歌舞伎が培ってきた力が、刀剣男士の世界をますます深く面白く。“とうかぶ” 『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁』
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歌舞伎『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁』カーテンコールより (撮影:荒川潤)
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すべて見る東京・新橋演舞場でスタートし、8月、福岡・博多座、京都・南座へと向かう歌舞伎『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』。7月27日に幕を閉じた東京での熱い舞台をレポートする。
人気のオンラインゲーム「刀剣乱舞」を初めて歌舞伎化したのは2年前。歴史に名を残す名刀が刀剣男士となり、歴史改変を企む時間遡行軍と戦いを繰り広げていく原作は、歴史を背景に様々な物語が綴られてきた歌舞伎の世界と見事に融合し、刀剣乱舞と歌舞伎、両者の魅力を増幅させた。今回の第二弾は、前作の室町時代から鎌倉時代に舞台を移し、三代将軍源実朝が鶴岡八幡宮で暗殺された事件を題材に描いている。

登場する刀剣男士は、前作の三日月宗近(尾上松也)、同田貫正国(中村鷹之資)、髭切(中村莟玉)、膝丸(上村吉太朗)、小烏丸(河合雪之丞)に、陸奥守吉行(中村歌昇)、加州清光(尾上左近)、鬼丸国綱(中村獅童)が加わった八振り。なかでも、源氏の重宝であり兄弟刀として伝わっている髭切・膝丸にとって実朝は、自分たちの主の子孫。その複雑な心中にスポットが当てられていくことになる。さらに今回から、歴史のなかで命を落とした者たちの怨念が顕現した羅刹微塵(松也の二役)が登場。歴史を変えることで怨念を晴らそうとするそのおどろおどろしい姿にラスボス的存在感があり、一気に物語に引き込まれていく。

さて、歴史改変の動きを察知して鎌倉時代へと向かった刀剣男士たち。そこでは北条政子(雪之丞の二役)と孫の公暁(鷹之資の二役)が、将軍の後継問題について語っている。


当の将軍実朝(歌昇の二役)はといえば、政よりも和歌に興じるばかり。しかし、その和歌から実朝の真意は別にあると感じた膝丸は、本意を知ったうえで最期に立ち合いたいと思い始める。知ったところで歴史は変えられないという兄・髭切の忠告を背に実朝のもとへ走る膝丸。そのまっすぐな思いを受け止め胸の内を明かす実朝。心配するあまり膝丸から実朝の運命を聞き出す実朝の妻・倩子姫(左近の二役)。膝丸が二人それぞれと心通わせる様が何とも美しい。

そんな膝丸をちょっとぶっきらぼうな言動で見守る髭切の優しさにもグッとくる。

そして、坂本龍馬が主だった陸奥守はカラッと明るく皆を盛り上げ、沖田総司が主だった加州はクールに決め、堂々たる風格で強さを感じさせる鬼丸と、品格と大きさを持つリーダーの三日月がチームをまとめる。彼らが何があろうとも歴史の改変を防ぐのが使命と覚悟するなか、権力を我がものにしようとする者たちによって、暗殺の犯人となる公暁をそそのかす企てが進み、いよいよ運命の日がくる。

大詰め。幕が開くと、雪が降りしきるなかに鶴岡八幡宮の大階段が現れ、まずその大きさと高さに圧倒される。実朝の右大臣拝賀式が行われるここで実朝の命運は尽きるのである。

刀剣男士が舞い踊る『舞競花刀剣男士』
そこへ現れる羅刹微塵たちと戦う刀剣男士の立廻りも大迫力。それぞれの見せ場で歌舞伎の様々な殺陣の型が披露されるのも、“とうかぶ”ならではの醍醐味になっている。三日月と羅刹の一騎打ちなど、松也の早替わりによる驚きが随所にあるのも見どころだ。そして何より、実朝の死に立ち合う髭切・膝丸兄弟の切なさである。歴史を見てきた刀剣男士たちは、盛者必衰の理を、人の儚さを知っている。だから、彼らが戦う姿は胸を打つのだろう。また、それゆえ人間の恨みはなくならず、羅刹微塵のような怪異も生まれる。彼らの戦いは終わることがないのかもしれない。
が、ひとまず歴史改変を防ぐことができたお祝いにとばかりに、刀剣男士たちは舞い踊る。
それが今回から新しくできた大喜利所作事『舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)』の場である。

最初に登場するのは髭切・膝丸。散った人々の魂を鎮めるために『三番叟』を踊る。その後、春夏秋冬に合わせた踊りが披露された。三日月は『男伊達』でヒーロー像を表現。続いて、同田貫、陸奥守、加州が、『よさこい』『おてもやん』『加賀ハイヤ節』と、それぞれの生まれ故郷に縁のある民舞で楽しませる。

髭切・膝丸も合わせて五振りで揃いの浴衣姿が粋である。小烏丸が踊るのは、『平家物語』『扇の的』をモチーフにした踊り。小烏丸が玉虫御前、三日月が那須与一に扮し、琵琶の音がまさしく盛者必衰の平家物語を盛り上げる。


最後は鬼丸の『獅子』の舞である。二人の獅子の精を引き連れ、時間遡行軍を蹴散らし、激しく毛ぶりを見せる鬼丸。歌舞伎舞踊のダイナミックさと華やかさが劇場に広がったところでフィナーレを迎え、八振りの刀剣男士が登場し、扇を持ちながらの総踊りで幕は閉じる。この所作事が加わったことで、さらに歌舞伎らしさを打ち出すことに成功した歌舞伎『刀剣乱舞』。歌舞伎が培ってきた様式美や演出の力が、刀剣男士たちが活躍する歴史の物語をますます面白く、深くしている。
取材・文:大内弓子 撮影:荒川潤
<公演情報>
歌舞伎「刀剣乱舞」
『東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』
大喜利所作事『舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)』
原案:『刀剣乱舞ONLINE』より(DMM GAMES/NITRO PLUS)
脚本:松岡亮 演出:尾上菊之丞 尾上松也
出演:尾上松也、中村歌昇、中村鷹之資、中村莟玉、尾上左近、澤村精四郎、上村吉太朗、市川蔦之助、河合雪之丞、大谷桂三、中村獅童 ほか
【東京公演】
2025年7月5日(土)~7月27日(日)※公演終了
会場:新橋演舞場
【福岡公演】
2025年8月5日(火)~8月11日(月・祝)
会場:博多座
【京都公演】
2025年8月15日(金)~8月26日(火)
会場:南座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kabuki-toukenranbu/
公式サイト:
https://kabuki-toukenranbu.jp/
©NITRO PLUS・EXNOA LLC/歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会
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