“奇跡のミュージカル”『ジャージー・ボーイズ』新たな仕掛けで再び観客を魅了 Team BLACK&Team YELLOWゲネプロレポート
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ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』Team BLACKゲネプロより
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すべて見る1960年代のアメリカで一世を風靡した4人組ボーカルグループ、ザ・フォー・シーズンズの栄光と影を、『Sherry(シェリー)』『Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)』といった彼ら自身のヒットソングを使い描くミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が8月10日、東京・シアタークリエにて開幕した。2004年にアメリカで誕生しトニー賞最優秀ミュージカル賞やグラミー賞を受賞、2014年には映画化もされた本作は、日本では2016年に初演。ミュージカル作品としては史上初めて読売演劇大賞最優秀作品賞に選ばれるなど数々の評価を得て、その後も上演を繰り返す人気作になった。コロナ禍では、初の帝国劇場での上演を予定していた2020年公演が全公演中止になるも、緊急事態宣言開けに帝劇再開のトップバッターとしてコンサート版として復活するなど、物語同様に栄光と苦難を乗り越えてきた日本版『ジャージー・ボーイズ』は“奇跡のミュージカル”とも呼ばれている。四演目(コンサート版は除く)となる2025年は、初演からリードボーカルのフランキー・ヴァリを演じる中川晃教率いるTeam BLACKと、今回初めてフランキーを演じる小林唯率いるTeam YELLOWを中心に、2022年に同役を演じた花村想太が特別出演するTeam GREEN、さらに2公演限定で、これまで本作を支えてきた俳優たちをメインに据えたNew Generation Teamという4チーム制で、約2ヵ月のロングラン上演となる。Team BLACKとTeam YELLOWのゲネプロを取材したレポートをお届けする。

物語は春、夏、秋、冬の4つの章から成り、ザ・フォー・シーズンズのメンバー――トミー・デヴィート、ボブ・ゴーディオ、ニック・マッシ、フランキー・ヴァリがそれぞれの視点からグループの盛衰を証言していく形で進んでいく。Team BLACKは、フランキー=中川晃教、トミー=藤岡正明、ボブ=東啓介、ニック=大山真志。2020年のコンサート版、2022年公演と経験を積んだチームであり、4人は作品を飛び出し実際に「JBB」というボーカルグループを結成、コンサートや楽曲リリースもしている。まずは何と言ってもハーモニーの美しさと4人の声の相性の良さがさすが。その上で、芝居面でも円熟味を存分に見せつけた。




まず幕開きの“春”を担当するのは藤岡正明扮するトミー。グループ結成までの苦労と、何かを掴みとりたいという希望に満ちた時代を、青春の甘酸っぱさやほろ苦さもまぶしながら疾走感たっぷりに語っていく。ヤンチャな兄貴分から、ギャンブルにはまりグループ崩壊の引き金を引いていくまでのトミーの変遷も自然だ。しかも粗暴さを、時折見せるピュアな笑顔で帳消しにするような魅力があり、どうしようもないダメさがありながら、彼なりにグループを、そしてフランキーを大切に思っていたことが伝わる切ないトミーを演じている。


グループがヒット曲を連発していく“夏”の章の語り部は、東啓介扮するボブ・ゴーディオ。最年少ながらその才能でグループを売れっ子に押し上げていく「最後のピース」になるボブを、東が余裕たっぷりに堂々と魅せた。まだ若い夏のシーンからすでに、のちに敏腕プロデューサーになっていく切れ者感を漂わせる。歌声も前回公演より格段にふくよかになり、ボブの聴かせどころ『Cry for Me』の第一声から鮮烈に印象付けた。


グループ内の力関係の変化と綻びが露わになっていく“秋”を語っていくのは大山真志が演じるニック。口数少なく目立たない存在である彼が、溜まっていた感情を爆発させ、同時にグループが離散していくさまが描かれるこのシーンは、4人の芝居面での見せ場でもある。
そのシーンを間違いなく牽引する芝居の深さを大山は見せ、物語の哀愁と深みを表現。声としても低音パートという支えるポジションながらも、時折、その美声にハッとさせられる。


