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楽しみながら今と80年前とを繋ぐ『帰還の虹』高羽彩×田中亨インタビュー

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左から高羽彩、田中亨 (写真/金山フヒト)

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タカハ劇団の第21回公演『帰還の虹』が8月7日(木)〜13日(水)、座・高円寺1にて上演される。今作は旗揚げ20周年を迎えたタカハ劇団が2014年に上演した作品で、実に11年ぶりの再演。太平洋戦争真っ只中の昭和19年、戦意高揚画を描いて日本画壇の寵児となる男のアトリエに集う画家たちの苦悩を描く。脚本・演出の高羽彩と、『おわたり』に続いてタカハ劇団への参加は二度目となる俳優・田中亨に話を聞いた。

戦後80年の今こそ、11年ぶりの再演を

──今回、『帰還の虹』を再演しようとした理由は?

高羽 11年前、この作品を執筆する大きなきっかけとなったのが、集団的自衛権の行使容認が閣議決定されたことでした。当時は若者や芸能人の方々もデモに参加したり声を上げたりするような、かなり大きな出来事だったんです。そこで私も、これから先の未来に対する警告や、自分の中での戒めという感覚で作品を作っていきました。ところが今は、もうここに描いたことの渦中だな、と思うくらい世相が変わってしまった。今年は戦後80年という節目の年でもありますし、もう一度念を押すような感覚で再演できたらと。

──田中さんは、脚本を読んでどう感じましたか?

田中 芝居冒頭からすでに戦争が始まっていて、後半になるにつれて目を背けたくなるようなことも起きてくる。作品の内容が自分たちに迫ってくるように感じて、今やるべき作品だなと思いました。

──田中さんは『おわたり』(2023)に続いての参加で、今作では戦意高揚画を描く画家のもとに身を寄せる画学生の役を演じられますね。高羽さんがこの役に田中さんを選んだ理由は?

高羽 『おわたり』の後に知ったんですが、田中さん、ちょっとびっくりするくらい絵が上手なんです。絵を描く、描くことを愛しているというリアリティを持っている方、というのがかなり大きい要素でした。

田中 僕は小さな頃から絵を描いてばかりいたので、役とのこの共通点はすごく心強いです。ふと公園に行ったときにも「葉っぱってこんな形だっけ?」と思いながら観察したりする。それは絵を描く人間ならではの視点だと思いますし、そんな部分が今回の芝居にも滲んでいけばいいなと思います。

──「絵を描く」という役との共通点以外の部分で、田中さんという俳優の魅力はどこにあると感じていますか?

高羽 陳腐な言葉になってしまいますが、透明感がある。体育会系の人や、情熱的な人が多い演劇人の中で、田中さんの周りには涼しい風が吹いている感じがするんです。もちろん田中さんもちゃんと演劇に対する思いを持っていますが、それでいてこんな雰囲気をまとっているのが、稀有な存在感の人だなと思います。それもあって、『おわたり』のときもミステリアスな役を演じてもらいました。観る側が、何を考えているのか想像できる余白を持っている方だなと思います。

田中 すごく嬉しいです!

遊び心が散りばめられたタカハ劇団の作品

──田中さんは、タカハ劇団の作品の魅力をどう捉えていますか?

田中 以前出演した作品はホラーでしたし、今回は戦争を描いた作品ですが、どんな作品でもポップだったりテンポがよかったりするシーンが必ずあるんです。その緩急がセリフからも伝わってくる。脚本に遊び心が散りばめられていて、読むたび想像力が膨らんでいきます。今回も、稽古でいろんなことを試したいなと今から楽しみです。

──確かに、題材やあらすじだけを見ると重い作品に思えますが、高羽さんの作品には毎回必ず軽妙な、笑ってしまうようなやりとりがありますね。

高羽 そもそも人間は、「自分は悲劇の中にいる」と思って生きてはいないじゃないですか。日常を暮らしているそのさまが客観的に観たら、あるいは未来から振り返ったら、悲劇であったというだけの話で。当事者は、ずっと悲しい顔をしているわけでも、苦しんでいるわけでもないんですよね。だから観客の方にも登場人物が自分たちと同じ生活の中にいる人たちであることをリアルに感じていただきたいと思っています。それに、単純に面白いほうがいいよね、という思いもあって。2時間息を詰めているよりも、どこかでふっと気を抜いたり、笑ったり、いろんな気持ちを持って帰っていただきたい。だから、楽しいシーンをたくさん作るようにしています。

