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深作組 ドイツ・ヒロイン三部作完結編『フェードラ-炎の中で-』――舞台初挑戦の堀井美香が喪失感と怒りを秘めたヒロインを熱演!

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堀井美香 (撮影/藤田亜弓)

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深作健太が率いる「深作組」による<ドイツ・ヒロイン三部作>の完結編となる『フェードラ-炎の中で-』が6月26日(木)〜29日(日) に銕仙会能楽研修所、7月5日(土)・6日(日) に水戸芸術館ACM劇場で上演される。6月中旬、佳境を迎えた稽古場を訪れ取材を行った。

<ドイツ・ヒロイン三部作>は、3人の女性の人生を通じて混沌の時代を描くという、深作の挑戦。『ノラ-あるいは、人形の家-』、『ルル-地霊・パンドラの箱-』に続く完結編として深作が選んだのは、ジョージア出身の女性作家でいま、ドイツで最も注目を集めるニノ・ハラシュティヴィリが2023年に発表した『フェードラ』。本作の舞台は今回が日本初演となる。

ヒロインのフェードラは、ミノタウルス退治などで知られるアテナイの英雄テーセウスの妻だが、人生の盛りを過ぎ、深い喪失感を抱えていた。そんな彼女の前に、長男のデモフォーンの許嫁で、若く美しく、反抗的な女性・ペルセアが現れる。まるで事故にでも遭ったかのようにペルセアに心を奪われ、許されざる禁断の恋へと陥ちてゆくフェードラ。そんな折、アテナイでは生きた人間を神々への生贄として捧げる太古の儀式、“ファルマコス”が復活しようとしていた……。

この日の稽古はプロローグから。能舞台で上演される本作。舞台の中央には少女の姿をした白い石膏像が立っているが、顔から胴体にかけて、薄汚れている。冒頭、時計の秒針の音が鳴り響く中で、5人の俳優たちが壇上に姿を見せる。そして、英語による演説のような声が聞こえてくるが、それはトランプ大統領の就任演説。ペルセア役の佐竹桃華が、2025年1月の就任演説で発表した「〈性別〉は、〈男性〉と〈女性〉の二つだけになる。それ以外への変更は、一切できない」と、“性”にまつわる大統領令を紹介し「〈多様性〉〈公平性〉〈包括性〉を推進するこれまでのアメリカ政府の基本方針は、すべて撤回されると宣言した」と客席に向かって語りかける。

このトランプにまつわる部分は、深作が今の日本で、日本人の手で本作を上演するにあたって、あえて付け加えたもの。本作が初演された2023年当時よりも、世界がますます混迷を極め、移民を巡る問題に解決の糸口すら見えなくなった現状に触れつつ、「ニノさんもジョージア出身の移民ですし、おそらくドイツでこの戯曲を上演するとなったら、フェードラは白人女性、ペルセアは違う人種の女性が演じることになるのでないかと思います。その違いを少しだけ日本人にわかりやすく感じていただくため」と深作はその意図を説明する。

続いて第一場。堀井美香が演じるフェードラの怒りと嘆きの独白のシーン。結婚以来、約20年にわたり、男(テセーウス)の“所有物”であったことへの憤怒とそこから抜け出そうとする強い意志。「もううんざり!」「私を取り戻そう」「私の人生は私だけのものだ」――そんな強い言葉で思いの丈を吐露する。本作でストレートプレイ初挑戦となる堀井に対し、深作の演出も熱が入る。この独白を誰に向かって届けるのか? 深作は「観客のほとんどは女性だと思います。美香さんから“共感の橋”を渡してあげてください」と語る。

続いて第三場のフェードラとペルセアが初めて顔を合わせ、言葉を交わすシーン。深作曰く「全十六場の中で最も難しいシーン」とのことで、じっくりと時間をかけて、試行錯誤を繰り返しながら構築していく。決まった段取りに見えないように、フェードラとペルセアの二人の感情を大切にしつつ、最適な位置、二人の距離感を模索する。利発で自由奔放で反抗的――それでいて、その内側にコンプレックスを抱えているペルセアと、そんな彼女に心惹かれ、揺れ動くフェードラ。繊細な二人の揺れ動く心の内が、美しく洗練されたセリフに乗って発露されていく。深作は「恋ではなく共闘。同じ志を持った仲間が見つかったような思いで」、「しっかりと目を合わせて!」と言葉に力を込める。

稽古の合間に取材に応じた深作は、本作で完結を迎える<ドイツ・ヒロイン三部作>について「時代も人生も違う女性たちを描いてきましたが、近代の女性史になっているんです。100年前のノラが男性社会から外に出て、ルルは男性社会に殺され、この『フェードラ』はギリシャ悲劇ではあるんですけど、現代劇をやっているような感覚です。女性が女性を好きになる――といっても、レズビアンを描くという意識ではなく、男性社会の中で女性たちがどう生きていくのかを描いています」と語る。

元アナウンサーで、これまで、朗読会などへの出演経験のある堀井だが、ストレートプレイへの参加はこれが初めて。深作は「念願かなって堀井さんとご一緒させていただきます。楽しみながら、苦しみながら試行錯誤してくださっていて、新しい座長、素晴らしい女優の誕生にドキドキしています」と期待を口にし「深作組らしい、とんがった過激な部分のいっぱいある作品ですが、総じて『人が人に何をできるか?』『人は人をどう愛せるか?』という部分に関しては、まっすぐな仕上がりになっていると思います」と初日に向けての手応えを口にした。

三部作の完結と、新たなヒロインの誕生、その目撃者になる機会は見逃せない。

取材・文/黒豆直樹
撮影/藤田亜弓

<公演情報>
『フェードラ-炎の中で-』

【東京公演】
日程:2025年6月26日(木)~29日(日)
会場:銕仙会能楽研修所(表参道)

【水戸公演】
日程:2025年7月5日(土)・6日(日)
会場:水戸芸術館ACM劇場

[作]ニノ・ハラティシュヴィリ
[翻訳]ドラマトゥルク 大川珠季
[音楽・演奏]西川裕一
[演出]深作健太
[出演]堀井美香
市川 蒼 白又 敦 佐竹桃華 宮地大介 加藤 頼

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/phaedra2025/

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