ヴィオラの圧倒的な美味しさがここに 「無伴奏の世界 川本嘉子」
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すべて見るたったひとつの楽器だけでコンサートが終始する「無伴奏の世界」。この究極の緊張感と最高の技量が求められる魅力的なイベントの第4回は、日本を代表するヴィオラ奏者、川本嘉子の登場だ。
プログラムは、川本嘉子がかねてより取り組んできたJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」ヴィオラ編曲版(第1番、2番、6番)を軸に、細川俊夫のヴィオラ独奏のための『《私を泣かせてください》(ヘンデル)』、西村朗のヴィオラ独奏のための『《鳥の歌》による幻想曲』。そして、権代敦彦の、ヴィオラのための『テロス』の3曲を挟み込むという、とても興味深い内容だ。これはまさに、ヴィオラという楽器の魅力を世に知らしめるプログラムであるとともに、ヴィオラ好きのオタク心を強烈に揺さぶる内容に違いない。
なにしろヴィオラという楽器は、弦楽器の花形であるヴァイオリンとそっくりにして、演奏姿勢の全く違うチェロの間に挟まれた微妙な存在だ。オーケストラにおいても、配置によっては、“どれがヴァイオリンでどこがヴィオラなのかよくわからん”という、初心者からの感想が聞こえてくるほどなのだからややこしい。しかし侮ってはいけないのがヴィオラだ。ヴァイオリンよりも5度低い音を出すことを目的としたこの楽器の低音の美しさはまさに破格。実は、ヴァイオリンとチェロの間に存在する最も美味しい音域を奏でる楽器がヴィオラなのだ。マグロに例えてみれば、赤身と大トロの中間に位置する中トロの味わいこそが、ヴィオラの美味しさだと知ってほしい。
今回の主役たる川本嘉子は、その美味しさにいち早く気付いたひとりに違いない。
「子どものころから、競争、競争のヴァイオリンの世界で生きてきましたが、桐朋学園大学時代に、音楽に没入出来るヴィオラの世界を知り、“私はこちらの世界でも生きてみたい”とヴァイオリンとヴィオラを両方持って大学に通っていました。本格的にヴィオラに転向したのは東京都交響楽団に入団した折です」
という彼女の言葉からも、その魅力に気付いた気配が伺える。
「今回のバッハのプログラムについては、私はチェロの曲はヴィオラの曲と考えています(笑)」。
という発言からは、“マグロを味わうには、断然大トロよりも中トロでしょう”、という考えが透けて見えるように思うのは考えすぎだろうか。
なにはともあれ、ヴィオラの魅力ここに極まれリ。今が旬にして、極めて鮮度の高い川本嘉子のヴィオラをぜひご賞味あれ。
第4回 無伴奏の世界 川本嘉子(ヴィオラ)

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2510145
9月18日(木) 19時開演
浜離宮朝日ホール
曲目
細川俊夫/ヴィオラ独奏のための《私を泣かせてください》(ヘンデル)
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第1番 ト長調 BWV1007
西村朗/ヴィオラ独奏のための《鳥の歌》による幻想曲
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第2番 ニ短調 BWV1008
権代敦彦/《テロス》ヴィオラのための
J.S.バッハ/無伴奏組曲 第6番 ニ長調 BWV1012
●川本嘉子(ヴィオラ)Yoshiko Kawamoto/Viola
3歳よりヴァイオリンを始める。桐朋学園子供のための音楽教室、桐朋女子高等学校音楽科を経て同大学を卒業。これまでに、ヴァイオリンを江藤俊哉、鈴木愛子、室内楽を末吉保雄、原田幸一郎の各氏に師事。1991年、東京都交響楽団への入団をきっかけにヴィオラに転向。1999年より2002年退団まで首席奏者を務めた。アメリカのタングルウッド音楽祭、マールボロ音楽祭、スイスのダボス音楽祭などのほか、サイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団、アルゲリッチ音楽祭等にも定期的に参加し、マルタ・アルゲリッチやユーリ・バシュメットなど世界一流のソリスト達と共演し絶賛を博している。ソリストとしては、これまでにガリー・ベルティーニ、ジャン・フルネ、ペーター・マークなどの著名な指揮者と共演。CDは「J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェロのためのソナタ」「シャコンヌ 無伴奏ヴィオラ作品集」等をリリース。1989年東京国際音楽コンクール室内楽部門優勝(イグレック・クァルテット)。1992年ジュネーヴ国際音楽コンクール・ヴィオラ部門で最高位(1位なしの2位)、1996年村松賞、1997年第7回新日鉄音楽賞・フレッシュアーティスト賞、2015年東燃ゼネラル音楽賞・奨励賞の各賞を受賞。2017年より2021年3月までNHK交響楽団の首席客演奏者を務めた。京都アルティ弦楽四重奏団、AOI・レジデンス・クヮルテットのメンバーとしても活躍。小澤音楽塾、愛知室内オーケストラでは弦楽器アドヴァイザーとして、後進の育成にも積極的に力を注いでいる。類稀なる表現力とテクニックで聴衆を魅了し、日本を代表するヴィオラ奏者の1人として常に第一線で活躍している。
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