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“トム・クルーズ公認声優”森川智之が満を持して新録『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』に挑む「間に合ってよかった(笑)」

映画

インタビュー

ぴあ

(c)1994 The Geffen Film Company

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トム・クルーズとブラッド・ピットというハリウッドの2大巨頭が妖艶なるヴァンパイアを演じ、現時点でキャリアにおいて唯一の共演を果たした映画である『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』。日本でも高い人気を誇る本作の新録吹替版が、6月28日(土)にBS10スターチャンネルにて初放送される。トムが演じたヴァンパイアのレスタトの吹替を担当しているのは、『アイズ・ワイド・シャット』に始まり、『ラスト サムライ』、『ミッション・インポッシブル』シリーズなど、数々の作品でトムの吹替を務め、そのクオリティの高さから“トム・クルーズ公認の声優”として、絶大な信頼を寄せられている森川智之。30年以上前に公開された名作の吹替にどのような思いで挑んだのか? 森川に話を聞いた。

【森川智之ナレーション!】『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア[新録吹替版]』作品紹介|BS10スターチャンネル

エッジのきいたキャラクターを声で表現する

――今回、人間ではないヴァンパイアという特異なキャラクターということで、普段のトムの吹替と大きく変えた部分、何か意識した部分はありましたか?

森川 役づくり的に、トムはどちらかというと、リアルな人間を演じている印象が強いじゃないですか? 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は、コスチュームもキマっていて、“ザ・ヴァンパイア”という感じで、なりきり感がすごいですよね。そういう意味では、トム自身もおそらく、レスタトというこのキャラクターをだいぶ落とし込んでやっていると思うので、僕自身もやっぱり吹替をするにあたっては、より“人外”の役柄という部分の作り込みみたいな部分を考えながらやりました。

――普段であればサラっと言ってしまうようなセリフを、あえてクセの強い感じで口にしたり?

森川 そうですね。ちょっと牙が邪魔するような感じとか(笑)、常に危険な香りのする――人間から見たらすごいエッジの効いたキャラクターみたいな感じを、声でも表現しようと思っていました。

――特に好きなシーンや印象深いシーンはありますか?

森川 冒頭の(ブラッド・ピットが演じる)ルイを吸血鬼にするくだりはすごく印象的ですよね。その後、なかなか人を殺めて血を吸うことができないルイに対して、レスタトが感情をあらわにして、ストレスを溜めながら攻めていく感じも印象的で、テーブルクロスをひるがえしたら、実はそこのテーブルが棺桶だったりして、どんどんルイを追い詰めていくシーンも好きですね。あとは、ルイとクローディアにレスタトが裏切られるシーンもすごくやりがいがありました。

――ラストの車でのシーンの突き抜けるような感じもカッコよくて印象的です。

森川 そうなんですよね。あのラストは本当にすごくカッコよくて「こうくるんだ!?」という感じで、ホラーテイストで終わるかと思いきやそうではなく、ガンズ・アンド・ローゼズの「悪魔を憐れむ歌」が流れてきて……。僕、ガンズが大好きで、公開当時も「テーマ曲がガンズだ」と楽しみにしていたんですけど、アクセル・ローズの声が吸血鬼の声みたいに聞こえて、それも相まって、また続いてほしいなと思わせるような終わり方が印象的でしたね。

トムの役者魂に火がついた作品

――今回は新録吹替版ということで、以前には鈴置洋孝さんなどがトム・クルーズの吹替をされていましたが、そういった過去のバージョンを事前に鑑賞されたことはありますか?

森川 鈴置さんのバージョンは見ていますが、他の方のものは見てないですね。鈴置さんのを見たのもだいぶ前で、印象というか、声優としての視点で見たという感じでもなくて……トムの30代の頃、ある意味で一番脂の乗っている時期であり、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という大作ですから、自分の中で普通に楽しんだという記憶しかないですね。

――今回、ファンの熱いリクエストもあって「新録版を森川さんで」となったそうですが、それを聞いたときの印象は?

森川 間に合ってよかったなって(笑)。僕が60代、70代になって「やってください」と言われると厳しいかもしれないので、今で良かったなっていうのはありますね。なので、今のうちに早く、昔の作品は録っておきましょう(笑)! 他にもいっぱいありますし……いや、冗談はさておいて、トムの代表作のひとつでもある『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』ができたということ――録音したということは、形として残るということなので、そういう意味ではすごく嬉しいですね。トムの遍歴をずっと、末席ではありますが(笑)、一緒にたどっている僕からすると、昔の作品に関われたということはとても嬉しいです。

――リアルタイムではなく、当時30代のトムの吹替をするという点での難しさはありましたか?

