ロングラン上演中! 劇団四季ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』マーティ役・立崇なおと×ドク役・阿久津陽一郎インタビュー
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インタビュー

左から)阿久津陽一郎、立崇なおと (撮影:藤田亜弓)
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すべて見る今年4月に開幕した、劇団四季ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。言わずと知れたSF映画の金字塔を原作に、脚本のボブ・ゲイル氏をはじめとする映画の製作陣が集結し、創作されたミュージカルだ。英語圏以外では初の上演となった劇団四季版も連日大盛り上がり、チケットは来年3月公演分まですでに完売となっている(26年4月以降の公演を6月15日より販売開始)。マーティ・マクフライを演じている立崇なおと、ドク・ブラウンを演じている阿久津陽一郎に、本作の魅力や見どころを聞いた。
劇団の新たな挑戦の場に立ち会いたい
――おふたりは原作映画はもともとご覧になっていましたか?
立崇 「金曜ロードショー」で何度も観ていました。SFが特段好きというわけではなかったのですが、SFと言えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』というくらい馴染みがある。僕みたいに「いつの間にか観ている」という人も多いのではないでしょうか。阿久津さんは当時、映画館に観に行ったとおっしゃっていましたよね。
阿久津 そうなんだけど、あとから考えたらそれはPart2、3の話で、Part1の時は中学生だったんですよ。だからリアルタイムで観てはいなかったなと思い直した(笑)。ちゃんと観たのは大人になってから。ただ、この作品は映画や演劇の専門学校で教材になるほど脚本が良くできているということは知っていたので、そんなエンタメの金字塔たる作品のミュージカル版に自分が出演することになるとは、感慨深いです。

――この作品に挑戦してみよう、オーディションを受けてみようと思った理由は。
阿久津 劇団にとってターニングポイントになるんじゃないかと思ったんです。その現場に立ち会いたいというのがひとつありました。
立崇 わかります。お客さまも感じていらっしゃると思いますが、今までの劇団四季っぽくない作品なんですよね。音楽もロックですし。
阿久津 そうそう。加えて、自分のキャリアとこれからの俳優人生を考えて、どこまで自分のやりたいことを続けられるかと考えていた時期だったので、今の実力はどうなのか試せる役だなと思い、受けました。
立崇 僕は、このロックな楽曲にチャレンジするのは、自分にもいい影響を与えてくれるんじゃないかなと思いました。実際、今後の俳優人生に活かせそうな大切なことをたくさん学ばせていただいています。
阿久津 でもオーディションはなかなかハードだったな。とにかく課題に出されたセリフの量が半端なく多く、ページ数で言うと17ページくらいあって、しかも歌も丸々1曲あった。さらに僕はほかの役も受験して追加で2曲覚えなきゃいけなかったので。
立崇 しかもドクは、ひとりでぶわーっと喋るシーンが課題になっていましたからね。誰かと対話するシーンより大変……。
阿久津 でもドクという役は、この先も長くできそうな役。演じられて嬉しいです。

熱量の高い客席から感じた「目新しさ」と「変わらないもの」
――おふたりがおっしゃる「劇団四季らしくなさ」「目新しさ」は、実際に舞台に立っても感じていますか?
立崇 ディズニー作品などとは曲調がまったく違いますし、セリフの言い回しも違う。そこは僕自身、非常に勉強になっています。あと、お客さまの反応が熱いです! 僕らも熱量高く演じていますが、それ以上に皆さんが愛している作品なんだな、と……。
阿久津 面白いのは、カーテンコールってだいたい前列のお客さまからスタンディングになっていくのですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は後列の方から立っていくんですよね。あれは不思議です。きっと「前の人につられて」ではなく、皆さんがそれぞれに立ち上がって歓声を贈りたいと思ってくださるのでしょうね。あとは確実に、他の作品よりも男性のお客さまが多い。実際、幕間の休憩時間も男子トイレ対策で(一般的に観劇人口は女性の方が多く、劇場は女性用トイレの方が多い)ほかの作品より長くとっているそうです。
立崇 少し上の世代のお客さまが多いのも新鮮です。劇団内でも、あまり喋ったことのない先輩から「観たよ」と声をかけていただくことが増えました。「今もカルバン・クライン履いてるの?」とか(笑)。


