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「はぐらかす」コミュニケーションが関係性を描き出す。iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』横山拓也×瓜生和成×竹田モモコインタビュー

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左から)瓜生和成、竹田モモコ、横山拓也 (撮影:藤田亜弓)

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iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』が6月27日(金)~7月6日(日) 東京・シアタートラムを皮切りに、大阪、四日市、豊橋にて上演される。作・演出の横山拓也いわく、「『楽しむこと』をガソリンにして書いた」「ラブコメディ」という。これまで社会的な問題をテーマに据えることの多かったiakuの新境地とも言える今作について、また演劇で扱われる言葉について、横山、キャストの瓜生和成、竹田モモコに話を聞いた。

ディスカッションをしながら、夫婦の距離を掴む

──稽古の真っ最中だと思いますが、稽古場の様子はいかがですか?

横山 めちゃめちゃ順調です。台本に対する見解を話し合ったり、いろんなアイディアや意見を持ち寄ったりして、すごく健全にみんなでひとつの作品に向かっていっている感覚があります。

瓜生 確かに。ただ俳優的には、セリフは覚えたけれど「誰にどこで言えばいいのか」を探っている時期なので、わりと疲れる段階ではあります。もう少ししたらただただ楽しいだけになるんですけど。

──それは、今作に限らず、稽古にはつきものの時間ということですね?

瓜生 特に、いい芝居のときにつきものの時間です。物語がしっかりしているから、役とセリフについてまっすぐ悩めるんですよね。

竹田 私も今はまだ頭の中で字を読んでいる状態。これが反射でセリフが出るようになってくると、瓜生さんのおっしゃる通り楽しくなるんですよ。

──これまでのiakuは、社会的な問題をテーマとして掲げた作品が多かったと思います。今回は一転「ラブコメディ」と銘打っていますが、横山さんがこの作品を書くに至った経緯は?

横山 これまで賞を目指してやってきたつもりはないんですが、何度もノミネートされていた鶴屋南北賞をようやく去年いただきました。また紀伊國屋演劇賞(個人賞)もいただきまして、ちょっとひとつ何か抜け出せた気持ちになったんです。それと、先日『ワタシタチはモノガタリ』(24年PARCO劇場ほか)というエンターテインメントを意識した作品を作った時、「エンターテインメントを描いていても、現代にある問題には触れているものなんだな」と思ったんです。ならば「今回はこういう問題を扱います」と大々的に言わなくても、観た方が自分に関わる問題を読み取ったり、ハッとしたりする瞬間が自ずと生まれるのではないかと。

──今回の芝居には20代から50代まで、さまざまな世代の人が集まっていますね。瓜生さんと竹田さんはある事情を抱えた夫婦を演じます。

横山 いろんな世代が出てくるけれど、結局は精神年齢というか、その人自身のパーソナリティ、個性であって、世代で分けるって実はナンセンスなのかなと思いながら作っているところもあります。

竹田 私が演じる役は娘も成人している大人ですが、すごく揺れている段階にあるんだろうなと思います。カテゴライズされることからずっと逃げているパーソナルなんだろうなと。

瓜生 きっと竹田さん自身がもつ面白さや魅力も役に重なってくるだろうなと思います。正解かどうかわからないけど、僕はふたりの関係性に高村光太郎と智恵子を思ったりもしています。

竹田 今は瓜生さんから私がどう見えているか、どうやったら関係が成り立つかをお話をしながら作っています。私にとってはディスカッションが過去イチ多い現場かもしれません。役のまだ掴みきれていない部分をみんなに補ってもらっている感覚です。

横山 稽古だけじゃなく、ランチも一緒にしてコミュニケーションをとったりしてるよね。

竹田 瓜生さんに誘っていただいて。違う劇団からやってきていて共通言語がまだないから、日常会話で作っていくしかないと。

瓜生 とにかくたくさん、くだらない話をするのがいいのかなと。お互いの家庭の話をするだけで全然違うこともあったりするんですよ。僕らが演じる夫婦も、寄り添って生活をしていたけれども、やっぱり出自が違う。でも夫婦って、そもそもそういうものだと思うんです。それをどう認め合っていくか、見ないふりをしていたことをどうちょっとずつ見ていくかを今は考えています。

横山 セリフに出てこない部分……、ここはどういう家庭なんだろうとか、なぜこの人はこんなに愛に飢えているんだろうとか、サブテキストのところをみんなで話し合ってくれて、探りながら埋めていくように人物を立ち上げています。

方言を使うことの便利さ、標準語と東京弁の違い

──「出自が違う」と言えば、お三方ともそれぞれに方言でお芝居をされていますよね? iakuには関西弁の作品も多く、竹田さんはご自身の劇団「ばぶれるりぐる」で高知の言葉を使ったお芝居をされています。瓜生さんが所属する「小松台東」は宮崎弁のお芝居を多く上演する劇団です。せっかくこのお三方が集まったので、方言で書く/演じることの効能をどう考えているか、聞かせていただけますか。

竹田 私が使っているのは幡多弁というとてもニッチな方言なんです。だから観客も、幡多弁を聞いたことのある人はほとんどいない。セリフに馴染みのない方言を使うと、紗幕効果があると思うんです。言葉自体をなんとなくぼやかして見せて、でも怒っているんだなとか、悲しんでいるんだなとか、純粋な感情だけを伝えることができる。言葉に引っ張られずに気持ちが見せられる。そこが便利だなと思っています。気恥ずかしい言葉を使う時も、方言にすればまろやかになりますし。

