二人で30役以上!「観客にいろんな景色を見せたい」――佐藤誓&山西惇が語る、らんぶる 第一回公演『晩節荒らし』
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インタビュー

左から山西惇、佐藤誓 (撮影/石阪大輔)
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すべて見る佐藤誓と山西惇、同じ歳の二人が還暦を機に「演劇で真剣に遊べる場所」を作ろうと結成したユニット・らんぶる。結成から3年が経った今年、満を持して7月2日(水)〜9日(水) 東京・新宿シアタートップス、7月19日(土)・20日(日) 大阪・ABCホールにて『晩節荒らし』を上演する。二人の出会いから今作への思いまで、じっくり聞いた。
嘘の中に本当がある、老いと死の物語
──二人が初めて出会ったのが、2018年のミュージカル『生きる』とのことですが、お二人とも長年本当にたくさんの作品に出てこられたのに、それまで共演されたことがなかったのは意外です。
山西 このタイプが二人揃って出ている芝居はなかなかないですよね。
佐藤 そんなにキャラクターが被っているとは思わないけど、ビジュアル的にはどうやら被っているようなので(笑)。でも、僕はずっと山西さんと共演したいと思っていたんです。ただ、念願叶った『生きる』はミュージカルということもあって、芝居でやりとりするシーンが意外と少なくて。ストレートプレイでもう一度と思って、声をかけました。
山西 長い時間一緒のシーンはあまりなかったんですが、「こういうふうにしてみない?」というちょっとした絡みの部分で息が合う。だからお声がけいただいたときには「ぜひ」と。
佐藤 新宿の喫茶店「らんぶる」で会うようになって、ユニット名も「らんぶる」にしました。
山西 ふたりとも劇団員だったことはあるけど劇団を一から立ち上げたことはないから、どういう順番で何をやっていけばいいのかから話し合って、試行錯誤しながらやっとここまでたどり着きました。

──結成から3年経って、いよいよ、福原充則さん作・演出の第1回公演が7月に。
佐藤 今回、作・演出をしてくれる福原さんには、山西くんがすごいタイミングでお願いしてくれたんですよ。
山西 ある舞台を観に行ったとき、たまたま福原さんと隣の席になって。「こんなことをやろうと思っているんだけど、この時期どう?」と話したら、「ちょっとやりたいかも」と言ってくれて。そこから今回の公演が始まりました。
──お二人から福原さんには、脚本に対してどんなリクエストをしましたか?
佐藤 還暦とコロナ禍が重なって、僕は老いと死について考えることが多くなったんですよ。リクエストではないですが、そのことは伝えました。あと、このユニットはミュージカルがきっかけで結成されたので、歌は入れてほしいと(笑)。
山西 僕は一方的にずっと福原さんのことが好きで。劇団ダンダンブエノに書いてもらったこともありますし(『ハイ!ミラクルズ』)、彼が書いた明石家さんまさんの主演舞台『七転抜刀!戸塚宿』に出演したこともありますし。福原さんの書く作品には唯一無二の、彼の色があると思うんです。だから、「僕と誓さんしか出ないから、好きに書いてくれ」と言いました。たぶん楽をさせてはくれないだろうと最初からわかっていたけど……。
佐藤 ここまでやってくれとは言ってない(笑)。
山西 すごいのを書いてきたな、と思いましたよ。

