舞台「十二人の怒れる男」まもなく開幕。あなたは傍聴人か、はたまた13人目の陪審員か
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すべて見る「十二人の怒れる男」は1954年、レジナルド・ローズ脚本の米テレビドラマとして大ヒット。映画や演劇にもなり、世界中で愛され続ける普及の名作だ。法廷劇の金字塔ともうたわれる同作が東海ラジオの演劇プロデュース公演として間もなく開幕する。陪審員役を務める12人のキャストには名古屋ゆかりの俳優たちが顔をそろえる一方、東京から小出恵介や松田昇大らも迎えており、個性豊かな実力者たちの大競演に期待が膨らむ。
時は夏、舞台は裁判所の陪審員室。12人の男たちは、父親殺しの罪に問われた少年に最後の審判を下そうとしていた。有罪が確定すれば少年は死刑を逃れられない。場の空気は満場一致で有罪と見えたが、ひとりの陪審員が無罪を主張。そこから思いがけない展開に……!
観る者も思わず「自分だったらどうするか」と考えてしまうほど白熱の応酬に引き込まれる圧倒的会話劇。陪審員3号を演じる小出、8号を演じる松田にその魅力を尋ねた。
劇のカナメとなるのは角度の違った変人ふたり!?
──オファーを受けた時の心境をお聞かせください。
小出 お話をいただいたのはたしか1~2 年ぐらい前だったと思います。 実はその前にも一度お声がけいただいていたんですが、その時はスケジュールの都合でご一緒できなくて。なので今回また改めてお声がけいただいたのがとてもありがたくて、そこまで思っていただけるなら、ぜひ挑戦してみたいなと思いました。東京ではなく地方のみの公演というのは僕にとって初めての経験ですし、東海地方で活躍されている俳優の方々とご一緒できるというのも、すごく刺激的で楽しみでしたね。
松田 僕は「なんで僕なんだろう?」というのが最初の心境でした(苦笑)。しかもマネージャーからは「プロデューサーが名古屋ゆかりの役者を呼びたいそうだ」と聞いて、僕は三重県出身なので大丈夫かなと(笑)。でも何度も再演されている名作ですし、会話劇をコンスタントにやっていきたい想いもあって、喜んでお受けしました。ただ、キャストが12人いて誰も舞台から退場せず、ずっと議論する作品ということで不安な気持ちもありました。
──3号、8号はそれぞれどんな人物だと考えていますか。
小出 僕が演じている3号という役は、個人的な感情ばかりぶつけてくる人物なんです。台本を客観的に読めば、こういう人なんだなと理解はできるし、感情移入もまったくできないわけではない。
ただ自分の声量や勢いだけで相手をねじ伏せていくようなやり方がちょっと古風というか、今の時代には合ってないような気もして。そこをどう演じるかは難しいですね。ただただ嫌われる存在でいいのか、そういう寂しい人として見せるべきなのか。そんなことを悩みながら、日々取り組んでいます。逆に松田くんの演じる8号も、それはそれで何か変わった人物なんですよ。重箱の隅をつつくように「これはどうなんですか?」と突いてくるタイプで。ディベートが好きな、ちょっと偏屈な人っているじゃないですか。ああいう感じ。気質としては僕が演じる3号と同じぐらい変わっていると思います。ただ、ふたりとも変人ではあるんだけど、その” 変”のベクトルが全然違うんですよね。
松田 三谷幸喜さんの「12 人の優しい日本人」じゃないですけど、他の全員が手を挙げたら自分も手を挙げるというのは日本人の特色だと思うんですよ。でも8号はそれを一気に打ち破ろうとするみたいなところがある。それは日本人的にあまりない感覚なので、そこをどう自分に落とし込むかという難しさがあると感じています。
小出 あんな勇者なかなかいないもんね。全員を前にして「バシッ、無罪です!」みたいな。あれはできないよね。恐ろしい。
松田 強メンタルというか強い精神力を持っているというのが8号の第一印象で、それを手に入れたいというか、僕自身にも取り入れたいと思っています。3号は逆に、はたから見ているとすごくわかるというか…。自分のテリトリーがあって、そのテリトリーに何も入れない、寄せつけない感覚を持っている。だから、その人にどう切り込むかというのも8号ができることだし、そこがうまく噛み合っていけばすごく面白くなるだろうなと思います。
──他の役で気になるキャラクターはいますか。
小出 12号の憲俊さん。憲俊さんが演じているからこそだと思うんですけど、もう舞台を自由に…、すごいことになってるよね?
