痛そうで痛くない場面の連続!『Mr.ノボカイン』、新感覚のヒーローが銀行強盗に挑む──【おとなの映画ガイド】
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『Mr.ノボカイン』 (C)2025 PARAMOUNT PICTURES.
続きを読む生まれつきカラダに「痛み」を感じない主人公が、その特性を武器にして銀行強盗に立ち向かう、新感覚のサスペンス映画『Mr.ノボカイン』が、6月20日(金) に全国公開される。今までにない“無痛のヒーロー”というワン・コンセプトでぐいぐい魅せていく、笑いあり、ロマンスあり、バイオレンスありの展開は、観ている側まで触感を刺激されて、とにかく1時間50分、きっちり楽しませてくれる。全米で興行ランキング初登場1位に輝いた、R15+指定=おとな向きのサタデーナイト・ムービーだ。
『Mr.ノボカイン』
「ノボカイン」……、聞きなれない言葉だが、歯医者さんなどで使われている「局所麻酔薬」のことだ。この映画の主人公はCIPA(先天性無痛無汗症)という生まれつき痛みや温度を感じない特性を持っている。歯科で麻酔注射を打ってもらうと、虫歯をドリルでガリガリ削られても痛みはまるでない。あの感じが常に体全体にある、ネイサン・カイン(ジャック・クエイド)という男の物語だ。
舞台は現代のアメリカ西海岸サンディエゴ。彼は、銀行の副支店長を務めている。

性格は、気が弱くて真面目。6時半に起床し、噛んでうっかり舌まで砕かないように、柔らかい“スムージー”を飲み、きちんとスーツを着て、車で銀行へ出勤するのがルーティン。帰宅後や休日は、怪我をするリスクを避けて、外出はせず、もっぱらオンラインゲームを楽しむ。女性経験は、ほぼナシ。そんなネイサンが、新人の窓口係、シェリー(アンバー・ミッドサンダー)とランチで意気投合し、感激の一夜を過ごすのだが……。
その翌朝、とんでもない事態に! 銀行にギャングが押し入り、シェリーが人質として車で連れ去られてしまうのだ。
駆けつけた数人の警官たちも銃撃戦で撃たれて死亡。あわてたネイサンは、惚れた彼女を助けたい一心で、パトカーを盗んでひとり、追跡を開始する……という大胆な始まり。

ここからは、「無痛体を持つスーパーヒーローの“能力解放”」と言いましょうか、予告編にもフライパンや矢のシーンなどが、“チラ見せ”ふうに出ているけれど、確かにこれまで見たことのない、ちょいと風変わりで、なぜかプッと笑ってしまう、刺激的なバトルと追跡が展開される。途中から、お互い顔を知らないのに仲良しなオンラインゲームの友、ロスコー(『スパイダーマン』シリーズでも人気のジェイコブ・バタロン)がバディとして加わる。ていうか、引きずり込まれる。このふたりの掛け合いもまた、いい感じ。

監督は、ダン・バークとロバート・オルセン。ふたりでの初監督作品『Body』(2015) が、ヴェネツィア映画祭にノミネートされた俊英たち。学生時代から、ねっからの映画オタクである彼らの嗜好というか、映画的記憶が、腕力に自信のないネイサンの戦い方に反映されていて、それがこの映画の魅力とも言える。

たとえば、ギャングのアジトが、『ホーム・アローン』のカルキンくんもまっ青な仕掛けだらけなのだけど、なにせ、ネイサンは無痛なんで、それが全然役にたたなかったり。『ダイ・ハード』を思わせる壊れたガラスのシーンもうまい具合に使われたり。けっこういろいろな作品のオマージュ的なシーンが隠れている。

ネイサンを演じるジャック・クエイドは、両親がメグ・ライアンとデニス・クエイドというサラブレット。Amazonオリジナルの人気シリーズ『ザ・ボーイズ』に主演、映画では『オッペンハイマー』に出演している。シェリーを演じるアンバー・ミッドサンダーもNetflix作品などで注目され、業界紙ヴァラエティの「注目俳優10人のリスト」に選出された有望株。サイコパスなギャングの中心人物を演じるレイ・ニコルソン、父親はあの、ジャック・ニコルソンだ。

3月の全米公開では、第1週目の興行ランキングの1位に輝いたこの作品、ちょっとアトラクションに乗るような軽い気持ちで、たとえば、ショッピングモールで家族が買物をしている待ち時間にシネコンで観るとか、または家族は別の作品、お父さんは「おれはこれ」とひとりでとか。
「きゃっ、いたそー」と顔をしかめながら楽しむ、“痛快”エンタテインメントです。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2025 PARAMOUNT PICTURES.