阿久津 ただ「目新しさ」があるのは間違いないけれど、劇団の精神にブレはないんだなとも思いました。この10年ほどの劇団四季は、浅利慶太先生が牽引していた時代に培ったものと、新しくやろうとしていることの両輪で進んできた時間だったと思う。既存の作品だけに頼らない新たな作品の開拓、作品としての多様性を模索していた。でも実際にお客さまの反応を見ると、既存の作品も、新しくやろうとしている作品も、結局は求めていることは同じだなと感じました。つまり、劇団の精神的支柱の「人生は素晴らしい、生きるに値する」というテーマに帰結するな、と。本作もそこは同じです。
初共演で感じたお互いの魅力
マーティとドクを繋ぐもの
――なるほど。ただ、作品としてはアドリブ的要素も必要となっています。それは今までの劇団四季ではあまりなかったことだと思いますが、そのあたりの戸惑いはありませんでしたか?
立崇 戸惑いはあまりありませんでした。アドリブは、あくまで劇中でその役として生きて、そこで感じたことを瞬間的に返すものです。素っ頓狂なことをやって客席を笑わせるのではない。劇団四季としてのアドリブは決して“第4の壁”(舞台と客席、物語と現実を隔てる見えない壁を称する演劇用語)を超えないというのは絶対に必要です。
阿久津 そうだね。ドクは特に自由度が高く「何をやってもいいよ」と言われているところもありますが、作品から逸脱しないよう、いくつかの候補を自分で用意しておいて、その日の感覚でチョイスするようなことを僕はやっています。

立崇 マーティやドクにとっては日常会話の延長ですもんね。そのためには、舞台に立つ俳優たちが目指すものが一緒であることが大事だなと思っています。
――それには、舞台に立つ俳優さん同士の信頼関係も重要になってきますね。ちなみにおふたりは、これまでの共演経験は……?
立崇 ないんです。今回初めてご一緒しています。
阿久津 『アラジン』など同じ作品に出てはいるけれど、一緒になったことはないんです。
――意外です。では今回初共演して思う、お互いの俳優としての魅力を教えてください。
阿久津 立崇くんは勘がいい。こちらが「こうやりたいな」と思ったことをすぐ感じ取って反応してくれる能力がある。しかも役同士の関係性もきちんと考えた上で動いてくれるので、助かっています。
立崇 うわぁ、嬉しい。これ、ちゃんと書いておいてくださいね(笑)。

阿久津 照れていますが、本当なんですよ。稽古も実は、彼は野中万寿夫さんのドクとペアで、僕は笠松哲朗くんのマーティと組んでやっていたので、実際に組んだのは本番が初めてだった。もちろんお互いの稽古は見ていますから「こういう芝居をやるだろうな」というのは想像していたのですが、舞台は想定通りにいかないところもある。そういうところの対応が、非常にこちらが打ち返しやすい球を投げてくれるんです。色々な経験をしてきた人なんだなと感じました。

立崇 嬉しいなぁ……。阿久津さんは、何と言っても唯一無二です。僕は学生時代から俳優を目指して、たくさんミュージカルのCDを聴いていましたが、本当によく阿久津さんの歌を聴いていたんです。僕、声フェチなんですが、阿久津さんにしか出せない声があって、ずっと憧れていました。おそらく人生の中で唯一無二に憧れて、これからも憧れ続けていくと思います。しかも二枚目の役を多くやってきた方が、髪を爆発させて「マーティーーー!」と叫んでるとは思わないじゃないですか(笑)。俳優としてのお人柄、キャラクターが確立されているから、どんな役にもフィットできるんだろうな、すごいなと思います。
阿久津 ありがとうございます……汗、かいてきた(笑)。
――さて、そんなおふたりが演じている役についてもお伺いします。立崇さんがマーティ、阿久津さんがドク。演じる上で心がけていることはどんなことですか。どうしても映画のマイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイドの印象が強いキャラクターですが。
立崇 おっしゃる通り、映画のイメージがあるので、そこは無視できません。ただマイケル・J・フォックスさんに似せようとしたということはないです。あくまでも「マーティだったらこうするかな」「マーティだったらこうはしないかな」ということを考えていました。
阿久津 うん。映画があまりに有名すぎるし、ミュージカル版のクリエイティブスタッフも、映画へのリスペクトがものすごくある。それを思うと、僕たちも映画へのリスペクトはきちんと根っこに持っていないといけないし、そこから入っていくのがやりやすいと思った。その上で僕がやったのは、ドク……エメット・ブラウン博士がどういう人物かを考えることです。表面上の「奇天烈な発想をする科学者」を軸にするのではなく、人間としてどういう人なのかを考えると「信じる力」を信じている人だなと思った。だからこそ、マーティがデロリアンに乗って行った先で会った過去のドクも、現在と変わらないマインドで彼を助けた。未来への強い憧れや自分はこうありたいという信念は、過去も未来も変わらないというところが魅力的だなと思い、そこを大事に役を作っていました。

