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【展示レポート】『つくるよろこび 生きるためのDIY』 誰もがもつ“創造性”はよりよく生きるための力になる

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『つくるよろこび 生きるためのDIY』展示風景

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『つくるよろこび 生きるためのDIY』が東京都美術館で10月8日(水)まで開催中だ。

企画した東京都美術館の藤岡勇人学芸員は「さまざまなバックグラウンドを持つ、すべての人に開かれたアートへの入り口として、誰もが持つ創造性に目を向け、よりよく生きることを考えるDIY(Do It Yourself/自分でやってみる)をテーマとした」と語る。「絵画・彫刻・建築など様々なメディアやジャンルを横断しながら、作品を作るだけでなく、生活の困り事に対しても創意工夫する、周囲の人と既存にはないやり方をつくるような、制作や活動の中にDIY精神やつくるよろこびが見える作家を選びました」。

まず第一章「みることから始まるDIY」では、若木くるみの版画を展示。パフォーマンスで知られる若木だが、学生時代の専攻は版画だった。壁一面の作品は、若木の自宅にある日用品を利用して制作した版画だ。衣食住にまつわる品々やチラシなど、身の回りにあるものの形や質感に目を向け、よく「みる」ことが創造のきっかけとなっている。初めての一人暮らし以来長く使ってきた冷蔵庫を使ったタワーマンションの版画に驚く。

若木くるみ、版画作品の展示風景
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》をモチーフとした《さいごの版さん》
若木くるみ、写真右側が冷蔵庫とその版画《タワマン》

第二章「失って、立ち上げていくDIY」では瀬尾夏美と野口健吾の作品を紹介。自然災害、経済的困窮など様々な理由でいろいろなものを失ってしまったところから暮らしを立ち上げていく姿が浮かび上がる。

東日本大震災のあった2011年、東京藝術大学の学生だった瀬尾夏美は、小森はるかとともにボランティアをしながら被災地を回る。翌年から3年間、岩手県陸前高田市で暮らしながら、再び日常を作り上げていくまでの風景の変化や人々の語りを記録し続けた。

「陸前高田の人々が、自分の感情を表したり、壊れてしまったコミュニティーを作り直したりするために必要な言葉を模索し、風景を見直していました。弔いの方法を作り上げる、更地に花を植えるなど、創造的な所作がたくさんある場所で、それらを記録し、触発されて、物語を一緒に立ち上げていく、そういう時間だったと思います」と瀬尾は語る。今回は、そうした陸前高田で聞いたことや見た風景からつくり出されたドローイングや絵画を展示している。

瀬尾夏美、陸前高田に暮らして描いた絵画と綴った言葉の展示風景

また、令和元年東日本台風災害に遭った宮城県丸森町の人たちとともに、古くからあるへびの民話をもとに被災経験を物語にし、人形劇に仕立てるまでのプロセスを紹介。丸森町の人々が人形や舞台背景を制作し、出演した「やまのおおじゃくぬけ」の映像も流れている。

小森はるか+瀬尾夏美、宮城県丸森町での「へびと地層」プロジェクト。人形劇「やまのおおじゃくぬけ」で使用した人形や人形劇の映像

瀬尾は、かさ上げ工事によって陸前高田が“二重のまち”のような構造になり、新しい町と下のかつての町の人たちがつながっているイメージを物語として描き、2021年書籍『二重のまち/交代地のうた』も刊行した。「広島や能登半島、マーシャル諸島などでも、災禍を経験することからまた日常を立ち上げ直して生きていくことを、小さな共同体の人たちがやっている。それらをつないでいきたい。今回は、東京という都市でみんなと共有できる機会をいただいて良かった」と結んだ。

一方、写真家の野口健吾は、都市の片隅で生きる人々を捉えた「庵の人々」シリーズを展示。資本主義社会で“ゴミ”になった廃材などを再利用して自分の生活空間を作り上げている路上生活者たち。野口は、彼ら独自の小屋やブルーシート、テントを最低限の仮の宿「庵」と名付けた。対話と撮影を繰り返す中で、「生きていくこと、住まいって何だろうと考えた」という。大阪市淀川区の3点は、同じ人を同じ位置で同じような格好で撮り続けた定点観測的なシリーズだ。なお、庵の人が綴った文章が、地下3階の最後の部屋に展示されている。

