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青年の心の葛藤を演じて、森田剛が現代社会に問いかける――舞台『ヴォイツェック』

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インタビュー

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森田剛 (撮影:You Ishii)

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どこか危うさを感じさせるような独自の存在感で観客を魅了し続けている森田剛。その魅力を存分に堪能できそうな舞台が上演される。ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーが遺した19世紀を代表する未完の戯曲を、イギリスの劇作家ジャック・ソーンが現代的に解釈して翻案した『ヴォイツェック』だ。浮かび上がるのは緊張感が増す現代社会にひとり震える青年の姿。またとてつもない役と作品を生み出してくれる。

「来た!」という感じでした(笑)

──まず、『ヴォイツェック』への出演依頼があったときの心境から聞かせてください。

そもそもは何年か前に、「小川絵梨子さんの演出で」というお話をいただいたのが最初で、そこから『ヴォイツェック』をやることが決まったので。作品よりもまず、「小川さんとやるんだ。ぜひ」という気持ちでした。

──前から小川さんとご一緒したいと思われていたのですか。

小川さんのことは西尾まりさんから聞いていたんです。西尾さんとは、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(2014)という舞台でご一緒したあと、ドラマ『リスクの神様』(2015)でも共演して、その撮影の合間に、「どんな舞台や演出家さんが良かったですか?」というような舞台の話をいろいろしていて。そこで西尾さんに「小川さんが合うんじゃない?」と言われたんです。確かそれ以前に小川さんが演出された舞台は観ていなかった気がするので、その時点で自分が小川さんのことを知っていたのか記憶が定かではないんですけど。ただ、そこではっきりと「小川絵梨子」という方が自分の中に刻まれて、そこからずっと気になっていたんです(笑)。語れるほどではないですけど、その後舞台も観ました。だから、小川さんとご一緒できると聞いたときは、「来た!」という感じでした(笑)。

──森田さんご自身は、どういう演出家さんとやってみたいと思われるんですか。

作品を観ていいなと思うこともありますけど、小川さんと、あと『台風23号』(2024)の赤堀雅秋さんもそうでしたけど、人から「合う」と言われると、単純なので(笑)、「そうか、合うんだな」とその気になってしまうんです。同業の俳優さんに言ってもらえると、よりその気になります。

──小川さんとは今回の作品についてお話しされていますか。

いえ、まだお会いしていないんです。人づてにちらっと演出プランを聞いていたりするんですけど、やはり実際にお会いしてお話してみてからになると思うので、何とも言えません。ただ、舞台は人間関係を築きながら時間をかけて作っていくものですから。今回は伊原六花さん以外、小川さんを含めはじめましての方ばかりということもあるので、その作業がすごく楽しみです。大変な作品になるとは思うので、助け合って、アイデアを出し合って、小川さんのイメージを役にしっかり落とし込めたらいいなと思います。

「みんなそれぞれ、傷つきながら生きている」

──「大変な作品になる」とのことですが、今回上演されるのは、19世紀を代表する未完の戯曲を現代的に解釈したバージョンで、冷戦下の1981年のベルリンを舞台に、過去のトラウマと自身の心の闇と闘いながら生きるヴォイツェックの姿が描かれます。発表されているコメントでは、「ヴォイツェックという人物に対して理解できる部分がたくさんある」とおっしゃっていましたね。

誰でも少なからず傷ついたり悩んだりしながら生きているので、理解できる部分はあります。それをどれだけ膨らませられるか、ということになると思うんですけど、その傷ついてしまうヴォイツェックの純粋な部分、まっすぐな部分を大事に演じたいなと思っています。そういう純粋な気持ちって、どうしても大人になるとなくなってしまうというか、霧がかかった感じになると思うので、ヴォイツェックのようにそれを失わずにいる役には興味もあるんです。自分もそういたいと願います。また、その反動みたいな感じで堕ちていくのも理解できるし想像できますし。そこを舞台で表現するのがすごく楽しみです。

──今回の現代的に解釈したバージョンは、そのヴォイツェックの心の葛藤から、現代社会が抱える問題も見えてくるようです。

純粋だから傷つくという単純なことではなく、もっと複雑なものがあって追い込まれていく感じがします。政治のこと、戦争のこと、それから母親のこともありますし、いろんなことが複雑に絡み合っていく。今の段階ではまだ自分の中で整理できていないので、稽古をしながら、ヴォイツェックの葛藤の要素をいろいろ見つけていければと思います。

──もうひとつコメントで、「現代に置き換えてもリンクする部分がある」ともおっしゃっていました。今上演する面白さや意味はどこにありそうだと思われますか。

僕自身はそんな意味とかを考えず、与えられた役を生きることに集中するだけなんですけど。でも、みんなそれぞれ傷つきながら、それを隠して生きていて、それは昔も今も変わらないと思いますし。今も実際に戦争が続いていて、いつどこで起こるかわからない、戦争と背中合わせの世界であるということもずっと変わらないので。今のお客さんにも共感してもらえると思います。