立崇 マーティとドクは「信じたいものを信じる」というところで繋がっているんですよね。
阿久津 そう。ただ苦労したのは、50年代のドクと80年代のドクの年齢の違いです。年をとったしゃがれ声を出すために、稽古場でしゃべりまくってわざと声がガラガラになるのを利用するようなこともしました。
立崇 僕は、アグレッシブさやエネルギーがないと、ふたりの間の世代を超えた友情が成立しないので、そこは忘れないようにしました。あとは「常にクールでいようとする」というのが大事だなと。マーティは実際はクールではない部分があるかもしれないけれど「クールを目指している人」。それを意識して稽古場から役を作りました。
生のオーケストラで聴くあの名曲に、舞台版で復活したエピソード……見どころは尽きない!
――この映画が大好きで、ミュージカルは観たことがないけれど、この作品なら初めて劇場に行ってみようかなと思っている方もいるかと思います。改めて、そんな方々にミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のアピールをするとしたら?
阿久津 “映画で観たあのシーン”の数々が、次々と舞台上に再現されます! ドクが透視装置をかぶってマーティの心を読むシーンがあります。ビンの蓋をあけるシーンもあります!
立崇 あれは映画ファンは嬉しいですよね! また、デロリアンの登場シーンはきっと驚いてくださると思います。僕も初めて観た時はびっくりした。

阿久津 近くで見ても、どうなっているのかわからないよね……。あとは某映画とのコラボシーンがあるので、あそこはクスっと笑ってもらえたら。それから、映画版でボツになった設定がミュージカルでは復活していたりも。これはディープなファンほどニヤリとしていただけると思います。
――具体的に伺っても?
阿久津 ではひとつだけ。冒頭近く、マーティの家のシーンがあるのですが、ビフがマーティの父ジョージにいちゃもんをつける理由が映画とは違うんです。本来は、舞台でやっている「ピーナッツバターを買い取れ」というものだったそうなのですが、映画ではボツになった。その、もともとの案がミュージカルでは採用されています。この映画の脚本はボツが非常に多いというのはファンの間でも有名な話だそうで、脚本のボブ・ゲイルさんも「映画化されるまで、42回も脚本を突き返されたよ」とおっしゃっていました。あとは今回の東京公演のために加筆してくださったシーンもあります。
立崇 「トヨタ」という言葉が追加されたり。
阿久津 過去に戻る計画を模型を使って説明する場面で、突然タイトルを叫ぶというのも日本語での上演ならではだよね。
立崇 英語だと「これで未来に戻るんだ!」という意味でドクが「バック・トゥ・ザ・フューチャー!」と叫ぶのですが、もちろんここでタイトルをコールしているという意味もある。そのまま翻訳した会話の「これで未来に戻るんだ!」だと演出のジョン・ランドさんもボブ・ゲイルさんも物足りなかったのでしょうね、思いっきりタイトルを叫ぶことになった(笑)。映画だとクリストファー・ロイドさんもカメラ目線で言う台詞ですし。
阿久津 ここは客席がシーンとしても大丈夫だから、と言われました(笑)。逆に「待ってました!」とばかりに拍手が起きる日もあるけれど。
立崇 その日によって反応が面白いほど違いますよね。
阿久津 初めて生のオーケストラで、あのオープニング曲を聴いた時も「おおっ!」となったな。「これだ!」って。あれは贅沢です。あとは僕ら世代だと、映画の劇中で使われていた80年代の洋楽がそのまま舞台版でも使われているのは嬉しい。僕、ヒューイ・ルイスは超ド真ん中世代。「THE POWER OF LOVE」を生オケの演奏で聴けるなんて思わなかった。
――逆に、映画にはなかった、ミュージカル版ならではの本作の見どころは。

