ピクサーの新世代を担う監督コンビが語る『星つなぎのエリオ』
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すべて見るディズニー&ピクサーの最新作『星つなぎのエリオ』が、8月1日(金)から公開になる。本作の監督を務めたマデリン・シャラフィアンとドミー・シーはピクサーのストーリー部門で腕を磨いてきた若いフィルムメイカーで、プロデューサーを務めたメアリー・アリス・ドラムは「ふたりはピクサーの新世代の才能です」と太鼓判を押す。
本作の主人公は、ひとりぼっちの少年・エリオ。両親を失った彼は自分の本当の居場所を求めていて、大好きな宇宙に想いを寄せていた。そんなある日、彼の願いが叶い、エリオは星々の代表が集う“コミュニバース”に招かれる。自分が地球代表だと嘘をついたエリオは恐ろしい交渉の代表に選ばれてしまい、そこで自分と似た境遇のエイリアンの少年グロードンに出会う。

本作は当初、別のスタッフが制作にあたっていたが、初監督作『私ときどきレッサーパンダ』が絶賛を集めたドミー・シーと、ピクサーのストーリー部門で活躍してきた才人マデリン・シャラフィアンのコンビが監督として加わり、ストーリーが見直され、クオリティの向上がはかられた。
「最初はエリオが地球の代表だと“間違われて”宇宙に連れ去られる物語でした」とプロデューサーのドラムは振り返る。「しかし、マデリンとドミーが新たに参加してくれたことで、エリオは“宇宙人に誘拐してほしくてしょうがない子ども”になったんです(笑)。このふたりはストーリーに“ひねり”を加えるのが本当にうまいんですよね」

彼女が語る通り、エリオは毎日、空を見上げて、無線機を操作しながら宇宙に向かって”僕を誘拐して”とメッセージを送り続けている。これだけなら、ただの“意表を突いたひねり”だ。しかし、彼女たちはその奥底に「地球ではない場所に居場所を求めるほど孤独なエリオの想いと悲しみ」を丁寧に盛り込んでいく。自分が自分らしくいられる場所はどこにあるんだろう? 自分は周囲の人に受け入れられているのだろうか? そんな誰もが一度は感じたことのある感情を、本作ではクスッと笑える状況を用いて描いているのだ。
「彼女たちはさらにエリオの母親だった女性を、エリオの”叔母”に変更しました。そのことでエリオと叔母のオルガの関係や感情は複雑になりましたし、ふたりの環境が変わった時にエリオとオルガが共に暮らすのか、別々の道を行くのかわからなくなります。これが母と息子なら観客は“まぁ一緒に暮らすよね”と思う人が多いと思うのです。彼女たちはそんな風に私たちがこれまでに映画などで何度も観てきた設定やジャンルを少しだけひねって、面白くする能力があるんです」
エリオは自分たちが子どもの頃とよく似ている

普通の設定ではつまらない。でも奇抜な状況を描いた話だけでは驚きこそすれ、共感はできない。ふたりはこのふたつの問題を同時にクリアする。感涙&共感必至のドラマを、予想外の展開と設定で描く。それがこの監督コンビの得意技だ。
「どの作品もはじまりはとても個人的な想いだったり、キャラクターと自分のつながりから始まるんです」と、ドミー・シー監督は語る。
「エリオは周囲に自分と同じような境遇の子がいなくて、いつも孤独を抱えているのですが、私たちはよくスタッフと『エリオは自分たちが子どもの頃とよく似ているよね』と笑い合っていました。ピクサーで働いているスタッフの多くは、子どもの頃にアートが好きだったり、オタクっぽい気質の人が周囲にいなくて、“ああ、早くこの環境を抜け出してアニメーションの学校に行きたい! 自分と同じようなオタクの集団に混ざりたい!”って感じていましたから(笑)。
この映画ではそんな孤独な気持ちや自分の居場所がほしいと思う気持ちを、ファンタジックな設定と掛け合わせているわけです。ですから、この映画をつくる上ではエリオが“何があってもこの道じゃなきゃダメなんだ。自分は宇宙に行かないとダメなんだ”と思う気持ちからブレずに物語を語ることを意識しました。それに私たちはいつも何百回と観ているようなシーンに何かを加えてお互いを驚かせたり、笑わせようとしてきましたから、観客の方もこの映画を観て新鮮さや驚きを感じてくれると思います」

エリオの想いを描く上で重要なヒントになったのが、実在するアメリカの宇宙探査機ボイジャーが宇宙に向かう際に搭載した“ゴールデンレコード”だ。そこには動物の鳴き声や音楽が収録され、地球外生命体がレコードを見つけて解読してくれることが期待されている。いつその声が届くかはわからない。でも、この声が届く日がいつか来る。
マデリン・シャラフィアン監督は「ボイジャー計画がこの映画が描くすべての要素をつないでくれるものだと思った」と振り返る。
「この作品に参加して最初にリサーチをしている時にボイジャー計画やゴールデンレコードについて知りました。そこで私はエリオこそがボイジャーだと思ったのです。地球にはもう自分の居場所はなくて、目を向けている場所は宇宙の先しかない。そして孤独なままひとりぼっちで旅を続けているイメージ……それがエリオと重なったのです。
一方で、宇宙探査というプロジェクトはたくさんの人間がひとつになって進めていくものだとも思っています。多様なバックグラウンドや声をもった人たちがひとつになって、人類として先に進めるようにこの計画に挑んだ。そこには人類の“つながり合いたい”という想いを感じるのです。そう考えるとボイジャー計画のゴールデンレコードは人間がやったことの中で最も美しいことのひとつだと思います。この映画を最後まで観ていただいて、自分たちには居場所があることや、希望、つながりを感じてもらえたらうれしいです」
現実と想像力豊かなドラマのつながりを見つけ出し、そこにある感情を丁寧に描き、さらに観客の想像を上回る“ひねり”を加える。本作は『トイ・ストーリー』や『インサイド・ヘッド』のクオリティと安心感に、彼女たちコンビならではの“意外性”が混ざった斬新な作品になった。
「ふたりはピクサーの新世代の才能です」とメアリー・アリス・ドラムは語る。「ふたりはこれまでとは違ったタイプの物語をワクワクしたかたちで語ってくれます。ピクサーではこれまで作品をつくってきた監督たちが引き続き活躍する一方、新しい才能もどんどん出てきているんです。マデリンは本作に続いて来年公開の『私がビーバーになる時』でもヘッド・オブ・ストーリーを担当しています。新しいピクサーを担う若い才能の筆頭に彼女たちがいるわけです」
『星つなぎのエリオ』
8月1日(金) 全国劇場公開
(C)2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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