Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 【レポート】その恋は必然だった、関西弁のロミジュリふたたび『泣くロミオと怒るジュリエット2025』開幕

【レポート】その恋は必然だった、関西弁のロミジュリふたたび『泣くロミオと怒るジュリエット2025』開幕

ステージ

ニュース

ぴあ

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

続きを読む

フォトギャラリー(15件)

すべて見る

2025年7月6日に舞台『泣くロミオと怒るジュリエット』が東京・歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaで開幕した。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の物語を戦後の関西の港町に翻案し、2020年に初演して好評を博した作品の5年ぶりの再演となる。前回に引き続き、キャストはすべて男性というオールメールでの上演となり、ロミオとジュリエットは桐山照史と柄本時生が続投する。作・演出は『焼肉ドラゴン』や舞台『パラサイト』などを手がける鄭義信。自身のルーツをもとに古典劇と織り交ぜ、笑いと涙に満ちたエンターテイメントとして現代へと提示する鮮やかな作品だ。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

終戦から5年。港町ヴェローナに、田舎からひとりジュリエットが兄を頼ってやってくる。工場に囲まれた灰色の景色のなか、どことなく明るい関西弁が寂しく響く。ジュリエットの兄・ティボルト(高橋努)は、この町で抗争を繰り広げる愚連隊“キャピレット”のリーダーだ。敵対するもうひとつの愚連隊“モンタギュー”を「三国人」と呼んで目の敵にしている。その片足は、戦争によって失われていた。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

一方、“モンタギュー”の元メンバーだったが更生してまじめに働くロミオ。小さな頃からこれまで、親友のべンヴォーリオ(浅香航大)とマキューシオ(泉澤祐希)と3人で肩を寄せ合って生きてきた。彼らにとって、ダンスホールで騒ぎ踊ることが、見えない明日を考えずにすむ唯一の気晴らしだ。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

ジュリエットとロミオは、原作と同じように会ったその日に恋に落ちる。生涯を誓うほどの激しい恋。しかしそれは瞬間的に燃え上がる一目惚れのようなものというよりも、少なくともロミオにとっては、戦後の焼け野原で見つけた唯一の明日への希望だった。ただ今日を乗り越えるだけだった灰色の日々のなかではじめて「明日、楽しいことがあるかもしれない」「その次の明日は、こんなことがしてみたい」と未来を思い描くことができたのだ。真っ暗な日々のなかで「可能性」という兆しを与えてくれたジュリエットは、ロミオにとって生きる意味そのものだろう。きっと、この恋は必然だった。桐山のすがりつくようにも見える視線が印象的だ。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

ロミオだけではない。この町では、誰も彼もが傷ついていた。ティボルトの自暴自棄なほどの攻撃性の裏にある苦しみは、おそらく戦争から帰還した男たちのほとんどが抱えるものだろう。ロミオたちが慕う東洋治療所のローレンス(渡辺いっけい)もまた、過去を抱え、だからこそ若者に希望を見いだそうとしている。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』という作品は、さまざまなメディアで形を変え上演されてきた。今回の舞台では、ミュージカル『ロミオとジュリエット』や『ウエスト・サイド物語』を彷彿とさせるシーンがちりばめられている。設定は戦後港町で全編関西弁という異色の翻案だが、“ロミジュリ”を愛する人が楽しめる演出となっている。

しかし過去の作品と比べてもうひとつ特徴的なことが、登場人物それぞれの背景や選択が、戦争という大きなものによる影響を大きく受けている点だ。戦争により、モンタギューとキャピレットは互いを憎まざるを得ない。そのなかで名前を持つ一人ひとりの個人を物語りながら、大きな社会構造を描き、その構造が個人の人生に返っていく脚本は、すべての人物の行動に説得力をもたせていた。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

同じく現代において、国籍差別や家庭内暴力をたどればそれは戦争の影響を強く受けているということがある。今を生きる私たちは戦地へは赴いていないけれど、戦争による負の連鎖のなかに生きているのだ。ロミオ、べンヴォーリオ、マキューシオといった若者たちもまわりの大人たちに翻弄されていく。彼らの三者三様の生き方と選択は、「戦後」という時代を生きなければならない現代の私たち世代と重なっているようにも見えた。

今作は、登場人物はほぼ男性で、女性はジュリエットと彼女の兄の恋人ソフィア(八嶋智人)だけである。ふたりはこの物語の至るところで、タイトルのごとく怒っていた。男たちが戦場という舞台で戦い傷ついている一方で、その舞台にはいない女たちは、ときに芝居として軽やかに笑わせながらも、さまざまな場面で怒り続けていたのだ。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より

出演者はシェイクスピアの時代と同じくオールメール(すべて男性)で上演されているため、舞台上には男性しかいない。その舞台の外では今も、国籍をめぐる差別や、戦争についてのデマに対してさまざまな人が怒りの声をあげ続けている。その人々に本作が届けば大きな希望になるのではないか。そう思えるほど、冒頭からカーテンコールまで通してこの作品は、対立に抗う未来への祈りに満ちているように感じた。

『泣くロミオと怒るジュリエット2025』より


取材・文・撮影:河野桃子


★桐山照史さん&柄本時生さんのインタビュー掲載中!


<公演情報>
Bunkamura Production 2025
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』

作・演出:鄭義信
出演:
桐山照史、柄本時生、浅香航大、泉澤祐希、和田正人、
中山祐一朗、朴勝哲、高橋努、市川しんぺー、八嶋智人、渡辺いっけい

久具巨林、嶋村昇次、鈴木幸二、十河尭史、田口太智、長南洸生、西村聡、羽鳥翔太、平岡亮、森野憲一

【東京公演】
2025年7月6日(日)~7月28日(月)
会場:THEATER MILANO-Za

【大阪公演】
2025年8月2日(土)~8月11日(月・祝)
会場:森ノ宮ピロティホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/rj2025-milanoza/

公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_romeo_juliet/

フォトギャラリー(15件)

すべて見る