尾上菊五郎・菊之助 親子襲名披露興行、二か月目が開幕 歌舞伎座「六月大歌舞伎」初日レポート
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夜の部『連獅子』左より、仔獅子の精=尾上菊之助、親獅子の精=八代目尾上菊五郎 ©松竹
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すべて見る八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助、親子同時襲名披露公演の2か月目「六月大歌舞伎」が、6月2日に幕を開けた。連日大盛況で千穐楽を迎えた「團菊祭五月大歌舞伎」に続き、祝祭ムードに包まれた歌舞伎座から届いた初日公演のオフィシャルレポートを紹介する。
新・菊之助が飛び六方で魅せる『車引』に、八代目菊五郎が父の情を熱演する『寺子屋』
尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露興行の二か月目の幕開きを飾るのは、『元禄花見踊(げんろくはなみおどり)』。暗転した場内が柝の音と同時に“ちょんぱ”で明るくなり、満開の桜のなかに出雲の阿国尾上右近たち一行が現れると、客席からため息がもれ、拍手のなかで歌舞伎座が華やぐ。

名古屋山三中村隼人も加わり、賑やかな鳴物が響くなか、出雲の阿国と名古屋山三を中心に艶やかな舞が次々と披露される。


明治11(1878)年に東京・新富座の開場式で初演されたおめでたい舞踊を当月は花形が顔を揃え、客席は襲名披露興行二か月目の開幕を寿ぐ晴れやかな雰囲気に包まれた。
続いては、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露狂言の『菅原伝授手習鑑車引(すがわらでんじゅてならいかがみくるまびき)』。梅王丸、松王丸、桜丸の三兄弟はそれぞれが仕える主人たちの対立により、敵味方に分かれている。

吉田神社の近くで、梅王丸(尾上菊之助)と桜丸(上村吉太朗)の兄弟が行き会うと、互いの身の上を嘆く。花道から登場した梅王丸が笠を取り、隈を取った新菊之助の顔が現れると、場内からは割れんばかりの拍手が巻き起こり、豪快な飛び六方での花道の引っ込みで場内が沸く。荒事の力感溢れる梅王丸と和事の柔らかさを感じさせる桜丸が吉田神社の社殿に向かうと、時平の舎人の杉王丸(中村種太郎)が呼びとめる。そこに松王丸(中村鷹之資)が現れ、梅王丸と桜丸のふたりを押しとどめる。新菊之助の襲名披露狂言として、鷹之資、吉太朗が初役で大役を勤め、9歳の種太郎という清新な配役に場内は盛り上がりを見せ、三兄弟が争うなかで、牛車の中から藤原時平(中村又五郎)が現れ恐るべき力を示すと……。

「年齢的に早かったと思われないように役になりきって勤めたい」と取材で語っていた新菊之助。三大名作のひとつの名場面を、11歳の新菊之助が身体いっぱいで勤める姿に、「音羽屋!」の大きな大向うとともに場内からは大きな拍手が起こった。
そして、尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露狂言の『菅原伝授手習鑑寺子屋(すがわらでんじゅてならいかがみてらこや)』。

菅丞相に恩義ある武部源蔵(片岡愛之助)と戸浪(中村雀右衛門)の夫婦は、寺子屋で菅丞相の実子・菅秀才をわが子と偽り匿っている。ここへ、千代(中村時蔵)がわが子・小太郎を寺入りさせるため連れてくる。

時平方より菅秀才の首を討つよう命じられ寺子屋へ戻ってきた源蔵は、苦悶の末に寺入りしてきた小太郎を身替りとして討つことを決意。小太郎の悲劇的な運命と、源蔵夫婦の苦悩に客席の緊張感が高まる。その後、菅秀才の首の検分役として松王丸(八代目尾上菊五郎)が春藤玄蕃(中村萬太郎)を連れ立って現れると、源蔵から差し出された小太郎の首を松王丸は複雑な表情を浮かべながら、「菅秀才の首に相違ない」と認め、立ち去る。実は、小太郎は松王丸と千代の子で、菅秀才の身代わりとして源蔵のもとに送られていたのだった。父としての親心と検分役として忠義との狭間に苦悩する松王丸の複雑な心情の変化を勤め上げた八代目菊五郎に大きな拍手が送られた。
そして昼の部は、『お祭り(おまつり)』で打ち出し。

鳶頭(片岡仁左衛門)が江戸っ子の心意気を明るく踊り描き、婀娜(あだ)な芸者片岡孝太郎とのやり取りが粋に繰り広げられる。そこへ鳶の者(坂東彦三郎・坂東亀蔵・中村隼人・中村歌之助)と手古舞(中村壱太郎・中村種之助・中村米吉・中村児太郎)が加わると華やぎを増し、最後は仁左衛門の鳶頭が大勢の若い者との派手な所作立てを見せ、場内は大盛り上がり。また、清元の浄瑠璃方に尾上右近が清元栄寿太夫として出演して美声を聞かせ、今月は俳優と清元の“二刀流”を実現。右近は兄の三味線方・清元斎寿と兄弟で並んでの出演となる。
力強く、繊細に。親子の呼吸で魅せた『連獅子』
夜の部は、歌舞伎十八番のひとつ『暫(しばらく)』で幕開き。鶴ケ岡八幡宮の社頭。清原武衡(中村芝翫)が境内を睥睨するなか、これに従うなまず坊主の鹿島入道震斎(中村鴈治郎)、那須九郎妹照葉(中村雀右衛門)ら、歌舞伎の様式美溢れる役柄が舞台上にずらりと並ぶ。武衡は、自らの意に従わぬ加茂次郎(中村梅玉)、桂の前(中村魁春)たちの首を刎ねるよう傲然と命じ、呼び寄せられた成田五郎(市川右團次)らによって首が刎ねられようとするその時、「暫く」と響く声と共に、勇ましい姿の鎌倉権五郎(市川團十郎)が颯爽と花道より登場。


