7月17日に東京・渋谷 Spotify O-Crestにて『Grasshopper vol.33』が開催された。
Grasshopperは、チケットぴあが主催する新進気鋭の若手バンドを応援するライブハウス企画。外部のライターである私目線から見ても、着実に出演が目標となるイベントに成長していると感じる。
この日はDannie MayとPompadollSによるツーマンライブとなり、チケットは6月時点でSOLD OUTを記録した。今回のような250のキャパでは、もう見ることができないツーマンだろう。互いのバンドが「伝説の日になった」と語った1日をレポートする。
先行は Dannie May。まずどこか南の孤島のジャングル感のあるSEに引き込まれる。少しミステリアスでもあるから、この島に眠る謎を解明すべく、我々探検隊は奥地へ向かった……的なワクワク感と没入感を与えてくれる。そしてその先にいたのは、ライブ翌日が誕生日の成瀬太智(Sup.ds)、フードを被った田中タリラ(vo&key)、白い衣装のYuno(vo&kantoku.)、紳士的に挨拶をしたマサ(vo&g)。
なるほど。このキャラクター豊かな彼らをヒントに謎を解明するのかー!とか思っていると、1曲目「玄ノ歌」からスタート。「歌って、踊って、騒いでいこうぜー!」という言葉通り、フロントの3人は声で、動きで、演奏で会場を煽って早速熱狂の輪を作る。サビの<ラッキーボーイ>のフロアの掛け声も曲が進むたびに大きくなり「いいね!」と返すマサ。
続けて色気あるギターを鳴らして始まったのは「東京シンドローム」。変わらずフロアのクラップが響き渡り、サビ前に田中の「クレストついてこい!」の合図で、一気に拳が上がる。まだ2曲目だが、この時点でサウンドの幅広さと、3人のボーカルによる自由自在な歌割りに驚く。各々ひとりで歌うこともあれば、3人でもあるし、ふたりで歌う時の組み合わせも度々変わる。そして3人ともボーカリストとしての能力が高いから歌い方も様々。音楽の枠の無さ、色彩の豊かさに酔いしれてしまった。加えてこの曲が都会の夏祭りっぽい洒落たビートだから酔いも早く回ってしまう。そんなのもお構いなしにマサが「かかってこいよクレストー!」と叫んで「ぐーぐーぐー」「色欲」をノンストップで重ねるもんだから、暴れる鼓動のど真ん中、狂わされてとろけます。
Yuno(vo&kantoku.) Photo:清水舞
そんな丸裸で楽しむフロアを見て「調子良さそうですね、皆さん!」と3人も上機嫌そう。いや楽しくパフォーマンスするステージを見てると、フロア側ももっと踊らなきゃ!って本能的に思うんですよ。加えて成瀬のブレないリズムカルなドラムがサウンド全体を引き締めているのも、安心して身を委ねるポイントの1つになっている。「色欲」の最後はマサが囁くように歌って終わるのもクール。大きな歓声と拍手が起こった。
MCに入るとマサは「みんな思わん? ダニーとポンバズでクレストちっちゃいって!」とフロアに問いかける。ということで担当者に事前に訳を聞いてみると「何年か後にDannie MayとPompadollSは間違いなくデカくなると。そうなった中で何年か後に伝説と言われるライブにしたいって。……ほう? なるほどね! 君たち今日は、伝説の一部になります! 準備みんなできてますか!」と伝えると、さらに沸き立つフロア。
またPompadollSについても「音楽も素晴らしいし、嫌な奴らじゃないのよ。めちゃめちゃ人間味があって普通に良い奴らで。だからこそ、だからこそ、愛を持って殺しに来ました。Dannie Mayです!」と宣言し、「こんなパンパンのお客さんの前で、あんな可愛い可愛い後輩に! 負けられるわけねぇよなー! ここから1秒たりとも置いてかれるんじゃねぇぞ。俺たちの時間だ。全員で一緒に騒げー!」と、さらにブーストを上げて「ええじゃないか」を投下。
いつの間にかフロアはタオルを準備してサビでブンブンブン回す! 加えて途中でPomapadollSの「スポットライト・ジャンキー」の一節を愛を込めて歌うサプライズも。じゃあもうDollS(PomapadollSのファンの呼称)もやるしかないよね?と言わんばかりに、ラスサビはさらに一体となってタオルや拳を回すフロアは圧巻。
「伝説の1日になりそうな気がします!」とマサも答えた。「まだまだ踊っていこうぜ!」と続けたのは「アストロビート」。今度は全体がフロントの3人に合わせてサイドステップを踏む。爽やかで晴れやかなメロディにさらに心は開けていく。コールアンドレスポンスも気持ちよく決まって、マサは「本当に愛してるぜクレストー!」「最高ー!」と叫び、田中タリラも途中楽しそうにシンバルを叩くのが印象的だった。熱も冷めやらぬままアニメタイアップとなった新曲「ユニーク」へ。日常の近くにある愛を確かめるように優しく歌い繋ぐ楽曲で、しっかり頷くように体を揺らして聴き入るフロア。また彼らの新しい形を提示していた。
