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松角洋平×瀬戸さおり、新たな“父と娘”が紡ぐ井上ひさしの名作『父と暮せば』

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インタビュー

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左から)松角洋平、瀬戸さおり (撮影:石阪大輔)

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原爆投下から3年後のヒロシマで、生き残った自身を責め、ほのかな恋心にも蓋をして暮らす娘の前に、亡くなった父親が“恋の応援団長”として現れる。井上ひさし作、1994年初演の二人芝居の傑作が、新たなコンビを迎えてこの夏、上演される。鵜山仁の演出のもと、こまつ座公演では7組目となる親子を演じるのは、父・竹造役の松角洋平と娘・美津江役の瀬戸さおり。両者ともに「熱望していた作品」と意気込む本作について、稽古での奮闘、戦後80年の今立ち上げる思いを聞いた。

「絶対にやりたい」と思っていた役

――おふたりともにこの作品には並々ならぬ思い入れがあると伺っています。それも含めて本作への出演が決まり、稽古に入った今の思いをお話しいただけますか?

松角 私がこの作品に出会ったのは、劇団文学座に入って役者を始めたばかりの頃でした。それはオーディオCD付きの台本で、聴きながら読んでいるうちに、これほど嗚咽するとは……!と思うほど感動したんですね。これを舞台でやっているんだ、いつか絶対にやりたい!と。私は生まれが長崎、育ちが広島の隣の山口なので、ことさら惹きつけられたというのもありましたね。しかも、文学座の鵜山仁さんがこの作品を演出していることも後々知りまして、ああ、これは僕のために書かれた戯曲だなと勝手に思い込んでしまいました(笑)。さすがに年齢が若かったのでまだまだ先かなと思っていましたが、こまつ座代表の井上麻矢さんには折に触れて「いつか絶対に『父と暮せば』をやらせてください」と言っていたんです。それで3年前の舞台『紙屋町さくらホテル』に出演した時に、麻矢さんが「次、行きましょうか」と言ってくださって。なので、私はその3年前からこの作品の稽古が始まるのをドキドキしながら楽しみに待っていました(笑)。

瀬戸 私もまず最初に戯曲を読み、山崎一さんと伊勢佳世さんが出演された舞台を拝見して、その時にはもう、美津江の役をやりたい! この台詞を言いたい!と思ったんです。そんなふうに思える役に出会えることはなかなかないので、絶対にやりたいと。それから取材などで「次はどんな作品をやりたいですか?」と聞かれる度に「『父と暮せば』をやりたいです!」とずっと言い続けていたんです。今回のお話をいただいた時は本当に嬉しかったですが、それと同時に初めての二人芝居で、やりたいと思っている人がたくさんいる作品に挑むんだ……といったプレッシャーも大きかったです。

松角 今は稽古が始まって10日ぐらいかな?

瀬戸 そうですね。

松角 いろいろ問題が山積みになって来て、グラグラと揺れている時期ではありますね。想像はしていたけど、やっぱり戦争、原爆を扱った物語を表現することの難しさが分かって来て、混沌とした時間が毎日流れている感じです。僕も二人芝居は初めてで、昨日初めて粗く通してみたんですよね。そうしたら、本当にふたりしかいないんだ!ってことをあらためて実感して。

瀬戸 (深く頷いて)はい!

松角 やっぱり人間の集中力には限界があるじゃないですか。途中で、相手の台詞が入ってこなくなっちゃうんですよね。脳ミソが勝手に休んでるのかな〜みたいな(笑)。

瀬戸 本当に! 昨日初めて通してみて、この空間にふたりしかいないんだ……あっもう私の台詞か!みたいになってしまって。これが二人芝居か!と実感しましたね。

数字の重み、当時の景色・匂いをどこまで感じ、表現できるか

――ほとんどの人が戦後生まれの今、物語を通して悲惨な史実を語り伝えることは、非常に高いハードルではと推察します。

松角 そうですね。稽古に向けて準備するうえで、実際に広島に行ったり、被爆者に会ってお話を伺ったりもしていますが、原爆投下の年に亡くなった方が広島は14万人、長崎は7万人とか、地表の温度が1万何千℃とか、とても想像がつかないじゃないですか。その数字の重みをなんとか自分の中に落とし込みたいんですけどね。どうしても薄くしか捉えられない戦争や原爆のイメージを、少しでも色濃くお客様の心に残せたら、我々が今この芝居をやる意味があるなと思うので。戦後80年を迎えたこの夏に、戦争や原爆について考えるきっかけとなるような表現が出来たらなと。それは相当に高いハードルです。ふたりでどこまで出来るか……という感じですね。