そしてグループの崩壊のみならずプライベートでの悲劇と、再生への萌芽が描かれる“冬”の章は、中川晃教扮するフランキーが担当。初演からフランキーを演じている中川は、世界基準の歌声を求められるこの役を(フランキー役はブロードウェイオリジナル版のプロデューサーであり、実際のザ・フォー・シーズンズのメンバーであるボブ・ゴーディオの許可が下りないと出演できない)、完璧なコントロールと圧倒的な華のある歌声で聴かせる。


また唯一無二の歌声に注目されがちだが、芝居面の探求も鋭く、本人が望むと望むまいと備わってしまっているカリスマ性と、一般的な常識を持つ生活者の両面を掘り下げ、等身大の人間としてのフランキーを丁寧に造形している。歌唱力と芝居、両方向の深さに、日本の『ジャージー・ボーイズ』の顔はやはり中川晃教である、と改めて思わされた。

チームとしては、2022年公演は、中川・藤岡のベテラン勢と東・大山の若者チームの融合という形だったが、今年は東、大山の頼もしさが増し、4人が芝居面でも歌唱面でも非常に良いバランスで溶け合い見応えがあった。




またザ・フォー・シーズンズの5人目のメンバーと言われるプロデューサー、ボブ・クルー役の加藤潤一、フランキーの歌声に惚れ込むマフィアのボス、ジップ・デカルロ役の阿部裕、金貸しのノーマン・ワックスマン役の戸井勝海ら、経験者が多いのもTeam BLACKの特徴。加藤の柔らかいけれど奥底の知れないボブの役作り、阿部のチャーミングさと豊かな歌声、戸井の危険なカッコ良さも印象深い。



小林唯のフランキーに拍手! 初参加&役替わりの新生チーム“Team YELLOW”

Team YELLOWは、フランキー=小林唯、トミー=spi、ボブ=有澤樟太郎、ニック=飯田洋輔。フランキー役の小林とニック役の飯田が初参加で、有澤が2022年に引き続きボブを演じ、2018年からニック役として出演していたspiが役を替えトミーを演じるという新生チームだ。




まずはハイレベルな歌唱力が求められるフランキー役を、初挑戦とは思えない歌声で聴かせる小林に拍手を。登場シーンである『Silhouettes』のトワング歌唱でのハイトーンボイスから安定していて、新フランキー誕生を高らかに観客に印象付ける。役作りとしては無邪気さが際立ち、特に“春”のシーンのトミーとの何気ないやりとりで見せる素直な笑顔が心に残る。中川の強いカリスマ性とはまたひと味違う、無意識にまわりの人の心を掴むピュアなフランキーだ。



役替わりとなったspiは、強引で乱暴で粗野だが、ほかの人間とは何か違うパワーと魅力を持ったトミーをナチュラルに演じている。トミーってこういう人だったのかも……と思わせる説得力が抜群だ。BLACKの藤岡トミーが「フランキーにとってのナンバーワンになりたいトミー」であるのと対照的に、spiのトミーは「とにかく成功を掴みたい」というハングリー精神がビシビシ伝わってくる。幕開きの春の章を牽引するトミーがチームの色を作ると言っても過言ではないが、spiトミーのハングリーさは、YELLOWという新生チームに、パッションという色をつけた。


チームの中で唯一の続投となるボブ役の有澤は、爽やかさの中にも飄々とした曲者っぽさがあり、面白いボブだ。どこか熱血漢らしさがある東ボブに比べ、有澤ボブは冷静であり、時折冷酷さすら感じさせる。またこの人も3年間の経験が上積みされ、歌声が伸びやかになって魅力が増したのは間違いない。


ニックを演じる飯田はこれまで『オペラ座の怪人』『美女と野獣』『レ・ミゼラブル』と大作の主役を次々と演じてきた俳優で、圧巻のバリトンボイスの持ち主。その飯田がグループの四番手という控えめな、歌声としても突出させず支えるポジションに回っているのが面白い。ただし「ハーモニーの天才」「あれだけの頭脳の持ち主」と称される人物なのは納得で、大山ニックの悲哀に対し、一歩引いた穏やかさでニックという人物を造形していた。



