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《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025》最優秀作品賞は共同監督によるアニメーション作『水底のミメシス』

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《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025》クロージング・セレモニー

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若手映画作家の登竜門として知られる《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025》が9日間の開催を終え26日に無事閉幕。同日、クロージング・セレモニー(表彰式)が行われ、コンペティション部門の各賞が発表された。

今年の本映画祭は、より国内の若手監督たちをクローズアップ。従来あった世界の秀作が顔を揃える国際コンペティションは見送られ、国内コンペティションのみに。『凶悪』『孤狼の血』の白石和彌監督、『浅田家!』の中野量太監督、『ガンニバル』の片山慎三監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督、『初級演技レッスン』の串田壮史監督らに続く、本映画祭をきっかけに世界へと大きく羽ばたく日本の新たな逸材が現れるかに期待が集まった。

入選作は長編と短編を合わせて13作品。その中から見事に最優秀作品賞輝いたのは、茂木毅流監督と長澤太一監督の共同監督作品の『水底(みなそこ)のミメシス』だった。

同作は、28分のアニメーション。人々の能動性を奪うAI型生物・Shinoの存在を受け入れつつある島を背景に、その社会の在り方に疑問を抱くハジメが、ある秘密の破壊活動グループとつながりをもつことに。AIの支配に抗う彼らの人間的な社会を取り戻す闘いがダイナミックに描かれる。

『水底(みなそこ)のミメシス』

審査委員長を務めた石川慶監督は選評で、まず、SKIPシティアワード(※今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に対して授与される賞)に輝いた草刈悠生監督の『長い夜』と『水底のミメシス』が甲乙つけがたく「どちらがグランプリを獲ってもおかしくなかった。それぐらいどちらも作品として力があり、監督の可能性を強く感じました。次回作が本当に楽しみになるすばらしい出合いでした」と両作品の力が拮抗していたことを明言。その中で最終的に『水底のミメシス』を選んだ理由を「作品の持つ強度に圧倒された」と語った。

続けて「ここで言う強度は完成度や映画的なセンスのことではありません。映画がこちらに向かって語りかけてくる意思の強さです。この映画への指摘として粗削りで言葉で説明しすぎではないかという意見もありました。でも、そういう欠点ごと作品全体が(こちらを)押し切ってくる力がありました。

この映画には作り手としての迷いや格闘が剥き出しのままぶつけられています。恥ずかしくもなく、まっすぐに伝わってきて、僕はそこに強く心が動かされました。

作家の初期の作品において、自分の声を届けられるか、それが一番大事ではないかと思います。完成度やセンスよりもまず作品に自分の思い、自分の声が込められているか、それが伝わるかどうか。

その声というのはプロとして作品を重ねていく中で、いつの間にか失われていってしまうものでもあります。だからこそ、最初の声の強度がどれだけ強いかということが、その映画作家としての、これからの持続力にかかわっていくのではないかと思っています。

今の世の中にはそういった声を失ってしまった映画が残念ながら本当にたくさんあります。でも、『水底のミメシス』には、その声が生々しく、強く、そして確かにあったと思います」と作品を称えた。

【最優秀作品賞】『水底のミメシス』茂木毅流監督

現在、オーストリア・ウィーンに留学中で長澤監督は残念ながら欠席。ひとりで登壇した茂木監督は「僕はてっきり、この後手ぶらで一緒に会場に来てくれた友達とふたりで帰り道にお茶をして帰るもんだとばかり思っていました」と受賞はまったく考えていなかった模様。驚きながらもだんだんと喜びを実感してきたようで「この作品のために自分の元に集まってくれた総勢30人の仲間たちの思いみたいなものを改めていま感じています。僕は引っ込み思案のところがあって、このような表舞台に立つのも苦手です。そんな僕をもうひとりの監督の長澤太一がひっぱり出してくれた。本当にみんなで獲得した受賞と心得てこのトロフィーを持ち帰ることにします。この度は本当にありがとうございました」と喜びを語った。

また、先ほど話に出たが、今後の長編映画制作に可能性を感じる監督に対して授与される<SKIPシティアワード>は、草刈悠生監督の『長い夜』が受賞した。

『長い夜』

『長い夜』は、大切な存在を失い、大きな喪失を抱えた男女の心の行方が描かれる。本作について審査員を務めた映画プロデューサーの水野詠子氏は「草刈監督が勇敢にチャレンジした普遍的なトピックである『大切な人を失った時、人間はいかにその悲しみと向き合い克服をしていくのか、克服とは何なのか』を、現代の若者の生き様を通して描いています。孤独と葛藤を丁寧に描いた本作品の監督のシネマ的なアプローチを審査員一同は確かに感じ取りました。審査員全員の心に触れ、満場一致で今回の受賞となりました」と作品を称賛した。