松田 自由に歩き回っていて、あれで救われてる部分もありますよね。やっぱり座って議論しているので、ちょっと空気が重くなりがちなんですよ。そこで動いてくださるのは救いだし、キャラクターもすごく立っているので素敵だなと思います。
小出 ほぼ外側にいるんだよね。
松田 外からヤジみたいにしゃべるんですよ。Yo!Yo!みたいな(笑)。本当に話を聞いてんのかと思ってしまう(笑)。
小出 部外者みたいなんですよ(笑)。

名古屋で交わされるオリジナルな議論の世界
──日本人は議論が苦手だとよく言われますが、現在のネット社会では匿名のもと議論が過熱する傾向にもあります。でも本作では、個人名こそわからないものの顔を見て議論が行われる。それを私たちが見た時、何か気づきがあるのではないかと想像しています。
小出 いい視点ですね。
松田 確かに匿名じゃなくて、男たちが汗をかきながら…。
小出 水掛け論みたいなことをね。
松田 答えのない答えを探し出そうとする様子に、何か響くものがあったらいいですね。
小出 最近は日本でもディベート系の番組が増えてきましたよね。僕はディベートの場ってもっとたくさんあっていいと思うんですよ。大事なのは、相手を打ち負かすことじゃなくて、自分の意見をちゃんと伝えること。そして相手の意見も尊重しながら、自分の考えを述べる。そういうやりとりに慣れていくことが、これからますます大事になってくるじゃないかと感じています。
──他の土地に滞在して創作活動をすると帰宅という切り替えができないので、ずっとONの状態になるという声も聞きますが…。
松田 それは実際あると思います。気づいたら台本のことを思い出しているので。でも名古屋の雰囲気を感じたり、空いている時間に外出してみたりして、名古屋自体を楽しむじゃないですけど、新鮮な気持ちでお芝居と向き合えている感覚はあります。
小出 このカンパニーで過ごす時間そのものが、作品の成果に直結してくると思うんです。登場人物たちが濃厚に関わり合う作品なので、僕自身は外様というわけではないけど、自分の置かれた環境や状態をうまく役に乗せていけたらいいなと。そうすることで、この公演ならではの経験や、オリジナリティが生まれるんじゃないかと思っていて。滞在そのものは楽しいですよ。もちろん落ち着かない部分もありますけど、作品との距離感も普段とはちょっと違う感じがしていて。それがまだ新鮮で、いい刺激にもなっています。
──名古屋でやってみたいことはありますか。
小出 やっぱり矢場とん、味仙は行きたいですね。名古屋はご飯が安くて美味しいです。
松田 わかります。安いですよね。ひつまぶしとか鰻なんてこんな値段じゃ食べられないよ、みたいな(苦笑)。東京で食べるのがバカらしくなるくらいです。
小出 食には癒されてますね。しかも個人店のユニークなお店が多いから、そういうお店を巡るのが楽しいです。
劇場の空気を、ナマの舞台の面白さを、若い人にも
──ご自身にとって演劇の一番の醍醐味は?
小出 僕は舞台を観るのも好きですし出るのも好きです。ただ、稽古って大変じゃないですか(苦笑)。正直、稽古そのものはあんまり楽しいとは思えないんですけど、劇場へ入ると楽しくなるというか、居心地いいな、ここにいたいなと思えるんですよね。それで公演が終わった後はけっこういい気分になっていて、またやりたいと自然に思える。それが僕にとって、演劇のマジックなんですよね。
松田 まずはナマであることが一番大きいですね。もちろんセリフとか変わるわけじゃないんですけど、その日の空気感とか多少なりとも違ってくるのはやっていて感じます。また観る側だとしたら、常により良いものにしようというか、日々進化させていこうとする意気込みが感じられた瞬間に僕はすごい素敵だなと思うので、それが舞台の一番の醍醐味じゃないかと。今回は劇場が円形なので、観る場所でも空気の違いみたいなものを感じていただけるはずです。ただ、360度お客様がいるので緊張しますね。
小出 取り囲まれてるわけだもんね。
松田 どこ見ても顔ですよ(苦笑)。
──最後に読者にメッセージをお願いします。
松田 難しい作品ではあると思うんですけど、名古屋だけ、4日間だけ、このメンツで上演されるということが、僕自身、特別なものだと感じているので、ぜひ観に来ていただきたいです。あと、めずらしいのがU-29チケットが3,000円なんですよ。だいたいU-18とかですよね? そこがすごく攻めてるなと。今まで演劇に触れたことのない方も、これを機に観ていただきたいなとすごく思います。あとはストレートプレイでこんなにしゃべる役が人生 2 回目なので、どれぐらいできるようになったか楽しんでいただければと思っております。
小出 今回の舞台は、登場人物たちがひとつの空間の中でぶつかり合いながら議論を重ねていく、すごく骨太な会話劇です。舞台上にいる俳優それぞれの熱量や緊張感が、目の前でリアルに伝わってくるのが、この作品の一番の魅力じゃないかと思います。
地元の方に馴染みのあるキャストも多いと思うので、そういう意味でも興味を持ってもらいやすいかもしれませんが、ぜひ、演劇って面白いんだなと感じてもらえるきっかけになったら嬉しいです。特にプロデュース側は、若い人たちにもっと演劇に触れてほしいと強く思っているはずなので、この作品がその入口になれたらいいなと思っています。
取材・文:小島祐未子
TOKAI RADIO PRODUCE
舞台『十二人の怒れる男』
原作:Reginald Rose
翻訳:額田やえ子
演出:刈馬カオス
イメージソング:AK-69
出演:小出恵介/松田昇大/田村侑久/平野泰新/永田薫/内海太一/大友海/憲俊/清水順二/市川智也/清水宏/小野了
8月8日(金)~8月11日(月・祝)
千種文化小劇場
https://www.tokairadio.co.jp/event/stage/12angrymen.html
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