ポストコロナに「適応する」シーンを創造するレーベルOaikoと、the cabsなどのマネジメントを担当するプロダクションであるパーフェクトミュージックによる初の共催イベント『kizuku』が、6月8日 新宿MARZにて開催された。音楽ジャンル、演奏形態に縛られず、次の音楽シーンを牽引する4組をブッキングし、これからのシーンのみちしるべを築くという意味を込めたイベントには、Cwondo、諭吉佳作/men、Mom、雪国が名を連ね、それぞれの世界観でオーディエンスを魅了していた。
最初にステージに姿を現したのは、2020年より本格的に活動を開始し、No Busesのギターボーカルとしても活躍するCwondo。DJスタイルでの彼のライブパフォーマンスは、アヴァンギャルドながら、彼の人柄を体現する実に優れたパフォーマンスだった。機材の前に立ち、冒頭からノイジーな音を掻き鳴らす。轟音がフロアを包むと、オーディエンスはそのサウンドに呼応するように頭を、体を揺らしている。不穏な雰囲気を纏いながら音を自由自在に操るその姿。飄々とパフォーマンスを続けるCwondoは被っていた帽子を振り落とすように頭を振り、オートチューンを掛けた自身の声までも音の一部として使いこなし、破壊と想像を繰り返すように、ビートを重ねていく。「Cwondoです」と自己紹介すると、フロアはさらに熱を帯びる。ノイジーな音像が鳴り響く中で、繊細な鍵盤の音色、胸に響く太いビートなど、さまざまな音を用いながら、フロアをCwondoの色に染めていく。実験的とも言える彼のパフォーマンス、巧みに音を繋げる彼のプレイにオーディエンスは熱狂し続けている。時折覗かせる彼の歌声に耳を奪われていると、「このまま続けようと思っていたけどダメでした」と口を開いた。
実はこの日、自身がいつも使っている機材を忘れてしまったという彼は機材を借りてパフォーマンスをしていることを告白。「慣れないことをやっています」と少しハニカミながら、「今日は素敵な1日ですよね?」とオーディエンスに問う。反応が芳しくなかったのか、「じゃあ、俺が上げていきますよ!」と宣言すると、機材の準備も整った模様。「(DJセットを見ながら)やってくれたね〜。あと2曲やって終わります」とオレンジ色に照らされたステージ上で、再び圧倒的なスキルと音を鳴らし始める。彼のパフォーマンスの終わりを惜しむように、オーディエンスもギアを入れて、その鳴り音に応える。変幻自在に音を操る姿は、No Busesの彼とは一味も二味も異なる不思議な魅力を放っている。冒頭から最後まで音を鳴らし続け、トップバッターの大役を果たした。
二番手として登場したのは、「未確認フェスティバル2018」で審査員特別賞を受賞して以降、でんぱ組.incなどへの楽曲提供や崎山蒼志とのコラボレーションなど多方面で活躍するシンガーソングライター・諭吉佳作/men。「始めましょう。位置についてください」とSEが流れたのち幕を開けたステージは、「pάː」からスタートした。プールを題材にした楽曲は軽快なビートと鍵盤の音色が心地いい。諭吉自身、ステージの上で心地よさそうにビートに乗っているのが分かる。数秒のSEを挟みつつ、間髪を入れず進んでいくライブ。「タイトル未定N」、「タイトル未定H/S」、「タイトル未定R」と軽快なビートを背骨に心地よく音を紡いでいく。
この日のセットリストは、既発曲を要所要所で入れ込みつつ、“タイトル未定”の曲を配置している。タイトルは未定でもその楽曲のクオリティーは流石のもの。これからどんなタイトルが付けられ、メインストリームに羽ばたいていくのか、パフォーマンスを見ているととても楽しみになる。
ずっしりとしたビートに繊細な歌声が乗る「Shì」、イントロからリスナーを諭吉佳作/menの世界観へと誘う「天性のフラストレーション」と既発曲を連続して披露すると、ジャジーな鍵盤とメロウなサウンドが印象的な「タイトル未定I/E」へと展開していく。きっと明確なスウィートスポットが存在しているのだろう。音楽を聴いている人が気持ちいいと思う音の配置をよく理解している。続く「ムーヴ」では、体が勝手にスウィングしてしまうカラフルなサウンドを提示し、ポップスとジャズが混在させた上質なサウンドでオーディエンスを魅了した。ラストまでの9曲、一度もMCを挟むことなく、音楽の力のみでライブを走り抜けたのだった。
ソロのアーティストが二組続き、三番手として登場したのは、シンガー・ソングライター、トラックメイカーとして活躍を続けるMom。ラッパーでもバンドマンでもない彼は、ふたりのメンバーを引き連れ3ピースバンド形態でステージを彩った。SEが流れると腰を揺らしながらノリノリでステージへと入ってきたMom。「ティーンエイジ≠ネイション」からライブはキックオフすると、どこか懐かしく、初期衝動にも似たサウンドがフロアを包みこむ、3ピースという、一番シンプルな形で掻き鳴らすバンドアンサンブルで一気にオーディエンスの心を鷲掴みにすると、間髪を入れず始まる「終わりのステップ」。
