村井良大が自らの人生観を変える、初の一人芝居に挑戦
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インタビュー

村井良大 (撮影/石阪大輔)
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すべて見る『ピッチフォーク・ディズニー』や『マーキュリー・ファー』などで知られる、イギリス人作家フィリップ・リドリー。彼が2020年のコロナ禍に書き下ろした一人芝居『ザ・ポルターガイスト』に、俳優の村井良大が挑む。村井にとっては初の一人芝居。「役者としての総決算」と語るほど、本作に並々ならぬ情熱を注ぐ。その思いの丈を存分に語ってくれた。
――初の一人芝居です。お話があった時の心境は?
村井 一人芝居のハードルの高さは重々承知していましたが、お声がけいただいたことはすごく嬉しかったです。今まで18年役者をやってきて、その総決算ができるのではないか。役者としての自分の現在地を問い直せるのではないか。なにより一人芝居を任される、この人の一人芝居が見たいと思っていただけることが、とてもありがたいと思いました。
――フィリップ・リドリーがコロナ禍に書き上げた作品です。脚本を読まれての感想は?
村井 すごく笑えるところもあれば、負の感情が入り乱れるところもあり、台本としての緩急がすごく面白い作品だと思いました。ただ何度も何度も読み返していくうちに、作品の見え方がどんどん変わっていって。
今、僕がこの作品に対して抱いている印象は、とにかく純粋な話だということ。主人公のサーシャがアーティストとしてどう生き直すのかということを描きつつ、同時に演じる俳優自身にも問いかけてくる。それを2020年のコロナ禍に、早くも打ち出していて。当時は演劇なんて一生できないんじゃないかと思っていましたが、やっぱり芸術は必要だよね、好きだよね、ということをこの作品がもう一度教えてくれた気がします。

――俳優として、アーティストとして、ご自身にも感じ入る部分が多くあったのですね。
村井 そうですね。サーシャはある事件を機に大好きだった絵を大嫌いになってしまうのですが、なぜそうなってしまったのか自分でもわからず、ずっと苦しんできたわけです。でも結局答えは、自分の中にあるんだなと。そして僕自身、この一人芝居を通してそのことをまざまざと思い知らされたというか。自分の中にあるものを捻じ曲げず、ちゃんと出しなさい、と。
作品の良さはもうよくわかっているので、無理していいものにしなくていい。あとはどれだけ自分自身が楽しめるか。充実した時間を送れるか。お客さまにはその姿を生で見ていただくことで、面白く感じ取っていただけたらと思います。
――演じる役は全部で11人ほど。さらに主人公のサーシャに関しては、会話と心の中の声、その両方を台詞として発しなければいけません。
村井 そこがかなりやっかいですよね。ですから、これはサーシャが思い出していた話だという見え方もあると思いますし、それを追体験していたのかもしれないという見え方もある。そうやってさまざまな捉え方ができるのが、一人芝居の面白さだなと。またお客さまが「これはなんだ?」と考えて、考えて、かといってそこに答えがなくてもいい。そういったことを思い起こさせてくれる点でも、一人芝居っていいなと思います。

――ただ共演者と相談し合う、刺激を与え合う、といったことができない辛さもあるのではないですか?
村井 まさに辛いです(苦笑)。これまで枝葉が伸びていたのは、相手役のおかげだったんだなと。さらに自分が苦手なこと、無理していたことにも気づかされて。だからこそ、本当に肩肘張らずにやりたいですね。そして自分という幹を太く、しっかりしたものにする。それがきっと、村井良大がやるということなんだと思います。
――これまで村井さんに対して器用な俳優さんというイメージもありましたが、今回また違った一面を垣間見せていただいた気がします。
村井 器用っぽいということは、つまり器用じゃないんですよね。今までみなさんが感じていたのはまったくのまやかしで、“雰囲気イケメン”みたいなもの(笑)。でも今回、本当の本当に裸になって立たないとダメだなと思いましたし、そうあれることがとても気持ちいい。僕はこれがいい、これでいいというものを、この作品では打ち出せるのではないかなと思います。
――それが観客にとって、どういった時間になっていくのではないかと思いますか?
村井 一人芝居であること、そしてこういう終わり方であることから、いろいろなことを考えてもらえるのではないかと思います。その結果答えが出なかったとしても、考えた時間こそがあなたの価値なんだ、と。そういった気づきを与えてくれるのが、この作品の面白さではないかと思います。

取材・文/野上瑠美子
撮影/石阪大輔
ヘアメイク/荻野明美 スタイリスト/秋山貴紀
<公演情報>
石井光三オフィスプロデュース
『ザ・ポルターガイスト』
日程:2025年 9月14日(日)~21日(日)
会場:本多劇場
[作] フィリップ・リドリー
[翻訳] 小原真里
[上演台本・演出] 村井雄
[出演] 村井良大
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/poltergeist2025/
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