森川 そうですね、まだ当時、彼はプロデューサー業をやっているかいないかというぐらいの時期ですよね(※本作の公開が1994年で、初めてプロデューサーを務めた『ミッション・インポッシブル』が公開されたのは1996年)。

トム・クルーズは映画オタクなので、いろんな映画が大好きで、いろんなものにインスパイアされたり、自分に落とし込んだりとかしてきているので、そういう意味で、当時の彼の立ち位置的なものを考えながら、声を出せたかなというふうには思っています。

当時は青春スター真っ盛りじゃないですか。『トップガン』が1986年で、そこから8年くらい経っていて、まだプロデューサーはやっていないということで、おそらく、いろんなものに挑戦しようとしている時期、話が来たら挑戦するというところだったと思うんです。(『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は)その最たるものだったのかなと思います。

僕もネット上での情報でしか知らないですけど(笑)、原作者の先生(アン・ライス)が「トムはレスタトのイメージとはちょっと違う」みたいな話をしたけど、原作者自身が脚本も書いて製作に携わっていく中で、完成したら「彼しか考えられない」と大絶賛したということを考えると、トムの役者魂というものに火がついた作品なのかなと思うので、そういう部分を注視しながら見てもらうと、彼の演じた野性味がたっぷりのレスタトをさらに楽しめるのかなと思います。

レスタトとルイの関係性は“日本語”の得意なところ

――今回、ブラッド・ピット演じるルイの吹替をされた入野さん、当時10代だったキルステン・ダンストが演じたクローディアの吹替を担当した新津ちせさんと一緒に収録に臨まれたそうですが、いかがでしたか?

森川 すごく和やかでした。地下のスタジオで収録したので、なんかヴァンパイアっぽいなと思いながら(笑)。若いブラッド・ピットを入野くんが担当すると聞いていたので、それがすごく楽しみで、スタジオで会った瞬間、開口一番「ブラピだね」、「もう賢雄さん(※長年、ブラッド・ピットの吹替を担当している堀内賢雄)には言った?」とか言ったりして(笑)。「まだ言ってないです」と言うので「言った方がいいよ。『もう僕がやってます』って」とか(笑)。そんな和やかな雰囲気から始まって、前半はふたりで収録していて、途中から、クローディアのちせちゃんも入ってきたんです。

ちせちゃんも、アニメの声優もやっているので得意なのかなと思って、いろいろコミュニケーションをとりながら収録したんですけど、彼女自身、他の人と一緒にマイクを何本か立てて収録するのは初めてだというので、それはびっくりというか、「収録どう?」って聞いたら「すごいです!」という話をしてたんで、楽しみながら収録してくれていたのかなと思ったのと同時に、彼女はサラブレッドなんでね。「持ってるものが違うな」、「すごいな」と。

クローディアは、途中で自分もヴァンパイアになって、年を重ねていくけど、容姿だけはなぜいつまでも小さいままなんだ?と葛藤して、美しい大人の女性を見て、「ああいう身体がほしい…」と思ったり、喪失感みたいなものところも表現しなくちゃいけなくて、なかなか難しい役どころだったと思うんですけども、本当に素晴らしい演技力で演じられていて、逆にこちらが良いものを聞かせてもらってありがとうございますと感動しましたね。楽しかったです。

あの役を演じきるのってなかなか難しいと思うんですよね。すごく難しい役作りだと思うんですけど、そこをしっかりと冷静に、大人組と肩を並べて収録していたので、それはすごいなと思いました。仕事に対する姿勢みたいなものも見えて、彼女自身の努力の賜物だと思いましたね。

――あらためて本作を見ると、こんなにも豪華なキャストが出ていたのかと驚かされますが、森川さんから見た本作の魅力、特に吹替版で見るからこそ楽しめる部分を教えてください。

森川 そうですね。レスタトとルイとの関係性とか、ルイの心の中の葛藤みたいなものって、日本語の得意な部分だと思います。日本語って、微妙なそういう葛藤などを表現する上で、いろんなものに置き換えたりすることもできれば、端折ったり、間で表現したりすることもできるので、そういう意味で『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という映画は、より吹替に向いている作品なのかなというふうに感じています。そこは吹替ならではの楽しみ方があるのかなというふうには感じましたね。

