the dadadadysが都内10カ所というとんでもないスケジュールで対バンツアー『 (ホォリィ)モォニンググロォリィ ~ぴかぴか道中編~』を開催。すでにアルバムの発売もアナウンスされているために、そのアルバムに収録されるであろう新曲を聴けるんじゃないかという期待も高まるツアーである。
初日となるこの日のゲストはKANA-BOONという今やこの規模で観れるのが実に貴重な存在であり、それはthe dadadadysとの関係性によるものだろう。
入場に時間がかかって開演予定時刻の19時を15分ほど過ぎたあたりで場内が暗転してSEが鳴ってKANA-BOONのメンバーが登場すると、谷口鮪(vo&g)がギターを鳴らして始まったのはいきなりの「シルエット」。その超名曲もやはりこのSHELTERの距離感で聴くとすべてが近く感じられるし、それは関優梨子(ds)の力強いビートに合わせて手拍子が起こり、ヨコイタカユキ(g)と遠藤昌巳(b)もステージ前に出てきて観客の至近距離で演奏する「盛者必衰の理、お断り」もそうである。
フェスなどでは何万人もの前でライブをやっているバンドの音がこんなにもダイレクトに感じられることが、今このSHELTERでKANA-BOONのライブを観ることができているという実感になっていく。メンバーの演奏もその距離感の近さによって一層熱くなっているような感じがすると、「フルドライブ」ではダイバーも出現するという熱狂っぷりに。それはこの規模の会場での、the dadadadysの対バンツアーでのKANA-BOONのライブだからこそだと言っていいだろう。
「貞ちゃんも言ってたよ。『KANA-BOONを SHELTERに出せるのは俺だけだ』って!」
と改めてthe dadadadysの小池貞利とマブダチであることを鮪が公言すると、短い持ち時間の中でも実に珍しい「タイムアウト」が演奏されたのは、今のメンバーが全員この曲の勇壮なコーラスフレーズを歌いながら演奏することができるようになったからでもあるだろうか。もちろんそのコーラスには観客の歌声も乗っているけれど、その観客の歌声をさらに大きなものにするのはもちろん「ないものねだり」で、間奏で観客にコール&レスポンスをさせた鮪は
「貞ちゃんに『ないものねだり』もう飽きてるでしょ?」って言われたことがある。もう何万回やったかわからないくらいにやってきた曲だけど、本当にまったく飽きたことがない。それはこうやってみんなの声が聞けるから!」
とこの曲をライブで演奏し続ける理由を口にしてから、最後にthe dadadadysの名前をコール&レスポンスさせて大合唱を巻き起こすのだけれど、ヨコイが頭をブンブン振るようにしてギターを演奏していたりと、やはりこの距離感だからこそ観客の熱気がダイレクトにメンバーにも伝わっていることがわかる。
そして遠藤もまたthe dadadadysのメンバーたちと飲みに行ったりしている関係性であることを明かすと、鮪は
「前に貞ちゃんと上野の居酒屋で飲んでたら、隣のテーブルでおばちゃんふたりが飲んでて。貞ちゃんが聞こえるくらいの感じで『隣のテーブル、どっちが好き?』って聞いてきて、それが聞こえちゃってたみたいでおばちゃんたちに怒られちゃって。俺はKANA-BOONっていう看板を背負ってるし、普通に悪いとも感じてたから『ヤバい!』って思って『こいつおかしいんです。すいません!』って言って納めようとしたのに、何故か最後にはそのおばちゃんたちも貞ちゃんに『あんた面白いわね〜』って言ってた(笑)」
と居酒屋での小池が巻き起こしたトラブルと、それを収束させた小池の人間性についてのエピソードで笑いを巻き起こしながらも、
「マブダチだけどすべてを知ってるっていうわけではない。でも知らないけど『わかってる』っていう感覚はある。それが大事だと思ってる。けど友達だからって緩いのは絶対嫌だ。あいつには絶対負けないから」
と、マブダチだからこその複雑なようでいて真っ直ぐな感情を口にしてから、その気合いと衝動を鳴らす音と歌唱にすべて込めるかのように演奏された「まっさら」はそのすべてがこの会場のキャパを大きく超えるような圧倒的なスケールを持って響いていた。ここでKANA-BOONを観るとこんな風に感じるのかと。それは鮪はもちろん遠藤もまたいつもの温厚そうな笑顔とはまた違う目線の鋭さを持った表情をしていたからだろうけれど、アウトロで真っ白な光に照らされながらキメを連発していたメンバーたちはなんだか神聖なひとつの生き物であるかのように見えていた。