さらにTeam YELLOWは原田優一扮するアクの強すぎるボブ・クルー筆頭に、ジップ・デカルロ役の川口竜也、畠中洋のノーマン・ワックスマンらの個性が面白く、時にザ・フォー・シーズンズ以上に目を惹く場面もあるほど。フレッシュな新生ザ・フォー・シーズンズと彼らの駆け引きのような面も見てとれて楽しい。



また、ハンク役ほかを演じつつ、フランキーの“ダブルボーカル”(『ジャージー・ボーイズ』はザ・フォー・シーズンズの歌唱パートを別の俳優が“ダブルボーカル”として支える構造のミュージカルである)を務める大音智海の上手さも際立った。大音はNew Generation Teamでフランキーを演じるので、そちらも期待したい。

なお、ザ・フォー・シーズンズの4人以外の役も男性キャストはすべてダブルキャストだが、女性キャストは全員シングルキャスト。フランキーの最初の妻・メアリーなどを演じるダンドイ舞莉花、フランキーの次の恋人ロレインなどを演じる原田真絢、フランキーの娘フランシーヌほかを演じる町屋美咲、ガールズグループ・エンジェルスのリードボーカルを演じる柴田実奈と、ダンドイ以外は全員新キャスト。作品にフレッシュな風を吹き込むとともに、歌声の確かさでしっかり作品に溶け込んでいたことは特筆したい。




客席を映し出すモニターを舞台上に上げ、「大衆が支えたザ・フォー・シーズンズ」という構造を視覚化しつつ、回るレコード盤を髣髴とさせる回転舞台の上でシーンが展開していく藤田俊太郎の演出は初演から踏襲されているものの、今回は細部において見せ方が変わっているところも多く、グループのキーマンがトミーからボブへとスライドしていく部分や、フランキーのパートナーがメアリーからロレインに変わっていくさまなど、意味を持った動線も増えた。長年の作品ファンにとっても新鮮さのある『ジャージー・ボーイズ』になっているはず。

その中で、Team BLACK、Team YELLOWがそれぞれの個性をしっかり湛えながら、ともに栄光だけではないザ・フォー・シーズンズの盛衰をたどり、彼らの音楽と人生を、彩り豊かに描き出す。キャスト全員で歌うラストの『Who Loves You』の輝かしさはいつ聴いても胸に熱いものがこみ上げる。その輝きは、喜びも悲しみも苦しみも愛もすべて飲み込んでこそ到達できるものだ。この作品に、ザ・フォー・シーズンズを支えた大衆役として客席から参加できる喜びを、今年も噛みしめたい。
取材・文・撮影:平野祥恵
<公演情報>
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
脚本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
音楽:ボブ・ゴーディオ
詞:ボブ・クルー
演出:藤田俊太郎
出演:
【Team BLACK】
中川晃教 藤岡正明 東啓介 大山真志
加藤潤一 阿部裕 戸井勝海 ダンドイ舞莉花 原田真絢 町屋美咲 柴田実奈 LEI’OH 山野靖博 杉浦奎介 石川新太
【Team YELLOW】
小林唯 spi 有澤樟太郎 飯田洋輔
原田優一 川口竜也 畠中洋 ダンドイ舞莉花 原田真絢 町屋美咲 柴田実奈 大音智海 山田元 伊藤広祥 若松渓太
【Team GREEN】
花村想太 spi 有澤樟太郎 飯田洋輔
原田優一 川口竜也 畠中洋 ダンドイ舞莉花 原田真絢 町屋美咲 柴田実奈 大音智海 山田元 伊藤広祥 若松渓太
【New Generation Team】
大音智海 加藤潤一 石川新太 山野靖博
原田優一 川口竜也 畠中洋 ダンドイ舞莉花 原田真絢 町屋美咲 柴田実奈 LEI’OH 山田元 伊藤広祥 若松渓太
※ジップ・デカルロ役の川口竜也は体調不良のため、8月21日(木)夜、8月22日(金)昼、9月11日(木)夜、9月12日(金)昼の回を休演。
2025年8月10日(日)~9月30日(火)
会場:東京・シアタークリエ
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