Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > いくつものラストシーンから本当のラストを探し出す――寺十吾×田中美里『ラストシーンを探して』

いくつものラストシーンから本当のラストを探し出す――寺十吾×田中美里『ラストシーンを探して』

ステージ

インタビュー

チケットぴあ

続きを読む

フォトギャラリー(4件)

すべて見る

Nana Produce vol.23『ラストシーンを探して』が7月17日(木)〜24日(木)、中野ザ・ポケットにて上演される。脚色・演出の寺十吾、主演の田中美里に話を聞いた。

喜劇、メルヘン、ハードボイルド……七色のラストシーン

──今回、寺十さんの発案で、名古屋を拠点に活動する劇作家の関戸哲也さんに脚本を依頼したそうですね。

寺十 以前一度ご一緒して、面白い脚本を書く人だなと思ったのでお願いしました。

──この『ラストシーンを探して』は幡ヶ谷のバス停でホームレスが撲殺された実際の事件を扱っています。その題材でドラマを描こうとする主人公・早苗が様々なラストシーンを探っていくというものだそうですが、どんな経緯でこの物語ができあがったんでしょう?

寺十 関戸くんがいくつかネタを持ってきてくれて、その中に幡ヶ谷の事件の被害者「キリちゃん」の人生を描く話と、ラストシーンがいっぱい出てくる話が別々にあったんです。「この二つを一緒にするのはどうかな?」と聞いたら、「いいっすよ」と軽く受けてくれて。

田中 私もその場にいて、この二つが面白そうだなという意見は寺十さんと一致していました。「二つ一緒にだなんて、そんなことできるんだ!」と思ったのですが、その後関戸さんがかなり苦労されたらしくて……。

寺十 ただでさえ、作品のラストシーンを決めるのは四苦八苦するんですよ。それを何本も書かなくてはいけない。最初はいろんな作品のパロディを持ってくるパターンもありましたけど、結局すべてオリジナルで作ることになりました。ラストを描くには、そこにたどり着くまでの物語も考えなくてはいけないので、1本の作品を作る期間で何本分もの人間を描く必要がある。そこはかなり悩んでいたと思いますね。

田中 でもその甲斐あって、関戸さん自身がラストシーンを必死に探している様子が伝わる脚本ができたんです。さらに寺十さんが脚色されたものを読ませていただいたら、どの登場人物も魅力的に繋がっていって、すごく面白くて。

──では、結果的には田中さんにとってやりがいのありそうな、いい台本が完成したわけですね。

田中 はい。ただ、「これ、どんなふうにやるんだろう」と最初は想像がつきませんでした。私が演じる早苗の考える物語の中に、キリちゃんをはじめいろんな人が出てきて、たくさんのラストシーンを表現してくれるんです。

──劇中劇というか、メタ的な構造の作品に?

田中 早苗の中にも複雑なものがあり、彼女の気持ちによってラストシーンが変化していく様をどう表現していくかが難しいなと。ですが、最初の本読みのとき、寺十さんが「こんな感じ」と見せてくださった演技がすっごく面白くて! シリアスとユーモアが交互に出てきて、見飽きない作品になるのではという予感を抱えながら今稽古しています。

田中美里

──選ばれた題材からして重い話なのかと思っていましたが、意外にもユーモアもたっぷり織り込まれているんですね。

寺十 ラストシーンがいくつもある中には、もちろんハッピーエンドもあれば、オチと呼ばれるような雰囲気のものもある。そうやってバラエティに富んだラストが並んでいるので、決して重いだけではないですね。喜劇、メルヘン、ハードボイルド……そういったものが雑多に入っています。まあ、あまり言うとハードルが上がってしまうけど(笑)。

田中 私自身、早苗だけではなく、ラストシーンの中に登場する役も演じるんです。寺十さんがこれまで私がやったことのない役を与えてくださるので、四苦八苦しながら寺十さんの思い描くものにどれだけ近づけるかを今課題として取り組んでいます。ラストシーンの中に登場する人たちと、苦悩して書く早苗とのバランスを探りつつ、細やかに演じていけたらと思っています。

この作品自体のラストシーンを、まさに探っている途中

──寺十さんは、田中さんの役者としての魅力をどう捉えていますか?

寺十 もう見た通り、チャーミングさの塊です。どう居ても画になる。人柄もあるんでしょうけど、いるだけで惹き込まれるような人ですよね。でも、自分をあまりもったいぶらない人なんですよ。今言ったような印象をないがしろにできる人。本当に何を言ってもやってくれる。それは俳優さんとしてとても素敵だなと思います。

田中 いや、できないと思っているからやるしかないんですよ(笑)。

寺十 早苗がでたらめに脚本を書くから様々なラストが生まれるわけで。ある意味がさつで往生際が悪い人なんです。それは田中さんの今までのイメージと違いますよね。

田中 私は声質もあって、柔らかい印象になりがちなんです。でも早苗はそういうイメージではない。だから声を低く出したり、語尾を長く伸ばさなかったり、そういうところから取り組んでいます。

──声って大事なんですね。

寺十 大事ですよ。声色の中にいろんな情報があるので。だから立ち稽古に入っても、声だけ聞くことがありますよ。動きを見ちゃうと、なんとなく雰囲気が出てしまうから。

田中 本読みで今までやったことのない登場人物を読む時に、あるアニメキャラクターみたいに、と指示してくださったんです。だから私、そのキャラクターの名場面集みたいなのをひたすら見て声を真似していたら、喉をつぶしちゃったりもしました(笑)。

──その、一直線にやりすぎてしまう感じは早苗と重なる部分がありそうですね。

寺十 確かにそうですね。

寺十吾

──最後に劇場へお客さまの背中を押していただける一言を。

田中 この作品がどんなふうになっていくか、自分でもワクワクしています。それが観てくださる方にも伝わるんじゃないかと思います。きっと、結果を知った後に何度も観たくなる作品になると思います。

寺十 人のラストって、死じゃないですか。その日を迎えたとき、自分はどうやってきたか、それをどう自分の中で落とし込んできたかを考えさせられたりする。どんなラストであっても、その人の生きた証は残る。だからこの作品を観たら、ずっと忘れていた誰かとか、大事な人の死を思い出したりして、悲しんだり残念がるだけではなく、その人の生を思うことができるはずなんです。キリちゃんという一人の女性、もしくは早苗の生き方を通して、そんなことを思ってもらえたら嬉しいです。……実は、この作品のラストはいまだ探している途中なんですよ。

──そうなんですか!?

寺十 もらった脚本に数行の空白があって。もちろん関戸くんからはいくつか案が出たけれども、この際現場のみんなで探そうかということになって。そこまでの過程を作っていって、ようやく見える言葉もあるかもしれないから。今からこの作品がどんなラストシーンにたどり着くか、僕も楽しみなんです。

取材・文/釣木文恵

<公演情報>
Nana Produce Vol.23 『ラストシーンを探して』

日程:2025年7月17日(木)〜24日(木)
会場:中野 ザ・ポケット

[脚本] 関戸哲也(空宙空地)
[脚色・演出] 寺十吾(tsumazuki no ishi)
[出演] 田中美里 浜谷康幸 お宮の松 葉山 昴 増田有華 大久保祥太郎 納谷健 朝日小晴 渡部竜生 高好竜之介 ゆうり/泉知束

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/lastscene/

フォトギャラリー(4件)

すべて見る