しかし最後はやはり笑顔で楽しく終わるように、鮪がタイトルを口にするとヨコイもゾンビのようなポーズを取る「ソングオブザデッド」が演奏され、さすがにこの客席の密度ゆえにタオルが振り回されるという光景にはならなかったけれど、だからこそロックバンド・KANA-BOONのカッコよさをこれ以上ないくらいに近くで感じることができたのだ。それはthe dadadadysというマブダチでありライバルのツアーでのライブだったからこそ。
そしてthe dadadadysがツアー初日のステージへ。サンプリングで編集されたSEが鳴ってメンバーが登場すると、小池はもちろん他のメンバーたちもそれぞれ異なる形のサングラスをかけており、小池がギターを弾きながらもいきなり暴れまくるようにしながら歌う「嵐坊」からスタートすると、
「イライラよー」
のキャッチーなフレーズでメンバーたちの歌声が重なっていく。どれだけ爆音を鳴らしていて暴れ回っていても、その中核にあるのはやはりメロディのキャッチーさであるということを感じさせてくれるオープニングである。
歌い出しから小池が指揮者のように両腕を振って観客の合唱をコントロールする「暖かい都会から」ではその合唱フレーズが終わった瞬間にダイバーが続出する。それはteto名義時代の曲が全く色褪せていないどころか、今このメンバーでさらに獰猛な形になって鳴らされているということであるし、ユニークさも持った歌詞の「ROSSOMAN」ではサビで一気にyucco(ds)のビートが加速していく。タイトルフレーズで佐藤健一郎(b)と儀間陽柄(g)のコーラスが重なっていくというのはより一層メンバー間の役割が明確化してきたということでもあるだろう。山岡錬(g)は逆にマイクスタンドすらもなく、長い金髪を靡かせながらギターを唸らせまくっているのが実にセクシーだ。
早くも演奏された新曲「GO jiGOku!!」は小池が
「地獄に行くのか、天国に行くのか!」
とタイトルにまつわるようなことを口にしてから演奏された、ハードコアパンクのような激しい演奏から一気にキャッチーになっていくという今のこのバンドらしくガラッと展開が変わっていく曲であり、それは「にんにんにんじゃ」に続いていくことによって確かにこのバンドがずっと前から持っている要素でもあるなと感じさせてくれる。その勢いは小池が歌詞を忘れてもまったく止まることなく加速していくのはその曲が「とめられない」だから。一度走り始めたこのバンドは止めることはできないのである。
小池がKANA-BOONの鮪を
「ひとりの音楽家、表現者として本当に尊敬している」
と評すると、トリプルギターによるこのバンドのアンサンブルの強さを実感させてくれるインスト曲「anthem」からそのまま「光るまち」へと繋がっていくというライブアレンジがなされるが、今の形で再録されたこの曲は完全にライブにおける爆裂曲であり観客の大合唱曲へと変貌している。
続いての新曲「rock'n'roll ぎゃる」はなんと儀間が作ったという曲で、メインボーカルも儀間が務めるという新機軸と言っていい形の曲だ。小池は「バラード」と言っていたけれど、どこかアメリカンなロックという印象が強いこの曲はこれからのバンドの可能性と広がりを感じさせてくれる。儀間が頭の上でハートマークを作るようにおどけてみせるというのもまた楽しい。
小池がアコギを弾きながら歌う「じゃじゃ馬にさせないで」は「らんま1/2」のアニメ主題歌カバーで、このバンドだからこそのロックンロールに昇華した曲であるが、そんな曲の後に小池がメンバーたちに耳打ちしたのは予定していたセトリを変えたのだろう、
「AV女優になった同級生の女の子はトリーバーチの靴を欲しがってた」
と小池のマシンガンのような歌詞が次々に発される「トリーバーチの靴」が演奏されてやはり客席では次々にダイバーが出現し、その熱狂は「kill&miss」の勇壮なコーラスの大合唱から、客席に身を乗り出すようにして歌うような「メアリー、無理しないで」の小池の歌唱へと繋がっていく。その客席の熱狂は今のthe dadadadysで演奏されるteto名義の曲たちが最高に熱いロックンロールであることを感じさせてくれる。