この言葉を受けた草刈監督は感無量といった表情。会場にかけつけたキャストとスタッフに感謝の言葉を寄せると、「この賞をいただけたということは、今後の長編映画に期待していただいているということ。そのことをトロフィーの重さですごく感じています。その期待にお答えできるように、今後も頑張っていきたいと思います」と次回作への意気込みを示した。

【SKIPシティアワード】『長い夜』草刈悠生監督

最後に開催を振り返ると、先で述べたように22回目を迎えた本映画祭は、今年、これまで続けてきた国際コンペティションを見送るという大きな変革へ乗り出した。

これからの映像及び映画界の未来を見据えた上で、若者に人気の高い縦型映画やXR映画、映像業界にすでに大きな影響を及ぼしつつあるAI映画などの特集を組んだ。上映当日はなかなかの盛況。若い世代にどう興味を持ってもらい、映画文化を根付かせていくかは、映画祭及び映画界の大きな課題。今後につながる試みとなったといっていいかもしれない。

それと最後に触れておきたいのは、石川監督の総評。要約するが石川監督は本映画祭についてこう語った。

「20回を超える国際映画祭とうのは世界的に言っても特別な存在。もうその存在自体が素晴らしい成果だと思っています。これまでにこの場で上映された何百という作品、それからここを訪れたフィルムメーカーやスタッフ、キャストの皆さんの思いっていうものを考えると、この映画祭の歴史というのは川口という町にとって、かけがえのない財産。町の誇るべき文化的レガシーではないかと思います。

この映画祭を通して川口の名前が(映画人に)どれだけ広く認知されているか、地元のみなさんに知っていただけたらと思います。今回、国際コンピレーションが見送られたことで、規模は少し縮小したかもしれません。けれど、どうかここで立ち止まることなく、むしろこれからこそ外に開かれた国際的な映画祭として成長を続けていただきたいと強く願っています。

その中で一言だけ触れておきたい作品があります。入選作のドキュメンタリー作品『夏休みの記録』(※埼玉に住むクルド人の子どもたちと親たちと過ごしたひと夏を記録した作品)です。(クルドの)子どもたちが駆けつけたあの暖かい雰囲気の公式上映は、今回の映画祭のハイライトの ひとつだったと思います。そして、この映画がSKIPシティで上映されたこと、そのこと自体が本当に良かったと僕は思っています。決断された関係者の皆様には心から敬意を表したいです。

『夏休みの記録』(C)2024 Jun Kawada

川口はもう今では多様な文化や背景を持つ人々が共に暮らす国際都市だと思います。ここで今起きていることをもちろん、僕もニュースで目にすることがあります。そこで映されることが、一部のことにすぎないことも分かっています。(『夏休みの記録』がみせてくれた)そのようなところからは決してみえない日常の声や姿を映画という形で可視化すること。そして、それを語ることなく共有し、語り合う場を生むことというのは映画が持つ本来の力です。また、映画祭の本質的な役割だと僕は信じています。

これからの時代に何を語るべきか、どんな声を届けるのか、どんな形で映画と向き合っていくのか、その ひとつのヒントが今回の映画祭には確かにあったのかなと思っています」

こう語り、石川監督は改めて《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》の存在意義と、継続することの重要さに言及した。

この言葉を噛みしめると、やはり今後どうなるかはわからないものの、国際コンペティションが見送られ、一度途切れてしまったのは残念のひと言に尽きる。

今年、海外映画祭で高い評価を得た海外作品が特別上映され、ゲストを招いてのQ&Aセッションが行われたが、いずれも多くの人が来場。Q&Aでは多くの質問が飛び、上映終了後もロビーなどで監督たちと来場者の交流は続いていた。この光景は、本映画祭において国際コンペティションがしっかりと根付いてきた証といっていいのではないか。ゆえに復活することを切に願う。

なお、受賞結果は以下の通りになる。

<コンペティション部門>授賞結果
■最優秀作品賞(グランプリ)
『水底(みなそこ)のミメシス』 監督:茂木毅流、長澤太一

■SKIPシティアワード
『長い夜』 監督:草刈悠生

■観客賞
『ひみつきちのつくりかた』 監督:板橋知也

■スペシャル・メンション
『お笑えない芸人』監督:西田祐香

取材・文・写真:水上賢治

《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025》公式サイト

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