一夜限りの横溝正史にオマージュを捧げた大ネタで勝負!『柳家喬太郎トリビュート 続・柳家の一族 一門島』レポート
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柳家喬太郎 撮影:橘蓮二
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すべて見る7月17日東京・有楽町朝日ホールにて、『演芸写真家 橘蓮二 30周年記念公演 柳家喬太郎トリビュート 続・柳家の一族 一門島』が開催された。
本公演は、橘蓮二の演芸写真家30周年を記念して行われる公演の第1弾で、タイトル通り「柳家」の流れを汲む鈴々舎美馬(師匠・鈴々舎馬風が柳家小さんの弟子)、柳家小太郎、寒空はだか(落語協会正会員で柳亭市馬門下)が、トリを飾る柳家喬太郎師匠のネタを口演する。2024年5月に同じ演者で『柳家喬太郎 トリビュート「柳家の一族」』が開催されており、今回はその続編となる。
前座の柳亭市助が『やかん』で会場を温めた後、1席目に登場したのは柳家小太郎。冒頭、前回に引き続き力の入ったパンフレットに触れ、「柳家の一族」では被り物で素顔が出ず、今回は被り物がないということで期待していたが、いざ撮影が始まるとメイクを施され、誰だか分からなくなったというエピソードで早速会場を沸かせた。

マクラでは、『路地裏の伝説』を口演するということで、「口裂け女」「トイレの花子さん」などの全国の都市伝説の話に。『路地裏の伝説』は、お父さんの命日に集まった幼なじみが、子どもの頃の都市伝説の話をする噺で、みんなの間で有名だった「風邪ひくなおじさん」の話題からまさかの展開に発展する作品だ。
子どもの頃のあるある話からノスタルジーを感じさせる空気を作りつつも、遺品の中からスコラやGOROを見つける場面では、「この辺、喬太郎師匠が何言ってるか全然分かんねぇんだよなぁ」とジェネレーションギャップをぼやくと、観客は大爆笑。そのまま父親の日記から、記憶の真相に迫るシーンでも笑いは絶えず、そのまま不思議な余韻を残すサゲで締めくくった。

つづいて高座に上がったのは、鈴々舎美馬。学生時代からの憧れである喬太郎師匠の『すみれ荘201号』を口演するということで緊張していると語る。『すみれ荘201号』は、20歳なった女子大生が親に無理やり見合いさせられ、そのことがきっかけで同棲中の彼氏と喧嘩となり、お互いが秘密にしていた落研出身が発覚。結局、落研同士では結婚できないと別れ話になる噺。

ネタを覚えるにあたっては、師匠直々に稽古をつけてもらったそうで、噺に出てくる夜のお店について詳しくなったことなどをマクラで話し、会場を盛り上げる。そして、自身も落語研究会出身で“暗い”“オタク”といった肩身の狭さを感じてきた身としては、同じ落研出身の喬太郎師匠も学生時代に同じ気持ちだったのかと、思いを馳せながら演じたいと語った。
ネタに入ってからは、同棲中のカップル、女子大生の親、お見合い相手など、登場人物を丁寧かつコミカルに演じ分け、特にお見合いの仲介人であるおじさんの個性あふれるキャラクターは白眉で、会場からは笑いが巻き起こった。また、一番心配だと言っていた、噺の中で披露する喬太郎師匠の曲「東京ホテトル音頭」も拍手喝采で気を良くしたのか、追加でもう一節唄う場面も。噺をしっかりと自分の中に落とし込んでいて、終始笑いの絶えない一席だった。

仲入りを挟んで登場したのは、漫談家の寒空はだか。いつものように力みのないリラックスした雰囲気で現れると、さっそく一節唄い、会場からは手拍子が。するとすかさず「いつも手拍子もらうんですが、実は自分のペースが乱されるので、やりにくいこともあります」と告白し、会場の笑いを誘う。

喬太郎師匠にまつわるネタということで、先ほどの「東京ホテトル音頭」も肝心の一番をやってないと再演。その後、代表曲の替え歌「マリンタワーの歌」も披露したほか、話がどんどんマニアックな方向に脱線していき、観客を置いてきぼりにする一幕も見られ、のびのびとした漫談となった。

そして、いよいよトリを飾る喬太郎師匠が登場。お囃子の森吉あきによる「愛のバラード」が流れる中、頭を掻きながら現れると、この公演でしか見ることができない柳家“金田一”喬太郎の姿に早くも大きな拍手が。前回「伊勢屋の一族」というこの会限りのネタを口演し観客を驚かせた師匠が、今回も「お楽しみ」としてどんなストーリーが展開するのか期待が高まる中、マクラなしで本編が始まる。

師匠の口から、瀬戸内海に浮かぶ「獄門島」のとなりに位置する「一門島」に降り立ったことが語られる。落語協会を追われた落語家の獄門亭一門が住み着いたことが由来と言われるこの島には、今もその一門の弟子たちが住んでいて……と、落語を絡めつつ絶妙に市川崑監督の『獄門島』をなぞった形に。そして「私が行くところ、必ず悪いことが起こる予感がして……」の言葉通り、弟子たちの連続殺人事件が発生する。
緊張の糸が途切れないミステリー調のストーリーに観客が固唾を飲む中、妙に落語に詳しい島の代表が登場したり、話の中に落語界の伝統やしがらみなどを織り交ぜ、会場を笑わせることも忘れない。

そして物語は進み、和歌を題材にした古典落語『崇徳院』『道灌』『千早振る』に絡めた謎解きも、やや強引に回収し会場を沸かせる。最後は「あなたは一体何者なんですか?」の問いに対して、静かに帽子を被り鞄を持って去っていく姿でサゲとなった。気づけば、今回も30分を優に超える横溝正史にオマージュを捧げた、圧巻の口演となった。

なお、この日『橘蓮二 30周年記念公演』第2弾「春風亭一之輔×桂二葉 二人会」の開催も発表。毎年、京都芸術劇場 春秋座で行われている同公演を関東でも観たいという声に応えて、12月23日(火)東京・有楽町朝日ホールにて開催される。
<公演情報>
『演芸写真家 橘蓮二 30周年記念公演「春風亭一之輔×桂二葉 二人会」』
2025年12月23日(火)東京・有楽町朝日ホール
開場 18:30 開演 19:00
【チケット】
全席指定:4,500円
一般販売:11月18日(土) 10:00

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