Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > Bocchi、1stアルバム発売&初ワンマンに向けてインタビュー「受けとった人が余韻に浸れるようなひとつの“作品”を作りたかった」

Bocchi、1stアルバム発売&初ワンマンに向けてインタビュー「受けとった人が余韻に浸れるようなひとつの“作品”を作りたかった」

音楽

インタビュー

ぴあ

Bocchi(左から ゆい(b)、まさや(vo/g)、慶哉(g))

続きを読む

フォトギャラリー(11件)

すべて見る

Text:吉羽さおり/Photo:石原敦志

東京を拠点に活動する3ピースバンド、Bocchi。2023年に1st EP『夏に溺れる』を、2024年に2nd EP『思春期と時間旅行』を発表し、儚くも美しい青春期や、人との出会いや別れが醸す甘美な痛みとをギターサウンドに乗せ歌ってきた3人が、1stアルバム『空に薫るは夏の影』をリリースした。これまでも舞台となった夏、その終わりの翳りをテーマに、さまざまなシーンが描かれる。アルバムブックレットのプロローグ的な文章にはじまり、物語性の高い、Bocchiの世界観で貫かれたアルバムとなっている。6月29日(日)にバンド初のワンマン『Bocchi 1st ONEMAN LIVE「空に薫るは夏の影」」が渋谷WWWで開催となる。チケットは即完でバンドの注目度の高さがうかがえるが、このワンマンも含め、3人が思い描くBocchiの音楽を提示したいということなので、楽しみにしてほしい。

──5月28日に1stアルバム『空に薫るは夏の影』がリリースとなりました。まずはアルバムが完成しての率直な感想や手応えはいかがですか?

慶哉(g) これが初めてのアルバムなんですけど、アルバムって自分たちが今まで出した曲をひとつにまとめるものだから難しいのかなって勝手に思っていたんです。でも、気づいたらできていたという感じで。

──それはアルバム像がはっきりとしていたから、ですか?

慶哉 というよりも、既発曲に加えて新たに5曲を書いて世に出そうとなったときに、今まで自分はアレンジ面で携わることが多かったんですけど、1曲、自分が作詞・作曲するとなって、Bocchiとして自分が作りたい曲って何だろうと思ったんです。そう考えたときに、小さい頃から記憶や思い出って不思議なものだなってずっと思っていて。形には見えないけど絶対にあるものだし、その記憶がその人の世界を形作っていくものだなって。それを曲に投影したいと書いたのが、男女の別れを描いた「忘却、」なんです。昨年秋にリリースした「追憶。」もあって、それも似たような感じで作ったんですけど。書いてみて、それがこれまでのBocchiの曲と別物過ぎたらダメだなと思っていたから、アルバムに入る曲と並べてみたんです。そしたらテーマが似ていて。2023 年に出した1st EP『夏に溺れる』、その「夏に溺れる」も男女の出会いと別れを描いたものだったことに気づいて。それでメンバーに、3人が作る曲って同じ方向を向いていて、同じテーマを主軸に作っているよねってところから、じゃあこれをひとつの作品にしようと考えたんです。

左から 慶哉(g)、まさや(vo/g)、ゆい(b)

──バラバラだったものをまとめてみたら、同じような世界観があることにそこで気づいたんですね。

慶哉 そうですね。さらにアルバムをリリースして、その後に初のワンマンライブ(6月29日(日)渋谷WWW)をすると決まったときに、アルバムとそのワンマンを通して、受けとった人が余韻に浸れるようなひとつの“作品”を作りたかったんです。それで僕が、アルバムとワンマンを通しての表現する脚本を書いてメンバーに投げて。脚本と言ってもそれはメンバーそれぞれが今まで出した曲があってからこそのものなので。だから気づいたらできていたという感触なんです。

まさや(vo/g) 本当に気づいたらできていたという感じで、驚きましたね。

──なんで3人が描く世界観やトーンが似ていたんだと思いますか?

まさや みんなそれぞれ過ごしてきた環境が似ていたり、学校とかでもあまり友達がいなかったりとか。好きな音楽のジャンルも似ていたので。そういう面で一緒になっていったのかなとは思っています。

──今回、慶哉さんも作詞・作曲を手がけていますが、「忘却、」「追憶。」ともにドラマティックな曲で、まさやさんとゆいさんの曲とはまたちがうアルバムでのアクセントにもなっています。最初にデモがきたときの感触はどうでしたか?

