絶賛稽古中!新国立劇場《ナターシャ》が描く現代の地獄巡り
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指揮:大野和士 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
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すべて見る8月11日(月・祝)に初日を迎える、新国立劇場の新作オペラ《ナターシャ》の世界初演。7月中旬には全体稽古がスタートし、その初日、出演者・スタッフの顔合わせと演出コンセプト説明会の様子が報道陣に公開された。《ナターシャ》の出演歌手は6人だが、指揮者・演出家、ダンサー、俳優、合唱団、制作スタッフなど、約100人が顔をそろえる大規模なキックオフ。いよいよ始まるという期待と高揚感がみなぎり、リハーサル室は熱気に包まれた。
公演の指揮者で新国立劇場オペラ芸術監督の大野和士が口を開く。まず、主人公の二人、ナターシャ役のイルゼ・エーレンス(ソプラノ)とアラト役の山下裕賀(メゾソプラノ)、物語の進行役でもある“メフィストの孫”役、クリスティアン・ミードル(バリトン)を紹介し、作品について語った。
「待ちに待ったプロダクション。期待の声も多く、みなさんの力を借りて、素晴らしい舞台になるよう、私も全力を注ぐ。
物語の中心は三人だが、最初は、少女ナターシャと少年アラトの二人の旅という構想だった。そこに“メフィスト”的な第三の男を入れようということになり、多和田葉子さんが見事なリブレットを書いてくれた。
細川さんと私は、2004年にエクサンプロヴァンス音楽祭で《斑女》というオペラを初演した。それは室内楽的な作品だったが、今度は劇場いっぱいに広がる、めくるめくオーケストレーション。声とオーケストラの三次元のアンサンブルが昇華するような作品になる」

つづいて作曲者の細川俊夫が、作品成立の経緯を紹介。
「2019年に大野さんから話をいただき、多和田葉子さんの台本ができたのが2023年。やりとりを重ね、2024年から1年半をかけて今年の4月に完成した。私の大規模なオペラが日本で上演されるのは初めて。とても楽しみにしている」
そして演出のクリスティアン・レートが、「みんなで地獄へと旅立ちましょう!」とユーモアを交えて呼びかけ、舞台のコンセプトについてじっくり語った。
オペラ《ナターシャ》は、ナターシャとアラトが、“メフィストの孫”に導かれて7つの地獄をめぐる物語。ナターシャはウクライナ語とドイツ語、アラトは日本語しか話せない。言葉が通じない中で、どう心を通わせるのか。グローバル化した現代社会において、人は何を手がかりに他者と向き合うのか――作品はその問いを投げかける。

二人が旅する「地獄」は、人間によって破壊された世界の象徴である。彼ら自身も破壊された世界のトラウマを抱えている(台本初期案ではナターシャはチェルノブイリ、アラトは福島出身だった)。地獄めぐりは《魔笛》と同じような試練であり、彼らは旅を通して自己と向き合い、愛を知っていく。
新しい世代の若者たちが世界の現実を知り、よりよい未来を模索する道筋でもある。
この7つの地獄を舞台で具現化するのは、非常に高いハードルだったという。異なる地獄を観客にはっきりと提示しながら、スピーディに転換していく、難しいチャレンジ。
解決の突破口は「夢」だった。夢のように脈絡なく次の世界へ移っていく。映像も活用して、ナターシャとアラトの目を通して見える世界を映画のように描いていった。
レートは模型やスケッチを用いて、それぞれの「地獄」を詳細に紹介したが、その幻想的な空間は、ぜひ劇場で直接確かめてほしい。
電子音響も今回の上演で重要な役割を果たす。この分野のエキスパート有馬純寿の担当。
といっても、「電子音響」と聞いて思い浮かべるような電子的な音は使わず、音素材のほとんどは、自然音や人間の声。それを加工し、効果音としてではなく音楽の一部として用いるという。上演では、客席に1階から3階まで20数チャンネルのスピーカーが設置され、私たちはサラウンドの立体音響に包まれることとなる。

この日は、音楽稽古の冒頭部分も公開された。
オペラは合唱で幕を開ける。「ハーッ!」「スーッ!」というブレス音が徐々に実声のヴォーカリーズへと変化していく。「海」「波」のイメージだという。アラトが“メフィストの孫”に叫ぶ。
「連れて行ってくれ。地球のうめきの聞こえる場所へ!」
私たちもまた、彼らとともに、人間が破壊してきた地獄を旅することになる。初日が待ち遠しい。
新国立劇場《ナターシャ》は8月11日(月・祝)、13日(水)、15日(金)、17日(日)の全4公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。
取材・文:宮本明
細川俊夫
ナターシャ

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2556563
8月11日(月・祝) 14:00
8月13日(水) 14:00
8月15日(金) 18:30
8月17日(日) 14:00
新国立劇場 オペラパレス
全1幕〈日本語、ドイツ語、ウクライナ語ほかによる多言語上演/日本語及び英語字幕付〉
【台 本】多和田葉子
【作 曲】細川俊夫
【指 揮】大野和士
【演 出】クリスティアン・レート
【美 術】クリスティアン・レート、ダニエル・ウンガー
【衣 裳】マッティ・ウルリッチ
【照 明】リック・フィッシャー
【映 像】クレメンス・ヴァルター
【電子音響】有馬純寿
【振 付】キャサリン・ガラッソ
【舞台監督】髙橋尚史
【ナターシャ】イルゼ・エーレンス
【アラト】山下裕賀
【メフィストの孫】クリスティアン・ミードル
【ポップ歌手A】森谷真理
【ポップ歌手B】冨平安希子
【ビジネスマンA】タン・ジュンボ
【サクソフォーン奏者】大石将紀
【エレキギター奏者】山田 岳
【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
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