そこからギターのカッティングのイントロが始まり「お待たせ『カオカオ』」とノれるナンバーを召喚。螺旋階段を下っていくような歌い回し、そしてサビの<ACTION>のキャッチーなフレーズでフロアの一体感はMAXをキープし続ける。踊るYunoは「楽しかったかー! 笑顔になれたかー! 最後までこのままでいって、ポンバズに繋げるぞー!」と伝えると大きな声で応えるフロア。そこに重ね重ね呼応するかのように、さらに3人のボーカルもギアを上げて熱を帯びたように聴こえた。マサのシャウトがその証明だろう。そしてここで「ダンシングマニア」。心拍数って測定不能になるんですね。田中タリラも取り憑かれたかのようにパフォーマンス。どこからともなく聞こえた「跳べ」の合図で限界突破で飛び跳ねるフロア。最後にマサは「よくできました!」と伝えた。
最後に「本当に最高でした! ありがとう! 伝説の1日も半分も終了ということで、最後に1曲やって、あとは美味しいお酒を飲みながら楽しみたいと思います。やっぱりカッコいい仲間っているじゃないですか? この前僕らも恵比寿LIQUIDROOMでライブやったんですけど、PompadollSもそこでやることが決まっていて。同じような道を歩いている仲間としてリスペクトしてるし、次会った時にカッコいい自分でありたいと思う。こいつらにはずっと認められてたいというバンドの1組がPompadollS。だから僕らもこれからカッコよくなっていこうと思うんで。11月にクアトロツアーもやるので遊びに来てください! Dannie Mayよろしくお願いします!」と感謝と思いを伝える。そして「最後は声出して終わろうか!」と伝え「コレクション」を演奏。純白で透明な照明の中で響いた歌詞とシンガロングと力強く掲げられた拳は、大きな愛と夢へと向かう活力に溢れていた。
Dannie May島の奥地にあったもの、それは今よりもカッコいい未来の自分に出会うための非常にクリアな勇気だった。
後攻はPompadollS。SEはオルゴールの音色から始まり、EDMの強いダークメルヘンなサウンド。そこにフロアのクラップが重なって、ボルテージが上がっていくと、そのまま空間を揺らすような重い音のバンドセッションが始まり、「Dannie Mayのデカすぎる背中を見せてもらいました!PomapadollSも負けてられません! どうぞよろしくー!」と五十嵐五十(vo&g)が叫んで「海底孤城」からスタート。小松里菜(key)のメランコリックなキーボードとアグレッシブなサイカワタル(b)、但馬馨(ds)のリズム隊のビートを浴びると、自然に体を揺らしてクラップしてしまう。そして黒幕登場と言わんばかりの青木廉太郎(g)が怪しさのあるギターソロが響き上げる。間奏では途中、雷が落ちたかのような轟音も。そこに五十嵐のエモーショナルと儚さを使い分けるボーカルが映える。
しっかりPompadollSの空気を作ると、ここで「悪食」を持ってきた。認知度の高さを窺えるフロアの反応。このライブハウスの距離で見るから分かることだが、演奏はもちろん、SNSの動画以上に、やはり生で見る五十嵐の表情の方が、曲へとグッと引き込む力が強くて、やはりこのバンドはライブバンドだなと思わせた。
MCでは感謝を伝えた後、「Dannie Mayの兄さん方とはよくライブが一緒になって、よく子守りしていただいています」「7月12日に行われたDannie Mayのワンマンにも行って、この人達とツーマンやるんですか⁉︎と思って、ビビって追加でボイトレの予約もしたりした」という五十嵐。「そんな兄さん方に思う存分やり合おうやと言われているので、思う存分PompadollSも暴れていこうと思います。どうぞよろしくお願いします」と話し、小松が前奏を弾き始める。高貴さもありながら、次第に狂気が爆発したような演奏。
そこに繋がったのは「怪物」というタイトルの曲だったから納得がいった。5人のチームワークと技術が高くないとできない緩急のある演奏でも魅せてくれる。最後の爆発力のあるクライマックスの演奏の勢いそのままに「みにくいアヒルの子』へ。自然と頭上高くクラップするフロア。サビで突き上げた拳には、DollSからも、Dannie Mayのファンからも、普段言えない叫びが込められているようにも見えた。そんなフロアを見て、サイカも良い表情。
今度は青木がダンディーなギターソロで繋ぎ、「踊ってくれよ渋谷O-Crestー!」と五十嵐が叫んで、「赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?」を始めると、会場も「オイ!オイ!」と声を出す。止まらないクラップとサビでのシンガロングも含めて、何だかステージの5人とフロアの熱狂対決にも見えてきた。五十嵐もギターをライフルのように構えて応戦していた。続くは『ロールシャッハの数奇な夢』。より複雑に絡み合う音圧がいろんな方向で迫ってきて、最後は全員で「ヘイ!」。さすがにこれはフロアも操られた感じもあって、うーんこの熱狂対決はポンバズの勝ち!しかし五十嵐も地声で「ありがとうー!」と叫んだところを見ると、とてつもない熱戦だったであろう。
