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小津安二郎の記憶を舞台に。中井貴一主演、行定勲演出『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』が開幕

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舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより

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映画監督・小津安二郎は、『東京物語』(1953年)をはじめ「小津調」と呼ばれた独特の映像美が光る作品の数々で、国内外問わず多くの観客を魅了した。その小津への敬愛を込め、映画監督としても舞台演出家としても活躍する行定勲が紡ぎ出した物語が、舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』が6月8日に開幕した。小津をモデルとする映画監督・小田昌二郎を演じるのは、小津監督とは家族のような親交があり、小津によって「貴一」と名づけられたという中井貴一。昭和の日本映画界への敬愛に満ちた本作の初日前日に行われた、4つの場面を抜粋したプレスコール、そしてメインキャスト陣と行定による開幕前会見の模様をお伝えしよう。

イマジネーションにあふれた、映画監督と女性たちの物語

暗いステージの上で、ディレクターズチェアにスポットライトが当たっている。静かに奥から登場するのは、小田昌二郎(中井貴一)。どうやらそこは小田の心象風景のようで、彼と関わりのある女性たち、元芸者・花江(キムラ緑子)、戦争未亡人・和美(土居志央梨)、銀座のホステス・千代(藤谷理子)、名女優・谷葉子(柚希礼音)、食堂の看板娘・幸子(芳根京子)が順に現れる。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより

次は、映画撮影の場面。バア「かおり」のセットに小田や葉子、脚本家・野崎(升毅)らがいる。小田の指示の下、撮影が始まり、あるいは止まってスタッフへの指示が飛ぶ。映画の世界で生きてきた小田の姿が印象的だ。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより

次に披露された場面では、小田が幸子と葉子を連れて花江の営む待合(待ち合わせや会合に使われる貸座敷)へ。小田と花江は長年の付き合いで気心が知れていること、小田にとって幸子は娘のような存在であることなどが伝わってくる。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより

最後に披露されたのは、小田が和美の家にいたところ、千代、そして花江が突然やって来る。しかも幸子や葉子まで現れ、小田は混乱してしまう。その光景の外から野崎が現れたことで、これが小田のイメージの世界であることが明らかになるのだった。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより
舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』プレスコールより

これらの場面を通して感じられるのは、時にユーモラスで時にシュールな、しかしノスタルジックで温かみにあふれた小津愛・映画愛が伝わる光景だ。中井の小田はベテラン監督らしい重みや、女性たちに翻弄されるコミカルな面などで奥深さを感じさせる佇まい。キムラの花江は着物姿も素敵で、元芸者らしい粋と気風の良さを感じさせる。柚希の葉子は本人の持ち味とあいまって“ザ・昭和の大女優”という華やかさに、凛々しさとどこかお茶目な感じもある。芳根演じる幸子は食堂の看板娘という役柄がぴったりの親しみやすい可愛らしさで、小田が娘同様にかわいがっているという関係性に説得力がある。藤谷の千代は小悪魔的な魅力があり、土居の和美は未亡人という役どころもあってか地に足のついたリアルな女性像。升の野崎は小田の盟友らしく寄り添い、かつ客観的な視点を持ち込む存在でもあるのだろう。それぞれの立ち位置が活かされた演技のアンサンブルを垣間見ることができた。

昭和の日本映画界に思いを馳せながら、奥深く優しい作品に

プレスコール後に行われた会見では、行定が本作上演の経緯やその思いを語った。「時代が進み昭和の巨匠・名匠の話を知る人たちが減っているなか、それを次の世代に伝えていきたい。そのなかで僕が憧れていた小津安二郎監督と中井さんのお父さん(俳優の佐田啓二)・お母さんの話は、神格化された巨匠ではなく、もっと身近ないち人間としての日常。それを舞台として、中井さんに一緒にやっていただけないかと着想しました。舞台はやはり生もので、お芝居はもちろん舞台転換などスタッフと共につくっていく場面で演出家としてものすごく心が動くし、感動する。この空気を味わっていただいて、豊かな時代の創り手たち、昭和の映画界の姿が少しでも伝われば嬉しい」(行定)。

一方、最初はオファーを断ったと語る中井。しかし映画人として小津について残していきたいという行定の熱意にふれ、フィクションとして描いていることから「天国に行った時に小津先生に怒られるのは僕が一番いいだろうなと思って、お受けすることにしました。小津先生は僕にとっておじいちゃんみたいなものなので、育ってきた環境のなかで小津安二郎の要素がすり込まれてきた。それを初めて使う時が来たという感覚です。お客様が『小津安二郎の映画を観てみよう』って思ってくださったら、名前をいただいた恩返しができるんじゃないか。そうなるように、皆で努力をしながらやっていきたいと思います 」と語った。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』会見より、前列左から)芳根京子、中井貴一、行定勲 後列左から)藤谷理子、土居志央梨、柚希礼音、キムラ緑子、升毅

また、芳根の演じる幸子は中井の母親がモデルで、それを聞いて「ずっと緊張している」(芳根)というが、「お母様の話をたくさん聞かせていただいて、貴重な機会をいただけて嬉しく思っています。私は6年ぶりの舞台出演で、すごくワクワクしています。作品としては、すごく優しくて温かくて不思議な世界を皆様にお届けできるかなと思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです」と語った。

さらに、「すごい高揚感と緊張感で幕を開けますが、今までに観たこともなく出演したこともない、新しい舞台をご覧になることになるのではなかろうかと思っております」(キムラ)、「やっぱり昭和はいいな、小津さんはこういう時代にこういう映画を撮っていた人なんだな、といったことも含めて感じとっていただきたい」(升)、「中井さん演じる小田先生の頭の中を覗き見するような作品ですので、ぜひ一緒に楽しんだり、悲しんだり、翻弄されたりして身を委ねていただけたらと思います」(藤谷)、「素晴らしいキャストの方々と、日々変わっていくものを楽しみながら、共有しながら、お客様と一緒につくっていけることが楽しみ。地方公演でその土地の空気を感じながら演じられるし、楽しんでいっていただきたい」(土居)、「心に刺さるセリフがたくさんあり、昭和っていいなとか、家族に連絡したいな、周りの人を大切にしたいな、と思うようなことが散りばめられている作品です。葉子は原節子さんをモデルとした役なので、本当に大きなプレッシャーですけれども、原さんが小津監督に人生を捧げた女優さんであったように、小田さんにすべてを捧げながら、潔く、かっこよく、女性らしく、いろいろな面をもっていきたいと思います」(柚希)と各々が思いを語った。

舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』は、6月29日(日)まで同所にて、その後、大阪、福岡、熊本、愛知での上演が決まっている。上演時間は約2時間35分(休憩20分含む)予定。

取材・文・撮影:金井まゆみ


<公演情報>
パルコ・プロデュース2025
『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』

作:鈴木聡
演出:行定勲

【出演】
中井貴一/芳根京子 柚希礼音 土居志央梨 藤谷理子 久保酎吉 松永玲子 山中崇史
永島敬三 坂本慶介 長友郁真 長村航希 湯川ひな/升毅 キムラ緑子

【東京公演】
2025年6月8日(日)~29日(日)
会場:PARCO劇場

【大阪公演】
2025年7月5日(土)~7日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール

【福岡公演】
2025年7月11日(金)・12日(土)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

【熊本公演】
2025年7月15日(火)
会場:市民会館シアーズホーム 夢ホール

【愛知公演】
2025年7月19日(土)・20日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/senseinosenaka/

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/senseinosenaka

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