まさや 最初にデモをもらったときは──。

慶哉 まだ全然って感じだったよね(笑)。

まさや 最初は、今の完成したものとは乖離しているのはあったけど、でも個人的には新鮮だったし。逆に慶哉が書く歌詞って、多分彼の中でストーリー、脚本がしっかりとあって、それをなぞらえて曲にしているものだから。アルバムに入れたときに存在感を出してくれる曲になるんだなと思ったし。そういう意味では、デモの段階から楽しみな気持ちにはなっていましたね。

慶哉 大体Bocchiの作曲はゆいが担当しているんですけど。その中で自分が作る曲は、世界観はちがい過ぎず、でもゆいとはまたちがう一面があるものを作れたなと思ったんですけど。でもやっぱりゆいのサウンドはゆいのサウンドで、俺はそっちの方が好きだから。物足りないのかなってデモを作っていたときは思っていましたね。オルタナっぽさがあったから、ちょっとでもJ-POP寄りにしようとアレンジでピアノを入れてみたりもして。言葉はあれですけどBocchiの曲で万人受けする曲の担当はゆいで、俺は好きなようにできているっていう感じですね。

──ゆいさんは曲を書く際にキャッチーさは意識していますか?

ゆい(b) 一応意識はしているんですけど、どちらかというと曲の構成とかを考えるという感じですね。慶哉の曲は自分とはちがって、自分には作れないメロディだなと思って毎回楽しみにしているんです。ただいつも、慶哉は自信なさげにデモを出してくるんですよね(笑)。

慶哉 自信はないかなあ。

ゆい もっと自信持ったらいいのにっていつも思うんですけど。

──慶哉さんの書く曲もそうですし、以前の作品でもBocchiの曲では夏という季節が象徴的に描かれますよね。夏が舞台となったり、夏の空気感や色味が色濃く描かれるのはなぜなのでしょう?

まさや 作曲者が夏が好きだから、ですかね(笑)? みんな夏が好きなんです。

──好きなんですね。むしろその逆で、あまり好きではないからこその、この切ない世界を描いているのかと思っていました。

慶哉 夏って、その暑さとかもそうですけど記憶に残ると思うんですよね。景色とかも、空とか海とか青さとかが際立つというか。自分たち3人はどちらかというと明るくない青春だったし、その中で音楽をたくさん聴いていたから、そこでインプットしたものをアウトプットしているんじゃないかなって。ゆいとまさやの書く曲にはとくにそれは感じますね。

まさや 自分でも、なんで夏に思い入れがあるのかよく考えるんですけど。夏をテーマに歌っているアーティストが好きなのもあるし、昔のことを思い返したときに、夏の思い出や景色ってすぐにフラッシュバックするというか。記憶の優先順位としてなのか、夏って思い出しやすいし、それゆえにノスタルジーを感じやすい。で、好きだけど思い出すと切なくもなる、不思議な印象がある季節で。Bocchiってストレートな歌詞や言葉をあまり使わないんですけど、だからこそ自分の中で儚さもあって美しさもある夏をテーマにすることで、抽象的な歌詞やきれいに言葉がのったりするんじゃないかなとは思っています。

──聴き手も夏の記憶って想像しやすいですよね。青春のイメージとも重なるから、それが儚さにも通じるし、花火のような夏の風物詩もまた切なさもあって。面白いのは、Bocchiではサウンド的にはいわゆる夏の爽やかさを思わせる曲が多いですが、そこに歌がのるとその爽やかさが反転する感じがあって。

ゆい たしかに。まさやの声はわりと悲しさを持っているというか。明るい声でもないから。そこがまたよさが出ているのかなと思いますね。

慶哉 インスト部分だけを聴くと、結構爽やかポップですよね。

──それは自然とそういう化学反応をしたということですかね。

慶哉 そうだと思います──それともまさやが狙ってるのか(笑)。

まさや 「夏に溺れる」がBocchiとして作った最初の曲だったんですけど。そのときからたしかに、歌がのると儚げに聞こえる感じがあるし、無意識にそういうのを意識しているのかもしれないですね。ただ爽やかで明るくて、キラキラした夏の歌にはしたくないというか。自分が感じてきた疎外感や儚い感じを、そこに含ませたかったのはあるのかもしれない。

──この声があるからこそ、ゆいさんは自由に曲を作れますしね。

ゆい それはあると思います。

──まさやさんとゆいさんは、書く曲やタッチはどんなところがちがうと感じますか?