瓜生 宮崎弁でお芝居をやると、お客さんから「そうそう、うちもこういう閉鎖的な社会だった」とか「懐かしい」「郷愁がある」とか言ってもらえるんです。僕自身は出身が千葉で、方言はほとんどない。でも東京とはやっぱり違って、隣の人がどんな生活をしているか、どんな車に乗っているかは知っている。だから東京の高校に通うようになって、すごく解き放たれたんですよ。方言って地方に住んでいるという状況そのものを、説明せずに表現するのに便利なものだなと思います。

横山 僕は大阪で芝居をやっていた2000年頃、東京から来た青年団さん、ハイバイさん、モダンスイマーズさん、グリングさんといった劇団の俳優さんたちがものすごくうまく見えたんですね。もちろんご本人のうまさもあるけど、普段自分たちが東京で使っている言葉でしゃべっているのが大きいと思ったんです。いわゆる標準語ではなく、東京の言葉。だったら僕らも関西弁の口語でやった方が俳優のうまさがきちんと伝わるのかもしれない、と。iakuを立ち上げる時、大阪から発信するという地域性を背負う意識があったので、関西弁の芝居をやり始めました。

──今回の『はぐらかしたり、もてなしたり』で標準語を選んだのは?

横山 キャストのみんなが普段使っているのに近い言葉でやってもらいたいからです。僕は関西弁の芝居をやる時は関西出身のネイティブな人しか呼びませんし、去年『流れんな』を広島弁にして上演した時も広島出身の人を集めました。だから僕は方言にこだわるというより、俳優がいい状態で舞台に上がってほしいという動機が強いんですよね。

竹田 標準語と東京弁って違いますよね。

横山 うん、違うと思う。高校生の息子が「だる」とか「うざ」とか2文字で豊かに感情表現をする。それは標準語ではない何かですよね。

「はぐらかす」部門と「もてなす」部門の理解

──コミュニケーションをとりながら稽古を進めているというお話がありましたが、『はぐらかしたり、もてなしたり』というタイトルもまさに、コミュニケーションのことを言っていますよね。

竹田 「はぐらかす」でいうと、今回の脚本は一見ズレたコミュニケーションに見えても、この人にだけは意味が伝わっていると言うような、ちょっと複雑なテキストだなと思うんです。まっすぐにセリフを吐くのではなく、正面の人にむかってしゃべっているけど実は隣にいる人に当てている。そんな積み重ねなので、やりがいはすごくあります。

瓜生 今のその質問と竹田さんの答えによって、僕の中の「はぐらかしたり」の部分がちょっとわかった気がしました。実は横山くんに「はぐらかす」という単語を選んだ理由を聞こうと思っていたんですよ。

竹田 私は「はぐらかし」部門は大丈夫ですが、「もてなし」部門がわからないです。

横山 大人って全員、はぐらかすのが得意じゃないですか。あと恋愛のときって、自分のパーソナルスペースに入ってもらうために相手をもてなす感覚がありませんか?「はぐらかす」と「もてなす」が対極の言葉である気もして、並べてみました。

瓜生 僕は「はぐらかす」という言葉自体、あまり使ってこなかったかもしれない。でもこうして今回の作品に参加したことで、僕の語彙も増えるんです。

竹田 横山さんのセリフはしゃれているんですよ。セリフが文語体で書かれている部分もあったりして、「知っているし意味もわかるけど、口から発したのは初めて」というセリフがポンと入っていたりするんです。

瓜生 いい食器を普段使いで出すような感じ(笑)?

横山 「この言葉は熟語で伝えた方がちょっと引っかかるかな」と思ったら、普段から意識的にあえて形容詞を熟語に置き換えたりしているからかな。そのほうが考えるきっかけにもなると思って……。とすると、自分では「口語体」で発しているつもりでも、そうじゃないかもしれない。でもそんな言葉も俳優がきちんとモノにしてくれるから、違和感なく伝えられているんでしょうね。

瓜生 横山くんが書いているのは、次の現代口語なんじゃない?

竹田 新たな現代口語。

横山 そう言われると嬉しいな(笑)。

──では、最後に一言ずつ、改めて今作の魅力をお願いします。

瓜生 これまで見たことのないiakuの創作だと思います。全員がそれぞれの愛について思ったり伝えたりしている。観る方もそれぞれの愛を思い出したらいいなと思いますし、「iakuは次のステージに行ったんじゃない?」と思ってくれたらいいけど、それはまあお客さん次第……とはぐらかしてみたりして(笑)。

竹田 さまざまな経験をしてきた大人の方に観ていただきたい作品だなと思いますね。どの登場人物に心を寄り添わせながら観るかによって、いろんな角度で観られる、複雑な味わいのある作品だと思います。

横山 やたら細かい逐一の心理描写と濃度の高い会話で、とても強い人間模様が立ち上がっていると思います。なおかつ間口の広い作品になってるので、たくさんの人に見ていただけたら嬉しいです。

取材・文:釣木文恵 撮影:藤田亜弓

<公演情報>
iaku『はぐらかしたり、もてなしたり』

作・演出:横山拓也

出演:
瓜生和成(小松台東)、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、異儀田夏葉、竹田モモコ(ばぶれるりぐる)、富川一人(劇団はえぎわ)、井上拓哉、高橋紗良、小林さやか(トローチ)

【東京公演】
2025年6月27日(金)~7月6日(日)
会場:シアタートラム

【大阪公演】
2025年7月12日(土)・13日(日)
会場:吹田市文化会館 メイシアター 中ホール

【四日市(三重)公演】
2025年7月20日(日)
会場:四日市市文化会館 第2ホール

【豊橋(愛知)公演】
2025年8月2日(土)・3日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/iaku/

公式サイト:
https://www.iaku.jp/

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