──『晩節荒らし』は「世の中の役に立ちたくなった男と、誰かの役に立っていたかを知りたくなった男が、それぞれの土地と時空を激しく右往左往した結果、垂直固定してみえるクランプ系物語」と説明されていますが、何しろ二人芝居ながら登場人物が30人以上ですもんね。
佐藤 僕はひとつの芝居で複数の役をやるにしても、一度袖にハケて着替えて別の役として登場するというものしかやったことがない。でも、今回はおそらくその場でいきなり役が変わることもあると思うので、本当にチャレンジだなと思いますね。うまくやろうじゃなく、一生懸命やっている姿を見せたいです。
山西 福原さんはあの世代には珍しく唐十郎さんを敬愛していたりして、まさにロマンがあるというか、嘘を本当に思わせていく、嘘のほうにこそ本当があると思いたい、そういうことを書きたい人だと思うんです。それが今回の脚本にはとても純粋に表現されていて、すごくいいなと感じました。彼も「書きたいものを書きました」と言ってくれて。僕らにとってもやりがいがありますし、福原さんの代表作のひとつと言われる作品になればうれしいなと思います。
初日の自分がどうなっているか、想像もつかない芝居
──それぞれ十数人をどう演じ分けるか、役の移り変わりがどう表現されるのかが楽しみです。
山西 栗山(民也)さんが以前稽古場で「稽古って、その役の“声”を探していく時間なんだよ」とおっしゃっていたことがあるんですよ。僕、まったくそのとおりだなと思っていて。
佐藤 なるほど、そのとおりだよね。それに声に出した方が覚えやすいし。
山西 今回は十数人分の声を探さなきゃいけない(笑)。今はそれを一人ひとり探しているところです。今回、誓さんは女性の役が多いんですよ。
佐藤 この女性たちが、すごく魅力的なんだよね。
山西 そう。僕だったらとても無理だ、と思って。だからこそ誓さんに任せられてよかったなと。
佐藤 まだ稽古もやっていないのに(笑)。
山西 いや、本当に誓さんでよかった。『キネマと恋人』で誓さんが娼婦の役をやったでしょう。あのとき、女性を演じようとしていないのに女性になっているのがすごく新鮮で。
佐藤 それを言ったら山西さんが『世界は笑う』でいちばん最初に女性役で出てきたのはよかったよ!
山西 あの役は完全に『キネマと恋人』の誓さんを参考にしたんだよ。

──お互いにお互いの芝居をそんなふうにご覧になっていたんですね。
佐藤 あと、演じ分けということでいうと、「これは落語だな」とも思いましたね。落語家さんって噺の中でいろんな役柄を演じますけど、作り込みすぎていないじゃないですか。そんな感じに演じられたらいいのかもね。
山西 ああ、わかる。小三治師匠のドキュメンタリーを観たとき、お弟子さんに「あんなにいろんな登場人物をどう演じ分けているんですか?」と聞かれた小三治師匠が「演じるんじゃない、なりゃいいんだよ」と答えていて。たどり着くところはそこなんだろうなと思いました。
佐藤 それができれば最高だね。この公演に向けて準備を進めている間、僕はずっと楽しくてワクワクしていたんです。でもいざ3年越しで公演が発表され、「面白そう! 必ず観に行きます」という声をたくさんいただいたら、ちょっと怖くなってきちゃって。まあ、きっと稽古が始まったらまた楽しくなると思うんですけど。
山西 僕は今のところ、楽しみのほうが大きいかな。ただ、初日の自分の状態は想像がつかないですね。高揚しているのか、ヘトヘトになっているのか。ここまで想像がつかないことって最近めったにないので、それもひとつ楽しみではあります。
佐藤 この歳になって想像つかないことをやるってすごいよね。
──最後にお二人から、観客の方に一言ずつお願いします。
佐藤 先日久しぶりに歌舞伎を観て、歌舞伎ってお客さんの想像力にすごく委ねているものなんだなと思ったんです。この作品もお客さんが想像力をフルに使って観てくださったら、きっとものすごく楽しんでいただけると思います。ぜひ作品に積極的に参加するつもりで観てもらえたらうれしいです。
山西 自分が観客として芝居を観るとき、心で2時間旅行をしたように思わせてくれるのが芝居の魅力だと思うんです。『晩節荒らし』はきっと、観客の皆さんをかなりの場所まで連れていけるお芝居になるんじゃないかと。いろんな景色を見てもらえたらと思うので、ぜひそれを楽しみにお越しいただければと思います。

取材・文/釣木文恵
撮影/石阪大輔
<公演情報>
らんぶる 第一回公演『晩節荒らし』
【東京公演】
日程:2025年7月2日(水)〜9日(水)
会場:新宿シアタートップス
★7月4日(金) 14:00終演後アフタートークあり
【大阪公演】
日程:2025年7月9日(土)〜10日(日)
会場:ABCホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/lambre/
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