野口健吾《庵の人々》大阪府大阪市淀川区。2015年(右)、2016年(左上)、2018年の台風21号後(左下)
野口健吾《庵の人々》、《静物》(左下のみ)東京都渋谷区

次に地下3階へ。第3章「DIYでつくる、かたちとかかわり」では、彫刻をベースにしながらも軽やかに、身の回りのものから形を作ったり、いろいろな人と関わりながら制作したりする作家たちを紹介する。

ロンドンを拠点とするアーティスト・デュオ、ダンヒル&オブライエンは、東京都美術館の野外コレクション、最上壽之の彫刻「イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン」に惹かれ、そこからプロジェクトを考え始めた。この作品を表現した詩を書き、ロンドンで50人、東京で50人が粘土彫刻をつくるワークショップを実施。芸術家に限らず科学者、音楽家、作家、理学療法士、教育者など様々な人が参加した。さらに3Dプリンターやアナログな手法を駆使して、それら複数の造形から新しい彫刻をつくり、拡大して制作した。

DIYと彫刻の関係、インプロビゼーション(即興)とDIYの精神などを考察し、「私たちがここでできることは何か、英国のスタジオを丸ごと持ってきてしまおう」と考えたと語る。「この台座の空間が原寸大のスタジオの形で、制作の場であり展示台にもなります。普段は静止しているものと思われている彫刻を、方法や装置として見て、つくるという行為に着目することで彫刻を別の視点から考えるものとなりました」。

ダンヒル&オブライエン《「イロハ」を鑑賞するための手段と装置―またいろは》
ワークショップで100人が制作した粘土造形も展示

一方、久村卓(ひさむら たく)の展示はシンプルでユニーク。マルセル・デュシャンのレディメイドを思わせる。ブランドシャツのロゴマークを中心に額縁で囲って刺繍し、さらにそのシャツを台座に設置した彫刻作品。汚れた衣服や雑巾などの一部が額縁で囲われ、抽象絵画の展示空間のように仕立てられた作品。素材はそのまま用い、制作しているのは作品を成立させるための構造的な要素=台座や額縁、展示空間である。

また、毎週金曜日16時〜20時(10月3日は13:30〜17:30)には久村がバーテンダーのようになり、観客が好きな毛糸や布をオーダーして織物が楽しめる《織物BAR》が開かれる(要事前申込)。病気を経て、「体育会系の彫刻から抜け出て、楽しく長くつくる方法を考えた」という久村。「手芸的、DIY的な手法で自分でつくれると、考えが変わってもすぐに対応できる。美術の周縁にある技法や素材を見直し、つくることをどんどん軽くしました」。既存の美術制度への問いかけであり、自身や観客へのケアにもなっている。

久村卓《PLUS_Ralph Lauren_yellow striped shirt》
久村卓《PLUS_JUBILEE’s dust cloth 2》(左)、《PLUS_painter N’s workwear》(右)、《Soft Pedestal 25-02》(床)
《織物BAR at 東京都美術館》カウンター内は久村卓

DIYを広く捉え、作家のアプローチや創意工夫および人々の営みの中にDIY精神を見てきた展覧会。最後の第四章は「DIYステーション」として、伊藤聡宏設計考作所とスタジオメガネ建築設計事務所が空間設計を行った。作家の手法やアプローチを体験できるコーナーなど、観客が自分でもトライできる場。展覧会ファシリテーター「ずっとび」と一緒に鑑賞を楽しむこともできるので気軽に参加してみよう。

「DIYステーション」展示風景(★)


<開催概要>
『つくるよろこび 生きるための DIY』

2025年7月24日(木)~10月8日(水)、東京都美術館 ギャラリーA・B・Cにて開催
公式サイト:https://www.tobikan.jp/diy


取材・文・撮影(★以外):白坂由里


■『つくるよろこび 生きるためのDIY』展示風景の動画はこちら

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