ミュージカル『マリー・キュリー』待望の再演決定! 昆夏美×星風まどか インタビュー
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インタビュー
左から昆夏美、星風まどか (撮影/源 賀津己)
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すべて見るFact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜた“ファクション”ミュージカルとして、ノーベル賞を二度受賞した科学者マリー・キュリーと、その生涯に関わった人々の愛と苦悩の日々を描いた韓国創作ミュージカルの傑作『マリー・キュリー』。大絶賛を博した2023年の日本版初演から2年、今秋、新キャストによる待望の再演が開幕する。ダブルキャストでタイトルロールを担うのは、幾つものグランドミュージカルの名作を経験して来た実力を誇る昆夏美と、昨年の宝塚歌劇団退団後、立て続けにミュージカルの話題作に出演して躍進を見せる星風まどか。日本では“キュリー夫人”の名で知られてきた科学者マリー・キュリーだが、二人が挑むのは「ありえたかもしれない、もう一人のマリー・キュリーの物語」だ。初演が熱く支持された舞台、その再演にかける思いを語り合った。
――韓国で大ヒットした創作ミュージカルです。2023年の日本版初演をご覧になったそうで、まずは感想をお伺いしたいと思います。
昆 19世紀末という時代背景の中、女性が科学研究をするなんて! といった当時の偏見にマリーが立ち向かっていく姿に、私を含めて多くのお客様が心を揺さぶられたと思います。でも、単に女性が夢を追う物語というだけではなく、そこには犠牲や別れもあって、けっして幸せなだけではない要素が描かれているから、よりマリーの生きざま、その凜とした美しさに人は惹かれるのだろうなと思いました。
星風 私は映像で拝見したのですが、昆さんがおっしゃるように、ただマリーさんの人生を美化しているのではない作品だなと。壁にぶち当たったり、葛藤したり、そういう人間らしさに惹きつけられました。厳しさも描かれた人間ドラマを、素敵な音楽に乗せて表現していらっしゃる演者の皆様を見て、心を打たれました。
――再演ではお二人がマリー・キュリー役に挑みますが、実在した人物を演じることについてどのように考えていらっしゃいますか?
昆 まどかちゃんは歴史上の人物を演じたこと、ありますよね?
星風 はい、結構多いかもしれないです。マリー・キュリーについては、私は“キュリー夫人”の名前で小学校の教科書や絵本などで知りました。世界的に有名な、偉業を成し遂げた科学者なので、伝記もたくさん残されていますよね。でもこのミュージカルは、“存在したかもしれない、もう一人のマリー・キュリー”の物語であるところに新鮮さを感じています。この物語の世界観で生きることは、書物で知るだけではない、また新しい扉が開くような感覚がありますね。
昆 私は舞台で歴史上の人物を演じたことがないので、演じた経験のあるまどかちゃんがどういうアプローチで役に臨むのか気になったんですけど、おっしゃる通りですね。マリーの情報を得るのに伝記などを読むことは必要な過程だと思いますけど、この作品の空気感から生まれるマリーがやっぱり一番大事だなと思います。史実として残された情報と違うところがあるとしても、私は舞台の上で、みんなで作ったマリーという人物を強く演じたいです。
――この物語のマリーに共感出来る点や、作品の中で一番心に響くポイントを教えていただきたいと思います。
昆 「私が誰かではなく、私が何をしたかを見てください」というマリーの台詞がありますが、まさにそれだなと。私たちも人前に出て、良くも悪くも周りから評価されるお仕事をしている中で、いわゆる「この人はこういう人だろうな」といったパブリックイメージではなく、表現するものを通して私という存在を見てほしいと所々で感じることがあるんです。みんなが語っている私ではなく、あなた自身が見て思う私が、私ですよと。マリーも、「女性だから」といった偏見など取っ払って、研究を通して私という存在を見てほしいと願い、それを目指した人。この「私が誰かではなく〜」のフレーズはとても響きました。