ゆい まさやは、情景の描写とか抽象的な言葉を使うのがうまいなと思うんです。語彙も豊富だし。

慶哉 歌にしたときの語呂もいいんだよね。

まさや 語呂の良さや押韻とかは好きで。ゆいもそういうところはありますけど、そこはBocchiの曲でも印象的なところかもしれないですね。昔から洋楽とかは聴いてこなくてJ-POPばかり聴いてきたので。いわゆる歌心みたいなところにはその影響があるのかなって思ったりもします。

──ゆいさんの曲はどうですか?

慶哉 ゆいって何考えているんだろう(笑)。

ゆい (笑)。一応自分の中では意味づけはしているんですけど。感じていることや頭に思い描くことを具体的に言葉でどう表すのかが、自分でもいい意味でも分からないところがあって。それは、聴き手に好きに感じてほしいなということも思いながら作っていますね。

慶哉 今回のアルバムの曲ではないんですけど、ある曲のデモにゆいが歌詞をつけていたのがあって。結局デモからブラッシュアップしていったときにその歌詞がなくなって、リリースした曲には入っていないんですけど。好きだったフレーズがあったな、雨が黒いみたいな感じの──。

ゆい ああ、2nd EP『思春期と時間旅行』(2024年)の「産声」のときかな。

慶哉 それがすごく印象的で。暗さがあるんですけど、世界観がある喩えや表現をするなと思っていて。そこはゆいの特徴じゃないかなって思う。

まさや 表現が面白いよね。

ゆい 音楽って捉え方が自由だと思うから、想像をしながら、そこも楽しんでもらえたらっていうのは思いますね。

──アルバムを幕開けるのが疾走感、躍動感のある「影送り」です。アルバムのはじまりとしてイメージしたものはありますか?

ゆい この曲は伴奏とか自分が作っていて。メロディと歌詞はまさやに任せた曲でしたね。

まさや これは最初アルバムのリード曲みたいにしようと思っていたから、夏をテーマに描こうかなって作りはじめたんですけど。テーマがこれまでの「夏に溺れる」のような男女の出会いや別れというものじゃなくて。ひと言で言うのは難しいんですけど......夏の日にうつむきながら自分の影を見ていて、ふと見上げた青空に自分の影が影送りとして映って。その影に自分の過去とか、逆になりたかった自分を重ねていたりする、そういうテーマで作ったので。なので、歌詞には友情とか愛情とか愛とか青春とか、クソくらえ!みたいな感じはありますね(笑)。アルバムの中では歌詞はストレートになったなと思います。パワーを持った曲になったかなと思っています。

慶哉 そのパワーはサウンドにもなっていますね。

──またアルバムの最後に据えた「透命人間」はどうですか?

慶哉 これは最後に作った曲だったかな。

まさや 思い入れがある曲で。アルバムで起承転結があったとして、「影送り」が“起”だとしたら、「透命人間」でひとつの物語が終わらせられる曲にしたいと思って。一旦この「透命人間」で、「夏に溺れる」から続いてきた男女の出会いや別れ、夏の終わりというテーマを終わらせてもいいくらいの、曲にしたいなと思って。もちろん今後も夏の曲は書くと思うんですけどね。歌詞こそ抽象的ですけど、終わりの曲っていうことでいろいろな解釈をしてもらいたかったし、「影送り」とは対照的にしたかったんです。できたのはわりとすぐだったんですけど、考えながら作った曲にもなったかなと思います。

──この「透命人間」では、アルバムの曲の歌詞もそうですし、これまで出してきた曲の歌詞やフレーズを意識的に使っている感じもありますよね。

まさや そうですね。「透命人間」は初めての試みで、夏の終わりというテーマのひとつの終着点にしたい思いがあったから、これまで使われてきたフレーズをセルフオマージュみたいな形で取り入れてみたのはこだわりのひとつでしたね。これまでのBocchiの集大成的な意味合いもあるし、これまで紡いできた夏っていうテーマに対してのひとつの解釈でもあるし。そういう意味でもエモーショナルで、個人的にもお気に入りの大切な曲をここに持ってこれたんじゃないかなと思っています。

──サウンド的には後半にかけて壮大さを増していくアレンジとなっていますが、さらに印象的なのがコーラスパートです。前半は男性の声でのハーモニーですが、後半はAIボイスの可不を使っていますね。可不でいこうとなったのは?