字幕とは違って映像にも注視できるので、彼らの美しさ――本当にどこを切り取っても美しい姿を楽しんでもらいたいのと同時に、「え? こんなところにあの人が出てたんだ!」というところもたくさんありますので。

僕がびっくりしたのが、ルイが自分のお屋敷の使用人に初めて牙を立てて殺してしまうというシーンで、その使用人の女性を演じているのが、実は『ミッション:インポッシブル2』のヒロインの女性(タンディ・ニュートン)で、「え? こんなところにも!?』と思いました。

後から出てくるヴァンパイアたちの棟梁がアントニオ・バンデラスだったり、いろんなスターが出てくるのも楽しめるし、その声を誰がやってるんだ?というのは、吹替ファンならではの楽しみ方でもあるのかなというふうに思います。

――先ほど、鈴置さんの話が出ましたが、生前の鈴置さんと、トムの吹替について、特にお話しされたことは……?

森川 なかったですね。あえて、そういう話をされなかったのかどうかは分からないですけど(笑)。すごい仲良くさせていただいて、お酒を一緒に飲んだり、いろいろと芝居の話とかをしたりはしましたけど。役が被っていることは、もしかしたら意識はされていたのかもしれないですが、そういう話はしなかったですね。

『アイズ・ワイド・シャット』がターニングポイント

――トム・クルーズ作品との出会いというのは、ご自身のキャリアの中でどういうものになったと感じてらっしゃいますか?

森川 トム・クルーズの吹き替えに関して言うと、トムとは直接の関わりがないところでの、スタンリー・キューブリック監督の『アイズ・ワイド・シャット』が最初の出会いでした。僕自身、それまでアニメをやったり、洋画の吹替でもメインの役柄をやらせてもらったりして、傍から見れば順風満帆のキャリアを送っていたのかもしれませんが、当時はまだ若かったので、このまま声優としてずっとやっていけるのか?という不安はやっぱりついて回っていました。

この仕事、約束するものがないんですよ。今は仕事があっても、急になくなっちゃうかもしれないし、病気しちゃうかもしれないし、何があるか分からない。そういう不安定なところにいた中で、キューブリックが1999年に亡くなって遺作となった『アイズ・ワイド・シャット』と出会ったんです。

そのとき、トムの役作りそのものをなぞる――出来上がった役をやるというよりも、まず本読みから、トムと同じところをたどっていくという作業をして臨んだんです。そういう意味では、自分も本当に1本の映画を撮ったぐらいのエネルギーを使ったし、そのディレクションをしてくれたのが、キューブリックの助監督をしていた方で、最終的にキューブリックの映像の全ての管理をしていたレオン・ヴィタリさんだったんですが、レオンさんとずっとディスカッションをしながら、ひとつひとつのセリフを録っていって、その経験が自分の中で自信になったというか、ひとつ指針みたいなものをもらったのかなと思います。「こういうふうにひとつの作品を作っていくんだよ」という、声優としての向き合い方みたいなものを教えてもらった作品だったので、それは自分の中で大きなきっかけとなりました。

それを気に入ってもらえたのか、トムからもその後、『ラスト サムライ』などで指名をしてもらうようになりました。だから、もしあのとき『アイズ・ワイド・シャット』に出会ってなかったらどうなっていたか……。今とはまた違っていただろうと思います。

キューブリックの作品に出会って、トム自身も苦労したであろう役作りを僕もたどって、そこからトムにキャスティングをしてもらえるようになって『ラスト サムライ』に臨んで、そこで渡辺謙さんと一緒に収録させていただいたんですけど、「トムさんと会った方がいいよ」と言われて「どう会ったらいいんだろう?」と思っていたら(笑)、戸田奈津子さんとお会いして、戸田さんと仲良くなったら「私が紹介してあげるわよ」って言ってくださって……。そうやって考えると、やっぱり、自分にとって大きなターニングポイントだったなと思いますね。

取材・文:黒豆直樹

<番組情報>
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア[新録吹替版]』

6月28日(土)18時40分 BS10スターチャンネルで放送
https://www.bs10.jp/star/movie/detail/33859/

(c)1994 The Geffen Film Company