星風 私は共感を越えて、マリーにリスペクトを強く感じています。とても壮絶な人生だと思うんですけど、自分がこうと決めたことに突き進む力や、家族や友人に対する愛情の深さなど、嘘のない真っ直ぐな生き方が本当に素敵だなと。台本を読んで、自分もそうなりたいなと思いました。なかなか難しいことですけど。強さの種類はいろいろありますが、彼女の場合は愛の強さだと思うんです。いろんな壁を乗り越えた先で、その温かさにたどり着いたのかなとも考えます。
作る過程の苦労を共有出来る、心強いWキャスト
――演出の鈴木裕美さんとの作品づくりはお二人ともに初めてと伺いましたが、期待されていることをお話いただけますか。
昆 鈴木さんとは、本作のスチール撮影の時にお会いしましたよね。
星風 はい。マリーの夫ピエール役のダブルキャストのお二人、松下優也さんと葛山信吾さんは鈴木さんと以前お仕事されていて、「鈴木さんは作品への愛とパワーが凄く熱い」とおっしゃっていました。私も実際にお会いした時にお役のヒントなどいろいろ教えていただきまして、お話から熱々な温度感が伝わってきました(笑)。ピエール役のお二人が「また鈴木さんとご一緒できることが嬉しい」と口を揃えておっしゃっていたので、演者さんたちにそんなにも愛される方の演出を受けられるのは、緊張もありますがとても楽しみです。頑張りたいですね。
昆 私、実は10年以上前に鈴木さんのワークショップに参加させていただいたことがありまして。でもその後、作品でご一緒する機会がなかったんです。鈴木さんの演出を経験された方々からは「厳しく、しっかりと真意を貫く演出をされる」といったお話を聞いていたので、これは気を引き締めて臨まなければ! と思っていました。でもピエール役のお二人から話を聞いた時に、そこには愛があるんだなと感じられて。鈴木さんが私たちに教えてくださるエネルギーは、もしかしたらマリーが研究に注ぐエネルギーと似ているくらいに熱いんじゃないかな……というのはスチール撮影でお会いした時もあらためて思ったので、ビシバシ鍛えていただきたいなと心から思っています。
――作曲家チェ・ジョンユンさんによる楽曲には、どのような印象を持たれましたか?
昆 例えば『レ・ミゼラブル』の「オン・マイ・オウン」のような、その一曲で成り立つ大ナンバーというよりも、お芝居の延長で生まれた曲というイメージです。マリーの揺れ動く感情の一つひとつが音階になっているので、音が取りにくくて難しそうだなと思うけれど、感情をしっかり理解してお芝居を通していけば、歌いやすくなるのかなと。韓国のミュージカルはキーが高い印象があって、また今回の楽曲はリプライズ(フレーズの繰り返し)が効果的に散りばめられているなと思いました。
星風 おっしゃるように、お芝居の延長でスッとその人物の心情に寄り添うような楽曲が多く、そういうナンバーで紡がれてこの作品ができているんだなと感じます。聴いただけで想像が広がって、涙が出てしまうような曲もあって。難しいけれど、逆に考えると、ちゃんと譜面と向き合って歌うことができたら、自然とメロディに乗ってその役として生きられるのかなと。芝居心と、正確に譜面に向き合うこと、そのベストなバランスを探りながら、そして昆さんの歌を聴きながらお稽古が出来たら嬉しいなと思っています(笑)。
昆 本当に! 最初は一緒に稽古したいですよね。
星風 したいです〜! ひとりでは不安で……。
昆 マリーの人生には次々といろんなことが降りかかるので、感情も平坦ではいられない。あまり感情に引きずられ過ぎると歌を届けられなくなるし、ミュージカルの一番難しい要素が詰まっている作品だな、恐ろしいな! と思います(笑)。
星風 昆さんでも難しいと思われる楽曲なんだなって……ちょっと安心しました(一同笑)。どんな役の人生もパワフルに歌われる印象が強かったので、実際にお会いしたら本当に華奢な方でびっくりしたんです。今回、チーム制になるので、どこまで一緒にお稽古できるか分かりませんけど、お歌を聴くのが本当に楽しみで。松下さんがおっしゃっていましたけど、「稽古場で演者の方の歌を聴ける、こんなにありがたいことはない」って。本当に、ましてや日本のミュージカル界を引っ張っていらっしゃる昆さんのお歌を! それが単純に楽しみでもあります。
