ベジャール×歌舞伎×バレエの傑作『ザ・カブキ』東京バレエ団が新国立劇場に初登場

東京バレエ団が、20世紀バレエの巨匠、モーリス・ベジャール（1927〜2007）振付のバレエ『ザ・カブキ』を上演する。ベジャールと作曲家・黛敏郎のコラボレーションにより1986年に誕生、海外ツアーでも絶賛された同団のオリジナル作品だ。昨年秋、国内の舞台で6年ぶりの上演が実現、その反響に応えての再演だけに、より深みある、充実の舞台が期待される。

美しい和の衣裳に日本舞踊や歌舞伎の所作、演出や義太夫節、下座音楽（歌舞伎公演の舞台下手にある「黒御簾」の中で演奏される音楽）を巧みに取り入れて創作された『ザ・カブキ』は、日本を愛したベジャールの、日本文化へのリスペクトがたっぷり詰まったバレエだ。文楽や歌舞伎で知られる壮大な物語『仮名手本忠臣蔵』を題材としながら、その魅力、魂をぎゅっと２時間強に凝縮してみせる才能は、多くの観客を圧倒。大序の鶴岡兜改めから松の間刃傷の場、塩冶判官切腹の場におかる勘平の道行、さらには山崎街道二つ玉の場、祇園一力茶屋の場と名場面が次々登場するが、それは、『仮名手本忠臣蔵』のバレエ版なのかというと、またちょっと違う。

忠臣蔵の世界にタイムスリップし、そこで出会う人々やさまざまな事件を不思議そうに眺める現代の青年は、忠臣蔵の時代から遠く離れたいまの私たちを忠義の物語へとぐいぐいと導きながら、やがて四十七士のリーダーへと成長していく。ヒロインは、塩冶の妻、顔世御前。白の総タイツに打掛という独特のいでたちは、息を呑むような美しさだ。仇討ちの意志を示さぬ由良之助に、主人の無念を晴らすよう迫る姿が心に響く。現代のおかる、現代の勘平の恋とともに描かれるおかる勘平のラブストーリーも、ごく普通の若いカップルが大きな事件に巻き込まれ、落ちていくさまを見せつけられるようで、胸が痛む。さらに、狂言回し的な役割を担う伴内、ニヒルな悪役・定九郎ほか個性あふれるキャラクターたちも、バレエと歌舞伎の絶妙な融合を体現し、客席を魅了する。

男性舞踊手たちの踊りの見せ場が散りばめられているのも、大きな魅力。現代から来た青年が由良之助として生きることを決意し、仇討ちを誓う長大なヴァリエーション、エネルギッシュな男性群舞による討ち入りではベジャール節が炸裂だ。浪士たちが一斉に切腹するラストシーンの頃には、もうすっかり物語の中に没入。『仮名手本忠臣蔵』にはない場面ではあるが、あらためて、この物語の力強さに、身体ごともっていかれたような感覚に。

物語の印象を左右するのは、もちろん主人公・由良之助だ。初日と3日目に登場するのは、バレエ団の顔ともいえるプリンシパルの柄本弾。2010年に由良之助に抜擢されて以来、パリ・オペラ座をはじめとする海外の一流の劇場でもこの役で喝采を浴びてきただけあって、物語を牽引する力は絶大。今年春に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、今回の『ザ・カブキ』はその受賞記念公演でもあり、さらに魅力を増した舞台が期待される。2日目に主演する宮川新大は、昨年秋の公演で8代目由良之助として初めてこの役に挑み、その逡巡と決断を、丁寧に、嫌味なく演じて高評を得た。

ヒロイン、顔世御前を演じるのは3人のダンサー。初日に登場するのは、ゲスト・プリンシパルの上野水香だ。その類い稀な存在感をもって、古典のみならず、数々の舞台で主役を踊ってきた彼女。ベジャールから『ボレロ』を直接指導された経験を持ち、顔世御前もその代表作のひとつ。より奥行きのある演技で感動の舞台をつくり上げる。2日目、3日目の主演は、ファースト・ソリストの金子仁美にソリストの榊優美枝。ふたりともいくつもの作品で主要な役柄を任され、バレエ団の未来を担う存在だ。前回初役でのぞんだ顔世御前でも確実に観客の心を掴んだ。

東京バレエ団にとっては、東京・新国立劇場オペラパレス初登場となる公演。ベジャールが遺した、唯一無二の作品を踊り継ぐ、彼らの活躍に注目を。

＜公演情報＞
東京バレエ団『ザ・カブキ』全2幕

振付：モーリス・ベジャール
音楽：黛敏郎

2025年6月27日(金) 19:00
由良之助：柄本弾
顔世御前：上野水香

2025年6月28日(土) 18:30
由良之助：宮川新大
顔世御前：金子仁美

2025年6月29日(日) 14:00
由良之助：柄本弾
顔世御前：榊優美枝

会場：東京・新国立劇場オペラパレス

チケット情報：
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558021

公式サイト：
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/kabuki/