瀬戸 本当に。その時の景色だったり、匂いだったり、やっぱり計り知れないものなので。どれだけ自分がその景色や匂いを感じ取れるかは、資料などで学んで、想像し続けるしかないな……と今は思っています。

松角 僕の祖父母は被爆者なんですが、直接被爆ではなく受動被爆なんですね。避難してきた方に場所を提供したり、介抱したりしたことでの被爆という形です。諫早という町で、長崎から大勢の被曝した方々が乗った列車がやって来たのを見て、「酷かったばい」と言っていました。「列車から降りた瞬間、亡くなる方もいっぱいいたな」と。

瀬戸 私は身近な人から戦争に関する話を聞いたことがなく、私も知らなかったことがたくさんあります。だからこそ、若い人たちの知るきっかけ、考えるきっかけになる舞台になればいいなと思いますね。

――広島弁の台詞に関しては、稽古の中でどのように感じていらっしゃいますか?

瀬戸 すごく難しいです。何度同じところを注意されるのか、というくらい同じところを言われています(笑)。現在の広島弁とはまた違うので、そこも難しいんですよね。いざ話すとなると違う音が出て来てしまったり、自分では合っていると思って話していても、違っていたり……。方言は、私は苦戦中です。

松角 僕は出身が近いのでそんなに苦戦はしていませんけど、今言ったように昔の広島弁なので、放言指導の方と「今はこういうふうに言う?」と話し合ったりしています。また実際に広島に行ってみまして、現地の人に「今はこの言葉、どう読みますか?」って聞いてみると、やっぱり違っていたり。「昔は言っとったかもしれんね」とか言っていましたね。とにかく戯曲の台詞に忠実にやるのみです。大変だけど、稽古は本当に面白いですよ。

届けたいのは“愛”の物語

――おふたりは初顔合わせだそうですが、父・竹造と娘・美津江に扮するお互いの姿をどう見ているのか、教えてください。

松角  本人に向かって?(一同笑)いや、美津江という役と瀬戸さんは、僕の中ではとてもリンクしています。これは美津江が変わっていく物語なので、瀬戸さんに向かって頑張れ頑張れ!といつも応援していますね。応援してる、なんて偉そうですけど(笑)。稽古では、自分の思うことをちゃんと瀬戸さんには伝えています。失礼のない言い方で(笑)。劇中の竹造は結構、失礼なことを言いますけどね。

瀬戸 ハハハ、ありがとうございます。松角さんは、このまんまです(笑)。このままで、“おとったん”(お父さん)としていてくださるから、すごく心強いですね。ちゃんと思ったことを言ってくださるし、ちゃんと向き合ってくださるので。だから私は安心して、もがき苦しんでいます(笑)。

松角 この作品の根底には戦争、原爆というものがありますが、僕が届けたいのは父と娘の、愛の物語です。もう二度と戦争を起こさないために、愛が大事なんだよと言いたい。重いテーマをなるべく明るく、でも深く伝えること。そのコントラストを強く出すことが必要じゃないかなと思っていますね。

瀬戸 戦争モノと思ってしまったら、若い人たちはどうしても構えてしまったり、足が遠のいてしまうんじゃないかなと思うんですね。でも松角さんのおっしゃるように、愛の話です。美津江が抱えているものとは違っていても、今の若い人たちも自分の中で抑えている感情があったり、どうしても一歩進められないでいる人も多いと思います。美津江も自分の本心に向き合いたくないと蓋をしてしまっていますが、今の人たちも相手とちゃんと向き合って喧嘩をしたり、恋をすることもなくなって来ている気がして……。

松角 本当にそうだね。

瀬戸 人との関わりはやっぱり大切で、それがあるからこそ前に進めるのではないかなと。だから構えずに、若い人たちにもぜひ舞台を観ていただいて、何かを考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいなと思っています。

松角 素晴らしい! 僕も同じです! まさに僕が言おうとしていたこと。(一同笑)

瀬戸 おとったん〜(笑)!

取材・文:上野紀子 撮影:石阪大輔


<公演情報>
こまつ座『父と暮せば』

作:井上ひさし
演出:鵜山仁
出演:松角洋平 / 瀬戸さおり

【東京公演】
2025年7月5日(土)~7月21日(月・祝)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2509750

【茨城公演】
2025年7月25日(金)
会場:つくばカピオホール

【山口公演】
2025年8月2日(土)
会場:シンフォニア岩国
チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2448980

こまつ座公式サイト
https://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#515

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