センチメンタルな様相を呈しながら、光るギターソロとロックサウンド。〈こんなクソ東京 全部夢だよ〉とスタートした「あかるいみらい」では、赤く光るステージの上で、地を這うような低音を響かせるベースと力強く叩くドラムの音色、そして歪んだギター、3つ音が混じり合い極上のサウンドを提示する。「kizukuってどういう意味だと思う?」とオーディエンスに問うと、自身の幸せな瞬間と嫌な瞬間について言葉にして、ライブは後半戦に突入していく。
「_____identitycrisis______」がスタートするとフロアの熱気はさらに上昇する。生楽器と同期を駆使したMomのライブ。その巧みな音像に乗るのは彼の紡ぐリリカルなリリック。桜色のスポットライトが彼を照らすと始まった「消失点{fade-out}」。語りかけるように歌唱した冒頭からギターを置き、ハンドマイクになった瞬間に訪れる、ポップな時間。ストレートな歌唱もラップもお手のものの彼が作り出す空気にオーディエンスは飛び跳ね、応えている。バンドスタイルの雰囲気をガラリと変え、勢いそのままに「“愛”と“光”のブルース!!!!!」を投下するとステージ上を縦横無尽に動き回るMom。爽やかな疾走感に乗せられて、フロアからはクラップが巻き起こる。「最後に声を出しとくか」と「イェーイ」のコール&レスポンスを楽しむと、3人でセッションを楽しみながら、ラストに「続・青春」を投下した。さまざまな表情を覗かせた極上のライブでトリの雪国へとバトンを繋いだ。
この日、トリを飾るのは2003年生まれの3人で東京を中心に活動するロックバンドの雪国。ちょうど1年前、待望の15曲入り1stフルアルバムを完成させ、今年1月リリースには1stEP『Lemuria』をリリースした雪国。早耳の音楽ファンの心をとらえ注目を集める彼らのライブは、リハーサルから袖に戻ることなく板付きの状態で幕を開けた。優しく繊細な音がフロアを包み京英一(vo/g)の歌声が響く。
「本当の静寂」からスタートすると、美しいコーラスワークとアルペジオを刻むギターの音色でオーディエンスの心を鷲掴みにする。そんな多幸感に浸っていると、掻き鳴らされる衝動的な歪んだ音色。テンポを少し上げると「あけぼの」、「ステラ」と続けざまに披露する彼ら。京のハイトーンな歌声とそれに呼応するように奏でる大澤優貴(b)、木幡徹己(ds)のベースとドラムの音色。サポートメンバーのシンセサイザー、そしてもう1本のギター、全ての音が混じり合い極上のバンドアンサンブルを奏でる雪国。木幡のカウントで口火を切った「Blue Train」、間髪を入れずワルツのような心地よい3拍子に乗せた「架空の君へ」。
1曲1曲がひとつの物語のように感じるのは、ソングライターである京の生み出す世界観の妙なのかもしれない。「ありがとうございます。雪国です。よろしくお願いします」と短く謝辞を述べると、ライブは後半戦へ突入する。エモーショナルな「真夜中」から静と動が混在する「素直な君は」、彼らは多くを語らず、その鳴り音でオーディエンスを魅了し続けている。「最後の曲です」とスタートした「東京」。日本の音楽シーンには数多「東京」と大した曲があるけれど、雪国が奏でる「東京」には悲しみや孤独が見え隠れする。その繊細な音の葉に呼応するようにオーディエンスは前へ前へとステージの近くへと足を進める。丁寧にラストまで歌い上げると、「雪国でした」とライブを閉じた。しかし拍手は鳴り止まない。再びステージに姿を現すと感謝の言葉と「6月以降は解禁づくめになると思うので」と楽しみになる言葉を重ね、「星になる話」を投下。淡々と心地よいサウンドを耳に届けると、曲の終盤、京を残し、ステージを後にするメンバー。残された彼は、ひとり歌い奏でる。その優しく温かい歌声はフロアを包み込み、その余韻が終演後もフロアには漂い続けていた。
<公演情報>
PM×Oaiko pre.『kizuku』
2025年6月8日 新宿MARZ
出演:雪国、Cwondo、諭吉佳作/men、Mom
セットリスト
■Cwondo
1. 1500
2. Sarasara
3. Sorawo
4. 16
5. Wan!
6. Me, Tanish and Panoi
7. Natural Kibun
8. Midori
■諭吉佳作/men
1. pάː
2. タイトル未定N
3. タイトル未定H/S
4. タイトル未定R
5. Shì
6. 天性のフラストレーション
7. タイトル未定I/E
8. ムーヴ
9. タイトル未定CYE
■Mom
1. ティーンエイジ≠ネイション
2. 終わりのステップ
3. あかるいみらい
4. _____identitycrisis______
5. 消失点{fadeout}
6. “愛”と“光”のブルース!!!!
7. 続・青春
■雪国
1. 本当の静寂
2. あけぼの
3. ステラ
4. Blue Train
5. 架空の君へ
6. 真夜中
7. 素敵な君は
8. 東京
EN1. 星になる話
EN2. ほしのおと