客席からは「成田屋!」の大向うとともに待ってましたと言わんばかりに大きな拍手が響く。花道七三では、本作の大きな見どころのひとつであるツラネを雄弁に披露。「遠からんものは音羽屋の、この度の襲名の噂。よく聞く(菊)もの八代目。目にも三升(見ます)とよく見れば、ますます達者な七代目。二代が並ぶということは、試しのねえことながら、重ね扇の末広がり……」とこの度の音羽屋の襲名披露を寿ぎ、場内を沸かせる。團十郎演じる権五郎が悪人たちを痛快に成敗し、荒事の魅力が横溢する祝祭劇で、夜の部の、幕を華やかに開けた。
続いては、『口上(こうじょう)』。初代尾上菊五郎が生まれた京都にちなみ、今月の舞台下手には清水寺、上手には菊五郎家の屋号・音羽屋の由来とされる清水寺の音羽の滝が描かれている。また舞台奥の襖には「良き事聞く」と読ませる音羽屋の役者文様である謎染めの「斧」「琴の崩し字」「光琳菊」が並ぶ。七代目尾上菊五郎の発声で始まり、尾上松緑、片岡仁左衛門、中村梅玉、市川團十郎の順に、襲名する親子へのお祝いの口上が次々と述べられる。

尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎は、「歌舞伎座におきまして、親子揃っての襲名披露興行をかくも盛大にとりおこなうことができましたのも、ご列座皆様方のご厚情、幕内、先輩、後輩の皆様方、そしていずれも様方のご余光の賜物と、篤く篤く御礼申し上げ奉りまする」と挨拶。「歴代の菊五郎が大切にしてまいりました、伝統と革新の精神に則りまして、精進してまいる覚悟」と決意を固める。
尾上丑之助改め六代目尾上菊之助は「大きな名跡を襲名させていただく感謝とともに、立派な歌舞伎俳優になれますよう、なお一層精進いたしますれば、いずれも様、この後もご後援のほどを偏にお願い申し上げ奉りまする」と力強く挨拶した。
七代目菊五郎は、松嶋屋(仁左衛門)からふたりの菊五郎が誕生したことで、どのように呼べばよいか聞かれたと明かし、「七っちゃん八ちゃんでいいんじゃない」と話すと、客席からは笑い声が響く場面も。
「八代目!」「音羽屋!」の大向うが響き、万雷の拍手で幕を閉じた。
三幕目は尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露狂言『連獅子(れんじし)』。六世尾上菊五郎は『鏡獅子』をはじめとした「獅子物」を得意とし、能の「石橋」に取材した長唄舞踊の名作を令和5(2023)年9月歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」で初めて親子で勤め、好評を博した。舞台は霊地清涼山の麓の石橋。狂言師右近(八代目尾上菊五郎)と左近(尾上菊之助)が、親獅子が仔獅子を谷底へ蹴落とし、這い上がってきた子を育てる故事を踊って見せる。

八代目菊五郎と菊之助親子の師弟関係に、親獅子と仔獅子の故事が重なり、親獅子が仔獅子を思う親心や厳しさを繊細に表現し、親子の息がぴったりと揃った踊りに、客席は一気に引き込まれる。

浄土の僧遍念(片岡愛之助)の法華と僧蓮念(中村獅童)による息の合ったコミカルな間狂言を経て、やがて親獅子の精(八代目尾上菊五郎)と仔獅子の精(尾上菊之助)が花道から堂々と登場。場内のボルテージが上がる。獅子の精の獰猛な狂い、勇壮で華麗な毛振りで客席の盛り上がりは最高潮に。親獅子と、ひたむきに食らいつくかのような仔獅子のふたりの踊りに、客席からは大きな拍手が送られた。
夜の部は、『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』で明るく打ち出し。三遊亭圓朝の人情噺をもとに、大正11(1922)年の六世菊五郎の初演が評判を呼び、以降、落語をもとにした世話狂言の人気作に。大酒呑みで怠け者、魚屋の政五郎(尾上松緑)は、ある朝、大金の入った革財布を浜で拾う。祝いの代わりにと政五郎が大工勘太郎(坂東亀蔵)、左官梅吉(坂東彦三郎)、錺屋金太(中村松江)、桶屋吉五郎(中村吉之丞)という仲間たちを呼んだどんちゃん騒ぎに舞台も客席も大盛り上がり。

女房おたつ(中村萬壽)は呆れて、革財布を手にして一計を案じる。酔いつぶれた政五郎が目を覚ますと、おたつから夢を見ていたのだと言われ……。

江戸っ子気質の政五郎と、夫を案じるしっかり者のおたつの夫婦の情愛に心温まる名作に、観客は笑って泣いて歌舞伎座をあとにした。
「六月大歌舞伎」は2025年6月27日(金) まで、東京・歌舞伎座で上演される。
<公演情報>
松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
「六月大歌舞伎」
【昼の部】11:00〜
元禄花見踊
二、菅原伝授手習鑑 車引 寺子屋
三、お祭り
【夜の部】16:15〜
一、歌舞伎十八番の内 暫
二、八代目尾上菊五郎 六代目尾上菊之助 襲名披露 口上
三、連獅子
四、芝浜革財布
2025年6月2日(月)〜6月27日(金)
会場:東京・歌舞伎座
※【休演】10日(火)、19日(木)
※【貸切】昼の部:6日(金)、夜の部:4日(水)、8日(日)、20日(金) ※幕見席は営業
※昼の部:4日(水)、13日(金)、18日(水)、20日(金)、夜の部:7日(土)は学校団体来観。
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559892
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/891
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