MCに入り五十嵐は「Dannie Mayのライブは何回か見ていてその度に思うんですけど、すごい“愛”だなって思うんですよ。キラキラしていて。私は上手く愛したり、愛されたりができない人間なので、キラキラした眩しいDannie Mayを見ると、こういうキラキラした愛に救われた人がいっぱいいるんだろうなと思って私も救われた気持ちになるし、今日のライブ見ててもすごい良いなぁと思って。私たちはそんなキラキラした愛は歌えない人間共なんですけど、ひねくれた愛とキラキラした愛、いろんな愛で満たされる日だなと思ってて、本当に今日、伝説の日になるんじゃないかって思ってます! 時にはひねくれているからこそ、愛の強度が勝つ日だってあるし、キラキラした愛に負けるつもりはありませんので、最後までよろしくお願いします!」と改めて告げる。
そして「ひねくれた私たちの歌うラブソングを聴いてってください!」とハンドマイクになった五十嵐が伝え「ラブソング」へ。軽快な動きでステージで歌う五十嵐は新鮮に映ったし、ギターが1本になった分、よりサイカや但馬の音もメロディアスに聴こえてきて良い味変。サビで手を横に振るのも多幸感があったし、それをメンバーのコーラスも後押ししていた。その幸せな空間に鳴ったキーボードの音。「初めて他のバンドの曲をカバーします!愛を込めてカバーします!」とDannie Mayの「カオカオ」を披露。しっかりフロアも飛び跳ね、見ていたマサもノリノリだった。
盛り上がりを見せる中、定番のメンバー紹介タイム。各パートがその熱を加速させるソロ演奏を見せて本家本元「スポットライト・ジャンキー」を投下。入り込んでくる音の粒立ちがこんなに鋭角で良いのかしら? でもその中に込められた”ポンバズなりの愛”が体内で大爆発する! 照明の移り変わりも激しくて、多分プログラムもこの愛にバグを起こしている。こうやって事象がバグっちまえるのがポンバズであり、ライブハウスなんですわ。
最後は「一番後ろまで愛を届けて帰ります!」と「日の東、月の西」。その言葉通り、最後列のお客さんもクラップしてノっていた。甲高いギターを鳴らす青木のジャンプも決まり、最高潮のテンションのまま本編が終了した。
だからアンコールを求めるクラップもテンション高くて、最初からBPMが早いクラップが鳴り響く。登場した5人はDannie Mayと同じ恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンも含めた東名阪ツアーの告知をし、「魔法のランプ」を演奏。伸びやかな五十嵐の歌声に合わせて掲げるフロアの拳は、これからも想像を超えた未来を一緒に作っていくことを約束しているかのよう。五十嵐も最後は拳を突き出し「また会いましょう!」と約束し、伝説の日は終了した。
速いスピードで駆け上がり、大型イベントでのライブも増えた彼ら。しかし彼らの5人全員に絶え間なく見所があるエンターテイナーのステージングは、やはりライブハウスで地道に築き上げてきたものだと改めて再確認する日になった。
互いにカバーをし合うなど、愛のスタンスは違っても、相性の良さを見せつけた”ダニポン”。得られた感情も多かった。
彼らが負けじと高め合いながら、今日の10倍、いやそれ以上の舞台でのツーマンも容易に想像できた。我々も振り落とされないように人生を跳躍していこう。
<公演情報>
『Grasshopper vol.33 supported by チケットぴあ』
2025年7月17日 東京・渋谷 Spotify O-Crest
出演:Dannie May / Pompadoll
セットリスト
●Dannie May
1.玄ノ歌
2.東京シンドローム
3.ぐーぐーぐー
4.色欲
5.ええじゃないか
6.アストロビート
7.ユニーク
8.カオカオ
9.ダンシングマニア
10.コレクション
●PompadollS
1.海底孤城
2.悪食
3.怪物
4.みにくいアヒルの子
5.赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?
6.ロールシャッハの数奇な夢
7.ラブソング
8.カオカオ(Dannie May Cover)〜スポットライト・ジャンキー
9.日の東、月の西
En.魔法のランプ
<次回公演情報>
『Grasshopper vol.34 supported by チケットぴあ』
2025年8月25日(月) 東京・下北沢DaisyBar
開場 18:15 / 開演 19:00
出演:COPES / アルコサイト
【チケット情報】
前売:一般2,900円、学割2,400円
当日:一般3,400円、学割2,900円
※入場時ドリンク代が必要
発売中:
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2525880&rlsCd=001
公式サイト:
https://fan.pia.jp/grasshopper/
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