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松下洸平が語るフィンセント・ファン・ゴッホの魅力「ひたむきに描き続けた、その姿に勇気をもらっています」

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幼い頃から母の影響で絵画に親しんでいたという俳優・アーティストの松下洸平。高校時代には美術科で本格的に油彩画を学んでいたという彼が、7月5日(土)より大阪市立美術館で開幕する『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』で展覧会サポーターと音声ガイドのナビゲーターを務める。ゴッホは「思い入れのある画家のひとり」と語る彼に、その魅力と展覧会の見どころについて話を聞いた。

幼い頃から模写していたゴッホ作品の魅力

――松下さんは幼い頃から絵を描いていたと伺っています。松下さんとゴッホとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

母が絵を描く仕事をしていて、僕も子どもの頃から母に油絵を習っていたんです。いろいろな作家の作品を模写していたんですけど、その中の一枚に《ひまわり》があって。何歳だったかは正確には覚えていないですが、そこが出会いだったと思います。

本物の作品ではなく、写真を見ながらの模写だったので、筆圧や絵の具の厚みといった細かいことまでは分かりませんでした。でも写真越しに見ていても、筆づかいや絵の具ののり方は明らかに独特なものがあって、子どもながらにとても印象に残った記憶があります。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《画家としての自画像》 1887年12月-1888年2月  油彩、カンヴァス 65.1×50cm ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

――松下さんにとってゴッホは思い入れのある画家のひとりとのことですが、ゴッホのどのような点に魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。

僕は、フィンセント(・ファン・ゴッホ)は、もしかするととても感受性が豊かで、影響を受けやすい人だったのかなと思うんです。オランダからパリ、南仏のアルルと、居を移すたびに、色づかいやタッチがどんどん変化していきますし、日本の浮世絵にも大きな影響を受けていますよね。でも、どんなに影響を受けても、最終的にはちゃんと“フィンセントらしさ”があって、彼にしか描けない景色がそこにあるんです。それがすごいなと感じます。彼だけの視点で捉えた世界を、キャンバスの上にしっかりと表現できる、その力には本当に圧倒されます。

また、あれだけの才能がありながら、周囲からはなかなか理解されず、人との関係にも悩みを抱えていたようですが、それでも自分自身と向き合いながら、ただひたむきに描き続けた。その姿に、僕はとても勇気をもらっています。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《種まく人》 1888年11月 油彩、カンヴァス 32.5×40.3cm  ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

手紙に書かれたゴッホの意外な一面

――『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』は、ゴッホの作品を受け継ぎ、その価値を世に広めた家族にフォーカスしています。今回の展覧会を通して、ゴッホについて新たに発見したことなどはありましたか。

「孤高の天才」みたいな言われ方をよくされますが、その背景には家族の支えがあったということを、今回改めて知ることができました。弟のテオだけでなく、その妻のヨー、さらにふたりの子でフィンセントの甥にあたるフィンセント・ウィレムが、作品を世に広めるための活動を続けていたということも初めて知りました。フィンセントが亡くなった後、テオもすぐに後を追うように亡くなってしまい、ヨーはフィンセントの作品を必要に応じて売却することで世に広めようとするのですが、フィンセント・ウィレムの存在によって、作品を自分たちで管理することでより大切に、今を生きる人たちに届けたいという思いに変わっていったそうです。そんな家族の絆が素晴らしいと思いました。

――音声ガイドでは、松下さんがゴッホの手紙を朗読されているそうですね。

今回、フィンセントが残した手紙もいくつか展示されるので、それを朗読のような形で僕が読ませていただいています。実際に彼の言葉を声に出して読むことで、悩み苦しみながらも、自分の作るものを信じて生涯を全うした、フィンセントの思いがよりリアルに伝わってきて、とても学びの多い経験になりました。

音声ガイドには、フィンセント、弟のテオ、テオの妻ヨーが登場します。僕はフィンセントとテオの声を担当したのですが、この2人の声をどう演じ分けるかがとても難しくて。もちろん、実際に話したことなんてないですしね(笑)。あまりに演技が強すぎると作品の鑑賞を妨げてしまうので、できる限り自然に、話し方やトーンを微妙に変えることで演じ分けています。その違いを感じ取ってもらえたら、とてもうれしいです。

手紙の中には、テオの兄に対するちょっとした愚痴のようなものもあって。「誰にも理解されなくても、僕は君の作品を信じているよ。でも、あの散らかった部屋だけは何とかならないかな」みたいな(笑)。そんな、くすっと笑えるようなところもあったりします。

フィンセントというと、孤独や狂気といった面にフォーカスされがちですが、こうした手紙に書かれているようなパーソナルな部分に触れながら作品を鑑賞することで、今まで気づけなかったことや、知らなかったことを発見していただけるのではないかと思っています。

「傘を持つ老人の後ろ姿が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙」  1882年9月23日頃 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation) (purchased with support from the Mondriaan Fund, the Ministry of Education, Culture and Science, the VSBfonds and the Cultuurfonds)

――松下さんは現在、俳優、ミュージシャンとして、幅広く活躍されていますが、幼いころから美術に親しみ、絵画を学ばれていた経験が現在の表現活動に生かされていると感じることはありますか。

何事においてもそうだと思うんですが、好きだという思いがあれば、ある程度のスキルは時間をかけて練習することで身につけられると思うんです。熱意を持って学び、きちんと指導受ければ、技術は確実に向上していくと思います。でも、そこから先が本当に難しい。オリジナリティや独創的な発想は、誰かに教えてもらえるわけではなく、自分自身で見つけていかなければなりません。僕自身も美術を長く続けてきて、専門学校にも通って、ある程度のスキルは身につけることはできました。でも、「何を描くか」、「どう表現するか」というところで壁にぶつかりました。お芝居を始めたときも同じでした。舞台には立てたけど、そこから先は「まだ誰もやっていない表現をどうやって見つけるか」という旅に出る必要があるんだと思ったことを、今でも覚えています。ものをつくるということは、ジャンルを問わず、そういう探究の繰り返しなんだということを、改めて実感しています。

――最後に、来場される方に向けて、今回の展覧会を楽しむためのポイントを教えて下さい。

ぜひオーディオガイドを聴いてみてください。ただ、「この時代にフィンセントがこういう作品を描いていた」という事実だけでなく、「こんな人と出会ったことで、画風がこう変わっていったんだ」という流れまで、より立体的に感じていただけると思います。また、手紙の朗読からも、兄弟の絆、家族の絆を感じていただけると思いますので、ぜひ楽しんで頂きたいです。

取材・文:浦島茂世

<開催概要>
『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』

■大阪展
会期:2025年7月5日(土)~8月31日(日)
会場:大阪市立美術館(天王寺公園内)

■東京展
会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日)
会場:東京都美術館

■名古屋展
会期:2026年1月3日(土)~3月23日(月)
会場:愛知県美術館

公式サイト:
https://gogh2025-26.jp

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559909

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