「この曲を作った時はオンコードとか全然わからなかったけど、リハで鮪に「オシャレなコード使うね〜」って言われた。この曲を作った時からライブにずっと来てくれてる人もいるかもしれないし、今はたまに聴くくらいっていう人もいるかもしれない」
と言って演奏された「拝啓」は、そうやって少しでも人生の中に自分たちの曲があるという人に生きていてほしいと願う曲であり、観客に支えられるようにしながら最後にそうした意味を込めたフレーズを歌う小池の歌唱と、yucco、佐藤、儀間によるコーラス、よりかき鳴らしまくるようになった山岡のギターからは確かにそうした感情を感じさせてくれる。個人的にはtetoが「dystopia」をリリースした時から聴いてライブに行くようになって、今もこうしてライブに来ている。新しく出会う人もいるだろうし、そんな人もたくさんいるはず。それはこのバンドのライブと音楽じゃないと感じられない自分の中の衝動が確かにあるから。
「KANA-BOON、ライブ観て思ったけど本当にキラキラしてるって思った。今日は星が見えるかな? 雨降ってたからな〜」
と小池が言って演奏された「しゃらら」からはロマンチックさすら感じさせるようなメロディの力を存分に堪能させてくれるような曲が続く。特に再録されてアレンジされた「らぶりありてぃ -la dolce vita-」の我々を包み込んでくれるかのようなサウンドスケープは今のこのバンドの音が持っている説得力とスケールの大きさを確かに感じさせながら、心の奥底にまで沁み込んでくる。それは新曲「吾亦紅」からも感じられるものであり、そこには間違いなく小池が持っている優しさが滲んでいる。じゃないとこうした曲は作れないし、聴いていてこんなにも沁みるようにはならないはずだ。
そうして連発されてきた新曲群の締めとなるのはツアータイトルになっている「モォニンググロォリィ」であり、激しく展開していくこのバンドらしいロックンロールだ。しかし果たしてアルバムはどんな内容になるのか、この日演奏された新曲たちを聴いたらより一層分からなくなった。でもそれはtetoの時からずっとそうだ。いつだって我々の予想を良い意味で裏切るような作品ばかりを作ってきたバンドだから。だからこそどんなアルバムになっているのかがわからなくても本当に楽しみになるのだ。
そしてライブは「高層ビルと人工衛星」でダイブと大合唱を巻き起こして終わると、アンコールでメンバーが登場するも小池が
「今日のアンコールは『これくらいの手拍子しておけば出てくるだろうな〜』って感じだった(笑)」
とアンコールのヌルさを指摘して一度捌けてから、今度は観客の大合唱に迎えられて再び登場すると、「もしもし?もしもさぁ」が演奏されて、間奏で小池がステージから消えたと思ったらなんとKANA-BOONの谷口鮪と肩を組んで現れ、鮪を無理矢理観客の上に流したり、頬にキスをしまくったりする。それは鮪も「音楽シーン唯一のマブダチ」と言っていた関係性だからこそできることであり、どこでもないこの日のKANA-BOONとの対バンでのSHELTERでのライブだったからこそ観ることができたものだ。なんだかその姿を見ていたら、小池と鮪にこうした存在がいて良かったなと思った。それは互いにメンバー脱退などの辛い思いを経験してきて、それでも前に進み続けてきたバンド同士だから。その後に最後に演奏された「朝焼け」が鳴らしていたのはこのツアーの夜明けであり、日本のロックシーンの夜明けそのものだった。
しかしそれでもさらなるアンコールを呼ぶ声は止まず、メンバーが再び登場すると小池が「これ!」と言って自身の手を差し出す。もちろん演奏されたのは「手」で、メンバーも観客も笑顔を浮かべているのを見ていたら、こんな馬鹿馬鹿しい平坦な日常がいつまでも続いてほしいと願わざるを得なかった。
それくらいに最高なツアー初日。このツアーが終わる頃にはこのバンドはどこまで進化しているんだろうか。ロックが衝動の音楽であるならば、やっぱりthe dadadadysほどロックなバンドはいないと思っている。昔からずっとそう思え続けているということは、これからもそれが変わることはないということだ。