違和感を楽しむことも、翻訳劇の面白さ

──翻訳劇にたくさん出演していらっしゃいますが、取り組むにあたってはいつもどんなことを心がけておられますか。

翻訳ものはどうしてもまず言葉に違和感があるんです。でも、そもそも日本人が演じるということ自体に違和感がありますけど、逆にそこを楽しむことも翻訳劇の面白さのひとつだと思うので、言葉に関しても、違和感と、その違和感の楽しみ方があるはずだという気がしていて。翻訳にしかない言葉づかいや文章の組み立て方になっているからこそ、逆に思い切れるというか。普通の日本語の会話の中にあると照れくさい感じになるところも、思い切り言えたりするので、そこを楽しみたいと思っています。

──その戯曲の国や時代のことを調べたりもされますか。

その人物が置かれている状況は気になるので調べます。ただ、戯曲に書いてあることが基本になると思うので、僕自身は、背景を調べるよりも、書かれているセリフを紐解いていくほうが好きかもしれないです。

──『台風23号』で共演された伊原六花さん以外は、皆さん初共演ということでしたが、初めての方とご一緒されるときはどんな楽しみがありますか。

はじめましては嫌いではないんです。ゼロから始められるから、自分のことがまだバレていなくて、猫をかぶれるじゃないですか(笑)。もちろん、新しい出会いから新しい発見や気づきがあるのもいいなと思いますし。相手によって自分のお芝居が変わっていくのも楽しいし。役って影響を与え合ってできるものだと思うんです。

──ちなみに、共演経験のある伊原さんとはお話しながら作っていかれますか。

話はしないと思います(笑)。どの方もそうですけど、何かアクシデントがあったときは話をすると思うんですけど、それ以外は話は必要ないというか。役で会話できて、そこで相手とふたりでどんどん昇っていけるのが理想だと思うんです。

「壊れていく姿の中に、光があればいい」

──舞台のお仕事が続いていますが、改めて森田さんにとって舞台の魅力とは?

あまりそういうことは考えていないですけど、自分に合っているかなとは思います。そこにお客さんがいるという空間も、始まったら終わるまで止まらないというスタイルも、だからこそ緊張感と怖さがあることも、ほかでは経験できないことなので。そういう普段の生活で感じることのない気持ちになれることが、自分には必要だなと思っています。

──今回は地方公演を含めると3ヶ月間本番が続きます。いつもどうやってコンディションをキープされていますか。

皆さん何があってもやり切るという覚悟を持って出られていると思うんですけど、それしかないかなと思います。自分ではどうにもならないことも起きるので、運ですね(笑)。

──特にこういうヘビーな役は精神的にも大変だと思いますが、切り替えはできますか。役を引きずったりもされるのでしょうか。

役のことをずっと考えていたり、考えていなくてもどこかに残っていたりします。でも、自分にとってはそれが大事なんです。ずっと残っていることで気づきやひらめきにつながるので、なくさないように持っておくことが自分にとってはすごく大事です。

──それは面白いこと?辛いこと?

両方あると思います。

──森田さんはこれまでも、精神的に重圧を抱えている過酷な役を多く演じてこられました。そういう役を演じることについては、ご自分ではどう感じておられますか。

普段自分ではそんな負荷をかけることはできないし、もしかしたら自分で無意識にストッパーをかけてしまっているかもしれないので、大変な役を演じることができるのは、嬉しいです。ありがたいなと思っています。いいか悪いかわかりませんけど(笑)、

──なぜそういう大変な役を与えられることが多いのだと思われますか。

きっと僕に合うと思って声をかけてくださっていると思うので、理由はわからないですけど、似合うんでしょうね。ただ、これまで演じてきた役も、今回のヴォイツェックもそうですが、絶望が待っているけれども、希望を持って生きている人間が多い気がしていて。だから、壊れていく姿を演じることは好きですけど、でもそれと同時に、自分で光を見つけていこうとする姿をしっかり丁寧に表現できたらと思っています。起こることを受け入れながら、でもそれに抗うということができたら、人間らしいヴォイツェックになると思いますし。その姿を観た人の心も希望に向かって動くんじゃないかなと思うんです。

取材・文:大内弓子 撮影:You Ishii
ヘアメイク:TAKAI(undercurrent) スタイリスト:松川 総
衣装:ジャケット ¥48,800(フルカウント TEL 06-4705-1108)他スタイリスト私物

<公演情報>
パルコ・プロデュース 2025
『ヴォイツェック』

原作:ゲオルク・ビューヒナー
翻案:ジャック・ソーン
翻訳:髙田曜子
上演台本・演出:小川絵梨子

出演:森田剛 伊原六花 伊勢佳世 浜田信也/中上サツキ 須藤瑞己 石井舜 片岡蒼哉/冨家ノリマサ 栗原英雄

【東京公演】
2025年9月23日(火・祝)~9月28日(日)
2025年11月7日(金)~11月16日(日) ※リターン公演
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

【岡山公演】
2025年10月3日(金)~5日(日)
会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場

【広島公演】
2025年10月8日(水)・9日(木)
会場:広島JMSアステールプラザ 大ホール

【福岡公演】
2025年10月18日(土)・19日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

【兵庫公演】
2025年10月23日(木)〜26日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

【愛知公演】
2025年10月31日(金)〜11月2日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

チケット情報 ★本日8/15(金)18時より先行発売あり
https://w.pia.jp/t/woyzeck/

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/woyzeck/

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