フィリップ・ンが分析。『スタントマン 武替道』は「アクション映画に対する哲学を描いた映画」
映画
インタビュー

フォトギャラリー(9件)
すべて見る香港映画界で自身の信じる道を進む男たちの姿を描いた『スタントマン 武替道』が25日(金)から公開になる。本作には俳優、アクション監督でもあるトン・ワイ、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のテレンス・ラウらが出演。
さらに、『トワイライト…』で気功術を操り主人公の前に立ちはだかるウォンガウを演じたフィリップ・ンが出演。自身も俳優であり、アクション監督、武術家でもある彼は本作を「アクション映画に対する哲学を描いた映画」だと語る。
香港アクション映画は世界中を魅了する傑作を数多く生み出してきた。しかし、その裏側には数々の葛藤やドラマがある。本作の主人公サム(トン・ワイ)は80年代にアクション監督として映画界で活躍したが、撮影中の事故の責任をとって映画界を去っていた。しかし、旧友の映画監督から新作のアクション監督を打診され、現場に復帰する。
ところが時は流れ、アクション映画に対する考え方、スタントのやり方、現場の進め方は大きく変化していた。すべてを犠牲にしても迫力のあるアクションシーンを撮りたいサム、安心・安全を重視する現代の映画人たちは衝突する。映画は完成するのか? 男たちは自身の信念を新作にぶつけていく。

本作でフィリップ・ンが演じたのは、人気アクション俳優のワイ。自分のアクションチームを率いる大物で、時にサムと対立するが、ワイにはワイの考えや哲学があり、単なる“イヤなやつ”や敵ではないのがポイントだ。
「そうなんです。彼は甘やかされたカンフースターではあるのですが決して悪い人物ではありません。ワイもスタントマン出身ですから、スタントマンの置かれている立場や状況がよくわかっているんです。そして彼のアクションに対する考えは、私と同じです。つまり、アクションというのは何よりも“安全が第一”ということ。アクションのすごさだったり、効果だったりは安全あってのことだと私は思っています」
だからワイは危険なアクションはやろうとしないし、迫力が増すことがあったとしても少しでも危険なら撮影方法の変更を要求する。劇中でサムとワイは何度も衝突するが本作は「アクション映画に対する哲学を描いた映画」だと分析する。
「本作では3つの哲学が描かれています。サムはすべてを犠牲にしてもリアルなアクションを追求する。ふたつめは私が演じたワイの哲学、つまり安全が第一である。そしてサムの助手ロンは観客の立場からアクションやスタントを見ていて、サムとワイの両方の考えを持っているのです。
実際の撮影現場ではこの映画で描かれるような衝突というのは基本的には起こりません。というのは、私たちが香港でアクション映画を撮る際には監督は自分と気の合うチームを見つけて撮影しますから、現場でぶつかることはないわけです。それに香港の映画界はとにかく安全が第一で、ビジュアル的な効果を求めた結果、非常に危険な現場に遭遇することもあるわけですが、その場合には周到に準備をして、スタントマンの方たちの腕と技術を駆使して可能な限りリスクを減らして最高の場面を撮ろう、という共通認識があります。
このような話ができるのも、アクション映画で危険な撮影に挑む際、どんな安全措置が必要なのか? どんなふうにワイヤーを使って、安全をどう確保するのか? そのシステムがちゃんと出来上がっているからなんです。それは我々の先輩たちが昔から命がけで一生懸命に撮影に挑み、その経験をもとに改良を重ねて構築されたものです。このシステムは1日にしてできたものではなく、先輩たちの冒険の結果が発展したもの。その上で私たちは安全にある種の“特別な技”のような形で撮影したアクションをみなさんに観ていただくことができるのです」
役者というのは監督の“絵筆”のようなもの

長い時間をかけて映画人の想いや技は次の世代に継承されていく。本作も世代や考えの異なる映画人たちが集い、ぶつかり、想いを引き継ぐ場面が描かれる。本作は香港映画への尊敬に満ちているが、ノスタルジーのドラマではない。フィリップ・ンもまた、過去からバトンを受け取り、現在の映画界で奮闘を続けている。
「私はもともとは物語を語ることが大好きで、漫画家になりたいと思っていましたから、大学では演技ではなくアートの勉強をしていたんです。ですから俳優として映画界に入った後も、役者というのは監督が絵を描く際の“絵筆”のようなものだと思ってきました。監督がどういう映画を語りたいのか、どんな映像を撮りたいのか、自分は絵筆となって、それを手助けしたいと思うのです。
もちろん私自身も監督をやりたいですし、自分たちの会社で映画を撮ることになれば限られた予算の中で何とかしなければならないので役者もしますし、プロデューサーになって予算の心配もして……何でもやらなければならないので撮影現場では分裂してしまいます(笑)。でも、こんな風にして20数年、この世界でずっと働いてきたことで、わかったこともいろいろあると思うのです。監督、アクション監督、プロデューサー、俳優……立場が変われば役割も考え方も変わる。だから映画を制作するプロセスをしっかり理解することができれば、自身のやるべきことが自然とわかってくる。日々、勉強ですね」

『スタントマン 武替道』
7月25日(金) 公開
(C)2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.
フォトギャラリー(9件)
すべて見る