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【展示レポート】『ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』 同時代を生きた二大画家の名画が一堂に

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三菱一号館美術館外観

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19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した二人の画家、ルノワールとセザンヌに焦点をあて、パリのオランジュリー美術館がオルセー美術館の協力を得て企画・監修した世界巡回展が、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開幕した。イタリア、スイス、香港を経て来日した同展は、日本では同館のみの開催となる。

二人の関心の共通性と個性の違い

印象派の代表格のルノワールに対し、印象派を乗り超えるような独自の探究に向かったセザンヌは「ポスト印象派」と呼ばれている。画風の違いもあり、このカップリングの二人展は珍しい印象があるが、実は二人を結びつける要素はいくつもあるという。セザンヌが2歳上だが、ほぼ同世代。1860年代に知り合った二人は、ともに印象主義という美術史上の大きな転機に登場した巨匠であり、印象派展に一緒に出品したことも、画布を並べて描いたこともある。風景画、肖像画や人物画、静物画に取り組んだ点も共通していた。

左:ポール・セザンヌ《青い花瓶》1889-1890年 オルセー美術館 右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《花瓶の花》1898年 オランジュリー美術館

冒頭の章に並ぶのは、二人の静物画や風景画、水浴図を並べた展示だ。例えば同じ花を描いても、色とりどりの花々を柔らかな筆致で生き生きと描くルノワールに対し、セザンヌは青を基調として抑制の効いた花束の描写を見せると同時に、構図の傾きに不安定さも感じさせる。同じ画題が並ぶことで、二人の関心の共通性と個性の違いが見えてくるのが同展の魅力のひとつだ。

左:ポール・セザンヌ《わらひもを巻いた壺、砂糖壺とりんご》1890-1894年 オランジュリー美術館 右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《桃》1881年 オランジュリー美術館
ピエール=オーギュスト・ルノワール《イギリス種の梨の木》1873年頃 オルセー美術館

二人はまた、印象派の大胆な筆触を身につけつつも、実は早い段階で独自の道へと向かい始めた点でも共通していたといい、今回は二人の作品の比較だけでなく、それぞれの画家の初期から成熟期への変遷も見てとることができる。例えば、2章の「戸外制作」に並ぶセザンヌ作品では、1870年代に印象派に学んだ時期の多彩な筆致の風景画から、一定の方向性をもつ筆致を規則的に並べる独特の画面づくりが見られる後年の作へと、筆触の変化に気づかされる。

左:ポール・セザンヌ《赤い屋根のある風景(レスタックの松)》1875-1876年 オランジュリー美術館右:ポール・セザンヌ《シャトー・ノワールの庭園で》1898-1900年 オランジュリー美術館

人物表現にみるふたりの形態(かたち)の探求

一方、印象派が光を追求するあまり、形態を失っていくように感じ始めたルノワールは、1880年代半ばに画風を大きく転換させた。「人物の形態(かたち)と色彩」と題された3章に登場する《風景の中の裸婦》は、その転換期の作。新古典主義の影響もあり、裸婦の形態は線描で表されている一方で、背景は印象派の細かな筆致が見られるのがその特徴だ。1890年代の裸婦像は、柔らかな曲線美や肉感がさらに増し、印象派的なタッチで木々がさざめくように描かれた背景との調和が美しい。

左:ピエール=オーギュスト・ルノワール《風景の中の裸婦》1883年 オランジュリー美術館 右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《長い髪の浴女》1895年頃 オランジュリー美術館
ポール・セザンヌ《セザンヌ夫人の肖像》1885-1895年 オランジュリー美術館

三菱一号館美術館は、比較的小ぶりで親密な雰囲気の展示室でじっくり作品と対面できるのが魅力のひとつだが、人物像が一堂に並ぶ広大な展示室の展示も印象深い。まるで「静物」のように表情を欠いた顔で描かれたセザンヌ夫人の後ろの壁に、ルノワールのピアノを弾く少女たちの和やかな姿が見えたり、ルノワールの息子の赤いピエロ服姿の向こうに、青を主調としたセザンヌの息子の顔がのぞいたり……。

手前:ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピエロ姿のクロード・ルノワール》1909年 オランジュリー美術館 奥:ポール・セザンヌ《画家の息子の肖像》1880年頃 オランジュリー美術館