立崇 僕はドクが「信じることを諦めない」と歌う「FOR THE DREAMERS」が大好きです。映画にはないシーンですが、ドクとマーティのふたりが繋がっている理由を打ち出しているナンバーだなと思う。ミュージカル版の魅力が集約されている気がします。
阿久津 僕はその少し後、マーティが恋人のジェニファーのことを思って歌う「ONLY A MATTER OF TIME REPRISE」が好きですね。時間も隔てた遠いところにいる彼女への恋慕というだけでなく、今生きていることの素晴らしさが表現され、だから帰りたい……となるところに感動する。
立崇 おっしゃる通りです……! お話を聞いてるだけで鳥肌が立ちました。このミュージカルは「あの超大作映画がミュージカルに!」「デロリアンも出てくるよ!」というのは間違いなくその通りなのですが、マーティとドクはヒーローでもなんでもなく、必死に生きている人間なんだというのが素敵だなと思います。そこを見ていただけたら嬉しいです。
取材・文:平野祥恵 インタビュー撮影:藤田亜弓
★ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』2026年4月~9月公演分のチケット先行を受付中!
受付は6月23日(月) 23:59まで!
<公演情報>
劇団四季 ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
【クリエイティブ・チーム】
台本/共同創作者:ボブ・ゲイル
共同創作者:ロバート・ゼメキス
作詞・作曲:アラン・シルヴェストリ、グレン・バラード
グローバルプロデューサー:コリン・イングラム
演出:ジョン・ランド
デザイン:ティム・ハトリー
振付:クリス・ベイリー
音楽スーパーバイザー・編曲:ニック・フィンロウ
照明デザイン:ティム・ラトキン、ヒュー・ヴァンストーン
ビデオデザイン:フィン・ロス
音響デザイン:ギャレス・オーウェン
イリュージョン:クリス・フィッシャー
オーケストレーション:イーサン・ポップ、ブライアン・クルック
ダンスアレンジメント:デイヴィッド・チェイス
ウィッグ・ヘア&メイクアップ:キャンベル・ヤング・アソシエイツ
国際アソシエート・ディレクター:リチャード・フィッチ、テイラー・ヘイヴン・ホルト
国際アソシエート・コレオグラファー:ベス・クランドール
アソシエート・装置デザイナー:ロス・エドワーズ
視覚特殊効果:ツインズFX
衣裳スーパーバイザー:ホリー・ヘンショウ
グローバルプロダクションマネージャー:サイモン・マーロウ
アソシエート・イリュージョンデザイナー:リー・コーエン
アソシエート・照明デザイナー:ティモシー・リード
照明プログラマー&英国アソシエート・照明デザイナー:クリス・ハースト
アソシエート・映像デザイナー:ダン・ライト
D3プログラマー:ダン・ボンド
アソシエート・音響デザイナー:アンディ・グリーン
音響オペレーター・トレーナー:ハヴ・パンド
プロダクション・音響エンジニア:ダン・マック
小道具スーパーバイザー:クリス・マーカス(マーカス・ホール・プロップス社)
アソシエート・ウィッグデザイナー:ルク・フェルスクーレン、マーク・マーソン
国際プロダクション・ステージマネージャー:ギャズ・ウォール
アソシエート・プロデューサー:フィービー・フェアブラザー
チーフ・マーケティング・オフィサー:サイモン・ディレイニー
【日本スタッフ】
日本語台本・訳詞:土器屋利行
音楽監督:清水恵介
ファイト・ディレクター:栗原直樹
レジデント・ディレクター:布施陽由、山下純輝
振付アシスタント:松島勇気
技術監督:栁澤学
日程:2025年4月6日(日)~ロングラン上演中
会場:東京・SMBCグループミュージカルシアター JR東日本四季劇場[秋]
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