10代から国際舞台で活躍するピアニスト奥井紫麻のリサイタルは必聴
クラシック
インタビュー

©Evgenii Evtiukhov
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すべて見るピアニスト・奥井紫麻(しお)は2004年生まれ。12歳からロシアで学び、ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団やスピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトゥオージ室内管はじめ国内外のオーケストラと共演を果たしてきた逸材だ。
取材前日に誕生日を迎えて21歳になったばかりの彼女に、夏の東京Hakuju Hallでのリサイタルについて聞いた。
「7歳の時に母親と一緒にチャイコフスキー・コンクールを聴きに初めてモスクワを訪れました。優勝したダニール・トリフォノフさんの演奏に感激して。いつか自分もあんなふうに演奏できたらいいなと思っていました」
東京・月島の出身。ピアノを始めたのは5歳の時。きっかけは3歳から続けていたバレエだった。自身もバレエ好きだった母親から、音楽のことを知っていたほうが、踊りも表現しやすいだろうと勧められた。習い始めてみたら譜読みが楽しくて、新しい曲を勉強するのが好きだったそう。
やがてバレエよりもピアノを選んだ彼女は、日本で教鞭をとっていたエレーナ・アシュケナージ(ピアニスト・指揮者のウラディーミル・アシュケナージの妹)に師事。小学校を卒業する直前の2月にモスクワに渡り、モスクワ音楽院付属中央音楽学校を経てグネーシン特別音楽学校でタチアナ・ゼリクマンに学んだ。
「最近は音楽の世界もグローバル化しているのでロシアだけに限定されるというわけではありませんが、いわゆるロシア・ピアニズムというのは、あえていえばピアノをよく鳴らすこと、そしてすみずみまで歌うことだと思います。ラフマニノフやチャイコフスキーの作品を聴いていても感じると思うのですけれども、ピアノでもヴァイオリンでも、人の声で歌っているかのような弾き方。それがロシア・ピアニズムのなごり(笑)です」
2023年にグネーシンを卒業後は、国際情勢も考慮してロシアを離れ、現在はジュネーヴ高等音楽院でネルソン・ゲルナーに師事している。
「ゲルナー先生の演奏が好きなんです。音楽に真摯に向き合っているのが演奏からも伝わってくるのを感じます。バロックから近現代まで広くレパートリーにされているので、いろいろな勉強ができるだろうと思いました。今は、より自然な身体の使い方でピアノの音を引き出すことを教えてくださっています。どの会場のピアノでも自分の求める音が出せるように。腕や肩の使い方だったり、指の重さの感じ方だったりですね」

8月のリサイタルの曲目は、ショパンの《ピアノ・ソナタ第3番》、リストの《メフィスト・ワルツ第1番》、ラフマニノフの絵画的練習曲《音の絵》抜粋。好きな作曲家3人の、好きな作品、自分のものにしていきたい作品を選んだ。
「この3人は、私がプログラムを考える時に、いつも選択肢に挙がる作曲家です。それぞれの個性、音色やハーモニーの違いを楽しんでいただけたらなと思っています。
3人とも作曲家でありピアニスト。ピアノのことをとてもよくわかっているので、作品の中に、ピアノの良さ、ピアノだからこそ表現できる音楽があります。
ショパンは私にとってはピアノ・マニア。ピアノでできるあらゆることを試しているような印象があります。《ソナタ第3番》は2020年に初めて勉強して、そこから何度かプログラムに入れています。大好きなショパン作品のひとつです。
リストは自身がヴィルトゥオーゾなピアニストだったので、技巧的な面をより強く出してくる作曲家です。華やかで超絶技巧を駆使するような、聴く方にとってもわかりやすい作品が多いと思います。今まで《ダンテを読んで》や《ピアノ・ソナタ》を弾いてきたのですが、より華やかな曲もレパートリーに持っていたいなと思って、《メフィスト・ワルツ》を、今回初めて弾きます。
ショパンとリストの特徴のどちらも持っているのがラフマニノフ。音楽がダイナミックで弾いていて楽しいですし、そこにさらに、ロシア的でロマンティックなメロディやハーモニーが加わります。じつはモスクワのゼリクマン先生のもとではラフマニノフよりもスクリャービンをたくさん勉強していました。ラフマニノフは手の大きさや体格が成長してから取り組むほうがいいということもあったので、最近やっと、前奏曲や、この練習曲などを弾き始めたところです」
ちなみに今は、指を広げるとピアノの鍵盤で10度、ぎりぎりなら11度届くという彼女。指が長く柔らかいのだろう。
「せっかくヨーロッパを拠点にしているのだから、さまざまな人に知ってもらうために、国際コンクールにもどんどんチャレンジしていきたい」と、将来も見据える彼女。さらに大きく羽ばたいていくのはまちがいない。
取材・文:宮本明
奥井紫麻 ピアノ・リサイタル

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2559594
8月1日(金) 19:00開演
Hakuju Hall
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