小西桜子が女優役を好演！ 芸能界“あるある”を詰め込んだシュールなサスペンス『きみは一生だれかのバーター』開幕

芸能界を舞台にしたサスペンス・コメディ「きみは一生だれかのバーター」が浅草九劇（東京・浅草）にて7月31日に開幕した。

『愛について語るときは静かにしてくれ』で第68回岸田國士戯曲賞にノミネートされ、放送中のドラマ「ちはやふる -めぐり-」の脚本に参加するなど多彩な活躍を見せる劇団、コンプソンズの金子鈴幸が初めて劇団外で作・演出を務める本作。出演者のひとりでもある尾上寛之とプロデューサーが「これからの演劇界を担う30代を中心とした面白い演劇を作り、演劇界を盛り上げたい」との思いで意気投合し企画がスタートし、若手演劇人の中でも注目を集める金子を作・演出で迎えることに。

芸能界の“裏側”を題材にした本作の主な舞台は、地下鉄の駅に直結し、TV局の収録スタジオとも別の出口でつながっているという芸能人御用達の喫茶店。ちなみに、この喫茶店のモデルはある収録スタジオにかつて実在した喫茶店であり、本作に登場するマスター（駒木根隆介）の出で立ちなど（なぜかカラーペンを何本も胸ポケットに差している）も、見る人が見れば、モデルとなった喫茶店のマスターをイメージしていることがすぐにわかるとか……。

冒頭、このマスターと芸能プロダクションで女優のマネージャーを務めるショウ（尾上）が近々、芸能界に激震が走るという、ある噂話で盛り上がっている。そこへ、ショウがマネージャーを務める新進の若手女優で、本作の主人公・真島香菜（小西桜子）が打ち合わせのためにやってくる。会話やふるまいから一見、清楚に見えて芯の強さを持つ香菜の性格、大河ドラマへの出演が決まるかもしれない段階にあること、さらに香菜のインディーズ気質、サブカル好きな一面などが見えてくる。

マネージャーのショウは、そんな香菜をよりメジャーで売り出そうとし、女優や芸能人はいかに外からの“見え感（＝イメージ）”が大切であるかを説くなど、いかにも芸能界！ という業界人っぽい会話が展開する。

そこへ登場するのが、喫茶店の店員で、香菜とは高校の同級生だったという聖子（井上向日葵）。久々の再会を喜ぶ聖子だったが、香菜は聖子を見て、どこか浮かない顔をしている。香菜が高校の芸能コースに通っていたのに対し、一般コースに通っていた聖子は卒業旅行にも一緒に行くような“親友”だったというひたりだが、過去に何か因縁があるようで……。

昨今の芸能ニュースにおいて、もはや日常茶飯事とも言えるような“あるある”と非現実でナンセンスな出来事が絶妙に絡み合い、物語はクライマックスへ。

サスペンスの軸となるのはやはり、香菜と聖子の関係性と彼女たちの過去だが、6年ぶりの舞台出演となる小西が、多面的な香菜を好演。劇中、香菜を評して「頭が悪い」「どうでもいいという顔をしながら実は執着している」、「でも、かわいい」など様々な言葉が並べられるが、美しくも恐ろしさや悪意をはらんだ香菜のいくつもの表情を演じ分け、一般人が勝手に抱く「きれいな女優さんってこういう“裏”がありそう」というイメージの“ザ・芸能人”を見事に体現している。井上も恨みや嫉妬、憧憬の入り混じった複雑な感情を抱く聖子を、ある種の狂気をもって演じており、劇中で語られる、ふたりを巡る“真実”に驚かされると同時に、タイトルの意味や、それまでのふたりのやりとりに散りばめられた伏線、そして小西と井上の演技力の高さに唸らされる。

尾上、駒木根、しずちゃん、東野良平（劇団地蔵中毒）、そして演出だけでなく出演もしている金子が演じる各々の役柄もいずれも奇妙で恐ろしく、でもクスリと笑える“あるある”な感じをまとっており、芸能人の実名や実際の“事件”などもネタにしつつ、まさにサスペンス・コメディの魅力が詰まった2時間となっている。

取材・文／黒豆直樹

＜公演情報＞
『きみは一生だれかのバーター』

日程：2025年7月31日(木)〜8月11日(月･祝)
会場：浅草九劇

［作・演出］ 金子鈴幸（コンプソンズ）
［出演］ 小西桜子　井上向日葵　尾上寛之　駒木根隆介　東野良平（劇団「地蔵中毒」）　金子鈴幸（コンプソンズ）　山﨑静代

チケット情報：
https://w.pia.jp/t/kimi-barter/