慶哉 レコーディングのとき、ここは女性的な声がほしいよねっていう話をゆいとしていて。ゆいが言ったのかな、可不入れない?って。

ゆい どうだったっけな。

慶哉 最初は知り合いの歌える子にお願いしようかとも思ったんですけど。この1stアルバムはまだBocchiの3人で作りたいという思いがあって、ここはAIボイスでというか。俺らの音楽の原点にはボカロもあるから。そういうバックボーンが分かるものも曲として入れたいよねって思っていたし。

──この可不のコーラスが入るところが、Cメロになるんですかね。歌詞としても歌的にもクライマックスへと向かう大事な部分にもなっています。

まさや 個人的な話になるんですけど、Cメロっていうのが自分でもすごく好きで。Cメロを作るときって、サビとかのメロディとはまたちがって、そこでまたフックを作れるパートというか。とくにこの曲ではアルバムの物語の起承転結の“結”の曲としてもそうだし、男女のボーカルで、お互いの感情を掛け合わせるように歌っている感じが、すごくマッチしたなって思うんです。

──アルバムを完結させると同時に、アウトロの感じなどはどこかその先にも思いを馳せていくようなものになっているのもいいなと思っています。

慶哉 また次につながったら面白いですよね。

──序盤でも話がありましたが、6月29日(日)には渋谷WWWで『Bocchi 1st ONEMAN LIVE「空に薫るは夏の影」』が開催となります。慶哉さんが脚本を書いたということでしたが、アルバムと一体となった、ストーリー性のあるライブとなりそうですね。

慶哉 そうですね。当日の楽しみでもあるので詳しくは言えないですけど。それでもこれまで自分たちがやってきたライブや対バンライブの感じとは、真逆のアーティスト像というか。自分たちがやりたい音楽をできるんじゃないかなって思っています。昨年末くらいに3人で話したんですけど。作品を出していくにつれて、僕らは“作品”を作りたいんだなって思ったんです。ライブでコブシを振り上げて盛り上がる音楽もいいと思うんですけど、でも自分たちはどちらかというとそういう音楽よりも聴く音楽だったり観る音楽だったりを作っていきたいよねって。まだまだやりたいことはたくさんあるんですけど、こうしてアルバムを完成させて、今回のワンマンでBocchiが観せたいものを形にどう受け取ってもらえるのか。チャレンジではあるけど、絶対いいものになっている自信はあるし。あとは受け取ってくれる方がどう感じるか、このワンマンのドキドキはそこですね。

──チケットは即完でしたし、もっと大きなところを目指せますね。

慶哉 と、思いました(笑)。でも今Bocchiと出会ってくれて、今ライブに来たいと思ってくれている人が大事というか、うれしいので。きっと、この先何年か経ったとき、あのときにあのライブを観てよかったなと思えるものがあると思うので。逆にこのキャパでよかったんじゃないかなって思っています。


<リリース情報>
1stアルバム『空に薫るは夏の影』

発売中

『空に薫るは夏の影』ジャケット

【収録曲】
1.影送り
2.君は夏風
3.忘却、
4.追憶。
5.愛憎にレモネード
6.ユートピア
7.雨漏りの空
8.帰途
9.瞼
10.透命人間

CD購入・配信リンク:
bocchi.lnk.to/1st_Album

<公演情報>
『Bocchi 1st ONEMAN LIVE「空に薫るは夏の影」』

6月29日(日) 東京・渋谷WWW
開場 17:15 / 開演 18:00

Bocchi 公式X:
https://x.com/Bocchi_nano

フォトギャラリー(11件)

すべて見る