濱田めぐみ×ソニン×知念里奈 主人公に関わる3人の女性たちが語る、ミュージカル『ある男』の魅力とは?
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インタビュー

左から)ソニン、濱田めぐみ、知念里奈 (撮影:You Ishii)
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すべて見る平野啓一郎の傑作長編小説『ある男』を原作とした、新作オリジナルミュージカルが立ちあがろうとしている。戸籍を偽り、過去を捨てて生きた“ある男”=X(エックス)。彼の真実を追いかける弁護士・城戸章良。ふたりを軸に展開する人間ドラマが投げかけるのは、人種や国籍、肩書きなどを剥ぎ取った後の「自分は一体何者なのか?」という問い掛けだ。5月に行われた製作発表には、脚本・演出を手掛ける瀬戸山美咲を筆頭に、城戸役の浦井健治、X役の小池徹平のほか、濱田めぐみ、ソニン、上原理生、上川一哉、知念里奈、鹿賀丈史のミュージカル界を牽引する錚々たる顔が集結。“ある男”を巡る事件に関わる女性たちに扮する濱田、ソニン、知念の3人が、製作発表直後の高揚感とともに新たな創作への思いを語り合った。
歌もお芝居もしっかり届けられるように
――製作発表を終え、ミュージカル『ある男』が動き出しましたね。映画化も話題となった人気小説をミュージカル化することについて、あらためて今のお気持ちをお聞かせください。
濱田 きっと皆さんも、我々もそうですが、今もまだ原作が持つイメージとミュージカルがなかなか結びつかない段階なんですよね。今は少しずつ曲が出来てきて、脚本はまだ精査している最中なので、稽古場に全員が集まった段階からまた変わっていくだろうと思うんです。最終的にどういうところに着地するのか、とても興味がありますね。最初のイメージの乖離が大きければ大きいほど、着地点はすごく遠い、高いところにあるような気がします。
ソニン 本当に、原作の世界観からすると「歌い始める」なんてなかなか想像出来ないですよね。ミュージカルにするとなると、やっぱり少しはショーアップされた世界になるでしょうし。『ある男』の世界でそんな陽気な音楽は流れるはずがない……と思われるだろうけど、今のところ、そういうナンバーもありますよね?
知念 うん、ありますね。
ソニン だからミュージカルならではの楽しいシーンもあって、メリハリがつくんじゃないかなと。『ある男』のあの繊細な世界とどう融合するのか、ワクワクしますね。もちろん我々も一緒に作っていくのでクリエーションという意味では大変なことも多いと思いますけど、素晴らしい歌唱力を持った方々が揃っているので、歌もたっぷりお届けしつつ、芝居もしっかりとお届け出来るようにしたいな、というのが今の願望です。芝居についても深く話し合える仲間たちなので。
知念 先ほど皆さんと話していたのが、ミュージカルの座組としては結構年齢高めのメンバーが揃っているねと(笑)。演出の瀬戸山美咲さんのお話では、プリンシパルには経験を多く積んだ人が、アンサンブルには身体能力の高い方々が集まっているらしいです。なので、この作品の内容もそうですけれど、ちょっとアダルトなミュージカルになりそうだなと。これまでにない新しい形のミュージカルが出来るかも……と思っています。
名前を捨てたい者と得たい者。自分自身の存在を深く突き付けられる原作の魅力
――原作小説『ある男』のストーリー、世界観から御三方それぞれが惹きつけられた、一番心に響いた点についてお話いただきたいと思います。

濱田 まず、とても読みやすい小説でしたね。少し時間があるから読んでみよう……と思って本を開いたら一気にその世界に引き込まれていって、時間が過ぎてもずっと読み続けていました。その吸引力は凄いなと。そして読み終わって本を閉じた後に、私って……!?とハッとさせられて。母親と父親のもとで育って、もちろん名前もあって、この仕事をやり続けて来て……。でも本質的な部分で、これが本当の自分なのだろうか……という疑問がつねにあったことにあらためて気付かされたんですね。この物語の中には、戸籍を変えていろんな他人の人生を生きている人がいて、それを提供する人がいて……ああ、わからなくもないなと。それはやっぱり心の傷だとかトラウマだとか、いろんなものが作用しているのだろうと思います。私はこういう人間なんだけど、周りからはこんなふうに言われるな、とか、ちょっと自分を分析しちゃいましたね。自分が思う自分と他人から見えている自分はずいぶん違う、そこを基盤にして、はて、人生とは!?なんて結構深掘りしちゃって(笑)。「大切なものは目に見えない」という言葉をよく聞きますけど、この物語のテーマってその最たるものだなと思いました。自分というものを凄く見返して、不思議な気持ちになりましたね。

ソニン 主人公の城戸は在日韓国人という設定で、私も在日なので彼の気持ちはわかるんですね。自分ははたしてどこに所属しているのか、どこにも所属出来ないというのは在日特有の感覚で。どこかに所属したり、拠り所があることに人は安心するんですよ。その拠り所がスコーンと抜けた状態でも、スッと立てるのが強い人だなと。城戸さんは強く踏ん張ろうとしながら、周囲には周りとは違う存在だと見られたくないのだろうなと。その気持ちは凄くわかりますね。そこに関連して、名前を捨てたい人がいれば、別の名前を得たい人がいて、名前や戸籍が交換されて……といったことが繰り広げられているこの物語が、私にはとても魅力的に思えます。そして、世間の人たちはこのストーリーをどういうふうに見るんだろう!?と。小説は各々が読んで想像を膨らませるけど、映画は視覚で人間が演じる事でもっと具現化されるし、舞台はそれよりもさらに生々しいものを見せられると思うんですよ。お客さんはこの作品のメッセージをどう受け取るんだろう、というほうに私は興味がありますね。

