異なりながらも重なる物語──Base Ball BearとPEDRO、3ピースバンド2組の歴史が交差した一夜【オフィシャルレポート】
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<StoriAA> Base Ball Bear、PEDRO @渋谷・Spotify O-EAST Photo:Takeshi Yao
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すべて見る「参加するアーティストとオーディエンス一人ひ一人の心に新しい『物語』が生まれるような体験を提供する」というテーマを掲げ、今年ローンチしたライブシリーズ『StoriAA』。その最新回はBase Ball BearとPEDROの2組によるツーマンライブ、3ピースバンドとして唯一無二のストーリーを描き続けている両者が渋谷・Spotify O-EASTにて相見えた。呼吸を感じとり、単に互いの音を補い合うのみならず、時には衝突させながら転がり続ける光景がそこにはあった。

PEDRO
雨に濡れた道玄坂を駆け上がって入場すると、無人のステージに3人の機材が横並びでセットされている様子が目に入った。全国9都市に及んだライブツアー『LITTLE HEAVEN TOUR』の千秋楽を7月の頭に沖縄で行い、バンドとしての身体が最高潮に温まっている状態でのツーマンに期待は高まるばかりだ。
開演時間を迎え、微笑みを携えながら登場したアユニ・D。「ラブリーベイビー」から幕を開けると、ステージ上の3人が眩く照らされると共に、この瞬間を見届けるために集まったオーディエンスの晴れやかな表情がそこかしこでハジけている。骨のあるベースに田渕ひさ子のギター、そしてゆーまおのドラムスと鈍いアンサンブルからオーダーメイドの花束のような言葉が飛び出てくる。「今日という名のめでたい日に愛を込めて!」という一言からシームレスに放たれた「祝祭」、張り上げるようなサビの歌唱でリスナーの心を引っ張り上げる「感情謳歌」とバンドの快調っぷりが伝わる。

バンドのパンキッシュな側面が強調されたのは中盤。歪んだベースラインが鳴り響く「万々歳」では演奏のボルテージが高まると共に、生活の中で出くわす弱音が等身大で歌われていく。背丈よりも高いORANGEのアンプから容赦無い重低音を放つアユニ・D、過激なサウンドと実感を伴った生活が繋がるスリリングな瞬間こそPEDROの真髄だ。両翼に構えた“人生の先輩”も見守るのではなく、食い破るほどの勢いで音を畳み掛けていく。

ノンストップで演奏を続けるPEDRO。「吸って、吐いて」を終えると、MCでアユニ・Dは共演のBase Ball Bearと田渕ひさ子の浅からぬ縁に触れつつ、「バンドを続けていると色んな奇跡や革命が起きて、色んな歴史が積み重なって、今日みたいに交わり合う日が来ると思うと感慨深いです!」と述べ、少しトーンを落とした「hope」に繋げた。逆光に照らされたアユニ・Dが儚く歌う様にフロアが息を呑む。

PEDROが舞台の上にいて、その喜びをアユニ・D自身が誰よりも謳歌している。「春夏秋冬」の《違う人間が違うまま力を合わせることができたなら/きっといい気分になるかもしれないわ》という一節が、横並びで音を紡ぐ3人の力強さにオーバーラップして聞こえた。現代のモードを高らかに告げる「アンチ生活」を投下すると、満足そうにバンドはステージを去った。

Base Ball Bear
横並びのセットでオーディエンスと対峙したPEDROの出番が終わり、ステージ上のフォーメーションが三角形へと組み替えられる。Base Ball Bearと夏、その相性の良さはリスナーなら当然のように承知しているだろう。歓声に押されながら登場すると早速「17才」に開放的なコーラスが印象的な「BREEEEZE GIRL」と完璧な形で期待に応え、Spotify O-EASTに涼やかな風が吹き抜ける。

小休止となったMCで小出は、以前実現することができなかったというPEDROとの共演を<StoriAA>で果たせたことに喜びを述べた。同時に意識するのはサポートとしてバンドに招き入れたこともあるの存在、「今日鳴っているギターは田渕ひさ子と俺しかいないじゃないですか……非常にプレッシャーです」と本日の裏テーマ(?)とも呼べる対比関係を明かした。熟達のグルーヴで音のレイヤーを重ねていくBase Ball Bear、「SCHOOL GIRL FANTASY」での高速カッティングを交えたギターソロは正にシグネイチャーだ。

バンドの主題として長らく示されていた「青春」という二文字、その色濃さを感じさせるような名曲がセットリストに並ぶ。終盤のMCでPEDROの未来にエールを送り、「正気を保ちながら茨の道を歩む」というバンド人生を肯定する様には、先輩を引き受けて独立独歩を選ぶ強固な意思が滲んでいた。PEDRO、ひいてはアユニ・Dが青春の真っ只中にいるとするならば、Base Ball Bearはその青春をシャーレに乗せて多角的に観察しているようだ。

久方ぶりの演奏でイントロからボルテージを高めた「LOVE MATHEMATICS」、そしてバンドのアイコン的楽曲として歴史を並走してきた「Stairway Generation」と『(WHAT IS THE)LOVE & POP?』期のアッパー・チューンを畳みかける3人。《孤独という名の風邪/19で終わりじゃないのかい?》という、バンドによって幾度となく歌われてきたラインにさえ、生活と青春が表現の根に張られている3ピースバンド同士の対比と並置によって、一段と意味を持って聞こえてくるから驚きだ。紡いできた線の太さを誇りながら、熱狂のショーは幕を閉じた。

2025年7月16日の時点で、PEDROとBase Ball Bearがどのように異なり、そして交わっていたのか。ノンフィクションで映し出されたバンドの半生、その実態は道玄坂を駆け上がってライブハウスへと訪れた者の中で呼吸を続けるだろう。アンコールでBase Ball Bearが披露した「祭りのあと」を堪能しきり、満面の笑みで湿気混じりの街へと繰り出していく観客たちを眺めながら、この物語の尊さにそういう想いを馳せざるを得なかった。
Text:風間 一慶 Photo:Takeshi Yao
<公演情報>
『StoriAA』7月公演
2025年7月16日 東京・渋谷 Spotify O-EAST
出演:PEDRO / Base Ball Bear
<次回公演情報>
『StoriAA』9月公演
2025年9月13日(土) 東京・渋谷 LINE CUBE SHIBUYA
出演:KIRINJI / 小山田壮平 / 柴田聡子 / MIZ
料金: 前売 5,000円 / U-22チケット 3,500円
https://w.pia.jp/t/storiaa-0913/
■『StoriAA』公式サイト:hhttps://storiaa-live.studio.site
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