<公演情報>
the dadadadys TOUR 2025(ホォリィ)モォニンググロォリィ ~ぴかぴか道中編~
6月10日 東京・下北沢 SHELTER
セットリスト
■KANA-BOON
1. シルエット
2. 盛者必衰の理、お断り
3. フルドライブ
4. タイムアウト
5. ないものねだり
6. まっさら
7. ソングオブザデッド
■the dadadadys
1. 嵐坊
2. 暖かい都会から
3. ROSSOMAN
4. GO jiGOku!!
5. にんにんにんじゃ
6. とめられない
7. 光るまち
8. rock'n'roll ぎゃる
9. じゃじゃ馬にさせないで
10. トリーバーチの靴
11. kill&miss
12. メアリー、無理しないで
13. 拝啓
14. しゃらら
15. らぶりありてぃ -la dolce vita-
16. 吾亦紅
17. モォニンググロォリィ
18. 高層ビルと人工衛星
EN
19. もしもし?もしもさぁ
20. 朝焼け
EN2
21. 手
<ツアー情報>
the dadadadys TOUR 2025(ホォリィ)モォニンググロォリィ ~ぴかぴか道中編~
6月14日(土) 東京・中野 MOONSTEP
共演:でぶコーネリアスEX
6月20日(金) 東京・秋葉原 CLUB GOODMAN
共演:DOGADOGA
6月22日(日) 東京・新宿 red cloth
共演:ふたりトモフスキー
6月26日(木) 東京・青山 月見ル君想フ
共演:古舘佑太郎
6月28日(土) 東京・町田 CLASSIX
共演:ルサンチマン
7月3日(木) 東京・渋谷 Spotify O-Crest
共演:ペルシカリア
7月5日(土) 東京・吉祥寺 Warp
共演:時速36km
7月8日(火) 東京・東高円寺 U.F.O. CLUB
共演:トップシークレットマン
7月10日(木) 東京・上野 音横丁
共演:dadadadys MK-Ⅱ
【チケット情報】
前売一般 4,400円 / 学割 3,400円
※ドリンク代別途
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2512619
the dadadadys TOUR 2025(ホォリィ)モォニンググロォリィ ~ぎらぎら悶絶編~
8月22日(金) 東京・渋谷La.mama
9月5日(金) 神奈川・横浜F.A.D
9月15日(月・祝) 愛知・名古屋CLUB UPSET
9月17日(水) 大阪・246 LIVE HOUSE GABU
9月19日(金) 福岡・The Voodoo Lounge
9月20日(土) 広島・4.14
9月26日(金) 北海道・札幌Bessie Hall
9月28日(日) 宮城・仙台FLYING SON
10月5日(日) 長野・LIVE HOUSE J
10月10日(金) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
【チケット情報】
前売一般4,400円 / 前売学割3,400円
※ドリンク代別
■オフィシャルサイト先行:6月30日(月) 23:59まで
https://w.pia.jp/s/dadadadysar25os/
<リリース情報>
ニュー・アルバム『+天竺』
2025年7月9日(水) CD&配信リリース
3,300円(税込)
【収録曲】
01. GO jiGOku!!
02. モォニンググロォリィ
03. ROSSOMAN -void-
04. rock'n'roll ぎゃる
05. 恥晒氏
06. ホォリィ・嫉妬
07. king of gelato
08. しゃらら -Taale Zameen Pal-
09. らぶりありてぃ -la dolce vita-
10. 吾亦紅
予約リンク:
https://thedadadadys.lnk.to/ptjcd
特設サイト:
https://dadadadys.com/10/index.html