田中 僕も、だんだん物語に入り込んでいくと視野が狭くなって暗くなってしまうことがあるので、笑えるシーンによってあくまでもエンタメだということを忘れずにいられるのがありがたいです。先日、ビジュアル撮影でキャストが集まったときにボードゲームをしていたんですが、その時にチーム感がもうできていて。このメンバーとなら楽しく作品づくりができそうだと安心しました。

高羽 最近、カードゲームやボードゲームにハマっていて、隙あらばやってしまうんですよ。

──演劇ではよく、稽古の際にキャストの親睦を深めたりお互いを知るためにゲームを取り入れると聞きますが……。

高羽 私も最初はそれにかこつけていわゆる「シアターゲーム」をやっていましたが、最近は純粋にゲームをやっています。みんな演劇人だから「これエチュードでやったら面白いんじゃない?」とか言い出すんですよ。「いやいや、そんなことしなくていいから、息抜きのつもりでルール通りにこのゲームをやろう」と(笑)。今回のチームもみんなすぐ演劇に活かそうとするので、かなりの”演劇大好きっ子”が集まっているなと思いました。

田中 僕は稽古中もそうやってオンとオフがあって、ゲームはゲームと決めてもらえると助かります! 気楽にゲームをやることで、作品に対する新しいアイディアが浮かぶこともあるでしょうし、信頼関係を築くうえでも、役に入っていないその人自身が見られるコミュニケーションはすごく大事だなと思うんです。

高羽 タカハ劇団はプロデュースユニットで固定のメンバーはいないので、チームビルディングから作品づくりが始まるんです。だからアップの時間を必ずとるようにしていて。ゲームだけでなく、筋トレやマッサージなど、俳優さんたちの希望やアイディアも取り入れてやっていくんですよ。そうやってお互いに知り合っていく、どういうスタンスで演劇をやっている人かをわかりあっていくのはすごく大事だなと思っています。

自分に嘘をつかずに作り続けてきた

──タカハ劇団は旗揚げ20周年を迎えられますね。高羽さんはこの20年間、今回のような社会派作品だけでなく、ホラー、SF、コメディと幅広い作風の作品を作ってこられましたが、今振り返ってみて、ここまでの劇団の道のりをどう感じていますか?

高羽 自分に嘘をつかずに生きてこられた20年だったと思います。演劇を作り続けて、観てくださる方も増えていくと、自分のイメージやお客さんから求められていることを考えて、自分の作品を外側から規定してしまうことってあると思うんです。でも私はそこを気にせずに作って来た。結果として、「作風はバラバラだけど、タカハの作品には“らしさ”があるよね」と思っていただけるようになってきたのは、本当にラッキーなことです。この幸運を大切に、今後も自分の心の正直に作品を作っていけたらと思います。

──最後に、『帰還の虹』に興味を持った方へ一言お願いします。

高羽 今年は特に戦後80周年ですし、8月になれば戦争を取り上げたコンテンツがたくさん作られると思います。気が重くなったり、もう観られないという気持ちになる人もいるでしょう。その中で『帰還の虹』は戦争やその被害というより、画家たちがどう戦争に関わっていったか、生活や表現の話です。SNSが発達してあらゆる人が表現できるようになった今、響く人が多い作品だと思います。楽しく観ていただけて、親しみやすく、その当時と今とを繋げて考えられる物語なので、気負うことなく観に来てくだされば。あと、オーディションでこれぞという方に集まっていただいたので、役者がみんな、めっちゃうまい! そこは声を大にして言いたいです。

田中 上演期間もちょうど終戦記念日直前の8月13日までですし、改めて戦争について考えるきっかけになる作品です。でも、楽しんで観ていただけると思いますので、エンターテインメントとして気楽に足を運んでください!

取材・文/釣木文恵
写真/金山フヒト

<公演情報>
タカハ劇団『帰還の虹』

日程:2025年8月7日(木)~8月13日(水)
会場:座・高円寺1

[脚本・演出]高羽彩
[出演]古河耕史 田中亨 護あさな 吉田亮 津村知与支 久下恵 池岡亮介 神保良介

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/takaha/

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