何時どこで生まれ、何をどれだけ摂取し、どのような環境の中で生き抜きながら、いかにその特性を獲得してきたのか。
MUCCというバンドに関するトレーサビリティが赤裸々なほどに提示された最新アルバム『1997』を今春に発表したあと、彼らが週末ごとに各地を廻って続行してきたのは『MUCC TOUR 2025「Daydream 1997」』だ。
あるいは、ヴィジュアル系という言葉が生まれる以前にお化粧バンドだの黒服バンドだのと呼称されていた先駆者へのオマージュが詰まった「Round & Round」に、90年代オルタナティヴメタルの栄華を彷彿とさせる「Guilty Man」、そして世界に通用する日本発ミクスチャーロックを90年代に確立した彼のバンドへの愛にあふれた「Boys be an Vicious」などからも、MUCCがこのツアーを遂行していく中でどれだけの鍛練を経てきたのか、ということはよくわかった。
かと思えば、アルバムの中では“匂わせ”程度だった要素が、いよいよこのツアーファイナルでは赤裸々に明かされる事態も発生。なんと、新たにイントロ部分が付け加えられていた「△(トライアングル)」では、限りなくKing Crimsonの「21st Century Schizoid Man」に近いフレーズが奏でられたのだから面白過ぎる。ちなみに、この曲の間奏についてはおそらくRed Hot Chili Peppersの「Can't stop」からインスパイアを受けたものと推察出来そうだ。この手の音楽的な遊び心と洒落っ気があふれるアプローチは、とにかく聴いていて楽しい。いいぞもっとやれ(笑)。
…と思っていると、カオスみの強い「蒼」の間奏では、これまた音源では若干控えめに挿入されていたNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」の超有名フレーズが、ライブだからこそのMUCCスタイルにて観衆を煽っていくことになったのだから堪らない。喰らってきたものを血肉にし、さまざまな経験もしてきた中で、MUCCは今ルーツをつまびらかにすると同時に、自分たちにしか生み出せないオリジネイターとしてのパフォーマンスを手中にしたのだと考えると、これはとても感慨深いこと。なおかつ、やはりアルバム『1997』は彼らにとって重要なマイルストーンになったと言えるはず。
『MUCC TOUR 2025「Daydream 1997」』の最後に、高らかに力強く奏でられた「Daydream Believer」の中にあるこの歌詞。それはきっとMUCCにとっての切実な現実として歌われたものに違いない。…いや、違う。何もこれはMUCCにとっての話だけにはとどまらないと捉えた方が良いのかも。永遠とは概念にしか過ぎず、命には限りがあり、明日にもまた生きていられる絶対的保障などどこにもないという現実。その連続が日々だとするならば、彼らにとってもわたしたちにとっても〈時間がないんだ〉という言葉は同じ重さを持つものとなる。でも、だからこそ。MUCCもわたしたちも、ライブという名の魂を燃やせる場所が大切で仕方ないし、愛しくてならないのだと思う。
かくして、このツアーで再び脚光を浴びることになった「1997」ではフロアに巨大サークルピットが出現し、MUCCのライブを締めくくるのに欠かせない「蘭鋳」ではクラウドサーファーも大量発生しつつ、無事に大団円を迎えてひとまず幕を閉じた『MUCC TOUR 2025「Daydream 1997」』ではあるが、最後にミヤがこのライブのとある場面で述べていた言葉もしかと記しておこう。