昆 いやいやそんな! こんなに褒められたのは初めて(笑)。
――お話を伺って、お二人で息を合わせてマリー・キュリーの人物像を掴んでいこうとされているように思いました。ダブルキャストであることのご自身への影響については、どのように思われますか。
昆 私は基本的に自分に自信がないので、ダブルキャストの相手の方を見ると、凄い! 上手〜! と感じ入ってしまって。それがいい影響になる場合と、自分は間違っているのかも……みたいに気持ちがブレてしまう時もあるので、そういう意味ではダブルキャストの方については意識を切り離したほうがやりやすいこともあります。でも精神面では、作る過程の苦労を共有できるほうが心強いので、手を取り合って頑張っていきたいというふうに思います。
星風 私は、宝塚時代は長期間の公演を一人で……それは私だけじゃなく、全員がシングルキャストでやるのが当たり前だったんです。ですから、初めてダブルキャストを経験した時、公演が始まったら体力的にはちょっと余裕が出て来て……。
昆 そう、自分の時間ができますよね。
星風 だから疲れが出ることはないかなと思っていたら、逆に体調を壊してしまって。やっぱり張り詰めたものを維持させるのは凄く大変なんだなと。今までは必然的にそういう感覚で勝手にやっていたんですけど、ダブル、トリプルキャストとなった時、公演期間中に緊張感を持続させるには、本当に強い精神力がないと難しいと思い知りました。
昆 シングルのほうが大変だと思うけれど……。私、初演でマリー・キュリーを演じた愛希れいかさんと別の作品でご一緒して、79公演をシングルキャストでやったんです。その時の愛希さんを見て、本当に宝塚出身の方々は凄いな! と思いました。体力面も、気力も凄くて、素晴らしかった!
――お二人で助け合いながら、それぞれのマリー・キュリーを息づかせる挑戦が始まりますね。
星風 お稽古が始まったら、たぶん私の脳ミソに入り切らないほどの情報がワ〜ッとやって来ると思うので、とりあえずいっぱい入れられるように空っぽにして(笑)、柔軟な心でいようと思います。
昆 私も同じで、脳ミソの容量を空けなければ(笑)。あとは韓国ミュージカルならではのハイトーンに備えて、あらためてボイストレーニングに通って準備しようと思います。
星風 もうお話をいただいた時点から大きな挑戦だと思っているので、千穐楽を迎えるまでつねに挑戦し続ける気持ちを忘れずに行きたいです。素敵なキャストの皆様に恵まれた、このチャンスを逃すわけにはいかないので(笑)、たくさん吸収して、日々その化学変化を楽しみながら努めて参ります。
昆 初演は回を追うごとに評判が広がって、とても好評を得た作品なので、再演でこれだけメインキャストが変わることはお客様にとって驚きだったと思います。さらに愛していただける作品になるチャンスをもらえた、そう受け止めて一生懸命頑張りますので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

取材・文/上野紀子
撮影/源 賀津己
<公演情報>
ミュージカル『マリー・キュリー』
【東京公演】
日程:2025年10月25日(土)~11月9日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
【大阪公演】
日程:2025年11月28日(金)~11月30日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
[脚本]チョン・セウン
[作曲]チェ・ジョンユン
[演出]鈴木裕美
[翻訳・訳詞]高橋亜子
[出演]昆夏美 星風まどか(Wキャスト)
松下優也 葛山信吾(Wキャスト)
鈴木瑛美子 石田ニコル(Wキャスト)
水田航生 雷太(Wキャスト)
ほか
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/mariecurie/
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