細田守監督「日本美術の延長線上に日本のアニメがある」 『イマーシブシアター 新ジャポニズム』で体感する日本の美意識の連なり
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左:アニメーション映画監督 細田守 右:東京国立博物館 学芸企画部長 松嶋雅人
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すべて見るNHKの超高精細映像と技術により、東京国立博物館が所蔵する貴重な文化財の世界に没入できる展覧会『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』が、8月3日(日)まで東京国立博物館 本館特別5室で開催されている。縄文土器、はにわ、絵巻、鎧兜、浮世絵、さらにはアニメまで、東博が所蔵する国宝や重要文化財を中心におさめた大迫力の高精細映像で、日本美術の歴史をたどる映像展示だ。先日、作品内に登場するアニメ映画『竜とそばかすの姫』を手掛けた細田守監督と、同展の担当者で細田監督とも親交の深い東京国立博物館の松嶋雅人学芸企画部長による対談が行われ、日本美術とアニメとの関係から、現在、細田監督が制作中の新作『果てしなきスカーレット』についてまで、さまざまな話題が語られた。
縄文土器からアニメまで日本美術の文脈をたどる
松嶋 東京国立博物館とNHKは協働し「8K文化財プロジェクト」を推進しています。このプロジェクトにより、縄文土器から浮世絵にいたるまで様々な文化財の高精細アーカイブ化が実現し、従来見えなかった細部まで研究・展示することが可能となりました。今回の展覧会では、高精細アーカイブ映像と、細田さんの『竜とそばかすの姫』をはじめとする、さまざまな名作アニメーション作品を用いた展示となっています。細田さんとは、2006年に『時をかける少女』の作品内に東京国立博物館(以下、東博)が登場して以来、さまざまな形でご協力いただいています。今日、展示を見ていただいていかがでしたか?

細田 アニメーションまで含めた形で日本美術のまとまった文脈を見ることができる機会はあまりないので、とても興味深いです。浮世絵作品などを見る機会は多いかもしれませんが、これほどまでに大きく引き伸ばした作品を大画面で見ることはなかなかないのでとてもおもしろいと思いました。
松嶋 浮世絵を高さ7メートルの大画面で引き伸ばして鑑賞する機会なんてあまりないですよね。実際に作品を所蔵している方が、間近でじっくり見ていてもなかなか気づけない部分もたくさんあるんです。だから、高精細アーカイブ化は今後の研究調査という部分では非常に大きな意味をもっていると思います。
細田 そんな素晴らしい機会にアニメーションも並べていただくのはすごいことだな、と思います。かつて、アニメーションというのは子どもが見るもの、大衆的なものと考えられていて、日本美術のような芸術的なものではない、みたいな認識がありましたから。

日本美術とアニメーションとの共通性
細田 そんな状況のなか、この展示でも見ることができますが、手塚治虫さんが平安・鎌倉時代に作られた国宝《鳥獣戯画》、高畑勲さんが12世紀に作られた国宝《信貴山縁起絵巻》と現代のアニメーションとに共通点があることを生前、言及されていました。当時、アニメーションが日本美術の延長線上にあるなんてことを考えるアニメ業界人がほとんどいなかったころです。『未来少年コナン』や『ポケモン』をたどっていくと日本美術にたどり着くなんて! 偉大なる先輩のお二人の考えが今、受け入れられていくというのはとても感慨深いです。浮世絵の絵師たちは自分たちを芸術家とは思っていなかったはずです。現代のアニメーション作家たちもそう。けれども、そのうち浮世絵師たちと同じように位置づけられるかもしれませんね。

松嶋 自分もアニメはたくさん見てきたと思うのですが、日本美術とアニメーションのつながりについてあまり考えたことがありませんでした。けれども、細田監督と出会い、映画制作で協力しながら、日本にはさまざまな美意識が連なっていっていると考えるようになり、今回のイマーシブをテーマにした展覧会に至ります。
細田 《鳥獣戯画》や、16世紀に描かれた長谷川等伯の国宝《松林図屏風》なんかもそうですが、西洋美術では決してこのような絵は描かれないと思います。動物や自然物を自分たちなりに解釈しデフォルメするという価値観は、中国の影響もあるとはいえ、日本だからできたもの。僕たちの作るアニメーションのなかにも脈々と受け継がれているように思います。そして、そんな価値観が現在、日本以外の人々に新鮮に受け止められる。僕たちが作っているアニメーションが、歴史の積み重ねの上にあるものだってことが、ようやく自覚できるようになってきたわけです。

松嶋 東博にはそんな欧米とは異なる美意識のありようが詰まっています。今回の24分間のイマーシブ映像を体験したら、日本美術とアニメーションがつながっているというのが実感できると思っています。細田監督が2021年に制作した『竜とそばかすの姫』のワンシーンも効果的に使われています。
細田監督最新作「果てしなきスカーレット」
松嶋 そして、細田監督は現在、最新作映画『果てしなきスカーレット』の制作をされているんですよね。
細田 日本国内では2025年11月21日に公開予定で、制作はまさに佳境を迎えています。『時をかける少女』以降の自分自身の積み重ね、日本のアニメーションの歴史の積み重ね、そして日本美術史の積み重ねがあってできているなと実感しています。ネタバレになってしまうので詳細をお知らせできないのですが、舞台は16世紀。《松林図屏風》が描かれたのと同じ時期で、ルネサンスの100年以上後くらいの物語です。ただ、16世紀の物語で終わってしまうと単なる歴史モノになってしまうのですが、そうではなくて現代のわたしたちにも照り返されるようなものでありたい、と思っています。もうしばらくすると詳しい情報をお知らせできると思います。
松嶋 日本の造形美の延長線上にアニメーションがあり、その最先端に『果てしなきスカーレット』がある。ということですね。
細田 上手にまとめていただきありがとうございます(笑)。実際、改めて古い時代の美術を見ていくと、古いもののようで、全く古くなんかない。いまでこそ価値があって輝いている作品もいっぱいありますよね。そういう美しいものを、この東博のイマーシブシアターの会場で座って、見て、楽しめるってなんて幸せなのだろうと思いますよ。
取材・文・撮影:浦島茂世
<開催概要>
『イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~』
2025年3月25日(火)~8月3日(日)、東京国立博物館 本館5室にて開催
公式サイト:
https://immersive-tohaku.jp/
細田守監督最新作 映画『果てしなきスカーレット』
公式サイト:https://scarlet-movie.jp/
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