知念 私は……読み終わった後に凄く不安な気持ちになって、ちょっと居心地の悪い感覚になりました。名前を捨てるなんて考えたこともないし、別人になれるなんて思ったこともないけど、実際にそうしたい、そうする必要があると考える人もいるのだろうかと。だから、いろんなラベルを取り去った時の自分とは、一体何だろうかと思ったり。読み終わった後に深く自分と向き合う、そんなテーマの作品だなと思っています。
「ある男」を取り巻く3人の女性たち
――“谷口大祐”を名乗って生きたXという男、その真実を探っていく弁護士の城戸など、男たちが繰り広げるドラマの中で、皆さんは彼らに関わる女性たちを演じます。Xの妻の里枝(ソニン)、谷口大祐の元恋人である美涼(濱田)、城戸の妻・香織(知念)について、現時点での脚本の感触から、どのような人物として立ち上げられたらと考えていらっしゃいますか。

ソニン X役の小池徹平君が今の段階の脚本を読んで、私の里枝役を「凄くいい役だ」と言ってくれたんですね。Xはずっと大変な思いをして、最終的に里枝と結婚して、子供も生まれた。Xが最後に「この人生は幸せだった」と思える、それにふさわしい人物でありたい、そんな里枝になりたいなと思いました。掴みどころがなくて難しい役どころだな……とは正直、思っているんです。自分の夫が本当は違う名前だったと聞かされても、取り乱すわけでもなく、彼女は現実をスッと受け入れるんですね。本当ならもっと驚いたり悲しんだりするのではと思うけど、それはおそらく、彼女にとってXとの時間が確かなるものだったからだろうなと。自分の目の前にいた彼の真実を、ちゃんと見ているから。「それは確かな愛だった」ということが成立するように、里枝という女性を演じられたらと思います。
知念 めぐさんが演じる美涼って、唯一明るい、陽のイメージを持ったキャラクターじゃないですか? 楽曲も明るいほうですし。
濱田 そう、陽のナンバーが多い。だから、ミュージカルらしさを出せる瞬間がちょこちょこあるかな。
ソニン カラッとしていますよね。
濱田 でも私はまだ役作りというよりも、全体のキャストの中でのバランスが大事だなと思っていて。だから稽古場で皆で本読みをするところから、いい塩梅で存在できるような役どころを見つけられたらなと思いますね。美涼も難しい役で、皆それぞれに傷を抱えているけれど、彼女は明確にコレというものがあるわけでもないんですよ。城戸さんと一緒に、元恋人の谷口大祐の謎を解明していくので、城戸とふたりで行動することが多いですね。

知念 香織という人も、まだ今後の脚本次第でどういう人になるのかわかりませんが、城戸との夫婦関係で言うと、夫が理解してくれないとか、子供の世話をしてくれないとか、そういう細々とした不満が積み重なっているんですよね。「あ〜わかるわかる」とお客さんに共感してもらいやすい役なのかな、と思ったりしています。どういう描かれ方をされるのか、私自身も楽しみにしていますね。
――原作小説や映画版に触れたうえで、ミュージカルに期待を寄せる人も多いと思われます。どんな驚きと感動に出会えるのか、楽しみにしています。

濱田 本当ですよ。初日にどういうことになっているか、ぜひ確かめに来てください(笑)。私たちもどうなるかわからなくて楽しみですが、このキャストで立ち上げるので、絶対に面白いものになっていると思います。初日の一回目をとにかく体験しに来ませんか?と言いたいです(笑)。
ソニン そう、この顔ぶれなので、チケット代返して!っていうことには絶対ならないことは保証します。(一同笑)とことんやる人たちなので、プロフェッショナルの人たちがプロの仕事を全うするのは確実です。原作ファンの人たちや映画ファンの人たちも納得できるものを、そしてミュージカルファンの人たちにも満足してもらえるクオリティまで確実に持っていくことは、約束します!……よね?
濱田 ハハハ! その通り。
ソニン だってもう、めぐさんの1曲だけでチケット代払う価値がある!
濱田 いやいやいやいや。
知念 チケット代の話ばっかり(笑)。
ソニン だってお客様は時間をかけて、チケットを買って観に来てくださるのだから、そこは間違いなし!と約束しないと。私たち皆で力を合わせてオリジナルミュージカルを創っていきますので、ぜひご期待ください!
知念 こんなふうに言ってくれる仲間がいるから、心強いです(笑)。終演後にお客様が思いを巡らすような、何かをきっと持ち帰っていただける作品になるよう、皆で全力で案を出し合って頑張っていきます。
取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii
スタイリスト:飯田恵理子
ヘアメイク:髙原優子(濱田)、真知子(ソニン)、大西花保(知念)
<公演情報>
ミュージカル『ある男』
原作:平野啓一郎『ある男』(文春文庫/コルク)
音楽:ジェイソン・ハウランド
脚本・演出:瀬戸山美咲
歌詞:高橋知伽江
出演:
浦井健治 小池徹平/濱田めぐみ ソニン
上原理生 上川一哉・知念里奈/鹿賀丈史
碓井菜央 宮河愛一郎・青山瑠里 上條駿 工藤広夢 小島亜莉沙 咲良 俵和也 増山航平 安福毅
スウィング:植山愛結 大村真佑
【東京公演】
2025年8月4日(月)~8月17日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
【広島公演】
2025年8月23日(土)・24日(日)
会場:広島文化学園HBGホール
【愛知公演】
2025年8月30日(土)・31日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール
【福岡公演】
2025年9月6日(土)・7日(日)
会場:福岡市民ホール 大ホール
【大阪公演】
2025年9月12日(金)~9月15日(月・祝)
会場:SkyシアターMBS
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/aman2025/
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