ルノワールが若い女性の柔らかく真珠のように輝く肌を描くことを好み、肖像画も温かく親しみやすい雰囲気で描いたのに対し、セザンヌは人物を理想化することなく、力強い身体表現を行ない、家族を描く際にも対象と距離感をとっていた。そうした様々な対比が見えてくるこの章からはまた、光を追求するモネら印象派の多くが形態を希薄化させていったのに対し、二人がともに線描と色彩を重んじながら、形態の表現の探究を進めていたという共通性も感じとれる。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノの前の少女たち》1892年頃 オランジュリー美術館
右手前:ポール・セザンヌ《庭のセザンヌ夫人》1880年頃 オランジュリー美術館 左奥:ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノの前のイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル》1897年頃 オランジュリー美術館

ピカソら後世の芸術家たちへの影響

次のコーナーは、オランジュリー美術館の核をなすコレクションを築いた画商でコレクターのポール・ギヨームに捧げられている。1910年代にパリに画廊を開いたギヨームは、20世紀美術を中心に扱い、その前世代の印象派とポスト印象派のなかで収集対象としたのは、ルノワールとセザンヌだけだった。20世紀初頭には、二人はモダンアートの先駆者として並べて論じられることも多く、ギヨームも二人をそのように評価していたのだという。

今回は、生前の彼が自邸でどのように収集作品を飾っていたのか、当時の写真をもとに制作した映像作品も上映されている。傑作揃いのコレクションと、壁面をびっしりとおおう贅沢な飾りっぷりが興味深い映像だ。ちなみに、ギヨームが収集した作家にはルドンも含まれていたそうで、同展では、三菱一号館美術館が誇る大作《グラン・ブーケ(大きな花束)》など、ルドン作品の紹介もある。こちらは世界巡回展のなかで、同館ならではの展示となっている。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《桟敷席の花束》1880年頃 オランジュリー美術館
ボール・セザンヌ《スープ鉢のある静物》1877年頃 オルセー美術館

次の「静物画」の章では、花々や果実を描くルノワールの繊細なタッチと調和に満ちた色彩の豊かさ、そして幾何学的な形態を複数の視点で構成するセザンヌの実験性がきわだって見える。だが、卓上のクロスと皿と果物を描いた構図にセザンヌの影響がうかがえるルノワールの静物画などもあって目を惹いた。

左:ピエール=オーギュスト・ルノワール《りんごと梨》1895年頃 オランジュリー美術館 右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《いちご》1905年頃 オランジュリー美術館

展覧会の最後を飾るのは、ルノワールとセザンヌの二人がモダンアートの先駆だったことを象徴的に見せるクライマックスの章だ。20世紀美術を代表する巨匠ピカソがキュビスムを生み出すにあたって影響を受けたのがセザンヌだったことはよく知られているが、その後、古典主義に回帰して堂々たる女性像を描いたピカソはまた、ルノワールの豊満な女性像に魅了されており、作品も購入していた。今回は、セザンヌの静物画とピカソのキュビスム時代の静物画、そしてルノワールの横たわる裸婦像とピカソのモニュメンタルな裸婦像が並び、二人の巨匠が後世に与えた影響の大きさを感じさせてくれる。

左から、パリのアトリエに座るルノワール/レ・ローヴのアトリエに座るポール・セザンヌ ともにオルセー美術館

パリの二館から来日した名作52点に、三菱一号館美術館への寄託作品なども加えた出品作はいずれもとても美しい。1点1点の作品の魅力を楽しめると同時に、ルノワールとセザンヌを見比べることで新たな作品の見方もできる満足度の高い展覧会だ。なお、家族ぐるみの付き合いもあった二人の関係性については、パネル等でも説明があるが、今回の音声ガイドでは、作品の解説に加え、ルノワール役(羽多野渉)とセザンヌ役(細谷佳正)の二人の声優が互いへの思いなどをドラマチックに語ってくれる。様々なエピソードや画家自身の言葉を通じて、「信頼を寄せ合った真の友人同士だったのだなぁ」と実感できるガイドとなっている。

取材・文・撮影:中山ゆかり


<開催概要>
『オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ―モダンを拓いた2人の巨匠』

2025年5月29日(木)~9月7日(日) 、三菱一号館美術館にて開催

公式サイト:
https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne/

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