状況だったため、劇場とShowtime(パラマウント系のペイTVネットワーク)で公開されたこの作品。感謝祭を祝うためにNYチャイナタウンのメゾネットに集まった一家の密室劇で、日本では2023年にU-NEXTが独占配信した。劇場公開は4週間限定の特集上映の中の1本としてのみだったため、日本での知名度は劇場公開作よりも低いことを否めないが、映画通の人たちの間では隠れた傑作として話題になった作品でもある。

映画ファンからすると、まず目を引くのがキャスト。リチャード・ジェンキンス、エイミー・シューマー、スティーヴン・ユァンといった硬軟自在の芸達者が揃ったアンサンブルは、なかなかお目にかかれるものではない。そして、監督。スティーブン・キャラムは、劇作家・演出家としては大成功を収めていたものの、長編映画監督はこの作品が初挑戦。アネット・ベニングとシアーシャ・ローナンW主演によるチェーホフの名戯曲を映画化した2018年の『かもめ』で脚本を務めているが、自身の代表作でもある『ザ・ヒューマンズ』を自身の手で監督・脚本しているだけに、映像化におけるこだわりがどこにあるのか注目されていた。さらに目を引いたのはスタジオだ。アートハウス系スタジオとして当時最も勢いがあったA24が制作時からキャラムと契約を交わし、原作戯曲の舞台であり、A24のお膝元でもあるNYで撮影。「あのA24が目をつけた作品」という冠は大きく、初披露となったトロント国際映画祭でも注目を浴びたことはいうまでもない。余談だが、この作品が出品された年のトロント国際映画祭のオープニング作品には、『ザ・ヒューマンズ』と同じく戯曲からの映画化作品が選ばれている。それは大ヒットしたブロードウェイミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』。この作品もオリジナルの演出・脚本家が脚本を、主演&プロデューサーのベン・プラットが映画版も続投していたことが話題になった。また、『ザ・ヒューマンズ』が出品されたのはスペシャル・プレゼンテーション部門。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』、ジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』など、約半年後にオスカーを手にした監督の作品が肩を並べていた。

話はそれてしまったが、映画版『ザ・ヒューマンズ』がどれほど注目を集め、界隈では話題になっていたことがおわかりいただけただろうか。それもこれもコロナ禍ゆえに、その盛り上がりは日本にはそれほど伝わることなく、今もひっそりと配信の隠れた名作として鈍く光っている。

この作品の素晴らしさは、似て非なる密室心理劇の傑作がいくつもあるために「どうせこういう流れでしょ?」といった期待と予想を軽く裏切り、見事なオリジナリティの後半部が待っていることだ。密室心理劇の傑作といえば1957年の『十二人の怒れる男』(それにオマージュを捧げたとされる1991年の日本映画『12人の優しい日本人』)や、アンソニー・シェーファーの舞台を映画化した『探偵<スルース>』(1972)などがある。少ない舞台装置と特殊効果ゆえに、技量の高い役者が揃ったらリメイクが可能な、いわば使い勝手の良いシチュエーション芝居。だが、いずれもリメイクがオリジナルを超えることはなく、それどころか、ちょっとでも似たシチュエーションの作品が出てくると「パクり」と呼ばれてしまうほど。作り手としてはかなりリスクの高いジャンルでもあるのだ。

ところがどうだろう。『ザ・ヒューマンズ』は、どこをとっても新しい。物語序盤こそ、感謝祭で顔を揃えた一家のありふれた喜びが描かれるものの、すぐに不穏な空気が漂い始める。最年長で認知症を患うモモが一番問題を抱えているようにも見えるものの、そうではないことが次第に明らかになり、家族の衝突を描くのかと思いきや……。この緊迫感は、不快な物音を軸にした緻密なサウンドデザインと、一見奇妙に見えるが計算され尽くしたカメラにある。特に撮影は独特なタッチ。シャーロット・ランプリングをオスカー候補にした『さざなみ』(15)や、本年度オスカー候補になったブラディ・コーベット監督による2018年の心理ドラマ『ポップスター』を手掛けたロル・クローリーが撮影監督をしていると聞けば納得の人も多いのでは。キャラム監督は、舞台では実現できなかったディテールにこだわり、舞台版よりもギミックの多い映像にしたかったのだろう。いや、舞台版と映画版を観て初めて、この作品が完成するという仕掛けをしたに違いない。

このほど新国立劇場で日本初演される『ザ・ヒューマンズ─人間たち』。すでに映画版をご覧になった方は、あの緊張感を生で体験できるチャンスだ。一方、舞台も映画も初見の方は、観劇後でもいい。とにかく、映画版もあわせてご覧いただきたい。そうすることで、スティーヴン・キャラムが描き出そうとする現代社会を生きる人間の暗部を、より深く知ることができるのだから。

プロフィール

よしひろ まさみち

東京都新宿区生まれ。音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『with』(講談社)等で映画レビューやインタビュー、コラムを連載。テレビ、ラジオ、Web、イベントなどでも映画紹介を行う。日本アカデミー賞会員、米ゴールデングローブ賞Vorter、日本映画ペンクラブ会員、社団法人外国映画輸入配給協会 優秀外国映画輸入配給賞審査員、東京国際映画祭コンペティション部門オフィシャルライター。

〈公演情報〉
シリーズ「光景─ここから先へと─」Vol.2

『ザ・ヒューマンズ─人間たち』

舞台『ザ・ヒューマンズ』キャスト:上段左から)山崎静代、青山美郷、細川 岳 下段左から)稲川実代子、増子倭文江、平田 満

(あらすじ)
感謝祭の日、エリック(平田 満)は妻ディアドラ(増子倭文江)、認知症の母モモ(稲川実代子)と共に、次女ブリジット(青山美郷)とそのボーイフレンド・リチャード(細川 岳)が住むマンハッタンのアパートに向かう。長女エイミー(山崎静代)も合流し、夕食を共にするが、アパートの奇妙な音や不安定な雰囲気が食事会を不安なものに変えていく。やがて、各自が抱える悩みを打ち明け始め、さらに部屋の照明が消え、不気味な出来事が次々と起こり……。

2025年6月12(木)~6月29日(日) 
会場:東京・新国立劇場 小劇場

作:スティーヴン・キャラム
翻訳:広田敦郎
演出:桑原裕子

出演:山崎静代 青山美郷 細川 岳 稲川実代子 増子倭文江 平田 満

【チケット】
アトレ会員先行販売期間:2025年3月29日(土) 10:00~4月7日(月)
新国メンバーズ先行販売期間:2025年3月30日(日) 10:00~4月7日(月)

一般発売:2025年4月12日(土)10:00~

※アトレ会員、新国メンバーズについては下記公式サイトにてご確認ください。

公式サイト

https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-humans/

「ザ・ヒューマンズ」(c)2021 THE HUMANS RIGHTS LLC. All Rights Reserved. U-NEXTにて独占配信中